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 三日目:夜パート


 『旅人:マコト』は『負傷兵:オーヴェン』を占いました。

 『負傷兵:オーヴェン』は人狼でした。


 四日目:昼パート


 旅人:マコト

 小間使い:ナナ

 物乞い:トロイ

 青年:ハンニバル

×ならず者:メアリー

×酒浸り:サイモン

×老婆:コーデリア

 商人:ケヴィン

 盗賊:マスケラ

 負傷兵:オーヴェン

×楽天家:ジョン


 犠牲者はいませんでした。


 「『旅人:マコト』が占い結果を宣言する。『負傷兵:オーヴェン』は『クロ』人狼だった」

 「『商人:ケヴィン』が占い結果を宣言しますぞ。んん~。『物乞い:トロイ』は『クロ』。人狼以外ありえない」

 朝一番で口を開くのは当然『占い師』を宣言している俺達だ。占い結果を受けて、『クロ』を出されたオーヴェンとトロイとが口元に笑みを浮かべて、お互いの顔を見合わせた。

 「思っていたとおりだったようだね」こういったのはトロイ。

 「ええ。本当に」オーヴェンがそう言って微笑んだ。

 「ふーはははははっ!」

 マスケラが哄笑する。どういう訳か機嫌が良い。サングラスに手を当ててしなやかな筋肉を躍動させながら体をそらし、目一杯胸を張ってこういった。

 「今朝は犠牲者なし……。素晴らしいっ! なんと平和な朝だとは思わんかねっ!」

 「そうだね。『狩人』さんはグッジョブだよ。処刑できる回数が一回増えたね」

 ナナが言った。「そうなのか?」俺が尋ねる。返事をしたのはハンニバルだった。

 「ここで『狩人』が護衛成功を出し、村人の人数を減らさなかったことには大きな意味がある。人狼の襲撃が成功していれば今日の議論は六人で始まっていたが、死体なしが起こったことで七人が生存した。

 六人と七人とでは大きく意味が違う。六人では、六人から四人から二人でゲームが終了し、二回しか投票できる機会がない。対し、七人なら、七人から五人から三人から一人で、三回の処刑回数が確保できる訳だ」

 俺は「おお」と関心して声を出す。どうやら『狩人』の仕事は俺達にとって相当に有利なことらしい。

 「ちなみにいうと。処刑回数が増えたことは、マコトくんにとっては実は何の関係もないことだったりするよ。

 残りの処刑は三回あるけれど、マコトくんが処刑したいのは二人目で最後の『人狼』である『オーヴェン』くんただ一人なんだ。どっちかっていうと、この死体なしは指定役である『ハンニバル』くんに嬉しいことだろうね。取れる戦略の幅がぐっと広がるわけだから」

 トロイが言った。ため息をつき、口を挟んだのはオーヴェンだった。

 「一番助かるのはワタシですよ。ワタシ視点、マコトくんの偽がこれで完全に確定した。翻って本物の『占い師』は『ケヴィン』くんでしょう。そしてケヴィンくん視点、敵陣営は騙りの『マコト』くんに『人狼』の『トロイ』くん。そしておそらくはまだどこかに潜伏しているもう一人の合計三人。吊り数が三回になったことで、ようやっと勝ちの目が出てきたというところでしょうか」

 「まあ死体なしを喜ぶのはこれくらいにして。そろそろ『占い師』に訊いておかねばなるまい。君たちの占い理由を述べてくれ」

 ハンニバルに促され、俺は前に出た。

 「『オーヴェン』を占った理由は、そこが一番『人狼』である可能性が大きいと感じたからだ。

 俺視点ではもう既に『サイモン』で『人狼』が一人処刑できている。当然最後の一人を見つけたい。昨日トロイが説明してくれていたが、『オーヴェン』は『人狼』である『サイモン』と繋がっているような行動がよく目立つ位置だった。よってここがもっとも疑わしいと判断しての占い、ビンゴ。やっぱりトロイの考察は正しかったってことだ」

 「我の占い理由を発表しますぞ。『トロイ』を占った理由は、誘導の強い位置だったからなんですな。

 『トロイ』は初日の時点から雄弁で村をリード気味……前に出て発言していくプレイヤーという印象が強かったんですな。これだけなら頼もしいとはいえますが、翻って敵なら厄介というのも事実。発言から考察力の高さは伺えますがその割には見ている可能性は『オーヴェン』と『サイモン』ライン一点ロック。何がなんでもサイモンを疑わせて処刑させようという魂胆があまりにも鼻に突くんですな。我から見れば『サイモン』は本物の『霊能者』濃厚の位置で、ここに誘導する『トロイ』が疑わしく思えたんですぞ。総合的にロジックすれば、ここは『人狼』以外にありえない。結果は『クロ』、見つけたんですぞ」

 ケヴィンが俺に続いて説明する。ハンニバルはそれを受け止めて

 「どちらの占い理由にも違和感はないが、やはりケヴィンからは手馴れたものを感じるな。しかしこれで八割方ラインが出来上がったというべきだろう。

 マコト視点の人外内訳は人狼のオーヴェン:サイモン。狂人のケヴィン。

 ケヴィン視点だと、『占い師』騙りの『マコト』に、『人狼』の『トロイ』。そして『マスケラ』『ナナ』『オーヴェン』の中に最後の一匹が忍んでいるといったところか」

 「昨日も言ったけど。わたしはマコトくんを本物で見ているよ。だからって訳じゃないけれど、今日は『オーヴェン』くんを処刑して欲しいんだ。

 聞いて。今日『オーヴェン』くんを処刑すれば、マコトくん視点ですべての『人狼』がいなくなる。それでゲームが終了するはずなんだ。もし『オーヴェン』くんを処刑して試合が続くようなら、『マコト』くんは破綻。そこから二回の投票で『トロイ』くんともう一人の『人狼』を処刑すれば良いんじゃないかな?」

 ナナがそう言ってハンニバルを説得しようと動く。俺はそれに続いた。

 「ナナのいうとおりだ。今日『オーヴェン』を処刑してゲームが続くようなら、『トロイ』でも俺でも処刑してくれてかまわない。だから今日は『オーヴェン』を処刑してくれないか?」

 「ううん。君の言うことも分かるし、『オーヴェン』くん処刑には諸手を上げて賛成したいんだけどさ。ハンニバルくんがそれを受け入れるかどうかは難しいところだろうね」

 トロイが憮然とした表情をして言った。何故だ? 昨日もハンニバルは俺かサイモンのどっちかを切る判断で、俺を残してくれた。俺が本物ならそのまま勝利が手に入るし、偽でもまだ勝ちの目が残る。これ以上ないやり方のはず。俺を本物確定で見てくれていないにしても、問題ない戦法のはずだ。

 「君たちの言い分はよく分かるが間違っている。だがそれについて話す前に、まずオーヴェン。君に訊きたいことがあるんだが?」

 ハンニバルはそう言ってオーヴェンの方を見る。オーヴェンは両手を晒しながら

 「なんですか? そろそろあなたの独裁っぷりに文句の一つでもつけようかなと思っていたところではありますが、その前に質問には答えましょう」

 「昨日、俺様が『サイモン』を処刑先に選んだのは、まあ分かるとは思うが昨日の『トロイ』からの『サイモン』への追及を見てだ。無論、トロイの言い分すべてを信じた訳ではない。再投票でサイモンがオーヴェンを助けているように見える、なんていうのは、偶然そうなったとも言ってしまえるからな。

 故に決め手となったのは、トロイから追求を受けた際のサイモンの様子だ。奴は明らかに動揺していたし、怒鳴り散らして誤魔化そうとする態度も印象が悪かった。トロイに対する反論も非常に雑だといわざるをえないだろう。だから奴を切ったという訳だ。

 そこでオーヴェン。改めて、あの時のやり取りについて、君に聞きたいことがある。あの時、トロイからの『メアリーと同数で最多得票をもらった君は、あんなに疑っていたマコトからメアリーに投票先を変えることで処刑先逃れをした』という追求に対し、君は『吊り逃れをしたことについては後で説明をする』と返していた。つまり処刑先逃れ自体は認めていた訳だ。これは君がただの『村人』ではないことを匂わせていたと判断せざるを得ない。その答えを今このタイミングで聞かせてはもらえないか?」

 ハンニバルのオーヴェンへの追及を聞いて、トロイが中指を自分のこめかみに突きつけながら言った。

 「へえ? ここで出しちゃうんだ。まあ意図は分かるよ? なんのメリットもないけどね」

 「ははあ。なるほどなるほど。良いでしょうね。きっと対抗が出てくるでしょうが、そうだとしても最後に残った敵陣営がどこかはっきりします。ここできっちり宣言しておくとしましょうか」

 オーヴェンはそう言って首を振り、全員の注目が自分に集まるのを見計らった後、宣言した。

 「『負傷兵:オーヴェン』が『狩人』を宣言します。今日の護衛先は『ハンニバル』くん。あなたです」

 薄暗い水族館内が騒然となる。ハンニバルは鋭い声をオーヴェンに投げかけた。

 「どの日に誰を護衛した? 個室には紙とペンが置いてあったはずだ。君なら当然、護衛記録もつけているんだろう?」

 「ええ。つけていますよ。きっちりと……ね」

 そう言ってオーヴェンはポケットからメモの切れ端を取りだした。どうやら、夜パートごとの護衛先と護衛理由を記したものらしい。オーヴェンはそれを俺達に見せつけながら読みあげてみせる。

 「護衛日記です。

 一日護衛先:ありません。

 一日目の夜には護衛対象は選べませんからね。まあ重要な役割を負ったからには、責務ははたしてみせますよ?

 二日目護衛先:ケヴィン。

 『占い師』や『霊能者』などの役職者がいきなり襲撃されては村がおおいに不利です。ですが『霊能者』の『サイモン』は『占い師』を宣言している『マコト』くんの『クロ』。ここが襲撃されて死体になれば当然『マコト』くんが偽であることが確定します。サイモンくんを護衛する必要はないでしょう。となれば『占い師』から護衛先を選ぶべき。より本物の『占い師』の目が大きな『ケヴィン』くんを護衛しましょうか

 三日目護衛先:ハンニバル

 本物で見ていた『サイモン』くんが処刑されてしまった以上、なんとしても護衛成功で処刑回数を増やすことが必要になります。今、『ケヴィン』くんの対抗である『マコト』くんはハンニバルくんに本物で見られています。その状況を生かすなら人狼は『ケヴィン』くんを襲撃したりはしないでしょう。『ケヴィン』くんが死ねば当然『マコト』くんへの疑いは強まりますからね。よって『ケヴィン』くんへの護衛は不要。代わりにハンニバルくんを護衛先に選びます。確定シロですから狙われる公算は大きいでしょう」

 読み上げたオーヴェンに対し、ハンニバルは口端を吊り上げて

 「よく書けているな。本物だとしても偽者だとしても、君は手ごわい相手と言えるだろう」

 「これで分かってもらえましたか? ワタシが二日目の投票で吊り逃れをした理由が? 『狩人』でしたから処刑される訳にはいかなかったんですよ」

 その発言に、俺は反論した。

 「嘘をつけ。おまえは『人狼』だ。『狩人』なんかじゃない」

 「いいえ『狩人』です。ワタシの真を否定するならば、代わりの『狩人』をさっさと出してみなさい。死体なしが発生した以上は『狩人』の生存は明らかです。ワタシ以外にそれが出てこないのであればワタシが本物の『狩人』で確定し、ワタシに『クロ』を出したあなたの偽もまた確定です」

 そう言ったオーヴェンの静かな言葉に……覆いかぶさったのは、高らかな哄笑だった。

 「ふーははははははっ!」

 マスケラだった。執拗に何度もサングラスを持ち上げながら、もう片方の手を腰に当てて大きく胸を逸らしながら気持ちの良い声で笑っている。

 「ふーはははははっ! しょーじきこれまでの話はあまりにも難しくてまったくよく分からなかったが……しかしこれだけは我輩も理解したぞっ! そこのオーヴェンは偽『狩人』っ! 当然敵陣営っ! そしてそこに『クロ』を出しているマコト、貴様こそ本物の『占い師』なのだとなっ!」

 ひとしきり笑い終えた後マスケラは口元に不適な笑みを浮かべ、勝ち誇った表情で宣言した。

 「『盗賊:マスケラ』が『狩人』を宣言するぞっ! 昨夜我輩が人狼の牙から守りぬいたのは『ハンニバル』っ! 貴様だっ!」

 「俺視点の本物『狩人』おまえかよっ!」

 俺は思わず顔を青くした。クソ……なんて部が悪いんだっ!

 「護衛記録なら我輩も毎日したためているっ! 日記風になっ! 我輩のポエムも交えているぞっ!」

 「ポエムは良い。参考になるところだけ朗読しろ」

 ハンニバルが頭を抑えながら口にした。

 「怪盗マスケラの華麗なる狩人日記 副題:……流麗なる夜の守り手……。

  一日目護衛先:愛すべきかの者

  ふーははははっ! 我輩が『狩人』になってしまうとはなっ! 何をすれば良いのかまったく分からんぞっ! 電話口に注文して護衛先を言えばいいのかっ! 何? 初日は護衛できんだとっ! ふーはははははっ! いいだろう、主人公は遅れてやってくるものだっ! この怪盗マスケラの名にかけて、誰一人として死なせはせんっ!

 二日目護衛先:マコト

 ふーはははははっ! まったく話についていけなかったぞっ! しかも朝から犠牲者が出ているではないかっ! すまない……ジョン、我輩がいながら死なせてしまって……。だがもうこれ以上犠牲は出しはせん。今日の護衛は……正直誰を選べば良いのかよく分からんが、ここは『占い師』のどっちかを護衛しておけばいいのだな? いいのだな? いいんだよねっ! ふーははははっ! では指運でマコトを護衛することとしようっ! 頼りにするがいい、今宵は貴様を『人狼』の牙から救って見せようっ!

 三日目護衛先:ハンニバル

 ふーははははははっ! 昨夜は護衛に失敗してしまったっ! 『人狼』は『占い師』を噛んでくるんじゃないのか? まさか……我輩の考えが読まれていた? 小癪なっ! だがしかし今夜こそは間違えん。何故ならば『人狼』が襲うであろう人物が手に取るように分かるからだ。ハンニバルっ! 今日の貴様は格好良いっ! 村の中心にたって皆を代表して堂々と判断を下すその姿……まさに主人公っ! その主人公を守り抜く我輩はもっと格好良いスーパー主人公っ! 今宵はハンニバル護衛で決定だっ! ふーははははっ!」

 「マコトくん、あれが君視点での本物『狩人』なんだってさ。今どんな気持ちかな?」

 トロイが愉快そうに俺の方を見た。その表情は完全にあおりにきているそれだ。

 「やめろ……俺も今不安になっているところなんだ」

 「……別に不安がること、ないと思うよ? なんにせよ、これでマコトくん視点での本物『狩人』が出てきたんだしさ。これで村にもマコトくんはちゃんと破綻しなかったって分かるよ? 『オーヴェン』くんが偽狩人だと、主張できるようになったじゃない!」

 ナナが勇気付けるようにそう言った。いや、でもなぁ。あれはちょっとなぁ。

 「んんんん~。しかしこれで我視点での最後の『人狼』位置も見えてきましたぞ? 『狩人』が二人宣言した以上どちらかは偽。我は対抗の『マコト』を狂人特攻でみていますから、ラストウルフ(最後の人狼)はこの二人のどちらか以外ありえない」

 ケヴィンがそう言ってマスケラとオーヴェンを指差した。ハンニバルは腕を組んで

 「そういうことだ。これでより安全に明日の最終日を迎えられる。

 当然ケヴィンはこの二人のどちらかを占うだろう。それで『クロ』が出れば当然ケヴィン視点だとそこを処刑するしかなくなるし、『シロ』なら高い確率で残った一人が『人狼』だ」

 「もちろん、仮にどちらかを占ってシロでもそこが『狂人』でもう片方が『本物』という可能性も残るには残るんですな。ですが我は『マコト』を二日目の行動と態度から『狂人』で見るので、『狩人』宣言者に『人狼』交じりは間違いないと見ますぞ」

 ケヴィンはそう言って「んんん~」と表情をゆがめる。俺はそこであることに気づいて言った。

 「なるほど。ハンニバル、おまえがオーヴェンに『狩人』かどうかを聞いたのは、このためだったんだな?

 俺ではなく『ケヴィン』が本物の『占い師』だとして、まだ『人狼』が『トロイ』のほかにもう一人グレーにいるとしたら、その位置は『ケヴィン』にとってまだ特定できない状況だ。『ケヴィン』が占った中で生きているのは『ハンニバル』と『トロイ』だけだから、残る『ナナ』『オーヴェン』『マスケラ』の三人から特定しなければならない。

 しかし『オーヴェン』に『狩人』の宣言を促したことで状況は変わった。『マスケラ』が対抗狩人カミングアウトをしたことで、そのどちらかが本物でどちらかが『人狼』であることが明らかになった訳だ。占える回数が一回しか残されていない状況で、三択と二択はまるで意味が違う」

 「そのとおりだ。もしも『オーヴェン』一人しか『狩人』宣言しなければそこが本物で確定し、『マコト』が本物である可能性を切れる。そうでなくとも君の言うとおり、三択を二択に減らす、グレーから一人確定シロを作るメリットがあるという訳だ」

 ハンニバルは答える。それを受けて、ナナが「あ」と首を傾げて

 「そうだね。この状況って、わたしが『村人』だと確定しちゃってるんだ。

 だって『マコト』くん視点の敵陣営は『ケヴィン』『サイモン』『オーヴェン』の三人。

 『ケヴィン』くん視点なら、『マコト』『トロイ』そして『オーヴェン』か『マスケラ』のどっちか……ってことだもん。どっちにもわたしは含まれていないもんね」

 なるほど。俺は思った。ナナはこれでハンニバルと同じ立場になった。それと同時に、『ハンニバル』が狂人という可能性も消えたという訳だ。

 トロイがにやにや笑いながら

 「もちろんそれでメリットがあるのは村陣営だけ。だからオーヴェンくんが『狩人』に出る意味はまったくないんだけど、彼は一回『処刑先逃れ』をしてしまっているからね。まさか出ない訳にもいかなかった。そういうことなんでしょう?」

 小ばかにしたような表情でオーヴェンを見詰める。オーヴェンは余裕そうに鼻を鳴らして

 「本物の狩人だから出た、それだけですよ?」

 と涼しい顔で受け流す。ハンニバルがそのやり取りを眺めてから

 「さて。これで進行は決まったな。もう時間もない。今日の処刑先の指示を出す。

 今日の投票先、それは『トロイ』だ。異論はないな」

 その決定を経て……俺は眉を潜めた。トロイは憮然とした顔で

 「うーん。まあ、結局そうなるだろうね。ハンニバルくんは優秀な指定役だから、今日は僕以外に選ぶ場所がないと思っていた」

 「……今日は『オーヴェン』処刑だ。それでゲームが終わるっ! 終わらなかったらそこで俺が本物である可能性を切ってくれれば良いっ!」

 俺がそう言って反論すると……ナナが少しだけ浮かない顔をしてそれを制した。

 「ごめんねマコトくん。気づいちゃったんだけど、その進行には欠陥があるみたいなんだ。

 えっとね。今までの話だと、『ケヴィン』くん視点での敵陣営は『マコト』『トロイ』『狩人のどちらか』。その状態で『オーヴェン』くんを処刑して、そこがもし本物の『狩人』だとしたら、明日の時点で敵陣営が三人残っちゃうんだ。明日の昼の時点での人数は五人だから、『人狼』二人と『狂人』一人で一箇所に票を集めるパワープレイができちゃうんだよ」

 そう言われ……俺ははっとした。なるほど、中立のハンニバルからすると、そういう展開も危険視しなければならない訳だ。

 「今のはマコトくんの偽要素ですね。そんなに本物『狩人』のワタシを処刑して翌日パワープレイに持ち込みたいのでしょうか? 意図が透けて見えています」

 オーヴェンに指摘され、俺は唇をかむしかない。トロイは薄く微笑んでみせて

 「まあ。マコトくんは人狼ゲームの経験も浅いし、それくらいの失言は仕方がないよ。後で取り戻せばいい。とにかく今日の一番の安全策は、『ケヴィン』くん視点での『人狼』である僕を処刑してもらうってことだ」

 「そういうことだ」

 ハンニバルはうなずいて

 「『マコト』視点では既に『サイモン』で『人狼』が一人処刑されている。明日パワープレイが発生する可能性はない。それゆえ今日の処刑先は『ケヴィン』の『クロ』であるトロイという訳だ」

 トロイは肩をすくめて

 「心得ているよ。マコトくん、見せ場は君に譲ろう。まあ人狼はせいぜい寿命を延ばすといいさ」

 「お疲れ様でした。さっさと霊界に消えてください。ワタシはそこには行かないので、もう二度と会うことはないでしょう」

 オーヴェンが嘲るような笑みでトロイに言った。トロイはその目に悪意のようなものを渦巻かせてへらへらと笑う。

 「先に地獄で待ってるよ。きっと君が堕ちて来るのを、楽しみに待ってる」

 そう言ったトロイの表情が……一つ前のゲームでリザードを騙した時の顔にリンクして、俺は怖気を奮ったような気持ちになった。


 四日目:投票結果


 0『旅人:マコト』→『物乞い:トロイ』

 0『小間使い:ナナ』→『物乞い:トロイ』

 6『物乞い:トロイ』→『負傷兵:オーヴェン』

 0『青年:ハンニバル』→『物乞い:トロイ』

 0『商人:ケヴィン』→『物乞い:トロイ』

 0『盗賊:マスケラ』→『物乞い:トロイ』

 1『負傷兵:オーヴェン』→『物乞い:トロイ』


 『物乞い』トロイは村民会議の結果処刑されました。

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