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 二日目:夜


 俺は机に向き合いながら、現在の状況と今夜の占い先について考えていた。


 占い師 

 マコト →サイモン●

 ケヴィン→ハンニバル○

 霊能者

 サイモン

 処刑 メアリー

 襲撃 ジョン(初日犠牲者)


 今現在こういう状況だ。グレーが極めて広く、確実に味方と言える存在が一人もいない状況。村人視点だと、あらゆる可能性が考えられるだろう。

 もっともわかりやすいのは、俺が偽者で、ケヴィンとサイモンが本物というパターン。俺の正体は狂人か人狼ということになるが、俺自身は本物の占い師であることを知っている為、それは否定される。

 実際の内訳は、『占い師』:『霊能者』で、『本物と狂人』:『人狼』というのがもっとも濃厚であるといえる。無論、ただの村人からすれば俺が偽者で他が本物であるパターン、霊能者のみ本物で占い師が二人とも偽者のパターンなど、さまざまな騙りが考慮されうる。

 ……さて。そうした中、俺が占い対象に選ぶべきなのは誰だろう?

 ケヴィンはない。ここはおおよそ『狂人』であたりが着いている。ならばグレーから『人狼』を探すのがもっとも手ごろなはずだ。

 しかしひっかかるのはハンニバルの『俺を占え』発言だ。何の意図があってあんな発言をしたのだろう。

 ハンニバルはケヴィンのシロだ。ここを俺が占ってもしシロが出れば、当然ハンニバルは村人にとっての非人狼が濃厚になる。俺は『ケヴィン』を『狂人』で見ているから、尚更ここは村陣営ということになるだろう。

 「……確定シロ作り、ということか?」

 確かにグレーを闇雲に占うよりは有意義……と言えるだろうか? ハンニバルは発言数的には中庸から多弁といったところ。発言内容にも怪しいところはなく、考察力も高そうに見える。

 しかし対抗のシロを占うのは無難とは言えないし、それを差し引いてもハンニバルのほかに占いところはあるが。だがこの状況では……。

 「……お望みどおり、ハンニバルでいくか」

 電話口に向かい、ハンニバルを注文する。帰ってきた答えは『人狼ではない』つまり『シロ』。

 「これで一人、信頼できる奴ができたってことだな」

 そこでいったん考察を取りやめ、俺は机に突っ伏した。

 二十五分間の議論はなかなかハードなのだ。


 三日目:昼パート


 旅人:マコト

 小間使い:ナナ

 物乞い:トロイ

 青年:ハンニバル

×ならず者:メアリー

 酒浸り:サイモン

 老婆:コーデリア

 商人:ケヴィン

 盗賊:マスケラ

 負傷兵:オーヴェン

×楽天家:ジョン


 老婆:コーデリアは無残な姿で発見された。 残り8人


 「占い結果を宣言する。『ハンニバル』は『シロ』だ」

 「占い結果を宣言しますぞ。『コーデリア』殿は『シロ』ですな」

 俺とケヴィンは朝が来る途端に村に自分の占い結果を宣言した。もっとも、ケヴィンの場合は偽の占い師なので、でっちあげた結果ということになるが。

 「霊能結果を宣言する。『メアリー』は『シロ』。『人狼』ではなかった」

 それにサイモンも続く。ハンニバルは神経質そうな顔でその結果を受け止めた。

 「ふん。まああのアホ女はどうせ『村人』だろうと思っていたところだ。その結果に違和感はないな」

 「ふーはははははっ!」

 マスケラが哄笑する。そして「とうっ」と高く跳躍すると、ハンニバルの目の前に降り立って指先を突きつける。

 「それはおかしいなハンニバルよっ! 貴様は昨日、確かにメアリー嬢に票を投じていたはずだ。何故村で見ているところに投票したのだ?」

 「おい誰かこのバカに説明してやれ」

 ハンニバルが面倒くさそうにいうと、トロイがへらへら笑いながら前に出てきた。

 「簡単なことだよ。別に昨日は無理に敵陣営を処刑するような日じゃない。ただでさえこの村には吊り数が余っているんだ。序盤にお手つきすることは大きな問題じゃない。

 メアリーさんははっきり言って村にとって戦力になる人物とはいいがたい。発言がフリーダムで村に情報を落とさないし、ゲーム進行についての意見もずれている。意識して生き残ろうともしていないから、少なくとも『狩人』はない位置だ。後半に残ってしまうと村にとっての不安要素になる可能性が大きいから、余裕のある今のうちに処分した。そういうことじゃないのかな?」

 「ふむふむ。……なるほどなるほど。良く分からんが理解したっ!」

 「……クソ。どうしてもう一回吊り余裕がないんだっ! こんなのを残して議論を進めろとでもいうのか?」

 ハンニバルは忌々しいとばかりに言った。

 「まあいいだろう。とにかく今は、この二人の『占い師』の真偽をつけることだ。君たち、占い理由を述べるがいい」

 不遜に言い放つハンニバルに、俺は先行してケヴィンよりも早く理由を伝える。

 「俺がハンニバルを占った理由は、村にとっての確定シロを作る為だ。

 ハンニバル自身がそれを望んでいたというのもあったし、悪戯にグレーを占うよりは有意義だと感じたんだ。一人信頼できる味方ができるのは、村人にとっても頼もしいことだろう? ハンニバルは状況が見えていて多弁な部類に入る位置だし、ここが村確定すればきっと大きな戦力になる。

 もし万が一ハンニバルが『人狼』だったとしても、そのときは俺にとって二人いる『人狼』の位置が共に明らかになるわけで。もちろんそれも悪くなかったって訳だ」

 俺が言い終えるなり、ケヴィンが「んんんん~」としまりのない笑みを浮かべてから

 「昨日の占い場所はコーデリア嬢ですぞ。総合的にロジックすれば、ここを占う以外にありえませんな。

 昨日の議論の時点で活発に意見を出していたグレーは、『オーヴェン』『トロイ』『コーデリア』おそらくこのあたり以外ありえない。この内『トロイ』が『オーヴェン』に黒塗り……人狼でないかという疑いを向けていたんですな。そしてその『オーヴェン』は強く『マコト』の偽を疑っていました。対抗の偽を疑うのは我としてはありがたいことですが、重要なのはそうやってしっかりと自分の意見を出していたことなんですぞ。

 『コーデリア』は発言こそ多く状況もきちんと把握しているように見えますが、反面、彼女が誰を疑い誰と対立していたのかと問われれば、印象に残るシーンがないんですな。喋れるのに敵を作らないようにするその動きが潜伏人狼臭く見たので占い、結果シロ。その上噛まれてしまったんですな」

 「占い理由だけを見れば、流石にケヴィンの方が経験者だけあってしっかりしているように見えるな」

 ハンニバルは言った。俺はその発言に眉を潜める。

 「あんたが自分を占えって言うから占ったんだろ? あんたのいう意図だって、俺はきちんと汲んだはずだ」

 「ああ。確定シロ作り。まあ六十点の回答だったといってやる。俺様が通っていた進学校では赤点は七十点だったがな」

 ハンニバルがそう言って薄く微笑む。ナナが興味を覚えたように

 「それって……高校のこと?」

 「中学からだ。中高一貫だった。去年卒業したがな」

 「そっか。じゃあ。わたしより年上なんだね」

 ナナがそういうと、トロイが微笑みを浮かべながら

 「僕より一つ上ってことになるのかな? まあそれは良いとして……コーデリアさんが噛まれたって言うのは、僕としてはすごく気になるところだね。『占い師』でも『霊能者』でもなくそこが噛まれた……『狩人』でも探していたのかな? どうなんだろうねオーヴェンくん」

 名指しで尋ねられ、オーヴェンはいぶかしげな顔をしつつも、軽く嘆息してから話始める。

 「いやまったく疑問ですねぇ。まったく嘆かわしいものですよ。本当に人狼はラノベというものを分かって噛んでいるんでしょうかね?」

 「……? どういうこと?」

 ナナが首をかしげて尋ねた。オーヴェンは顔を赤くして、こぶしを握り締めて本気で憤慨した様子で

 「女の子が二人もいなくなってしまったではないですかっ! ただでさえこの村には男七人に対し女の子が三人しかいないというのに……。ふつうは逆の人数比が妥当のはずではないのですかっ! これではワタシはもうそちらの片腕のお嬢さんにすべての期待を注ぐしかなくなるではないですか……」

 「おい……オーヴェン? どうしたんだ?」

 俺が恐る恐る尋ねると、オーヴェンは嘆息した。心底がっかりした様子だった。……こいつ、こんな奴だったのか……。

 「あはは。確かにそうだね。女の子一人になっちゃった。どうする? わたしを処刑してもらって、女の子ローラーを完遂させちゃおっか?」

 ナナがおかしそうにいう。オーヴェンは「なりませんっ。なりませんぞっ!」とこぶしを握り締めた。

 「なーんか。はぐらかされちゃったかな。……まあいいや。それでハンニバルくん、だいたい決まってると思うけど、今日はどうするの? 方針を言ってもらえないかな?」

 トロイが尋ねると、サイモンが「は?」とトロイの方を睨みつけるようにする。

 「どうしてそいつに訊くんだよ? 何の権利があるっつーんだよ? ふざけてんのか?」

 「おまえはマコトが俺を占った理由を分かっていないようだな」

 ハンニバルがあきれたように口にする。サイモンがそれに反論した。

 「は? そこの偽占い師がおまえを占った理由くらい分かるって。確定シロ作り……おまえを『村人』で確定させて、進行役、まとめ役にしようって腹だろう?

 けどな。オレにとっちゃそこの偽占い師はもちろん、ケヴィンだって本物だと確定した訳じゃない。『占い師』が欠けているという可能性だって追っている。そうでなくとも、確定シロになりたがったおまえが『狂人』でない保障がどこにあるんだ? 従う道理なんて一つもないんだが?」

 「そう思うなら、従ってくれなくてかまわん。君の言うことも道理だ。だが今日はまとめ役が必要な日で、それをできるとしたら俺様以外にありえないということは、村の皆に理解してもらわねばならない」

 「……今日は。ラインの切れている『マコト』くんと『サイモン』くん。どちらかを切っていく日になるんだよね?」

 ナナが言った。トロイが「おそらくね」とうなずく。

 「ハンニバルくんもきっとそういう結論を出すんじゃないかな? 昨日のメアリーさん吊りで敵陣営が処刑できたとは思わない方がいいからね。敵陣営は今のところ三人存在していると考えた方がいい。

 そして。今日残っている八人から毎日一人処刑され、一人襲撃されると考えると……八人から六人から四人から二人、ここで終了。今『から』って言った回数が処刑を行える回数だね。処刑のチャンスは三回で敵も三人。余裕がないから、今日は確実に敵陣営を処刑しなければならない日だ」

 「だから今日の内に、どちらかは偽者だと言える俺かサイモン、ここから片方を選んで処刑するって訳なんだな」

 俺はそう言って理解を示す。ハンニバルは「そうだ」と鋭い目をこちらに向けた。

 「別にそれは『マコト』と『ケヴィン』から選んでもいいんだが、そこはどちらかというと『本物』と『狂人』のペアで見ているからな。まあどちらかと言えば『マコト』と『サイモン』で決めうちたい場面だ」

 「……ふむ。つまり今日は、我輩たちは『マコト』か『サイモン』、どちらかを選んでより怪しいと思う方に投票すればよいのだな?」

 マスケラがサングラスに指を押し当て、体を大きく前のめりにさせながら言った。引き締まった体の筋肉の躍動が服の上からでもよく分かる。見ていて気持ちの良いものでは、決してなかったが。

 「それでいいでしょう」

 そう言ったのはオーヴェンだった。

 「そうですねぇ……。だったらワタシは昨日から言っているように、『マコト』くんの方を偽で見ているのでそちらに投票しましょうか。『狂人』が吊れると見ています」

 サイモンは首を振って

 「オレはいうまでもねぇな」

 と取り澄ますだけだった。

 「んんん~。対抗に投票する以外ありえない」

 ケヴィンも続いて意思を表明する。この決め打ちは俺に不利かも知れない。……そう思い、俺はナナの方を見た。

 「ナナ……おまえはどっちに投票するんだ?」

 「わたし……。わたしはね……うーん?」

 ナナはしばし考え込むように首をかしげて、それから思いつめたように目を伏せた。

 「おい……まだ決まっていないのか」

 「……ごめんね。信じてあげたいけれど、どうしても材料がないの」

 こいつはこいつで、しっかりと自分で考えて戦っている。このゲームを乗り越えて、その先にある生を掴むために。

 だったら、俺のすることはなんだ?

 決まってる……自分が本物であると証明することだ。迷っているこいつに、俺のことを信用させてやることだけだ。本物の占い師である俺にしてやれることは、それくらいだろう。

 「ナナっ!」

 俺はそう言ってナナに詰め寄り、その手を掴んだ。

 「わ」

 驚いたように、ナナはこちらを見上げた。その戸惑った表情に、俺はかまわず強くこういってやる。

 「俺を信じてくれ。俺が本物だ。俺は本物の占い師なんだ。サイモンに投票してくれれば、おまえは生きてこのゲームを乗り越えることができる。一緒にこのゲームを乗り越えられるんだ……だから俺を」

 ナナはじっとこちらの目を見ている。じっと、子供みたいなまん丸な目で。俺はしっかりとそれを見返した。そして訴えた。

 「嘘をついている人間の目に見えるか?」

 「ううん」

 ナナはそう言って微笑んだ。

 「なんとなく分かったよ。マコトくんが必死なのは」

 「盛り上がっているところ、悪いが」

 ハンニバルは息を吐き出して言った。

 「マコト。おまえは本当に俺様を占うメリットを理解していた訳ではないようだな。おまえらの思っている投票の仕方を、今日は行わない。もっと実利的で確実な方法を選択する」

 冷静な表情で見すくめられ、俺はなんとなく自分のしていることが恥ずかしくなった。女の子の手を握って、顔を見詰めて……。つい顔が赤くなり、ぎこちなくその場を離れてしまう。それから咳払いをして、取り澄ました顔でハンニバルに向き直った。

 「どういうことだ? 今日は俺かサイモンで決め打つんだろう?」

 「決め打つ。それ以外にない」

 「だったらどちらかに投票して……」

 「いいや。投票なんぞで決めたりはしない。それだと人狼陣営があまりにも有利だろう?

 いいか? 奴らは確実に三票持っている。おそらく『人狼』と『狂人』は自分の味方が誰なのかお互いに検討がついているだろう。だから、投票で切る方を選択などしたら、票を一箇所村陣営の方に固められるだろうことは明白だ。これでは人狼陣営が大幅に有利となってしまう」 

 「あ……」

 いわれてみればそのとおりだ。

 「組織票が怖い、ってことだね?」

 さっきまで俺に手を握られていたナナが言った。俺とは違って、随分と冷静な表情をしている。俺は尚更恥ずかしくなった。

 「そのとおりだね。僕らは今八人残っている。マコトくんとサイモンくんは何があってもお互いにしか投票しないから、残る六票がどう動くかが重要だ。そのうち、残ってる二人の人狼陣営は、本物に確実に二票を投じてくるよね? この状況からぼくたちが勝とうと思ったら、残る四票を一箇所に固めなくちゃいけないんだよ」

 トロイがそう説明した。

 「そんな……じゃあどうするんだ?」

 俺がそういうと、ハンニバルがあきれた様子でこちらを見た。

 「決まっている。そのために確定シロの俺様がいるんだ」

 自信ありげに胸をそらしたその様子は、まさに不遜と呼んでよいものだった。確実に村を勝利に導けると思っている、そんな力強さがありありと溢れている。

 「いいか。投票などいらない。多数決などとらない。ただ一人、俺様が、俺様のみがどちらを切るかを判断して決定を出す。おまえらはただそれにしたがって投票すればいい。当然俺様の指定に従わなかったものは敵陣営とみなす」

 「ふーははははっ! この我輩に、貴様に従えと?」

 マスケラがそう言って哄笑した。

 「いいだろうっ! ハンニバル、貴様の手腕、とくと見させてもらうっ! 楽しみにしておいてやろうっ!」

 「ふん……まあそういうことだ。あと十五分少々ある、何か意見があったら言うことだ。まともなのがあったら参考にしてやらんでもない。残り五分で仮決定、三分で本決定を出そう。」

 「……独裁体制ですか。嘆かわしいことです」

 オーヴェンがそう言ってため息をついた。

 「ワタシの出す意見は変わりませんよ。いいですか、『マコト』くん視点、『霊能者』は初日で欠けているのです。彼の主張はいきなりレアケースから始まっており、不利なスタートだというのに、彼の本物アピールといえばせいぜいが女の子の手を握って感情に訴えた程度。とてもではないが本物では見られないと思うのですが」

 「それについては何もいわないでくれよ」

 俺は力なく言った。ナナは俺の方を見て言った。

 「ううん。あれで、なんとなく伝わったよ? マコトくんの本気は。論理的ではないけれど、十分なアピールになっていたんじゃないかな?」

 「それが感情に訴えただけだといっているのです。……占い先も人から言われたのに従ったのみ、しかもその意味を半分程度しか理解していなかったようではないですか?」

 オーヴェンはそう言って首を振る。それに対してナナは

 「だけど。マコトくんが偽者だったら、わざわざハンニバルくんをシロで確定しない……と思うよ? だってハンニバルくんの占い先誘導に従わなかったら、今日みたいに指定役が決め打つ進行は取れなかったでしょ。そうしたらさっきトロイくんが説明したみたいに、人狼陣営は組織票によって大きく有利に立てていた。そうでしょう?」

 「思いつかなかっただけということも考えられるでしょう? ハンニバルくんがまとめ役を引き受けるだけでなく、投票先まで自分に合わせろといってくるなんて、想像がつくものでしょうか? 実際、彼はハンニバルくんが宣言するまで個人が投票する進行に納得していたではないですか」

 「それは」

 ナナはしばらく首をかしげていて、それから「うん」と小さくうなずいた。

 「そのとおりだね」

 とあっけなく返事をした。

 俺はその場で転びそうになった。

 「ごめんねマコトくん。言い負かされちゃったみたい」

 そう言ってナナは悪びれた様子もなく俺の方を見た。正直もう少しがんばって欲しいところではあったが、ハンニバルの意図を理解できていなかったのは事実なので、文句は言えない。

 「いや。ありがとう。それより、本当に俺を本物で見てくれてるんだな。嬉しいよ」

 「本当に、ただの直観なんだけどね」

 ナナはそう言って微笑んだ。

 オーヴェンが不服そうに

 「女の子の直観とかフィーリングみたいなものは、どういい負かしたところで変えられませんねぇ。しかし今回決め打ってもらうのは、そちらのとても賢そうなハンニバルくんだ。今のでワタシの意見がナナさんより正しいことは、よく伝わったものだと思うのですが」

 ハンニバルは考え込むように

 「主張の内容は理解した。納得すべきかどうかは、じっくり考える」

 「おや。まだ足りませんか?」

 「君の意見の基盤は『霊能者』欠けはレアケース、という確率論だからな。確率はあくまで確率だ」

 ハンニバルは言った。すると……話が途切れるのを待ち構えていたように、ゆっくりと手が挙がった。まるで学校のホームルームのように気安く。

 「ちょっといいかな?」

 トロイが強襲した。俺は思わず息を呑んだ。

 ハンニバルもトロイの能力には察するところがあるらしい。興味深そうに「なんだ?」と応じる。トロイは苦笑いを浮かべながら「いや。たいしたことじゃないんだけどさ」と前置きをした上で

 「ちょっと。昨日の投票先を思い出して欲しいんだ。誰もそのことに意見を出さないものだからさ。そろそろ僕から話そうかなって」

 「昨日の投票先だと?」

 ハンニバルはいぶかしげな表情を浮かべる。トロイは少しだけ不適な表情を浮かべて 

 「そう……今からちょっと暗証してみるから、注意して聞いてみてね。

 昨日は同数票があったから、二回の投票が行われた。一回目の投票から話そうか。

 まずマコトくんに二票。サイモンくんに投票。

 ナナさんに零票。メアリーさんに投票

 僕が零票でオーヴェンさん投票

 ハンニバルくんも零票でメアリーさんに投票したね?

 メアリーさんは三票。ケヴィンさんに投票していた。

 サイモンくんは一票もらっていて、投票はオーヴェンくん。

 コーデリアさんは零票でオーヴェンくんだ。

 ケヴィンくんは一票もらっていて、対抗のマコトくんに投票。

 マスケラさんは零票。ちょっと以外かもね。投票先はメアリーさん。

 最後に。オーヴェンくんは三票もらいで、昼間の主張どおりマコトくんに票を入れている。これでメアリーさんとオーヴェンくんで、同数票が発生したんだ。ここまでは覚えているかな?」

 ……覚えている、訳がない。こんなのを簡単に暗唱できるほうがおかしいのだ。それはもちろん投票は大事な要素だし、それゆえに夜時間の内に電話機に尋ねればいつだって教えてくれる。紙にメモをしておくという方法もある。だがしかし、当たり前のようにそれを暗記しているこいつの記憶力は、確かに感服に値した。

 「……俺様の記憶ともだいたい合致している。確かそんな感じだったはずだ」

 ハンニバルが言った。トロイが応じる。

 「こんな感じ、じゃなくて、このとおりだったんだよ。まああとで確認しておいてよ。僕は記憶力には自信があるからさ。

 それで二回目の投票なんだけど……だるいから変更があったところだけ言うよ? これが重要だからよく聞いてね。

 まず、サイモンくんは投票をオーヴェンくんからメアリーさんに。

 オーヴェンくんは、投票をマコトくんからメアリーさんに変えた。そして結果として処刑されたのはメアリーさんだったんだ」

 「それがどうかしたのか?」

 鬱陶しそうにサイモンくんが応じる。トロイは子供のようにむっとした表情を浮かべてから、これまたすねた子供のような顔で

 「どうかするよ。いいかい、一回目の投票の時点で、オーヴェンくんは三票もらっていたんだ。メアリーさんと同じ三票を。ここからオーヴェンくんはあんなに偽者と疑っていたマコトくんを諦めて、メアリーさんに投票を変えている。これってどう見ても処刑先逃れだよね?

 オーヴェンくんくらい喋れる人なら分かると思うんだけれど、昨日は別に誰が処刑されても良い日だった。無理に敵陣営を処刑しなくても、問題ない、余裕のある日だったんだ。君が『占い師』や『狩人』であるならともかく、ただの『村人』ならこんな吊り逃れをする必要はないよね? ひょっとしてさ、君は『人狼』で、仲間の為に処刑される訳にはいかなかったんじゃないかな?」

 「……ですから。あなたの意見はうがちすぎなんです」

 オーヴェンくんは唇を噛んでから

 「そんなにワタシに黒塗りをしたいのですか? 別に良いでしょう? もう少しだけ、素敵なあなた方と一緒にいたかった、そう思っただけですよ? 処刑先逃れをした理由は、後で説明します」

 「ふうん。それは楽しみだね。理由はあとで必ず教えてね。僕らのことを素敵だって言ってくれたのは嬉しいな」

 「それに。あなたの意見はワタシが吊り逃れをしたことに対してだけで、別に『サイモン』くんが偽である理由にはなっていない」

 「あれ? 僕って今サイモンくんが偽だなんて主張していたかな? そんなこと一言も言っていないよね? まあこれからいうんだけどね。

 ここからが本題だ。まず、この吊り逃れから、僕はオーヴェンくんが処刑されたら困る役職ではないかと疑っている。その中で、処刑をされたら困るオーヴェンくんを、処刑から助けてくれた人がいるんだ。

 それはサイモンくん、君なんだよ。君は最初、オーヴェンくんに投票していたね? そこから同数で最多得票のメアリーさんに投票先を変えた。これは明確に、処刑する相手をオーヴェンくんからメアリーさんに変えるための投票だったと言えるんじゃないのかな?」

 「オレとオーヴェンが『人狼』で、オレが投票でオーヴェンを助けたといいたいのか?」

 サイモンが険しい顔で言う。

 「そうだね。少なくとも、その二人はラインで繋がっているように見える。今回のゲームでお互いの正体を知って協力し合えるのは、同じ『人狼』同士だけ。サイモンくんとオーヴェンくんのラインを見るのであれば、君の言うとおり、それは『人狼』同士以外にありえないんだ」

 「だったら最初にオレがオーヴェンに投票していたことはどう説明する?」

 「あざとく身内投票してライン切りを狙ったんでしょ? 昨日の時点で、僕はオーヴェンくんが、『狂人』のケヴィンくんを『占い師』で宣言させて、サイモンくんをアシストしたんじゃないかと疑っていた。だから、それを払拭する為に投票でのライン切りを考えたんじゃないかな? でもいざ投票してみれば意外にもオーヴェンくんに三票入って、焦った君はメアリーさんに票変えをした。僕はそう思っているんだけど」

 「言いがかりだ」

 「そういうんならメアリーさんに投票を変えた理由を聞かせてよ」

 「引き分けがだるいからに決まってるだろ? おまえも言うように昨日は誰が吊れてもたいして関係がない日だ。だから三票入ってて使い物にならなさそうなメアリーに投票した。それだけだ」

 「雑な理由だけどよく分かったよ。じゃあ最初にオーヴェンくんに投票したのは? ライン切り以外で答えられるかな?」

 「これ答えなきゃいけないのか? 面倒くせねぇな。オーヴェンが胡散臭かったからだよ。そこそこ喋れるしオレのこと本物で見ているみたいだったけど、なんだか歯にものが挟まったみたいで中身がよく分からなかったんだ。面倒くせぇからとっとと吊っちまおうと思っていたんだよ。これで満足か?」 

 そう釈明するサイモンを、トロイは無視するようにして

 「あともう一つ。投票先から僕の推理を裏付ける要素がもう一つあるんだ。

 この人狼ゲームにおいて、襲撃された人間の意見が正しいことを言っていたということは、極めてよくあるよね? 意見噛みっていうか、正しいことを主張している、考えているところを襲撃するというのはまったくありうる。

 今朝襲撃されて死体になっていたコーデリアさん。ほらあの変わった喋り方のかわいい女の子、あの子ね。実はオーヴェンくんに投票していたんだ」

 そういうトロイに、サイモンは憤慨したようにして

 「てめ……訊いといてシカトこぎやがるのか、こらっ!」

 「ああごめんごめん。どんな言い訳を考えるのかと思ったけど、あんまりたいしたことなかったから、途中で聞くのやめちゃってさ。まあ許してよ」

 とりなすように口にするトロイに、サイモンはもうほとんど掴みかからんばかりだった。鼻息を荒くするサイモンに、トロイは両手を挙げて見せる。

 「無視したことは謝るからさ? 暴力はやめて欲しいな。僕は喧嘩は弱いし好きじゃないんだ。殴られるのなんて、一番嫌いなことの一つかもしれない」

 「オーヴェンが『人狼』だとする。だったら何故、あれだけ長ったらしく『オーヴェン』を『人狼』だとする台詞を垂れ流していたおまえでなく、投票しただけのコーデリアを襲撃したんだ?」

 「僕を襲うのはあざとすぎると考えたんじゃないかな? 実はこれは僕にも断言できないんだ。僕じゃなく、コーデリアさんの発言の中に、何か重要なものがあったのか。それとも、僕よりもコーデリアさんを『狩人』目で見ていたのか……」

 「はん。結局、答えられないんじゃねぇのかよ?」

 「そうなるね」

 そこで再び一発触発の雰囲気が流れる。飄々と微笑んでいるトロイと、殺気立っているサイモン。「やめろっ!」声を張り上げたのは、ハンニバルだった。

 「ここでの暴力は禁止されている。『初日』がやってきて無駄に時間を消費させられたくない。……といってももう、議論に使える時間もなくなったようだが」

 見れば、時計はもう『5:29』をさしている。ハンニバルが仮決定を出すと言った時間まで、三十秒ない。

 「オレが本物の『霊能者』だ。気が狂っても指定すんなよ?」

 サイモンが言う。

 「そいつは偽者だ。『占い師』は俺だ」

 俺もここぞとばかりに主張した。対抗の『ケヴィン』が「んんんん~」と笑いながら

 「ここは『マコト』吊り以外ありえませんぞ。総合的にロジックすれば、彼が偽者であることは確定的に明らかなのですな」

 下を向き、目を閉じ額に指を添え、ハンニバルはしばらく沈思黙考する。……一分たっぷり考えこんでから、残り四分も切ろうというときについに決断した。

 「決めた」

 皆の視線がハンニバルに集中する。

 「今日はサイモンを切る。『霊能者』は初日と判断してそこを処刑するぞ。君たちはここに票を合わせるんだ」

 やったっ! 俺は心の中で喝采を叫んだ。

 「ふーははははっ!」

 マスケラの声が響き渡っる。

 「聞かせてもらったぞ……貴様の『答え』とやらをっ! いいだろう、我輩は貴様の言うとおりにしてくれよう」

 「黙れ鬱陶しい」

 ハンニバルは首を振ってマスケラを睨んだ。

 「やったね、マコトくん」

 ナナがそう言って嬉しそうに俺の腕を掴んだ。いつもはぼんやりとさせているその顔が、屈託のない笑顔に歪んでいる。

 ……こんな風に喜んでくれるのか。

 「ああ……ありがとう。ナナ」

 「残念ながら我はその指定には従えませんな。我視点マコトが敵陣営で確定しているので、そこに投票させてもらいますぞ。せめてもの、という奴です」

 ケヴィンが不承不承という風に言った。

 「そうなりますか。いいでしょう、ただもしワタシの考えどおり『マコト』くんが偽だった場合、それは無駄吊りです。なので『狩人』が護衛成功を出して処刑回数を増やしてくれるのに期待しますよ。もう頼りになるのはそこしかありませんからね」

 いやみったらしく、オーヴェンが言った。

 「クソが……」

 サイモンが搾り出すように声を出す。それから床を思いきり踏み抜いてから声を張り上げた。

 「クソがっ!」

 「その様子なら指定を変える必要もないだろう。今日はサイモンの真を切る。『占い師』が両方偽者だと思っているもの以外は、両方からシロが出ている俺様を信頼してそこに投票するんだな」

 ハンニバルがそう本決定を出した。「うん」トロイが満足げに微笑んだ。

 「君が有能な人でよかったよ。君の決断なら安心して従えそうだ。頼りになる人がいてくれてよかった。ありがとうハンニバルくん」

 その言葉を聞いて……ハンニバルはあきれたように首を振った。

 「まったく良くいう」


 三日目:投票パート


 1『旅人:マコト』→『酒浸り:サイモン』

 0『小間使い:ナナ』→『酒浸り:サイモン』

 0『物乞い:トロイ』→『酒浸り:サイモン』

 1『青年:ハンニバル』→『酒浸り:サイモン』

 6『酒浸り:サイモン』→『青年:ハンニバル』

 0『商人:ケヴィン』→『旅人:マコト』

 0『盗賊:マスケラ』→『酒浸り:サイモン』

 0『負傷兵:オーヴェン』→『酒浸り:サイモン』


 投票の結果、『酒浸り:サイモン』は処刑されました。

 告知:気が変わったんで投稿時間設定を八時に変更します。

 変更理由:気が変わったんで。


 雑談:タイム

 人狼ゲームなんてものを題材にしたからしょうがないのだけれども。キャラクターの数が多すぎて困る。ダレが困るって作者が一番困る。

 俺みたいなチンパン作者ではかき分けはまずできない。個性付けをやったとしても伝わらない。だからまああざとく変な喋り方をさせてみるとかしてがんばってる。

 しかし現実的に、これから何ゲームかやっていく上で30人くらいキャラは登場するけれども、そのうちの25人くらいは吊られたり噛まれたりで退場していくだけのお仕事。枚数的に掘り下げる余裕など全然ない。

 だがそれは流石にさみしい。という訳で考えたのは『村民名鑑』。

 これまでに登場した『村人』たちがどんな奴ばらだったのか、気が向くならあとがきで軽く触れてってもいいかなって思う。読者百人に一人くらいが興味をもってくれたらぼくは幸せ。

 今回はとりあえず、第一ゲームではかなくも散ったお二人から。


 衛士:リザード

 得意役職は狂人。モデルは強気な騙り役さん。

 基本強弁なんだけどよく見たら中身の伴っていない感じの人なんだと思う。ただ発言がヘタってわけじゃなくて、態度だけは本物らしく見せることができるから、欠けた役職を乗っ取るくらいなら簡単にやってのける実力はある人。

 トロイの『人狼CO』に引っかかったあたり、騙されやすそうではある。考えるの苦手だから、分かりやすい根拠を示されるとつい盲信しちゃう性質なんだと思う。村人陣営よりは、人外で輝くタイプのキャラ造形です。


 音楽家:セリーヌ

 得意役職はなし。モデルはいきなり人外引き当てちゃった初心者。

 かしこぶってあっちこっち疑い向けて、いろんな可能性を考えてみるんだけれど、結局のところどれに決め撃てばいいのかわからなくて結局何も主張できない人。度胸がもう一つなくて、「自分の中身がバレちゃう」っていう恐れが常にあるから、ちょっとつっつかれればしどろもどろになっちゃってボロが出ちゃう。

 トロイとの人狼CO合戦に負けたあたり、本当押しは弱いんだろうね。たぶんだけれど、性格的に人狼ゲームにはどうしても向かない人。

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