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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
100/105

作戦開始




「どうですか? 何処からどう見ても訓練兵でしょう?」



作戦開始当日、俺は宮城伍長が持ってきてくれた軍服とY6等の装備に身を包んでそう問い掛けた。


彼は軽く頷いたが、顎を擦って苦笑する。



「そりゃそれ以外には見えんわ。しかし……その右腕の包帯はどうしたんだ?」


「それはまぁ、色々とありまして……」


「そうか、護衛依頼を通して色々と問題が発生したとは聞いてる。本当によく頑張ったもんだよ、お前さんは」



当然ながら、俺の異物と化した右腕は人前で見せられる物ではない。

故に今は包帯を巻いて誤魔化しているが、何時までそれが持つかは分からん。

最悪、バレたら未知のHAとでも言って煙にでも巻こうか。


用意された訓練兵の軍服は長袖だったので腕を隠せるが、そもそも右手まで異物化してる時点で腕を隠しても仕方ない。なので今は少し暑いので袖をむしろ捲くってる。見れば、宮木伍長もそうしているしな。


そんな事を考えながら一通りの準備を終えていると、宮木伍長は同情の視線を隠さずに慰めの言葉を向けてくる。



「しっかし……お前も大変だなぁ? 一体どうやったらそんなに面倒に巻き込まれるんだ?」


「まぁ、そうは言っても自分から首を突っ込んだ例もありますけどね……。今回もこうして志願してますし」


「全く、難儀な性格してるなお前さんは……。俺としてはソレは好ましいが、あんま無理すんなよ? 俺が見た所……お前はあの穣ちゃん達に大分好かれてんぞ。だから泣かせんなよな」



そう言って宮木伍長は憎らしい笑みを浮かべて小突いてくるが、俺もそれに頷いて笑みを浮かべる。



「それはそうっすよ、俺達は一連の流れで激戦を潜り抜けた仲ですからね。最初は不穏な関係だったクルイストの皆さんとも打ち解けられましたし、それが今回の事件で得られた唯一の幸運ですから。俺も、彼女達は好きですよ」


「……なんか、今のお前を見てると俺が汚れてるみてぇで嫌になってくんぜ」


「ぅえ!? ど、どうしたんすか急に!?」



そんな会話を交わしつつ、俺達は揃って仮眠室を抜け出る。

ラビィは既に伍長の班に配属され、準備を終えたとの事だ。

後は俺とメアが武市さんが配置する部隊に合流すればいいだけである。


と、其処で藤宮さん達がメアを連れて仮眠室から出てきた。

彼女達は此方を見て少し目を丸めると、笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。



「うわーソウヤ君?! なんか、そういう格好新鮮ですね!!」


「うんうん、結構いいじゃないか」


「似合ってる、って言っても困るか? まぁ、気楽に行って来い」


「え? に、似合ってますか? ど、どうもです」



藤宮さん達にそう褒められ、俺は思わず頬を赤く染める。


何時もシャツとジーパンぐらいしか着てなかったからなぁ。

外に出る時は何時もローブを纏って防弾チョッキを着るからお洒落は必要ないし、そういう感性が鈍感になるのだ。



「……何を本気にしてんの? お世辞に決まってるじゃん。キモ」



と、其処でメアも此方に合流してくる。

彼女も軍服や装備を着て、準備万端だ。


とりあえず、俺はメアの悪口に微笑みながら答える。



「そうか、けどメアは良く似合ってるよ。可愛いなぁ~」


「は……はぁ? 何? 本気で気持ち悪いんだけど」



まさか罵倒した相手に褒められるとは思わなかったのか、メアは少し怯む様にうろたえる。それを確認すると俺は笑みを打ち消し、真顔で告げる。



「お世辞に決まってんだろ、勘違いすんな」


「……ムカつく」



悪いが、俺は敵意を剥き出しにしてくる輩に優しくする器量の広さは無い。

相手が小さい子供なら可愛いで済むが、そうでない場合はムカつくだけだからな。

俺の優しさの無料配布は小学生位の子供までが対象だ、注意しとけ。


そんな風に俺とメアが睨み合っていると、その間に藤宮さんが割って入り、仲裁する。



「ま、まぁまぁ! 二人とも、お互いに仲良くしなきゃ……ね? メア」


「……うん、藤宮さん」



メアは藤宮さんに素直に従い、頷いた。


しかし、その頬が紅潮しているのは何故だろうか?

まさか……悲惨な体験を得てソッチ側にシフトしてしまったのだろうか?

だとしても別に責める気は無いけどさ。



「それじゃあ……ソウヤ君、メア。二人とも、どうか気を付けてね?」


「ごめん、あたし達も着いていけたら良かったんだけど……。あんな風に言われたら情けないけど、少し怖くてさ」



里菜さんがそう申し訳なさそうに表情を暗くした。

宮木伍長の忠告を受けてそれを素直に受け入れたのはいいが、罪悪感が打ち消せないみたいだ。


それに続き、フェニル先輩も謝罪を口にする。



「私も……軍に対してはあまり良い印象を抱いてはいなくてな。すまん」



当然ながら、場の雰囲気は暗くなる。

俺はそれを晴らそうと思い立ち、隣に立つ宮木伍長を肘で突く。



「ですってよ、宮木伍長。軍人である身として、一つコメントをどうぞ」


「この流れで俺に話を振んのか!? コメントって言われてもなぁ……」



宮木伍長は気まずそうに頬を掻きながら、視線を彷徨わせる。



「あー……確かに、穣ちゃん達の認識は正しいぜ。"同僚"が抵抗できない無実の市民に難癖を付け、ボタを巻き上げたりするなんてのは悲しい事に度々あるし、十数年前の徴兵騒ぎや、この前の教会事件の事もある。だけどな……」



宮木伍長は其処で一旦言葉を止め、次に自身の胸を軽く叩く。



「だけどな……最初期の激戦を潜り抜け、その後のヤウラを数世紀に渡って守り続けたのも、また"軍人"だ。そして今日、俺達ヤウラの軍人は初めてヤウラ以外の市民を助けるべく動き出す。其処に絡む利益や思想、様々な意向はあれど、俺達が"他者"を助ける為に動くんだ、それって実は凄い事なんだぜ? 何処ぞの軍が他都市や集落を侵攻したなんて話は幾度か聞いたが、助ける為に動くなんて初めて聞いた。少なくとも俺は知らねぇ」



彼はそのままニッと笑うと、腕を組んで感慨深そうに語る。



「もしかすると、この試みはヤウラ軍人の在り方を良い方に変えるかもしれん。だからよ、俺個人としてはこの件を持ち込んできたお前さん達に感謝したいくらいだ。……ありがとな、誰かの為にこうして動くってのは、何処か誇らしくもあるんだ」



そう最後に告げた彼の表情は、一端の兵士のソレであり、大人としての頼もしさがあった。

堪らず、俺は唖然としつつ口を開く。



「いや……なんつーか、話を振っておいて何ですが……感動しました」


「うん……私も」


「……軍の奴等が貴方の様な思想であれば、確かに私達も安心できる。いや、貴方の様な方が一人居るというだけで、何だか私も印象が変わったよ」



俺がこれ見よがしに手を叩いて見せると、藤宮さん達もそれに賛同して拍手を送る。


それを受けた宮木伍長はパチパチと瞼を瞬かせていたが、急にカーッと顔を赤く染め上げると背後を向き、早足で去りながら大声を張り上げた。



「と、とにかくもう行くぞ!? もうすぐ作戦開始時刻だからな!!」


「ははは……。よし、じゃあ俺達も行ってきます」


「うん、本当に気をつけてね。二人とも……」



そんな風に出発前の別れも済ませ、俺とメアは宮木伍長の後を追って組合所を抜け出す。


すると組合所の前に軍用トラックが停車しており、その前に一人の女性が腕を組んで立っていた。切れ目が目立つ瞼からは漆黒の瞳が覗き見え、後ろ頭に団子状で纏められた黒髪は太陽の輝きを反射し、黒い宝石の如く眩い輝きを見せている。



「武市中尉、今作戦の組合参加者を二名連れて参りました。木津 沿矢殿とメア・ラダル殿です」


「ご苦労、伍長。下がって良いぞ」


「はっ!! ……じゃあな、頑張れよ」



宮木伍長はそう最後にエールを送ると、自分の車両へと走っていく。

残された俺とメアに視線を向けると、武市さんは目尻を下げる。



「君達には感謝したい。報酬も要求せずに、よく今作戦の参加を申し出てくれた」


「いえ、そんな……俺達が運んできた情報でこうなったんですから、助力は当然です」


「そんな罪悪感や義務を抱く必要はないぞ? 軍人は命令されれば素直に従うしかない、恨むなどお門違いだ。それに今回の作戦はテラノ住民の命が掛かった人道的な物である。君達を褒めはすれど、責めはしないさ」



武市さんはそう微笑む。

しかし、次の瞬間には表情を引き締め、力強い口調で説明を開始する。



「今作戦に関する詳細は機密漏洩避ける為に訓練生にはまだ明かしていない。彼等に真の目標を伝えるのは出立後になる。君達は私が鍛え上げた部隊に配属するが、決して作戦の事はその時まで口にするな。いいか?」


「はい、安心してください。教え子の人達はできるだけ守ってみせますから」


「すまないな……私的な事情で配属をしてしまって。だが、そうでもしないとマトモに指揮ができそうにないんだ」



武市さんは言うと、不安気に瞼を閉じる。

歳若くして中尉に上り詰める程の実力があるとは言え、彼女はまだまだ若い。

そんな彼女がその様な心配を抱くのは、一人の人間として正常な証だろう。



「君達はとりあえず、数合わせで他のクラスから呼び集められた訓練兵として紹介して部隊に配属する。ただし木津! 君は自己紹介の時には偽名で頼む」


「え?」


「ラダルはともかく、君はこのヤウラではちょっとした有名人だぞ? そんな君が本名を言う訳にはいくまい。ハンターである君が軍に居るのはどうしても不自然だからな」


「そ、そうですか。分かりました」


「無論、荒野で訓練兵達に真の目的を明かした後は偽名に拘る必要はない。君の本来の装備もコンテナに詰めて乗せてある。作戦の説明が終われば、着替えるなりして好きにしてくれ」


「はい」



有名人、か。

確かに組合所ではジロジロと見られてたが、軍でも俺はそれなりに知られてるのか。

そうだよな、クラスクでも送迎班が俺を見て驚いてたし。



「さて、部隊に案内するか。二人とも、迷わずに着いて来いよ?」


「了解です、中尉殿!!」


「はは、いいな。様になってるぞ。ただ、ヤウラ軍における本当の敬礼はこうだ」



俺が適当に敬礼をすると、武市さんは笑いながらヤウラ式の敬礼を見せてくれた。

右肘を曲げ、左肩に右手を当てる。中世の騎士がする敬礼に似た方式だ。



「と言っても、これは昇格時や勲章を受け取る時にする儀式的な物となっている。普段はさっきの様に頭に翳す敬礼で大丈夫だ」


「へぇ、そういうのって珍しい分け方ですね」


「ん? そうなのか? 他都市の事情はよく知らんので、何とも言えないな」


「あ、いや……何となくそう思っただけです。はい」


「そうか? まぁいい、着いてきてくれ」



危ない危ない、元居た世界基準で勝手に話してしまった。

こういった何気ない会話で、自分は違う世界から来たんだと改めて認識してしまう。


武市さんの先導に従い、俺とメアは後に続く。

組合所の前は荒野に続く大通りとなっている為、作戦開始前とあって待機中の軍用車両が多い。


それと……すれ違う軍人はやはり殆どが未成年ばかり、時偶に大人の軍人が部隊を纏めているのも見かけたが、そう多くはない。



「注目!! 各員、集合しろ!! 作業の中断を許可する!!」



と、突然に武市さんが足を止めてそう怒鳴った。

するとその声に従い、ゾロゾロと訓練兵が集まってくる。

彼等は綺麗に横一列に並び、両の手を後ろに回す。

それを見て満足そうに頷くと、武市さんは俺とメアを前に立たせる。



「この二人を数合わせでこの隊に配属する! さぁ、挨拶を」


「…………ジャ、違うな。山田 隆之 訓練兵です! この度、この部隊に配属と相成りました! よろしくお願いします!!」


――パチパチ…………。



咄嗟に好きな海外ドラマの主役の名前を言いそうになったが、修正する。

山田と言う苗字が瞬時に出るあたり、俺の日本人脳は相当だ。

とりあえず不自然な所は無かったみたいで、疎らな拍手が俺に贈られる。



「……メア・ラダル訓練兵です。同じく、この部隊に配属となりました。よろしくお願いします」


――パチパチパチパチ!!!



俺とは違い、メアは静かにそう挨拶する。


ただ、俺とは送られた拍手数が段違いで泣きそうなんだけど。

何これ? 開幕新人虐めとかやばない? 帰っていい? トイレの個室に入ったら上から水とか掛けられたりするんじゃない?


そんな危機感を覚えていると、武市さんが続けて前に出る。



「マーケ訓練兵、貴様が山田の面倒を見ろ。そしてトレイター訓練兵はラダルを頼む」


『了解!!』


「さぁ、行け…………頼んだぞ」



最後にそう呟き、武市さんは俺達を送り出した。

それに目線で答え、俺達はそれぞれ世話をしてくれる訓練兵の下へ向かう。



「よろしくな、山田。俺はロブ・マーケだ」


「よろしくお願いします、マーケ訓練兵」



先程、武市さんに習った敬礼をし、挨拶する。

するとマーケは気まずそうに頬を掻く。



「敬語はいいよ、見た感じそんなに歳も離れてなさそうだしな」


「分かったぜ、親友!!」


「えらい砕け方したな!? ま、まぁ元気なのはいいけどよ……」



そんな風にマーケと仲を深めつつ、横目でメアの様子を探る。



『よろしくね、ラダル。私はサリア・トレイターよ』


『……よろしく、トレイター』


『うん、じゃあこっちに来て荷物を運ぶのを手伝ってくれる?』


『了解……』



どうやら、あちらも無難に行きそうだ。

できれば俺も、あの胸のでかいロリっ子に面倒を見て欲しかった。

って、あの子どっかで見た様な気がするな……?


そんなデジャブを感じていると、マーケが俺達が搭乗するであろうトラックに手を向けながら言う。



「そういえば、お前の荷物が入ったコンテナを預かったぞ。何が入ってるか知らないが、えらい重かったんだぞ!? 五人掛かりでようやく運べたんだからな!? まぁとにかく、それは既に車両に積んであるからな。後で確認しとけよ」


「そうなのか。ごめん、ありがとう。実は……あー……俺って慣れた組み立て式ベッドじゃないと寝れない性質なんだ」


「慣れた組み立て式ベッド!? そこは慣れた枕とかにしとけよ!! 遠慮を覚えろ!!」



コンテナにはグレードVの防弾チョッキや、M5にYF-6に愛銃のDF。

それに加えて各種マガジンや弾帯を詰め込んでるんだ、その重さは数十キロ以上はしただろう。


その重さをどう誤魔化すかで考えてなかったので適当に嘘を吐いたが、マーケはそれにツッコムだけで追求はしてこなかった。



「にしても……随分と大きく包帯を巻いてるな? その右腕どうしたんだ」



と、早速俺の包帯姿にもツッコミが入る。

マーケは話しやすそうな奴なので、少しふざけてみるか。



「知らないのか? これは俺のクラスで流行ってるファッションだ。俺達訓練兵はお洒落なんざできない。が、包帯なら軍服を着てても巻けるだろ?」


「……なるほど!! なんか格好いいな、そういうの!! 俺も今度やってみようかなぁ……?」


「うむ、お勧めは俺と同じ右腕の前腕部だ。時折そこを押さえて唸ってたら立派な人気者になれるぞ。偶にガイアが囁いてくる」


「そ、そうなのか? よくわかんねーけど……」



これでマーケも立派な中二病だ。

彼を中心に訓練兵の間で偉大なブームが押し寄せるに違いない。

その頃には俺はもう軍を去っている、後の祭りだな。楽しめよ。


そんな時限爆弾も設置し終わると、その後は適当にマーケに着いて行って荷物を運んだりした。

それも終わると各自の車両に乗り込み、出発の時を待つ。


俺が乗り合わせたのは組合所の送迎トラックのそれと同じ型の車両であり、奥には俺の装備が入ったコンテナが置かれていた。


部隊の皆はY6を手にしているが、荷台入り口近くの一人だけはレイルガンを装備している事に俺は驚いた。てっきり新兵だからと言って、そこ等辺の装備も適当だと思ってたが、最低限の用意はされているらしい。


車両の搭乗者は男女混同の訓練生で編成されており、俺は少しテンションがUPした。

軍隊では男女平等は基本だよな、うむ!


車内には当然ながらメアとサリアも居る。

どうやら此処に居る子達が武市さんの請け負った教え子達らしいな。


そんな考察をしていると、暫くして車両が発進する。

すると車内はさっそく、その騒音を隠れ蓑に雑談で溢れ返りだす。



『うおぉ……遂に荒野に出るのか。ヤウラから出るなんて初めてだ』


『馬鹿、そんなの誰だってそうだよ。集落出身者なんて居ないんだからな』


『何処まで南下するんだっけ?』


『さぁ、詳しく聞いてないけどそう遠くはないだろ? 演習なんだし』


『キャンプ設営とかするのかなぁ? 何だか楽しそうだよね』


『実はこっそりカードを持ってきたんだ、夜は皆で集まってこれで遊ぼうぜ』



等々、完璧に修学旅行のノリである。

これは確かに武市さんも不安になるわな、本当にただの子供なんだもん。

こう言っては何だか、こうして着いて来て良かったわ。


そんな事を考えてると、正面に座ったマーケが親しげに話し掛けてくる。



「どうした、緊張してるのか? へへっ、安心しろよ。俺はこう見ても射撃の腕は良いんだぜ?」


「へぇ、そうなの? でも、それだったらレイルガンの砲手になれば良かったのに」



チラリと荷台の入り口に居る訓練生に目線を向けつつ、俺はそう言う。

射撃が上手いのは恐らく彼だろう、でなければ砲手なんぞ任される筈がない。



「……いや、それは……演習だからな! 他の奴にも練習させないとアレだろ?」


「なるほどぉ、確かにね」


「そうさ、本当なら俺がやっても良かったんだけどさぁ……」



マーケの話に付き合いつつ、俺は時間を潰す。

こういう同世代とのやり取りは本当に久しぶりで、俺は何だか懐かしい気分に浸れた。

きっとこの世界に来なければ、俺ものんびり高校生活を送れたんだろうが……。


そんな風にセンチメンタルな気分に浸りつつ、作戦は開始された。

気付けばヤウラの町並みは見えなくなっており、ただ淡々と荒野を進むのみ。

流石に荒野に出てからは緊張でお喋りも少なくなっていたが、それも僅か二時間程の緊張に過ぎなかった。



―――!! ――!! ――!!



何処からか突然と銃撃音が聞こえた。

俺は咄嗟に腰を浮かしたが、他の面々は不思議そうに疑問符を浮かべている。

すると運転席に居た大人の兵士が無線機をONにし、其処から状況が聞こえてきた。



『右翼から無人兵器が接近中!! 何処ぞの送迎班がレイルガンで早速と一機を無力化してくれたが、数が多すぎる!! 援護を要請する!! 対処できる右翼側の班は全てだ!!』



多分、無力化したのはラビィだな。

推測に過ぎんが、多分そうに違いない。


そんな考察をしている間にも、事態は進む。



「了解!! よし……聞いたな小僧共!? 俺達はこれから右翼に回る! 砲手、準備をしろ!!」


「え?! え、あ……了解です!」



突然の命令に、砲手である訓練生は慌てて答える。

しかし、構えたレイルガンは僅かに震え、カタカタと小気味の良い音を奏でた。


俺は突然の事態にどうしようか頭を悩ませる。

作戦の詳細はまだ知らされていない、なのに動いていいのだろうか?

いや、違うだろ。こういう時の為に参加したんだろうし。


俺はそう決心し、自身の荷物が納められているコンテナを開けた。

其処からM5を取り出し、グレードⅤの防弾チョッキに着替え、武鮫を嵌め、ホルスターを巻き、最後に愛用のローブを着用する。



「な、何してんだ山田?! それ……お前のなのか!?」


「あぁ、そうだよ。通してくれ、入り口に行く」



装備を装着し、俺は訓練兵の戸惑う視線を撥ね退けながら荷台の入り口に立つ。

そのまま視線を右翼に向け、戦況を確認する。


荒野の彼方此方では軍のトラックが砂塵を巻き上げており、その向こうで時折光る銃弾しか見えない。そうこうしている内にその砂塵の中にトラックは突入し……すぐにそこを抜けた。



「結構多いな……」



並走している無人兵器の数は十数機程だ。

機種は多種多様だが、その見た目はオンボロ気味であり、飛んでくる銃火は疎らである。


その事を踏まえて考えるならば、だ。

南方にある都市のバハラが二、三ヶ月程狩りを控えている為、南で彷徨っていた無人兵器同士が遭遇してこの様なグループが多く生まれたのだろう。


そんな状況下で多くの車両で移動し、砂埃を大きく巻き上げていた為、敵を引き付けたとの流れに違いない。一通りの状況を把握し、これからどうしようか悩んでいた所で荷台の入り口にメアが近寄ってくる。



「どう? 状況は」


「数は多い。が、まぁ軍が相手するなら……って感じで普通なら安心できるんだろうけど」



向ける視線の先では、放たれたレイルガンの輝く一線は敵を貫く事無く荒野の彼方に消え、着弾した砲弾は砂埃を巻き上げるだけ。


今作戦で動員された兵士の殆どが訓練兵だと聞いてはいたが、この命中率は頂けない。


いや、そもそも今回の真の目的が開示されてない状況で敵と遭遇したのだから、浮き足立つのも仕方ないと言うべきか。


そう考察している最中に、車両は右翼の最前線近くまで辿り着く。

すると助手席で無線を手にしている兵士が叫ぶ。



『砲手! 手当たり次第にぶっ放せ!! 奴等を近寄らせるな!!』


「りょ、了解!!」



その指示に従い、訓練兵がレイルガンを構えた。

彼は電子ゴーグルを装備しており、そのゴーグル内に表示されたレティクルがチラチラと白と赤の点滅を繰り返す。そして十数秒程の時を掛けて遂に覚悟を決め、彼は引き金を引く。



――!!



キンとした小さな音が鳴るとその重厚な砲身から弾が発射され、盛大な風切り音と衝撃を発した。

すると車内が一瞬だけ眩く照らされる。


その際に訓練兵達が浮かべた恐怖のソレが視界に写った。

それに気を取られていると、訓練兵の震え声が状況を伝えてくる。



「は、外してしまった……!」


「馬鹿!! 誰もアンタの腕に期待なんてしてない!! とりあえずチャージが終わったら続けて撃ちなさい!! 近寄らせない様にするだけでいいって言われたでしょう!!」


「りょ、了解!! で、でも……手の震えが止まらなくて」



訓練兵はメアの指示に頷きはしたが、レイルガンを構える手に力が入らない様だ。

向けた銃口は揺れ動き、狙いが定まる気配を見せない。



「もう……貸しなさい! 私がやった方がまだマシだわ!!」


「え、えぇ!?」



メアは一つ舌打ちを鳴らし、奪う様にして射手からレイルガンを無理矢理受け取った。

続けてゴーグルも剥ぎ取って装着し、構えを取る。



「おいおい、大丈夫か?」


「アンタは黙って見てなさい。電子補助ゴーグルを使えば、外す方が難しいっての」



それは言い過ぎだろうが、メアは強い自信がある様だ。

少なくとも、緊張で手が震える訓練兵よりかは頼りがいがある。



「……ここね」



小さく呟き、メアはレイルガンの引き金を引く。

するとまた荒野に一閃と光が迸り、砂塵を切り裂いて飛ぶ。

その放たれた一撃は無人兵器の群れの中に飛び込んでいき、ある機体の一部を掠めて体勢を歪ませた。



「あ、当たった!!」


「あれは掠めただけよ!! はしゃぐんじゃない!!」


「は、はい……」



訓練兵達が歓声を上げようとしたが、メアは悔しげにそう怒鳴って黙らせる。

とりあえず、レイルガンの扱いは彼女で問題はなさそうだ。

そう判断すると、彼女の肩を叩いて俺は前に出る。



「よし。メア、此処は任せた」


「は? 任せたって……えぇ!?」


「お、おい!! 山田!? 何してんだよ!!」



俺は覚悟を決め、車両から飛び降りる。

すると当然として地面を転がる破目になったが、武鮫を地面に突き刺して勢いを殺す。

そして其処から立ち上がると、俺は今までにない程の力を込めて全力で走り出す。


向かう先は当然、無人兵器の群れだ。

地面を蹴り上げ、グングンと加速してトップスピードに到達し、車両の合間を縫って車列の外側に出る。


予測してはいたが、やはり俺の身体能力は更に向上してる。

走ると言う行為は全身の筋肉を使用する訳だから、その変化が容易に感じ取れた。


車列の外に出ると、まず近くに居た四足歩行の狼っぽい無人兵器と視線が合った。


合いはしたが、奴の砲塔は外側を走る盾代わりの装甲車や戦車に向けられており、俺には何の素振りも見せない。それ幸いと俺は状況を把握すると、更に地面を力強く蹴って砂塵を巻き上げると同時に自身の体も浮かばせ、空中から相手に一気に肉薄した。



「……ぅおおおおおおおすわりっ!!」



そう叫ぶと同時に相手の背中に向けて右腕を振り下ろすと、その狼さんは四肢を瞬時に砕けさせ、地面へと這い蹲って沈黙した。叩き付けた勢いでまた高く宙に浮かんだ俺に向かって、今度は何処からか銃弾が飛んでくる。



「流石に状況判断が早いな……」



今の一撃で俺の脅威度を把握し、無人兵器の気を引いてしまったらしい。

そう把握したのも束の間、意識を集中する。

そのまま飛んできた銃弾を異物化した右腕を振るって打ち落とし、或いは何発か反らすかしてやり過ごす。


こう言っては何だが、この右腕かなり使い易いな。

しかも絶対に壊れないであろうという、ある種の確信を抱いてる為に不安も無い。


しかし、仮にも兵器である相手から放たれた攻撃であり、その反動は凄まじく、盾にした異物でも反動までは軽減できず、僅かに飛ばされる。


転げ落ちる様にして荒野に降り立つと、直ぐにその場所から退避して走り出す。

すると今度は周囲に弾頭が着弾し、爆発して地面を揺らして濃い色をした土を巻き上げる。



「お、おいおい! 流石に対応が柔軟すぎるだろ!?」



俺に生半可な銃撃でダメージを与えられないと判断したからか、すぐさま爆発物を用いてくるとは想像以上の行動だった。流石は兵器と褒め称えたい所だが、敵対している身としてはそんな余裕は見せられん。


少し首を動かして周囲を見れば、今まさに空中に高く浮かび上がる砲弾の幾つかの軌跡が見えた。


俺はそれを確認し、M5を構えると走りながら狙いを定め、迎撃を試みる。

弾道の軌跡を確認する為に始めはフルで、続けて何処を狙っていたかを確認できると、タップ撃ちで修正しながら目標に近づける。


その試みは上手くいき、空中で一つが爆発すると続けて他の砲弾を狙い、迎撃した。

流石に全ての砲弾を打ち落とすには至らなかったが、自身の近くに落ちてきそうな大部分は始末できた。



「やべぇ、また一つ夢が叶ったぜ」



自身に向かってくる砲弾を打ち落とす、男なら一度は想像した光景だろう。


そう感激したのも束の間、自身の周囲が薄い暗闇に包まれた。ハッと視線を向けて見れば、真横から飛び掛ってくる飛び蜘蛛型が見える。奴は八本の足を大きく開いて構え、その先端を光らせている事から、俺にソレを突き刺そうと意気込んでいるかの様だ。



「っとぉ!!」



間一髪でその攻撃に気付いた俺は真横に大きく飛んで紙一重で回避し、地面に降り立った飛び蜘蛛型の無防備な横っ腹に右腕を振るう。


拳が当たった瞬間、俺は意図的に其処で力を抜く、すると装甲はへこみはしたが、貫通はしない。

しかし、それを見届けると今度は逆に力を込めて全力を出し、相手を押し出す様にして右腕を振り抜いた。



――!!! ――――!! ――……! …………!



すると飛び蜘蛛型は荒野の大地に横転しながら飛び跳ねていき、その身の部品を撒き散らしながら金属質な音を奏でる。暫くするとそれも止まったが、遠くに見える飛び蜘蛛の足は全てが欠損し、無事な様子ではない事がハッキリ確認できた。


俺の莫大な膂力で無人兵器の装甲を貫く事は容易だが、その一撃で相手を機能停止に追い込むのは難しい。だからこうして地面を利用してダメージを増幅し、相手を無力化するのが望ましいだろう。


これで二機を無力化、しかし相手はまだ多くいる。

だが、何も俺一人で全てを相手にする必要はない。


車列に目を向ければ、レイルガンから放たれる眩い軌跡が何発も見え、戦車から放たれる砲弾が空気を揺らし、唸りを上げる機銃は軽快な音を奏でる。それ等が放つ弾丸や砲弾は無人兵器の群れに飛び込むと何発か着弾し、ダメージを確実に与えているのが確認できた。


戦闘開始から数分が立った所でようやく混乱が収まり、脳から溢れ出たアドレナリンで集中が強くなったと言った所だろうか。


この調子ならば、俺も少しは楽できそうだ。


そう気楽に構えると、続けて向かってきた無人兵器に視線を向けた。







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