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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
105/105

閑話 続いていく明日

※連続更新分です!!! 注意して下さい。




訓練兵達と一緒に思わぬトラブルに見舞われたが、結局は軍に合流してからの護衛が本番だと思っていた。


しかし、実際にそうなるとラビィの独壇場であった。

ラビィはなんと今現在、軍が所持しているHB仕様のレイルガンを三丁も借り受け、襲撃に備えている。


そして実際に無人兵器が現れると、彼女はそれを交互に使ってチャージの隙を埋め、安易に排除していく。その精度は正に百発百中であり、一撃でAIを破壊できなくとも、彼女が撃てば必ず無人兵器の機体の何処かに着弾するのだ。



「また撃ったぞ!!」



そして今正にラビィが送迎班のトラックの上から放ったレイルガンの一撃が無人兵器を貫き、沈黙させる。その光景を見て、俺と一緒に搭乗している訓練兵達が驚愕の声を漏らす。



「凄い……」


「敵が近付く暇も無い! 長距離狙撃なんてレベルじゃないぞ!!」


「きゃーーー!! お姉さま素敵ィ!!」


「……お姉さま?」



等々、好き勝手に吼えてラビィの狙撃技術に皆が舌を巻く。


実際、ラビィは地平線に敵が現れると同時に射撃体勢に入る。

更には狙う時間は数秒とも掛からない。

そして気付けば無人兵器はダウンしているのだ。


作戦開始時に現れた様な群れが相手だと、流石のラビィも捌き切れないだろう。

しかし、今の様に二、三機程の襲撃では彼女の格好の餌となるのがオチだ。

更にはレイルガンのチャージの穴を埋める為に、今の彼女は三丁も同時に運用しているのだ。

その卓越した射撃センスを思えば、鬼に金棒どころの話ではない。


ラビィが三丁ものレイルガンを他の班から借り受けられたのは、最初の戦闘での無力化数が群を抜いていたからだ。故にその腕を信頼され、こうして狙撃を任されているのだ。そしてその判断は正しかった。今の光景を見れば、誰だってそう思う。


事実、今では訓練兵どころか、付き添っていた疎らな正規軍人ですらがラビィの卓越した狙撃技術に舌を巻いている。



『また仕留めたのか……驚いた。俺達の仕事がねぇぞ』


『まぁ、楽ができるならそれでいいんだが……。訓練兵達のお守りで苦労すると覚悟してたんだがなぁ』



そんな風に運転席から無線で会話する様子が何度も伺えた。

これを受けて、俺は静かに冷や汗を浮かばせる。


それは何故かと言えば、俺に課せられた借金はラビィが理由であると予測しているからだ。無論、その借金の建前はノーラさんとの戦闘で生じた様々な被害から換算された物ではある。ただ、もし俺の予測通りだとしたら、今回のラビィの働きで彼女が軍の注目度を上げやしないかと不安で堪らないのだ。


実際、軍が強硬手段でラビィを奪いにきた場合、一個人である俺の反抗など些細な物だろう。

俺がキリエさん並の実力を有していればまた話は別なのだろうが……。

彼女に関する噂を聞く限りでは、俺の実力はまだまだその領域ではないと思う。



「……まぁ、深く考えても仕方ないか」



仮に軍が強硬手段を取った場合、俺は命を賭して全力でそれに抗うのみだ。

そうすればその騒ぎが町中の噂になり、軍のイメージは更にダウンするであろう。

彼らも馬鹿ではない、恐らくそんな流れは望んでいない筈だ。


こんな無謀な作戦を実地したのだって、フィブリル商会の支援を確保し、軍の悪評を拭う為だろう。だと言うに、ラビィ一人の為にそれを水の泡にはしない筈だ。


とりあえずは、そう思う事で心の均衡を保つ。

そうやって静かに考えを浮かばせていると、隣に座るサリアが俺の顔を覗き込んでくる。



「どうしました? 浮かない顔をして、まだ気分が優れませんか?」


「いや……レイルガンがあれば楽に狩りができるのになぁ、って思っててさ。少し悩んでたんだ」



近くに座っていたサリアの気遣いに、俺は咄嗟にそう答えた。

地下で吐血してからまもなく二時間ほど経つだろうが、気分はもう大分和らいでる。


しかし、その考えは実際に頭に浮かべていた物でもある。

ラビィがレイルガンを用いて簡単に無人兵器を無力化できるのならば、稼げるボタも相当に違いない。


俺の返答を聞くとサリアもうんうんと頷き、賛同する。



「確かに、そうですよね。購入を検討してみたらどうですか?」


「あぁ、けど……レイルガンって幾らぐらいする物なんだ?」


「今彼女が使用しているHB仕様ですと、五百万以上しますよ」


「五百万!? むりムリ無理!! とても買えないって!!」



そんな余裕があれば借金を返してるわ。

くそ、俺の浅はかな考えなんぞ、所詮は絵に描いた餅だったか。



「なぁ、何でレイルガンってそんなに高いんだ?」


「何でって……レイルガンは"遺物"ですし、ヤウラ軍が所持している数も五百丁程しか確保できてないんです。その中から送迎班に回してもいますので、実際に使用できる即時稼動数はその半分以下です。そんな状況下で今回の作戦に二十丁以上のレイルガンが配備された事を思えば、上層部もテラノ撤退作戦の重要度を深く理解してたんでしょうね」



確かにそうだ。

レイルガンが一つ五百万だとすれば、今作戦で配備されたレイルガンの数を考えるにその総額は一億以上にもなる。

更には複数の偵察戦闘車両や装甲指揮車、戦車も配備されているのだから、軍もそれなりの装備を整えてくれる慈悲はあったらしい。



「ふーん……。じゃあ、ヤウラにはプラント群があるって聞いたけど、其処でもレイルガンは作れないのか?」



聞く所によれば、ヤウラは軍事基地と都市が合わさって出来た強大な軍事拠点でもある。

其処に存在するプラント群も相当数だと聞くし、レイルガンの製造もできるのでは?


俺はそう考えていたが、サリアは頭を振って否定の意を返す。



「構造が単純な銃や弾の製造、そして軍用トラックのエンジン等の簡易的な物はプラントで大量生産できるらしいです。けれど、レイルガンの様な精巧銃を生産するには更に特殊な専用プラントが必要らしいんですが、それは流石のヤウラにもなくて……。それどころか、今我々が確認できる生き残った各都市にも存在してないらしいんです。だから、レイルガンの製造技術は失われた技術の一つとして今は数えられてます」


「そうなんだ? 残念だな……」



失われた技術だと言うのならば、レイルガンの高値も納得ができる。

きっと、他にもまだまだ失われた技術があるのだろう。


そんな考えを浮かばせていると俺のその思考を読んだかの様に、サリアは突然と高らかにその豊満な胸を張って主張する。



「けど、世界が荒廃してからこの大陸を全て走破した人はまだ居ませんからね。その内に新たな発見があるでしょう。そしたらそのプラントも見つかるかもしれないですよ」



サリアはそう言うと、一つ頷いて話を締める。

次に彼女は二マーっとした笑みを浮かべると、俺に顔を近付けて小声で囁く。



『それよりも、軍に入隊したらどうですか? 貴方なら歓迎されると思いますよ? そしたらレイルガンも使いたい放題です』



と、何処となく的外れな誘いをサリアはしてくる。

俺はレイルガンを撃ちたい訳ではなく、それを用いて借金を返済したいだけだ。


俺は乾いた笑みを浮かべ、近付いてきた彼女の顔からそっと距離を離し、誤魔化す様に肩を竦めた。



「冗談だろぉ? 俺が軍人に向いてるとは思わないよ」


「そうですか? さっきは地下であんなに落ち着いて指揮を執ってたじゃないですか」


「あんなのは経験の差だって。俺は既に実戦で何度も命の危機を覚えてたから、その差だよ。サリア達も次からは落ち着いて行動できると思うよ。ってか、実際そうなってたろ?」



地下で戦っていた後半からは、彼等の動きも頼りにできる程のモノになっていた。

少なくとも、泣きべそを掻いていた初期に比べれば比較にもならんレベルだろう。



『ん~……まぁ、そういう事にしておきます』



不満げに呟き、サリアは俺から離れる。


こういう同世代の女子って何か苦手だ。

距離感がやけに近いと言うか、相手に誤解させる感じが何とも言えないよな。

これで勘違いして告白しようものならば、即座に振られるのがお約束だもの。


そんな淡い感覚に騙されぬ様にと自身を戒め、静かに息を零す。



「ねぇ……ソウヤ」


「ん? どうした、メア」



突然、対面に座っていたメアに話し掛けられた。

彼女は此方と視線が合うとプイッとそれを逸らし、少し唇を尖らせながら言う。



「これでもう……テラノでの借りはなしよね?」


「……あぁ、そうだな。地下ではメアが居て助かったよ。俺一人で訓練兵を連れてたら、一体どうなってたか……」



実際、彼女が居てくれたら俺の精神的負担も大きく減少した。

地下に落ちた際の様々な混乱も、メア無しでは簡単に抑えられなかっただろう。


それに意識を失う寸前の俺を抱え、励ましながら運んだのは彼女だ。

まぁ、その件は地下で互いに助け合った事で帳消しの話ではあるが……。


俺のそんな言葉を聞くと、メアは我が意を得たと言わんばかりに笑みを浮かべる。



「そっか! それもそうよね? まったく、一つの借りでこんな無茶に付き合わされるとは想像してなかったわ……」


「俺だって好きで付き合わせた訳じゃねぇよ。更に言えばそもそもの発端は不幸な事故からの流れだろうが!! それに誰だって地下街に異人みたいな化け物が居るとは思わないだろ? ってか、何で誰もあいつ等の存在に気付かなかったんだ……?」



異人と言う異質な存在。

女子訓練生が言っていた"白いお化け"とは正しく奴等の事だったのだろう。

しかし、彼女が言うには随分前からその怪談話は語り継がれており、奴等の存在を匂わせていた。


にも関わらずだ。

今の今まで誰も気付かずに過ごして来たと言うのは違和感が残る。


俺のそんな疑問の声を聞き、メアが憶測を飛ばす。



「恐らく、あいつ等の生息地が"地下の奥深く"だからよ。実は地下街なんて場所はスカベンジャーでも滅多に近寄らない場所なのよ」


「え? そうなのか? 商店の数とか結構あったけど……」



散々彷徨った先程の地下街を脳裏に思い描き、俺は首を捻る。

しかし、メアはそんな俺の反応を見て呆れた様に小さく笑う。



「そりゃ、アンタみたいな"規則外"な奴は何処だろうと探索できるけど、他の人間はそうじゃないわ。地下では逃げ場が限られるし、方向感覚も鈍くなる。地上のビルとかだと、最悪窓辺から飛び出して退避もできるからね」



確かに、クースの悲劇でも生き残った生存者の一人が窓から飛び出して難を逃れている。それを考えれば地下街みたいな閉鎖空間で長々と彷徨う事は避けたいのかもしれない。


そう納得していると、メアは続けて話す。



「勿論、クラスクみたいな地下工場施設だと見つかる物資の価値も相応でしょうけど、地下街にある様な商品じゃ命を掛けるに値しないわ。地下街専用の専属店みたいなモノがあるわけでもないし、それなら大人しく地上を探索するでしょう?」


「まぁ、そうだな……。元々、スカベンジャーは危険を避ける主義とも聞いたし」



だからこそ、異人は今まで見つかる事が無かったのだろう。

いや、もし見つけた者が居たとしても、奴等に食われていた可能性もある。


そう考えると、今回の件で奴等の情報を持ち帰る事ができたのは幸運だった。

組合や軍が奴等の情報を荒野に広めれば、これ以上の被害を抑える事に繋がるかもしれないしな。


そう思えば今回の事件も無駄に終わった訳ではないと確信でき、俺は静かに笑みを浮かべる。



「まぁ、何にせよ無事に終わって良かったよ。それもメアのお陰だ、ありがとな……。何だか、お前をバハラに帰すのが惜しく思えてきたよ」



俺がそう名残惜しんでいると、メアはハッと表情を変える。



「え……ぁ、そっか。私……バハラに帰らなきゃいけないんだ」



と、メアは呆然と呟く様にそう零す。

そんな反応はまさに失念していたと言わんばかりに見事な物であり、咄嗟にツッコミを入れてしまう。



「いやいや、お前のホームだろ? 何で忘れてるんだよ」


「……うっさい。二ヶ月近く離れてたから、感覚が麻痺してるのよ。けど……戻った所で何も無いだろうなぁ」


「……無いって?」



メアの境遇を思えば。踏み込むべき話題では無かったかもしれない。

だが、あまりにも彼女の横顔が寂しすぎて、俺は黙っている事ができなかった。

彼女は憂鬱そうに溜め息を零し、天を仰ぐ様にしながら語りだす。



「私は組合に属してる身よ? バハラの市民権だって、組合のライセンスのランクを上げてようやく確保できたの。けど、こうして二ヶ月以上も音沙汰が無ければ……恐らく組合の登録も抹消されてるわ」


「復旧とかできないのか? 俺も前に死んだと思われて情報消されてたけど、何とかしてもらえたぞ」


「アンタ……一体どんな生活を送ってきてんの?」



俺の言葉を聞くと、メアはドン引きした表情を浮かべた。


俺は以前、初探索時にクースで藤宮さん達を救う為に百式と対峙し、その場に残った。

そのお陰で組合には死んだと判断されて登録は抹消されてたが、ちゃんと復旧してもらえたのである。


その事を伝えてメアに再度どうだと聞くも、彼女の表情は晴れない。



「何とか復旧できるとしても……登録が消された直後に組合のライセンスで獲得した市民権も効力を失うから、多分借家から私の私財が持ち運ばれて売られてるわ。そして……組んでたチームの皆も、もう居ない。だから本当に、バハラにはもう何も無いと思う……」



家族の話題が出ない辺り、メアが歩んできた人生の大体は想像できる。

そもそも俺と同年代でありながら彼女は組合に所属し、車両持ちのハンターチームに属していたのだ。


その苦難と努力は容易ではなかっただろうに、その大半を彼女は失ってしまったのだ。

落ち込むなとは言えないし、気楽に励ます事もできない。

けれど、こうして提案する事ぐらいはできる。



「そっか……。じゃあ、ヤウラに来たらどうだ? 藤宮さん達とも仲が良さそうだし、メアなら上手くやれるよ」



俺のその言葉を聞くとメアは瞬時に顔を上げ、唖然とした表情を浮かべながら呟く。



「私が……ヤウラに?」


「とりあえず車両と装備は持ってるんだろ? どうせなら藤宮さん達のチームに参加したらどうだ? 彼女達は三人だし、メアが合流すれば二台の車両も運用できる様になる」



基本的に、テクニカルは運転手と射手が居なければ機能しない。

だから仲間を失ったメアは車両を手にしてても、それを運用できないのだ。


しかし、もし藤宮さん達が彼女を受け入れてくれればその心配は無くなるし、単純に戦力も増加するだろう。それに彼女達とメアの仲が良好であろう事は、態々とテラノから同行してきた流れを思えば簡単に想像できる。


そんな風に俺は気楽に考えていたのだが、当事者であるメアは不安そうに尋ねてくる。



「私を……受け入れてくれるかな?」


「まぁ、そりゃ……絶対とは断言はできない。けど、もし断られても安心しろ。いざとなったら俺と組もうぜ、ナビゲーター位なら任せてやる」



不安そうに呟いたメアに対し、俺は笑いながらそう告げた。

けれど、彼女はその提案を聞いて満面の笑みを浮かべると、アッサリと断りを入れる。



「アンタと組むのだけはごめんよ。またさっきみたいな出来事に巻き込まれそうだもの」


「くっ……! いや、まぁ……否定はできないけどさぁ」



ここ最近の出来事を思い返せば、メアのその言葉に否定の意を返す事はできない。

だが、彼女は物思いに耽る様に瞼を細め、口角の端を持ち上げたまま言う。



「けど、そうね……本当にどうしようもなくなったら、また付き合ってあげる」


「じゃあ……?」



意味深に呟いたメアにそう確認を取ると、茶目っ気に笑いながら彼女は頷く。



「いくわ、ヤウラに。新天地で心機一転ってね!」



そう微笑んだメアの表情には、もう陰は浮かんでいなかった。

それでもテラノで彼女が受けた傷と記憶は消えた訳でない。

けれども、その傷を癒し、その記憶を薄める手助けくらいは俺にもできるだろう。


そんな内心を覆い隠しながら、俺は努めて明るく振舞う事にした。



「そうか……。じゃあ、これから俺の事はソウヤ先輩と呼べ! ヤウラの組合に属してまだ二ヶ月位の身だが、お前より確実にヤウラでの活動暦は上だからな!!」


「はぁ!? い、色々と言いたい事はあるんだけど……アンタまだ組合に登録してからそれだけの時間しか過ごしてないの!? だってまず車両持ちでしょ、更にはヒューマノイド所持者でしょ? 何? もしかしてどっかの金持ち息子だったりしないわよね?」


「金持ちどころか、二百五十万の借金持ちだぞ。ちなみにクラスもG-だ」


「はぁぁぁぁ? アンタ……よくそれで偉そうに先輩呼びを強要できたわね? 私がヤウラでハンター登録した時点でクラスも総資産も上になるじゃない。馬鹿じゃないの?」


「……そっか。じゃあ、今の内にメア先輩って呼んだほうが良いか?」


「絶対にやめて、虫唾が走る」


「ファック」


「だから……それやめなさい!」



そんな風に会話を交わしながら、俺達は平和にテラノへと向かう事ができた。

とりあえず今だけでも、穏やかに過ごせればそれでいいだろう。







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荒野に一線と光が走る。


その輝きはレイルガンの様な流れ星に似た軌跡ではなく、太陽の光が雲から顔を覗かせた際に見せる瞬時の光に似ている。光は遥か先の荒野から進軍してきていたウォードッグ型の無人兵器の眉間に着弾、続けて其処を貫いて胴体をも二つに"分けた"。



「ウォードッグへ弾着を確認、大破。良い腕です、副長」


「あぁ……だが、これでレーザー砲は打ち止めだ。今度から"手抜き"はできんぞ」



自身の傍らに居る観測手にバスク・ローテがそう告げると、観測手は双眼鏡を顔から離して溜め息を零す。


今の時刻は夕方、荒野の彼方では真紅に染まった太陽が身を沈ませ始めている。夜の防衛は当然ながら日が照らす時間帯より困難であり、虎の子であるレーザー砲のエネルギーも尽きたともなれば、その難易度は更に跳ね上がる。


これから訪れる困難を脳裏で浮かべつつ、観測手はバスクに尋ねる。



「あれで俺と副長が何機目を仕留めたか覚えてます?」


「仕留めた数? それなら今ので八機目だ。やはりバハラのハンター達はベース・ウォーカーを警戒して狩りをしていないらしい。こうも襲撃を受けるとはな……」


「明日で木津達がヤウラに向かって一週間経ちます……。水と酒だけは何とかありますけれど、それで何時まで持つやら……」



観測手はそう呟き、これから訪れるであろう飢餓に危機感を覚える。

空腹を覚えると苛立ち、集中は乱れ、冷静さを失う。

そんな経験は今の荒廃時代を生き抜く彼等にとって、幼少時に嫌と言う程思い知っていた出来事の一つだ。


だが、こうして中堅ハンターチームの一員に成ってからと言う物、そんな空腹感とは無縁だった。

故に自分達が何処まで耐え切れるかと言う自信が今一つ欠けている。


そんな部下の不安を見抜き、バスクは毅然と告げた。



「木津とHope嬢達を信じろ。あいつ等なら助けを呼んできてくれる。それまで耐えるんだ」


「分かってます。けど、テラノの人達は食料が少なくなるに連れて随分と動揺してます……」


「彼女達がヤウラへ向かうと決断したんだ。少しくらい耐えて貰わなければ困る」



バスクはそう突っぱねるも、観測手は同情の色を覗かせながら小さく反論する。



「彼女達はこの三ヶ月、十分に耐えてきました。これ以上は苦ですよ……」


「……だったらどうしろと言うんだ? 悪いが、俺にはどうしようもない。今でこそ俺達はハンターだ勇士だのと呼ばれてはいるが、結局は俺達なんぞ"コレ"を扱う事しかできないアウトローなんだよ。武力以外で他人に貢献なんぞできん。自惚れるな」



コレと告げながら、バスクはエネルギーが切れたレーザー砲を近くに放り投げた。

そんな態度が彼に取り巻き始めたストレスの一部を伺わせる。

観測手は暫く気まずそうに視線を彷徨わせていたが、ポツリと話し始めた。



「……昨晩、街の住人である一人の女性から頼みを受けました。……自分を殺してくれって」


「…………殺したのか?」



バスクは特に驚きもせず、そう聞き返す。

観測手は弱弱しく首を横に振りながら、否定の意を見せた。



「眠れないんだそうです。眠ったら、今の現実が消えてまたあの日々が繰り返されるとその人は恐れてたんです。俺は……何も言えませんでした」


「………………マトモな教養なんざ受けた事もないからな、自殺志願者をどう諭せばいいのかすら分かんねぇよな」


「そんなのは言い訳です。違うんですよ、俺達みたいな人間は結局は人助けに向いてないんです。副長の言う通り、ただのアウトローでしかない。それが……時折堪らなく嫌になる」



観測手はそう吐き捨て、自己嫌悪を覗かせる。

バスクはガシガシと後頭部を掻き毟り、諭す様に慰める。



「人助けなんぞ、何かの"ついで"で良いんだよ。いいか、人助けを第一に優先して生きてる人間なんぞ居ない。居たらソイツは"狂人"だ。だから俺はアウトローで十分だ。狂人になんてなりたくもないね」


「……でも、貴方は隊長の退却の意思に反した。あれはどうなんですか? それに隊長だって、今回の件で明らかに肩入りしすぎてる。貴方の言う事が本当なら、二人とも狂ってますよ?」



そう返されて、バスクは言葉に詰まる。

牢から脱出した直後のカークスの撤退の指示を聞いた時、彼は確かにそれに反発を覚えた。

しかし、何故そうしたのか今となってはもう分からない。



「……どうなんだろうな、あの時の気持ちは自分でもよく分からん。もしかしたら、アレが良心って奴かもな」


「はは、教養は無くとも良心はある。俺達にはそれで十分なのかもしれませんね」



観測手がそう寂しそうに呟くも、バスクはハッとそれを笑い飛ばす。



「勘違いするな、それだけでも俺達には過ぎた代物だ。そしてそれが俺達とマックスみたいな奴等とを"分かつ"重要な部分だ。一歩踏み外せば、俺達がああなる。それに隊長は……育ての親が理由だろうな」


「育ての親、ですか?」



バスクが意味深にそう呟くと、当然として興味をもたれてしまう。

彼は静かに息を零し、懐からナイフを取り出すと防壁に何やら傷を付けて文字を記していく。



「あの人の親はとある宗教にのめり込んでたみたいでな。そう裕福でもなかったらしいが、困った人が助けを求めると私財を投げ打ってでも助ける善人っぷりだったとよ。変わってるよな。さっきの俺の言葉を借りれば、"狂ってる"とも言えるが」


「へぇ……だからあんなに隊長も良い人なんですね」


「かもな。んで、その宗教とやらが"ド"が付く程のマイナーな物でな。前世界で流行してた物でもなく、出所も一切不明らしい。彼の父親はとある知り合いに貰った本に載ってた宗教だと言ってて……これがその宗教に出てくる神の名だ」



バスクは言いながら、ふっと息を吐いて防壁に刻んだ文字の周りの屑を飛ばす。

すると其処に記された名を見て観測手は眉を顰める。



「あれ? この名前って……」


「そう、俺達のチーム名に似てるだろ?」



――Christ



刻まれたその名前。

それをなぞりつつ、バスクは説明する。



「ドマイナーな宗教と言うより、隊長の父親しか信仰してない神だから、正しい呼び方は今一ハッキリしないそうなんだ。クリスト、キリスト、或いは"クライスト"。前世界で流行った宗教とはまた"別のソレ"だ。流石にその名をハッキリと借りる訳にはいかないからと、俺達のチーム名は少しもじってあるがな」


「俺達のチーム名は"クルイスト"……確かに響きは似てますね。へぇ、面白い!! 俺達は知らずに神の名を借りてた訳ですか? もしかしたら、今回上手くいったのもその神に守られてたからかもしれませんね」



観測手はそう笑いながら、テラノで起きた戦闘を思い返す。

あの晩は様々な事が起きたが、それも神のお陰なのだろうか? と。

しかし、そんな内心を見透かした様に、バスクは鋭く釘を刺す。



「さてな、今回の出来事では確かに色々な要因が噛み合いはしたが……。実際は木津とフルトに助けられただけさ。それにあまり神を頼りすぎると腑抜けになる。だから、この話は他のメンバーにするなよ? 隊長が酔った際に聞きだした秘密の一つだからな」



バスクは自身の唇に指を一本当て、秘密にする様にと口角の端を持ち上げた。

対する観測手は抱えていた不安と愚痴を漏らした事でようやく調子を取り戻し、落ち着いた口調で返す。



「俺達のチーム名の誕生秘話……それを聞けて光栄です。感謝します、副長」


「別にいいさ、そう重要な話でもないしな。それに他人の秘密ってのは一人で抱えてるとどうしてもモヤモヤしてな……」


「確かに、知ってます? 実はジャ二の奴……っと! 副長、来ます。北西……少し十時寄りの方向です」



観測手は会話を取り止め、双眼鏡を覗き込む事に集中する。

遥か先の荒野から土煙が上っており、その砂塵の大きさに思わず彼は舌打ちを鳴らす。



「あれは……グループを組んでますね。恐らく、二、三機程。機種は砂塵で判別不明」


「ったく、仕方ない……」



バスクは溜め息を零し、無誘導弾が装填されたランチャーを右肩に構える。

続けて彼は腰に下げていた無線機を左手で取り、各班に告げた。



「各班、聞け!! 北西、十時寄りの方向から来るぞ。迎撃班、奴等を引き付けろ」


『了解! 機種はどうですか?』


「あのなぁ……分かってたら真っ先に伝えてる。今は暫く待……何だ!?」



瞬間、向かって来ていた無人兵器のグループに対し、北から伸びてきた光が突き刺さった。

その一撃は容易に錆びた胴体を貫き、一機を容易く沈黙させる。

更に驚きなのが、直後に二発目、三発目と光が放たれ、それ等も二機の無人兵器を貫き、行動不能にしてしまった事だ。


観測手は真っ先に反応を示し、双眼鏡を光が飛んできた方向に向け――思わず声を震わせる。



「……せ、接近する車両群を視認。車両に刻まれたマークは……ヤウラの物です!!」


「やりやがったな、"あいつ等"……!!」



バスクは自然と口角の端を持ち上げ、そう呟いた。

手にした無線機からも次々と歓喜の声が上がり、場の雰囲気を盛り上げる。



『嘘だろ!? もう来たってのか!!』


『おいおい、これなら昨晩の晩飯を少なめにした意味がねぇじゃねぇか!!』


『俺なんて酒で腹を満たしてたんだぞ? お陰で悪酔いしたぜ……』


『軍もやる時はやるじゃねぇか!! まさかこうも早く動くとはな!!』


『各員、落ち着け!! まだ全てが終わった訳ではない。合流を果たすまで、周囲の警戒を続けるんだ!!』



そう最後にカークスの指示が届くと彼等は素直に従ったが、歓喜の声はそれでも止まなかった。


こうして、テラノ解放戦から続いてきた騒動は一応の終わりを告げる事になる。

人々が受けた傷は痕を残し、刻まれた悲惨な記憶は消える事はないだろう。


けれど、ヤウラから助けが来た時に人々は確かに笑顔を浮かべた。



「はっ……。アウトローには"過ぎた光景"だ」



街中で喜ぶ人々を眺めながら、バスクは瞼を細めて満足気にそう言葉を漏らす。

そして彼はそっと息を零し、天に祈りを捧げる様に空を眺め、その後静かに笑みを浮かべて瞼を閉じた。



――人々が助け合うのは何故と問われた時、人間はどう答えるのが正しいのだろう。


そうしないと生きていけないからと答えるべきか?

否、自己満足の為? もしくは利益の為? それとも――狂っている故か?


それに答える事はできないし、答えなど無いのかもしれない。

しかし、一つ言える事だけはある。

それはこれからも人々は確かに互いに干渉しながら、助け合って生きていくであろうと言う事だ。


何年、何十年、何百、何千、どれ程の時間が経とうとも、人々はその行為を止める事はしないだろう。


現に世界が崩壊した今でさえ、人は確かに互いを支えあっている。

様々な思考や想いはあれど、それだけは確かな現実だ。


で、あればこそ――人々の明日はこうして続いていく事ができるのだから。








今回の連続更新は此処までとなります。

この話を最新話まで読んで頂き、ありがとうございました!!


次回の投稿については活動報告にてお知らせします!

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