リリースした男を捕まえるな!!
初めての作品ですので、お見苦しい所は多々あるやもしれません。
ご意見、ご感想、優しい罵倒をお待ちしております。
俺、木津沿矢には秘密がある。
誰もが興味を持つであろう秘密だ。
正直、お昼のトーク番組に出たら視聴率十%は堅いであろう話題だ。
この話題に興味を持たない奴は耳鼻科に通ってる奴か、もしくは言語が通じないかのどちらかであろう。
事の始まりは小学四年の頃だった。
この頃になってくると大体子供ってのは色々な経験を得て、様々な変化をしながらも徐々に自分の人格という物が定まってくる頃だ。
ただ俺は通知表に三年連続で『もう少し落ち着きを持ちましょう』と書かれるぐらい小さい頃から既に変化がなかった子供だった。
変化があったとすれば四年生から『もう少し』という言葉が通知表から消えた事くらいだ。
神が自分を超えるであろう俺の進化を止める為に、Bボタンを高○名人ばりにプッシュしていたのかもしれない。
まぁ、世の中には小学生の頃秀才だった奴が、中学で突然根暗ニートになるくらいのメガ進化をかます奴もいたりするが。大体の人間は小学生(自己判断)で人格が定まってくる頃だと見ても良い、多分、メイビー。
物語の始まりは小学四年の熱い夏の日であった。
何時も通り学校から家に帰った俺、しかし何をトチ狂ったのか突然『あ、秘密基地作りてぇ』とどこぞから怪しい電波でもキャッチしたのか、居ても経ってもいられなくなってしまった。
そんな落ち着きの無さは日常茶飯事の事で、時には帰ってから父親を迎えに会社まで行った事すらあった。
当然、今回もすぐさま行動を起こすべく俺は学校までわざわざ戻り、近くの花壇にあったスコップを片手に持ち、近くの裏山に乗り込んでいったのだ。
秘密基地建造と言えば大体の男の子が体験するイベントの一つだが、他の奴等と違うのは俺がソロだったって事かな。
秘密基地を作りたいと思ってる奴のタイプは大体三種類に分類される。
一つは木の上に木を組んで足場を作るタイプ、大体の奴等が秘密基地と言えばこのタイプを思い浮かべるのではなかろうか。
中々にいいアイデアだと思う、子供だけでは実現不可能だと言う点を除けばな。
大体子供の細腕で木の上に木の丸太なんて運べねぇよな。
次にどこぞの廃墟に本やお菓子を持ち込んでそれでよしとするタイプ。
なるほど、苦労をそこまでかけずに最高の空間を手に入れる事はいいが、大体の奴等は後にホームレスにその楽園を奪われて苦い思いをした事だろう。
最後、横穴かもしくは縦穴を掘って秘密基地を作ろうとするタイプ。
こういうタイプの奴等は深いトラウマを持ってるか、もしくは何も考えてないかのどちらかだろう。
そして俺は穴掘りタイプだった。
前世のウホウホ言ってた頃の記憶が目覚めたのか、もくもくと花壇整理用のスコップで穴を掘り進める様は、傍から見たらホラー映画によく出てくる意味深な行動をとる子供か、もしくは動物園の少し賢い猿かのどちらかに見えていた事であろう。
こんな地味な作業を続けられるのは死体の隠蔽を行いたい奴か TO○IOぐらいの物だ。
殺人犯でもTO○IOでもなかった俺は作業開始から二時間くらいでようやく『あ、これ無理だわ』と気付く事ができた。
結局、秘密基地というかペットの墓に使うくらいなら丁度いい深さまでしか掘れなかった。
俺のIQがもう少し高ければ開始五分で気付けただろうが、後の祭りだ。
花壇整理用のスコップで二時間かけて掘った穴を、足を使って五分で埋めなおした所で俺は自分が置かれた最悪な状況を把握した。
普通の子供だったら本能に従い泣き喚いて助けを求める所だろうが、俺ぐらいのクラスになってくると既に諦めの境地になってしまう。
おっと、ここで諦めたというのは生存を放棄したわけではなく、今日中の帰還を諦めたと言う事だ。
暗闇の中を歩き回るのは自殺志願者か、稲川○二ぐらいだけだ。
下手に動いて迷うのは危険である。
その場に留まる事を選んだ俺は『もう太陽が昇るまで待つっきゃねぇ』と子供にしては悲惨な覚悟を決めつつ、その場で寝転がって夜空を見上げた。
こういう子供の頃の行動は、後々いい思い出になったりもするだろうが。
俺の場合はただの悪夢に成り下がるくらいの要素しか含まれてないので例外だろう。
とにかく、状況は最悪だった。
喉は渇き、腹も減り、全身は疲労し、さらには眠気に同時に襲われているのだ。
RPGなら次のターンには教会へと飛んでいてもおかしくはない。
ただ、その時いた場所は限りないリアルであり、次に目を開けて俺がいた場所はUFOの中だったと言う事だ。
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「いやいや! おかしいおかしい!話が飛びすぎだよ!!」
「おいおい、何を言ってるんだ……ここからが凄いのに」
俺の子供の頃の思い出を、高校入学初日にできた友人の中田君に自己紹介がてら話を進めていると彼は横槍をいれてきた。
まぁ、無理も無い。
この話を両親に話した日には真顔で『誰にも言うな』と釘を刺された物だ。
ちなみにこれは俺の心配ではなく、自分達のご近所評判を気にしての事だ。ファック。
「まぁ、わかってる。正直な所……嘘かどうか疑うよな」
「そうだね、少し違う所があるとすれば僕が疑ってるのは君の正気って所かな」
中々に上手い事を言う奴だ。
しかし、ドヤ顔を浮かべながら眼鏡をクイッとする動作がムカついたので、後で指紋をたっぷりつけてやる。
「おーけー、中田君「高田だよ」そこまで疑うのなら仕方が無い。本当は話を終えた後に見せてやろうと思ったが、今見せてやるよ」
言いつつ、右腕の袖を巻くって見せると高田君の表情が一変した。
無理もない、何故なら俺の前腕部分に長さは十cmはあろう黒い模様が一直線に浮かんでいるからだ。
「うわっ……。すごーい、気持ち悪いね」
「中々に心にくるような事を言うよな、君は」
高田君が物珍しそうに前腕を撫でてくるが、女子ならともかく野郎に触れられても迷惑なので、さっと振り払って話の続きをする。
「UFOに拉致られた記憶は正直あやふやだ。しかし、あの山堀デーの次の日に目を覚ました時には、俺の前腕にはこの黒い模様が浮き出てしまっていたのだぁ!」
「うーん、触った感じだとやっぱ皮膚の下に硬さを感じたよ。インプラントって奴……なのかな?」
なのかな? じゃねぇよ。
何なの? 少し首を傾げてかわいさアピールしてるの? 草食系なの? 男にしてはやけに髪も長めで童顔だけど実は女の子って展開なの? 君と僕との間でラブでコメな日々が始まっちゃうの? 等と高田君のちょっと乙女な仕草に少しドキッとしつつも話を進める。
「俺も勿論気になったさ、だが病院で調べようにも両親がいい顔しなくてさぁ。だから自分で確かめた」
「酷い両親だね……。それで、確かめたって?」
「この右腕に秘められた謎をさ。この模様が浮かんでから一週間後、俺はこの皮膚の下にある物質の硬さに注目した。だから耐久テストを実地してみることにして、まず親父が使ってたバーベルに使用している五㎏の重りを落としてみた」
「まず、がおかしいよ! 最終段階だよ!! 次がないだろ!!!」
「ああ、そうだな。そもそも他の骨とも近いしね。だから全治に二ヶ月掛かりました」
「言わんこっちゃない……」
高田君がやれやれとトレンディドラマの様に首を振るが、何故か様になっててむかつく。
だが、確かに「てへぺろ」で済む話ではない。
しかし、痛みで気絶した俺が次に目を覚ました時は病院で、バッチリとレントゲンを撮られてて結果的に俺の疑問は解決した。
俺の小枝のような骨はパッキリ折れていたが、その謎の物質は微動だにしていなかったのである。
「まぁ、つまりは俺の作戦勝ちだよね」
「明らかに作戦外で起きた悲劇なんですけど、それは」
「しかしだ、そのお陰で俺はようやく右腕に埋め込まれている物が、思春期にありがちな妄想でも出来物でもなく、確実に謎の異物である事の確信を得る事ができたんだ。まぁ、それを試したのが夏休みに入る直前だったので、俺の小学四年の夏休みは爺の老後ぐらい慎ましい日々になったんだけどな」
「沿矢君のボケっぷりはご老人と何ら変わりないと思うから、丁度よかったんじゃない?」
等と呆れ顔で眼鏡をクィックしながら茶々を入れる高田君。
さっきから何なのそれ? ツッコミを入れた後の決めポーズなの? それとも一分に一回それをしないと死んでしまう病なの? そうじゃ無いならサイズが合ってないんじゃないの? 等と疑問が湧き始めた所で、クラスに差し込む光が赤く変わってる事に気付いて周りを見渡す。
すると既にクラスメイトの大半が帰ってる事に気付いた俺は、鞄を手に取ると背伸びをしながら席を立った。
「ん~~じゃ、そろそろ帰ろうかな。山田君の家はどっち方面? 青龍? 白虎? それとも朱雀? ちなみに俺は玄武だよ」
「東西南北が分かりづらいよ!! しかもさりげにまた僕の名前も間違ってるし! 高田だからね?! えーっと……す、朱雀かな? 駅方面だよ」
律儀に四神で答える辺り高田君もノリが良い様だ。
高校初日にしてはいい友人と巡りあえた俺は幸運だな。
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適当に会話を交わしながら校舎を出て、どことなく疲れ果てた高田君と校門前で分かれた後には既に辺りは暗くなりつつあった。
こうなってくると春とはいえ、まだ肌寒いのが身にしみてわかる。
体を暖めるついでに走り出すと、冷風が顔に当たって痛いくらいだ。
そのお陰か、制服の下はどことなく熱くなってきてその熱気が徐々に全身に行き渡っていくのが分かる。
こういう寒い時期の、この独特の感覚が好きだ。
逆に暖かい季節には先程のように良い思い出があまり無いので、あんまり好きではない。
今でもあの時の事は思い出す。
そう、丁度今俺に降り注いでいる太陽でも電気とも違うような不気味な光が俺を包み込んで……。
「あ、え? ちょ、と、飛んでる? 私ってば飛んでるのぉ?!」
異変に気付いた瞬間には、既に手遅れだった。
気付けば俺の体は地面から数メートルほど浮き上がっており、さらに後数メートル上がってしまえばめでたく即死ゾーンに突入と言う場面で上空を見上げると、何らかの飛行物体が俺に向かって怪光線を放ってきているのが見えてしまった。
「ふっ、ふざけるなああああああ!! 貴様等っ! 俺はもう研究済みだろうがっ! 調査資料に目を通しておけやぁ!」
攫われた場所は住宅地で、わーぎゃー騒いでると言うのに誰も家の窓から顔すら出さない。
何なの? 都会の冷たさなの? それともこの怪光線に俺の声量が遮られてるの? できれば後者であってほしい、でなければ俺は人類という存在を許せなくなってしまう。
とうとう高さが即死ゾーンを通り越し、ミンチゾーンに切り替わった所で俺は抵抗をやめた。
と、言うかさっさと俺を中に収容すればいいものを、わざわざ謎の物体は上昇しながら俺を回収しているのでいつまでも中に入れないのである。
このままでは酸素が薄くなり死ぬか、それとも体温がマイナスになって死ぬかのどちらかであるのは確かだ。
俺が兎さんなら恐怖とストレスで死亡している所だが、生憎俺の気性は虎のソレに近いと言っても良い。俺の思考は既に、船内に突入した後の行動を脳内でシュミレートを開始しているのだ。
まず過去の借りを返すのは勿論として、奴等の目的が何なのかを聞き出してやる。
例えば奴等の目的が宇宙崩壊を防ぐ為、人間の潜在能力を探る目的とかあるかもしれない。
だがそうだっとしても関係ねぇ、そのまま問答無用で宇宙船を奪い去り、俺はハリウッドに降り立つのだ。
そして俺は人類の新たな一歩を切り開いた偉人として、初代世界統一大統領としてその名を轟かせ、美女とキスしてハッピーネバーアフターとなるのだ。
問題があるとしたら、多分実現は不可能って事かな。
いい感じに現実を逃避していると、とうとうその時がやって来てしまった。
明らかに扉というか回収部分の外壁が開いてはいなかったが、光を放っている部分に体が触れたと思った瞬間には既に未知の空間に俺は降り立っていた。そして降り立った俺の周囲を宇宙人? らしき奴等が数体取り囲んでいたのだ。
ここで宇宙人? と疑問符を付けた理由はだ、その宇宙人が一般人が思い浮かべるような頭でっかちや蛸型でもなく、ましてやスピ○バーグの監督した映画に出てくるような、夢溢れる不思議生物でもない。
どちらかと言うと洋ゲーホラーアクションゲームに出てくるような、宇宙人というよりは宇宙生物と呼称した方が正しい容姿をしていたからだ。
E・○がキモかわいいなら、俺の目の前にいる生物はただのキモい、だ。
感情が読み取れない丸っとした目は人間のように白目部分や黒い部分もなく、ただ赤いだけ。
目の前にいるこの一体だけがそうなら『昨日は夜更かししたか、恋人と別れたのかな』と思う所が、周囲にいる奴等全員が赤いのでその線はないだろう。
次に口部分は某DBに出てきたセ○の不完全形態の時のような感じだ。
鳥のクチバシを横にして、長さを均一にした感じだろうか。
なんとなくストローとか使えないんだろうなぁ、とか思ってしまう。
次に肌は黒く、所々体に緑色の線が走っている。
手は人間のそれに近いように見えるが、不気味に長い指が七本と言う、なまじ此方と近しい部分があるゆえに異質めいて見える。
足はライオンの足の形に似ているが、違う所があるとすれば毛が無いことと踵部分から後ろに鋭い爪が生えてるって事かにゃあ……。
背は百七十台の俺より一・五倍くらい高く、二メートル五十はありそうだ。
要約すると次の瞬間『オレタチ、オマエ、マルカジリ』と言われたら、大人しく横になって食べやすくしてあげるぐらい絶望的な容姿だ。
こいつ等と敵対すると決まった瞬間、ためらい無く生を放棄して来世に期待することぐらいしか俺にできるコマンドはないだろう。
『――! ―――――? ――――――――!!』
『……――――。―――――!』
『『『『『―――』』』』』
宇宙生物共は俺を見つめながら夏場のビールよりもキンキンする声で会話を交わしている。
なんだろう『アタシ、心臓がいい♪』『んじゃ、俺は内臓な』『じゃあ、俺脳みそ~』『えー! また僕手足かよ~~!』みたいな宇宙生物トークが繰り広げられてるのだろうか。
その様子をボーっと眺めていると、話は終わったのか目の前に居た一体が俺に近づいてきた。
正直、俺の理性はもう崩壊寸前だった。
しかし、地球人代表としての意地もある。
せめて俺を討ち取った奴の顔を拝んでやろうと睨みつけていると、相手側も俺の眼を見つめ返しながらゆっくりと左手を伸ばしてきた。
しかし、俺の右腕に触れるか否かでその手を止めると、ジッと俺の眼を見つめたままで首を少し傾げて見せた。
なんとなくその態度が『触っていいか?』と問いかけてる風に見えた俺は、ぎこちなく首を上下に振った。
すると先程の遠慮のなさはどうしたのか、いきなりガシッと俺の右腕を掴んできたではないか!
「あっ、ちょっ! う、裏切ったな! 俺の気持ちを裏切ったなぁ!!」
『―――! ――』
このまま二○動に上げられているような、某有名洋ゲーに似た悲惨な死に方をするのかと覚悟を決めた瞬間だった。宇宙生物に掴まれていた右腕が、急に熱を帯びたかのように光り輝いて部屋一面を染め上げた。
しかし、痛みはおろか熱も感じない。
周りの奴等も目の前のコイツも、この異常事態に何の動揺もしていないのだ。
つまり、これは奴等が起こしている現象なのだろうか。
こいつ等の毅然とした態度を見ていると一人で焦っている俺が馬鹿みたいだ。
光がようやく収まり、宇宙生物が俺から離れて元の位置に戻っていく。
俺は冷や汗を拭いながら、まだ命がある事を神と俺の守護霊に感謝を捧げつつ小さく毒づいた。
「ふ、ふっ。お次は何だ?」
俺が好きなB級怪物映画の名台詞を吐き捨てると、今まで毅然としていた宇宙生物共に変化があった。
隣同士にいる奴と顔を見合わせ、何かを確信したかのように頷き合っている。
『どうやら、成功したようだ。これでようやく次の段階に進めるな』
突然の展開に、俺は絶句するしかなかった。
目の前の宇宙生物の言葉がキンキンせず、しかもその内容が理解できたからだ。
『それじゃ、始めよう』
そう言って此方を見つめる相手が、どことなく得意気に見えたのが気に入らなかった。