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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
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上へ下へ



PDAで確認すると、地下に落下してまもなく一時間が経過しようとしている。

俺達は未知の敵と遭遇したが、何とかソレを撃退する事に成功した。

その事で訓練兵達は少し落ち着きを取り戻したが、俺は一つの不安を抱いている。


それはトラックにあったダナン教官と運転手の遺体が無くなっていた事だ。

そしてそれ確認した直後に、あの不気味な人型生物が襲い掛かってきている。

更にはとある女子訓練兵が言う"白いお化け"とやらが本当に奴等の事を指しているのならば、あいつ等は態々と外を出歩いて人間を攫う習性を持つ事になってしまう。


それ等の事実を踏まえて考えると、異人はどうやら人を"食う"のだろう。

だが、これはある意味で朗報でもある。

何故なら、俺達はあそこで既に百体以上の敵を撃破しているからだ。


どうせああいう怪物は共食いすら容易くやれる存在だ、だからあの死体の数が足止めになればいい。


事実、今俺達は地下を悠然と歩いているにも関わらず、あの敵に遭遇はしていない。

恐らく俺の予感は当たっている筈だ。


しかし、こんな考えを訓練兵に話せばパニックになりそうだし、口にはできない。

俺はそう判断してその考えを内に秘めてるが、多分メアもその事には気付いているだろう。


そう思考を展開しながら歩みを進めていると、訓練兵の歓喜の声が不意に上がった。



「ねぇ、あれ見て!!」


「……! 階段があった!! けど……」


「そんな……鉄格子が降りてるし、バリケードも築かれてる……」



ようやく俺達は階段を見つける事ができた。

が、訓練兵達は其処に築かれたバリケードや鉄格子を見て気落ちする。

無論、俺にとっては大した障害ではない。



「少し下がってろ」



気楽に一歩を踏み出して地面を弾き、勢いを乗せて左拳を叩き込む。

するとバリケードごと鉄格子の一部が盛大な音を伴って容易に弾け飛び、通行が可能になる。


その先の安全も確かめると背後を振り向き、唖然とする訓練兵達に進む様に指示を出す。



「いいぞ、通れ。けど、あまり奥に進むなよ」


『す、凄いな。やっぱり義体化してるのかな……』


『そういえばさっきはトラックも振り回してたね、あの人……』


『そうだよ、無人兵器を仕留める程の人だし、あんな奴等くらい容易く蹴散らしてくれるって!!』


「ほらほら、早くしろ!! こういう時に遅れると怪物に襲われるのがパターンなんだぞ?」



ヒソヒソと会話する訓練兵達にそう横槍を入れ、先を促す。

全員が鉄格子を潜るのを確認し、最後にメアを通して俺も通る。

その際に、俺は鉄格子の一部を曲げ、さっき空けた通り穴を通り難くした。

これでさっきの階層の異人が追ってくる事は無いだろう。



「ふぅ……何ぃ? 地下四階だぁ? マジかよ」



朽ちた案内板が近くにあったので見てみると、そう記されててゲンナリする。


近くに地上に続く直通の階段もあるらしく寄ってみたが、其処は既に階段が地下に抜ける様にして崩れていた。こうなると別のフロアに移動して他の階段を探すしかないな。



「で、でも、ようやく安心ですね! 此処ならあいつ等も居ないんじゃないですか?」


「どうだろうな? そう思いたいが……待った。静かにしてくれ」



サリアが表情を明るくして話し掛けてきたが、俺は腕を振り上げて合図を出す。

耳を凝らすと、何処からか規則正しく継続的に何かが動く音が聞こえる。

そしてその音は金属質であり、その事を考えると……。



「君の言う通りだ、サリア。この階層にはあの不気味な異人は居ない。が、代わりにガードが居るらしい」



異人がこの階層に居るとすれば、ガードは下で見た光景の様に破壊されてる筈だ。

こうしてガードが稼動していると言う事は、異人がこの階層に居ない証明だろう。


サリアは俺の言葉を聞くと僅かにホッと息を零し、おずおずと尋ねてくる。



「が、ガード……。見つかれば、撃たれるんですよね?」


「そうだ、OG型はまず警告を飛ばしてくるけどな。此処からはあまり喋るなよ。ガードは奇襲で仕留めれば応援を呼ばない。俺がやるから、黙って見ててくれ」


「了解です……。皆、聞いたわね? 静かに動く様に!」


『了解』



サリアがそう指示を出すと、皆が素直に頷いた。

しかし、その表情には恐怖のそれが浮かんでいない。

恐らくガードより下で見た異人の方が怖いのだろう。

俺としてはガードの方が厄介なのだが、そこはまぁ仕方ない。


俺は慎重に耳を澄ませ、先導する。

何時もならラビィの指示に従えばいいだけだったが、今は俺一人だ。


そして何よりも護衛対象として訓練兵を従えている。

どう足掻いても慎重にならなければいけない。

幸いにも後方を警戒してくれるメアが居るからまだマシだが、彼女が居なければ更に苦労していただろう。


しかし、それでも進む足取りは重く、時間がドンドン過ぎていく。と、そう焦りを浮かばせていると懐中電灯を照らす先に何かの光が見えた。俺は咄嗟に明かりを手で塞ぎ、スイッチを切る。



『サリア、お前達も懐中電灯の灯りを消してくれ』


『ど、どうしたんですか!?』



そう戸惑いつつも、サリア達は素直に指示に従って灯りを消す。

それを確認すると俺は暗闇に眼を凝らし、小さく呟く。



『奥のあの光……。多分だが、ガードの放つバイザーの光だと思う』



向けた視線の先では、暗闇にポツンと青い点の光が浮かび上がっている。

それは暫く停止していたが、暫くすると金属質な足音が響き渡ると同時にその光も動く。



『よし、此処で待ってろ。行ってくる』



そう告げると、俺は返事を待たずに一人で暗闇に歩き出す。

暫くして暗闇に目を慣れされると、近くの物陰に潜みつつ前に進む。


一番ポピュラーなOG型でさえ暗視機能が標準装備されている事は、里津さんの借りた本で確認している。即ち、テラノの様に対人を想定した暗さでの隠れ蓑を期待できない。


暫くして、ようやく一息で間合いが飛び込む事が可能な位置に近付けた。

それでも十メートル程は離れてるが、俺なら容易く近づける距離である。

俺は其処でさっき仕舞った懐中電灯を取り出し、その灯りを付けて勢いよく床を転がせた。



『z……動体反……検知』



すると、OG型の視線がその懐中電灯に釘付けとなった。

俺は瞬時にその隙を突いて物陰から飛び出して接近し、頭部を両拳で挟むようにして一気に押し潰す。


――……!


AIを失ったOG型の体は機能を停止し、四肢を投げ出して地面に沈む。

その際に発せられた大きな音で一瞬だけ冷や汗を浮かばせたが、周囲からは何も聞こえてこない。



「はぁ……ラビィが居ればなぁ」



こうしてOG型を一機始末するだけで、相当気を張った。

もしラビィが居れば軽やかな動きで始末してくれた事だろう。


普段どれだけ彼女を頼りにしているのかが、これで分かった。

今度からはもっと彼女を労わろう。


そんな事を考えながら懐中電灯を拾い上げ、OG型の胴体も担ぎ、来た道を戻る。

暫くすると訓練兵達の姿が見えてきたが、俺がガードを担いでるのを見ると彼等は一斉に銃を持ち上げ、それを此方に素早く向けてきた。



「馬鹿、何してんの!?」


「うぉい!! 撃つなよ?! 俺だからな? このガードは既に機能が停止してる」



俺とメアが同時に抗議の声を上げると、訓練兵達は罰が悪そうに視線と銃を下げる。



「す、すみません。その……こうした場所での活動は慣れてなくて」


「まぁ……気にするな、こんな状況だしな。むしろ今の素早い反応は何だか頼もしかったぞ。それに俺だって初めての実戦でこんな所に来たらビビッてるわ」


「そう言ってもらえると、本当に助かります……」



サリアは再度そう謝罪し、頭を軽く下げた。


よくよく考えれば、彼等は先の戦闘でも俺やメアが居たとは言え、大量の異人の襲撃を退けている。


突然の奇襲で混乱した所為でその弾薬の消費量は凄まじかったと思うが、それは逆に言えばあの状況下でマグチェンジを正しく行えた事に他ならない。やはり、腐っても軍人の卵と言った所か、そうした動きは体に本能レベルで染み付いていると言う事だろう。それは銃を咄嗟に構えた今の彼等の動きをみれば分かる。


彼等の精神状態はまだ幼さが残ってる様に見える。

が、言ってしまえばそれだけが彼等の不安な点なのかもしれない。

今の動きの機敏さを見れば、相当に訓練を積んできたという事が伺えた。


それに軍の役割を考えれば、確かにこうした場所での活動はしないだろう。

言い換えれば軍の人間は対無人兵器に特化しているとも言っていい。

駐屯地や送迎班での戦闘が大半である彼等は、こうした閉鎖空間での訓練をあまり受けてないのかも。


そんな事を考えつつガードを床に置くと、俺は腕のカバーを外して弾薬を取り出す。



「この弾薬ってお前達のY6に使えるか? 俺の武器には使えないんだが」


「あ、5.56x45mm弾なら使えます」


「そうか、なら良かった。これがそうかは知らんがな」


『えぇ……?』



一機のOG型に格納されている弾薬数はそれ程でも無いが、彼等はさっきの異人との戦闘で弾薬を相当消費していた筈だ。此処では何が起きるか分からないし、弾があるに越した事は無い。


弾薬を確保すると、また彼等を引き連れて俺は先導する。

しかし、耳を済ませるとまだ金属質な響きが聞こえるので、注意せねばなるまい。


その後、俺はガードの存在を確認すると一人で進み、排除しての流れを繰り返す。


俺が不意を突いてガードを倒して戻ってくる度に訓練兵達が感嘆の声を小さく上げ、笑顔を浮かべて迎えてくれる。


そしてやはりこの地下に居るガードはOG型だけだったので、脅威度はそれなりでもないのが救いだった。そうして何とか進む内に、俺達はようやく別の階段まで辿り着けた……のだが。



「……崩落してるのか」



見つけた階段は、上から降ったであろう瓦礫と大量の土砂で埋まっていた。

土砂も落ちてきているのであれば、この先は完全に崩落してるに違いない。

つまりは俺の膂力でこれ等を取り除いたとしても、またすぐに上が崩落してくる可能性がある。


どうしようもないなと諦めて立ち竦んでいると、背後から訓練兵達の落胆の声が上がった。



「そんな……此処まで来たのに」


「もう嫌だ……。疲れたよ」



泣き出さないだけまだマシだろうが、彼等のメンタルは大分やられてるみたいだ。

俺とて溜め息を零したい衝動を抑え、何とか抑えているに過ぎない。

彼等の手前、そして何よりも指揮を執る身としてはそんな弱みを見せられないってだけだ。


とりあえず、此処で休む様にとの提案をサリアに伝える。



「……少し休憩にしよう、俺は一人で軽く周囲を見てくる。そんなに遠くには行かないから、大人しく待っててくれな」


「りょ、了解です。お気をつけて」


「あぁ、それとその前に……メア! 少し話さないか?」



俺はメアに目配せすると、彼女を訓練生から引き離す。

彼女はそれに素直に従ったが、俺の近くに来ると腕を組んで溜め息を零した。



「……それでどうする気? 他に階段は無いわよ? 途中で見た非常用の奴も崩れてたし」


「分かってる。だから呼んだんだ」



そう、俺は先程この地下に備え付けられた案内板を見た際に、階段が二つのフロアに分かれて存在しているのを確認している。


しかし、その一つは階段が抜け落ちており、今見つけたもう一つは土砂に埋まってるときた。そしてメアの言うとおり、その間に存在していた非常用の階段の状態も確認し、崩れているのを目撃しているのだ。


それ等の状況を踏まえつつ、俺は後頭部を右手で摩りながら思考を走らせる。



「……そうだな、エレベーターシャフトはどうだ? 其処なら地上まで続いてないか?」


「そうかもね。だけど、あの子達に崩れ掛けのシャフトを登らせて上手くいくと思う? 専用の装備もないから、落ちたらお仕舞いよ? そして下で待ち構えてた異人達に群がられて死ぬ……凄い絶望ね」



メアはそう言って、僅かに肩を震わせた。

俺もそんな悲惨な状況を浮かべて後悔する。

確かに一人が落下してそんな状態になってしまえば、パニックを起こして全員が落下しそうだ。



「じゃあ、他に何か案があるのか?」


「案と言うか……"最終手段"ならあるわ」


「最終手段? 随分と物騒な響きだな……」



此方が疑問符を浮かべて問うと、メアは心底嫌だと言いたげな渋い表情を浮かべ、床を足で軽くトンと叩いて告げる。



「地下に"戻る"のよ。この商業施設は全部で六階層まである。そして六階には地下鉄が存在してるって、さっきの案内板で確認してたの」



その言葉を聞いた瞬間、俺は直ぐにメアの考えを理解してしまう。

あんまり理解したくなかったけどな。


思わず、表情を引き攣らせながらその考えを口に出す。



「……その地下鉄を"通って"別の地下商業施設に移動、そっちから脱出するってのか?」


「話が早くて助かるわ。アンタ、見た目ほど間抜けじゃないわよね」



そう言って小さく笑うメア。

小馬鹿にした言葉ではあるが、その響きは僅かながら感心混じりだった。



「そうかよ、お前は見た目ほど可愛くないよな」


「なっ……!」



俺がそう言い返すとメアは目を見開き、頬を僅かに赤く染める。

それはともかく、俺はそんな考えに素早く辿り着いた自分を罵倒したい気分であった。


何を好き好んで化け物の巣に戻り、そこを突破せねばならないのか。

しかし……今のこの状況ではそうするしかない様だ。


訓練兵達には見せられない情けない表情を浮かべ、一つ溜め息を零しつつ俺は覚悟を決める。



「しゃーない、それで行くしかないな。PDAに遺書でも打ち込んどくかな」


「無人兵器を素手で屠るアンタが此処で死ぬとしたら、それが読まれる機会はもうないと思うわよ」



俺達はそう皮肉を言い合うと顔を見合わせてまた溜め息を零し合い、静かに苦笑する。


その後一人で周囲を軽く見て周るも、やはり打開できそうな何かは見つからない。

俺は訓練兵達の下に戻り、悲痛な事実を告げなければならない様だ。


そう判断すると重い足取りを浮かばせつつ、訓練兵達と合流する。

すると安堵した表情でサリアが出迎えてくれた。



「お帰りなさい。それで、これからどうするんですか?」


「それなんだが……」



戻ると、早速その質問が飛んできた。

俺はあまり動揺を見せない様に腕を組み、ハッキリと告げる事にする。



「まず言っておくが、この地下施設に存在する階段はもうない。どれも崩壊してて地上まで行けないんだ」


『嘘だろ……!? じゃあ、どうするってんだよ!?』


『お、落ち着きなさいよ!! それなら此処で待機しましょう。そうすれば武市教官が助けに来てくれる筈だわ』


『けど、俺達は食料もあまり持ってないんだぞ!? 持参してる携帯食料じゃ、三日持てばいい方だ……』


『いやだ……死にたくないよぉ!!』


「いいから、落ち着け。おい! 打開策はあるんだって!!」



大きなパニックになる前に、俺は一喝して彼等を黙らせる。

しかし、これから言う案を聞けば再度としてこの子達はパニックになるであろう事は明白だ。


だが、現状はその案しかなく、俺は覚悟を決めて話す。



「この地下施設が駄目なら、別の施設に移動する。この地下施設は六階層まであるらしく、最下層には地下鉄が通ってたらしい。その場所を抜けて別の地下施設に辿り着き、其処を抜けて地上に戻る。ちなみにこの案はメアが出したから、俺は恨むなよ」


「ちょっと……! アンタねぇ!!」



メアを名指しで犠牲にすると、彼女は睨みつけてきた。

しかし、そんな風に俺達が責任を擦り付け合っていると、マーケが呆然とした様子でようやく反応する。



「別のって……本気で言ってるのか? あの化け物が下にはウヨウヨ居るんだぞ!?」



マーケは顔を赤くしたと思ったら、瞬時にそれを青くして震え声で言う。

見渡せば、他の面々も同じ調子であった。

俺は小さく溜め息を零し、ジト目を浮かべながら訓練兵を見回す。



「あのなぁ……此処で来るかも分からない救助を待つのは怖くないってのか? 俺はお前等がそんな調子だと、此処で待ってる間にその内勝手に殺し合いでも始めそうで逆に怖いわ」


「それは……」



マーケは口篭り、俯いて意気消沈する。

俺は腰に両手を当て、辛抱強く再度の説得を試みる。



「いいか、よく聞け。あいつ等は殺せる。殺せるって事は"勝てる"って事だ。現に一度俺達は勝ってるだろ? むしろあいつ等が襲い掛かってきた所でなんだってんだ? あんな根暗人間もどきに負ける姿なんて、俺は思い浮かばねぇよ」


「だけど、あいつ等かなり多かったぞ!? あんなに居たら、とてもじゃないが敵わねぇって!!」



そう大声で主張する訓練生に対し、俺は遂に我慢できずに真っ向から怒鳴り返す。



「いい加減……甘えんなッ!! あんな奴等は"死を恐れない"荒野の機械共に比べたら遥かに雑魚なんだよ!! お前達はこれから先、そんな化け物と戦うんだぞ!? 昨日の戦闘を思い返せ!! それでも下に居る青白いヒョロガリ共の方が怖いか!?」


「そ、それは……」



昨日の戦闘では早速と死者が出てしまった。

怪我人とて重傷者が出ている、それでも撤退は許されない。

何故なら彼等は軍人だからだ、受けた命令は最後まで遂行するしかないのだ。


彼等が本当に無知で無力な子供ならこんな事は言わないし、言えない。

しかし、実際はそうじゃない。だから俺はただ彼等に訴え続ける。



「此処を上手く抜け出して、また無人兵器と戦闘になったらどうすんだ? その時になっても怖いから止めるって泣き付くのか? お前等にそれが許されるのか!? お前等が本当にただのガキならそれでいい……だけど違うだろうがッ!!」



そう吼えると、近くの一人を指差して俺は言う。



「その着てる服は何だ? 銃は? 防弾ベストは? それが今流行のファッションとでも言うつもりか? だからこうして聞いてやる……お前達は何だ?」



そう聞くと、彼等は互いに顔を見合わせて戸惑う様に言う。



『……軍人です』



返ってきたその言葉に対し、俺は鼻で笑って肩を竦める。



「はぁ? 軍人だと? 俺の目には不貞腐れたガキ共が渋々呟いた様にしか見えねぇよ。……もう一度聞く、お前達は何だ!?」


『軍人です!!』



そう答えた彼等の目には怒りと苛立ちが混じっていた。

しかし、それでいい。その鬱憤を貯めに貯めて後で晴らしてもらう。

俺は最後に腕を振り翳し、力強く断言する。



「だったら戦えるだろうが!! そしてお前等は既に戦って勝ってもいる!! なら恐れる必要なんかねぇだろ!! 違うか!?」


『はい!!!』



訓練兵達は怒鳴り返す様にそう答え、頷いた。


今は場の空気に流されようが、それでいい。

重要なのは彼等に自分の口からそう告げさせた事だ。

それがいずれ己を奮い立たせ、役に立つ時がくる。



「なら俺に着いて来い!! 俺がお前等を無事に地上まで送り届けてやる、約束だ!!」


『はい!!!』


「……まるで扇動者ね。けど、良い感じになったじゃない」



メアがこっそりそう呟いてきたが、俺はそ知らぬ顔でスルーする。

今は勢いが肝心だ、この熱が消える前に行動しなければまた彼等は尻込みするだろう。


その後は俺達は苦労して来た道を小走りで戻り、先程の階段まで戻ってくる。

其処で息を整えると、各自の顔を見合わせて互いに頷きあう。



「よし、行くぞ……」



俺も小さく息を零し、先程捻じ曲げた鉄格子を再度開く。

その際にふと周囲に漂う悪臭に気付き、俺は瞬時に其処から飛び退いた。



『エウぅううううう!!』


「う、撃って!!」



鉄格子に何処からか潜んでいた異人達が押し寄せてくる。

サリアの号令で訓練兵達は攻撃を開始、鉄格子を間に挟んで敵を迎え撃つ。

そのお陰で比較的に彼等は冷静であり、マグチェンジも手際よく行っている。


俺もYF-6をタップ撃ちで冷静に狙いを定め、敵を撃ち殺していく。

時折に空いた穴を抜け出てくる奴も居たが、その度に集中砲火を受けて沈黙する。

気付けば鉄格子に群がっていた敵は居なくなり、悪臭は消えていた。

代わりに硝煙の匂いと鉄臭さだけがフロアに充満し、戦闘が起こった形跡を残す。



「……な? 楽勝だろ? 元は人間だったみたいだが、知能は低いらしい。此処で襲ってくるなんざ、馬鹿のする事だ」



事実、俺達は鉄格子を盾にして容易に敵を排除できた。

これが穴を抜けた直後であったなら、もう少し苦戦したであろうが、奴等には"堪える"という行為が出来ない様だ。



「そ、そうですね。落ち着いて戦闘してみたら、案外楽勝かも……」


「知能は弱く、体の急所は人間と一緒……。確かに、これならそこまで怖がる必要はないな……」


「確かにそうよね……? 最悪、私達は同じ人間を相手にする機会もあるかもしれないのに、それと比べたら……」



訓練兵達はそう会話を交わし、新たな認識を得る。


ようやくと彼等も現状を受け入れつつある様だ。

異人が物語に出てくる様な無敵の怪物ではなく、等身大の敵として認識し始めている。

そこ等辺の柔軟性は流石に軍の訓練を受けていただけあって、頼もしく思えた。



「よし、此処からが本番だ。先導する」



俺は一人先導して地下五階に降り立ち、周囲を警戒する。

周囲に敵影はなく、物音もしない。

どうやら付近のあいつ等は本当に逃げたみたいだ。


合図を出すと訓練兵達も地下五階に降り立ち、周囲を警戒する。

俺は彼等を引き連れて先導し、次の階段を目指す。


時折に何度かあの怪物の襲撃を受けるも、それは何体かの小規模な物だった。

全員始末できた事もあれば、仲間が一人死ぬと直ぐに逃げ出した時もあった。


奴等も生物である以上、当然として死は怖いらしい。

だが、群れで居る時は獰猛になり、襲い掛かってくるのだろう。

段々と奴等の生態が嫌でも理解できてきたぞ。


どうせなら、今回の件を生かしてこいつ等のレポートでも纏め、組合か軍に提出したらボタを貰えないかな?


そんな考えが浮かぶ程には、俺にも余裕が出てきていた。

しかし、そんな能天気な考えは突如として吹き飛んでしまう。



「うっわ……」



次の階段を見つけると、俺は無意識に息を飲んだ。


何故なら其処にあった鉄格子は一部が破壊され、人の出入りが可能な状態だったからである。つまりは次の階層にも奴等が居る事が確定したも同然なのだ。


しかし、此方としては既に覚悟を決めている。

俺は先導してその穴を潜り、六階に降り立つ。

すると瞬時に周囲に立ち込める悪臭に気付き、背後に手を向けた。

鉄格子を潜ろうとしていた訓練兵達は素直にその指示に従い、その場に留まっている。



「……そういう事か」



しかし、何十秒待てども奴等は現れない。

つまりは奴等の臭いが強く"染み付く"程に、このフロアで異人は長く活動しているみたいだ。


溜め息を零したい衝動を堪えつつ、俺は訓練兵達にまた合図を出して六階に降り立たせる。



『こほッ……』


『うわ……!? な、なんだよ……』



彼等もフロアに渦巻く悪臭に顔を顰め、僅かに咳き込む。

しかし、そんな僅かな音でさえ動揺してしまい、装備を揺らす音を立てる者が現れ始めた。


このままじゃ拙いな、このフロアの空気と雰囲気に負けて先程の熱が冷めつつある。


俺はこのフロアの危険度が波外れてると判断し、YF-6を一旦腰に回して下げ、M5を構える。

M5の火力ならば、数十体相手の奇襲だろうと退けられるだろう。

しかし、今装填している百発が最後だから、あまり切りたくない切り札でもある。


そのままゆっくりと慎重に前に進みだす。

すると直ぐに駅へと続く案内の看板と通路を見つける事ができ、安堵の息を零してしまう。


其処を進んでから先にある短い階段を下りると、既に其処はホームである様……!?



「ッ……!?」



瞬間、叫ばなかった事を俺は神に感謝した。

何故ならば駅のホームで"無数に横たわる"人影が見えたからである。


咄嗟に懐中電灯の灯りを其方から外したが、其処に居た敵の数は計り知れない程も居た様に見えた。


俺は背後を振り返り、小声で訓練兵達に話し掛ける。



『……いいか、落ち着いて聞けよ? 駅のホームは奴等の寝床だった。数も数え切れない程に居る』


『そんな……!! どうするんですか?』


『…………少し待ってくれ。今の弾薬数はどれ程ある?』



そう問いかけると、訓練兵達はゆっくりとポーチやパウチを漁って残弾数を確認する。

そして手にしたマガジンを掲げる様にし、俺に見せてきた。



『……大体、一人あたり四マガジンって所か? 無理だな、少なすぎる。排除して先には進めない』



今の俺達の人数は総勢で十八名。

各自が持つ弾薬数を合わせると二千発以上はあるだろう。

しかし、それでも奴等を排除するのにそれは使えないし、使う訳にはいかない。


そう考えを展開しつつ、思考の海に沈んでいるとサリアが静かに提案を飛ばしてくる。



『で、でも……ここなら一本道ですし、銃で迎え撃つには最適ですよ?』


『此処の奴等を倒すだけなら確かにそれでいい。だがな、向かう先の地下施設に奴等がまだ居たらどうする? いや、通路が繋がってるなら確実に居るぞ? 其処を突破する為の弾薬はどうしても残す必要があるんだよ』


『ぁ……』



サリアの指摘にそう答えると、彼女は表情を青くして俯いた。

どうやらそこまで考えは及んでいなかったらしい。


俺はとりあえずゆっくりとホームを覗き込み、暗闇の中を凝視する。

すると視界に薄く光る二つの何かが目に入った。

瞼を細めてそれを凝視していると、ゆっくりとソレは動いて近付いてくる。



『あれは……』



暗闇に丁度目が慣れ始めた頃、俺はその正体にようやく気付けた。

一体の異人が既に眠りから目覚め、此方へと向かってきているのだ。



『ひっ……!』


『待て、サリア』



近くに居たサリアもそれに気付いて銃を向けかけたが、俺はそれを抑える。


アイツとは既に視線が合っている。

しかし、アイツはふらふらと動きながら此方に向かってくるだけだ。

其処で俺は一つの仮説を思い付き、背後に居た訓練兵達にも静かにする様にと唇に指を当てて伝える。


彼等は『マジかよ!?』と言いたげな表情ではあったが、素直に従ってくれた。

どうやら、此処までの道中でそれなりの信頼関係は築けた様だ。

それが嬉しくて僅かに頬を緩めるも、直ぐにそれを引き締める。


暫くすると異人は階段をヨタヨタと上がり、通路に踏み込んでくる。

しかし、それでも奴は襲い掛かってこない。

だが、奴は不意に立ち止まり、次に首を傾げてすんすんと鼻を鳴らすと、俺に顔を近寄らせてくる。



「おはよっ」


『……ッ!?』



瞬間、俺は左手で奴の頭部を掴み、瞬時に胸元へと引き寄せて首の骨を折った。

そのまま死体を通路にゆっくりと寝かせ、俺は呆然とする訓練兵達に確信した情報を伝える。



『朗報だ、奴等は目が見えない。その代わりに音と匂いに敏感みたいだ。どうやら地下暮らしで視力が退化したらしい』


『そ、それを確かめる為に黙って見てたんですか?』


『こういうのは焦ったら負けなんだよ。一つ勉強になったな』


『はぁ……私には真似できそうにもないです』



感嘆とも呆れとも捉える事ができるサリアの声を受け流し、俺は瞼を細めてホームに視線を向けた。


今のところ奴等に動きはなく、俺は落ち着いてホーム内を見回す。

ボロボロの購買店、無数に並ぶ柱、朽ちたベンチや転落防止用の壁、そして構内で停止する錆びた一両の電車。


非常電源の薄いライトが照らす中での確認ではあったが、間違いなく此処は駅のホームだ。


ともすれば、電車が止まる通路の先を行けば、別の施設に辿り着ける筈である。

俺はそう確信を抱き、背後に向かって話し掛けた。



『ゆっくりと駅のホームを抜けて線路に下りるぞ。音を立てるなよ?』


『りょ、了解です……』



俺は覚悟を決め、階段を下る。


駅のホームで寝転ぶ奴等もそれなりのスペースを確保しており、足の踏み場が無いなんて事はない。だが、それでもその間を無音で通り抜ける緊張感ときたら、想像以上だった。


突然に沸き起こる尿意、呼吸は無意識に浅くなり、一歩を踏み出す足は重く鈍い。


この世界に来てから様々な体験を積んだ俺でこれなのだから、背後に居る訓練兵達はもっと酷い状態だろう。それでも取り乱さない事を考えると、流石は武市さんが担当した訓練兵ではあったと褒め称えたい所だ。


現実逃避混じりでそんな事を考えつつ、ようやく電車の近くまで来る事ができた。

俺は向かうであろう通路の先を懐中電灯で照らし、そして後悔する。



『うっそだろぉ……』



口内で、思わずそう呟いた。

向けた視線の先、通路の地下トンネル内にも寝転ぶ異人が多数居たからだ。

想像を遥かに超える数の多さに、俺は戦慄を覚えて冷や汗を流す。



『ま、さか……』


『そんなぁ……』



ようやく俺に追い付いた訓練兵達も、トンネル内を見て絶望するのが見えた。

しかし、俺は逆にその表情を見て意識を取り戻し、周囲を見回して頭を回転させる。


此処から戻るのは無しだ。戻った所でどうしようもない。けれど……どうする? 戦うにしても多勢に無勢だ。むしろ俺一人ならどうにかできる可能性もあるかもしれないが、彼等を守り抜かなければいけないこの状況では、俺の"力任せ"での突破はまず不可……能。


瞬間、俺はある物を見て閃いてしまった。

しかし、それに伴う災難も想像し、心中でゲンナリとする。

だが、この状況ではやるしかなく、また他に良いアイデアも思い浮かばなかった。


俺はゆっくりと錆びた一両の電車を指差し、訓練兵に指示を出す。



『いいか? まずあの電車に乗ろう、中にも異人は居るかもだが、そう多くはない筈だ。俺が始末する』


『の、乗ってどうするんですか?』


『電車でする事なんざ決まってるだろ? "移動"するんだよ』



そうニヤリと笑い掛けたが、訓練兵達はただ黙って首を傾げるだけであった。


――さぁ、此処からはド派手に行くとしよう。




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