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 第二ゲーム開始

 二章 十一人村


 参加者一覧


 旅人:マコト

 小間使い:ナナ

 物乞い:トロイ

 青年:ハンニバル

 ならず者:メアリー

 酒浸り:サイモン

 老婆:コーデリア

 商人:ケヴィン

 盗賊:マスケラ

 負傷兵:オーヴェン

 楽天家:ジョン


 人狼2狂人1占い師1霊能者1狩人1村人5


 一日目:昼


 三人で『初日』の運転する車に押し込まれ、灰色の壁の内側を走る。

 窓の向こうでさっきまでいた学校の校舎が少しずつ遠ざかっていく。どうやら、本当に灰色の壁に囲まれた中に、校舎の施設が丸ごと入っていたらしい。今は壁沿いに走ってはいるが、しっかりと目を凝らせばはるか遠くに反対側の壁が確認できた。

 「おっきな施設にいるみたいだね。私たち」

 ナナが言った。

 「そうだな……。もう大分長いこと車に乗ってる気がする。東京ドームなんかよりもっとでかいな。この施設は」

 日本にこんなところがあっただろうか? いや、俺は知らない。どうやったってこんな巨大な施設を用意するような土地は日本には残されていない。となると、俺が誘拐されたのは、日本から離れた離島とか、土地の余りきっている途上国だとか……そういうことになるのだろうか。

 「いったい……ここはどこなんだ?」

 俺がぼやくと、隣で勇気付けるような声がした。

 「安心しなって。マコトくん。この変なお面をかぶってる人たちだって、人狼ゲームに勝ってさえいれば、元の日常に返してくれるって言っているじゃないか」

 能天気にトロイはぼやく。こいつは何か神経が一本焼ききれているように見える。

 「だけどさ。運転手さん。ちょっと訊いても良いかな?」

 トロイが尋ねると、運転手は何も答えない。完全にトロイのことを無視しているように見える。トロイはそれに表情すら変えずに、というかそもそも無視されているのにも気づいていない様子で尋ねる。

 「僕らを解放してくれるって言ってもさ……。僕らは突然誘拐されてきて、しかも死体まで目にしているわけじゃない? その口止めはどうするの?」

 沈黙。トロイはすねたように唇を尖らせて、「だんまりだね。感じ悪いね、マコトくん」とこちらに視線を投げてきた。俺はなんとも言えずに首を振るしかない。

 「……着けば分かる」

 「は?」

 唐突に、運転手がそう口にした。

 それ以上、運転手は何も言わない。俺が思わずトロイの方を見ると、彼はどういう訳か、何か満足げな表情を浮かべていた。玩具の手に入った子供のような。


 ○


 中に入ると、そこには壁に埋め込まれた巨大な水槽がいくつも並んだ空間だった。一見して水族館……いや、どう見ても水族館だ。

 『初日』に連れられて水族館内を歩く。俺はいぶかしいものを感じていた。学校といい、ここといい、なんでそんなものが無造作にぽんと設置されているんだ。目を回しそうな気分でいると、隣でナナが俺の袖を引いて、楽しげな様子で口にした。

 「わぁ。すごいねマコトくん、オニイトマキエイだっ!」

 良いながらナナが指をさす水槽は、この水族館でも一際大きい。俺は修学旅行で行った沖縄で見た、日本最大の水槽を要する水族館のことを思い出した。

 「ジンベエサメも泳いでるよ。やっぱり水族館はこの子がいないとね。ねぇ知ってる、マコトくん? ジンベエザメの繁殖方法ってまだ分かっていないんだって? 卵生なのか、胎生なのか……」

 「魚なんだから卵生だろ?」

 「わかんないよ? カモノハシだって哺乳類なのに卵生なんだから」

 胸を張るナナ。しかしそんな話今はどうでもいい。

 その大水槽の前には俺達以外にも何人かの参加者が集められているようだ。思い思いに水槽に目をやったり、壁に寄りかかったりしている。

 「ええと。いちにいさん」

 俺が一人ずつ人数を数えていると……隣でナナが対抗するように

 「わたしたちを入れて十人っ!」

 と手を突き出して言った。

 「わたしの方が早かったね、マコトくん」

 ……だからなんだっていうんだよ。

 その場でたむろっていた七人は、俺達の来訪を見てはいぶかしげな視線を向ける。そのうちの一人が俺達のところにやってきて、落ち着いた声で言った。

 「あんたらも三人で生き残りか」

 軽薄そうな身なりをした、髪の毛を染め上げた男だった。胸元の名札には『酒浸り:サイモン』とある。口調からは粗野な印象を受けるが、リザードとはまた違う。なんというか、人を見下した感じがした。

 「そうだけど」

 俺がそう答えると、「はん」と男は鼻を鳴らして。

 「ってことは村陣営か。かー、おまえらんとこの『人狼』は相当ヘボかったみてぇだな」

 「……『人狼』が弱かった、というより」

 俺はトロイの方を見る。気がつくと彼は俺の傍から離れていて、ナナと二人で張り付くように大水槽を眺めていた。能天気な奴らだ。

 「あそこの二人が強かったんだ」

 「あいつらが? あの間抜けそうに見える奴が?」

 サイモンはぎょろぎょろと大きな目でこちらを諮るようにのぞきこんでくる。無遠慮なその視線に感じの良さはまったくない。俺は平静を装って「ああ」と答えて。

 「俺はマコト。『旅人:マコト』。あっちの二人は『小間使い:ナナ』と『物乞い:トロイ』。あんたと仲間はどうした?」

 「いらねぇよ自己紹介なんか。胸の名札みりゃわかんだろ?」

 バカじゃね? とでも続きそうな声でそういわれ、俺はいささかむっとなる。

 「いねーよ」

 「は?」

 「だから仲間だよ。いねーっつの」

 「いないって……どういうことだよ?」

 「頭悪いなおまえ? この程度のことも自分で考えて分からないのか? 内訳把握、基本中の基本だろ? よく生き残れたもんだな?」

 何だこいつは……とは思ったものの、すぐに思いつかなかった俺が甘かったのも、また事実だ。俺は少し考えてから結論にたどり着き、言った。

 「あんたは『人狼』で、『狂人』が初日に欠けている状態で勝った、ってことか?」

 「はいせいかーい。でも時間ぎれー。そういうことだ。仲間に助けられて勝ったおまえとは何もかも違うんだよ? 分かったかか?」

 そう言って俺のことを取るに足らない奴に出会ったとでもいうように、背を向けて立ち去っていく。

 「ここには村で勝った三人が三組と、一人勝ちのオレ、合計で十人がいるみてーだな。ま、オレだけが別格だってことだ」

 などという不遜な台詞を言い残して、その男は去っていった。

 「酷い自信家……というかうぬぼれやか?」

 しかしそういうには、仲間がいない状態で『人狼』で一人勝ちしたというあいつは油断ならないように思える。『酒浸り:サイモン』。俺がもし『占い師』を引き当てるようなことがあれば……トロイやナナよりも優先して占ってしまうかもしれない。

 「そうか……このゲーム。まだ続くんだよな」

 そのためにここに集められたのだ。『初日』はこれを選抜だといっている。十五人の優れた人狼プレイヤーを選りすぐる為の、選抜試験だと。勝ち続けている限り命は保障されるが、敗北すればあの『ジョン』のように……。

 「村人の皆さんっ! 人狼の皆さんっ! コングラッシュレーションっ!」

 唐突に、水槽の向かいで大きなモニターが点滅し、そこから『初日』が現れた。他の仮面をかぶった無数の『初日』を一般スタッフ用の量産型だとすると、紙袋をかぶってモニターに現れるこいつはオリジナルといえそうだ。

 「第一選抜試験を良くぞ勝ち抜いた、諸君っ! 君たちは優秀な村人ばかり、これからのゲームはより難易度を高めることになるが、自分の洞察を信じてどうか勝ち抜いて欲しいっ!」

 その発言に、参加者達は僅かに騒然となる。今の発言で、まだまだゲームは続くということが確定したからだ。

 「さて。今度のゲームはここにいる十人と、初日犠牲者を合わせた十一人で行う。ルールはそのまま、処刑の回数が四回以上に増え、より複雑で楽しいゲームになるのだっ! 諸君らなら高度なゲームを展開してくれることを期待しているぞ?」

 「まだ続くのか……」

 どこかでそんな嘆き声が聞こえてきた。俺もまったく同じ感想だった。

 「さて。先ほど諸君らにやってもらったのは、このゲームをよく知るものの間ではしばしば『六人村自由役職』、通称『6Z』と呼ばれる配役だが……今度は人数が増えるので、当然役職の内訳も変わってくる。

 今回プレイしてもらうのは、『十一人村基本役職』、通称が『11A』だ。このルールでは先ほど君たちがプレイした村で出てきた役職に加え、『霊能者』というのを追加する」

 「……霊能者」

 さっきのルールでも十分ややこしかったというのに、また何か増えるというのか。俺はつい憂鬱な気分になる。

 「何。そこまで複雑な能力は持っていない。この『霊能者』の持つ特殊能力は、『人狼の残り人数が分かる』というものだ。より正確にいうと、『処刑した人物が人狼か否か』を、夜時間の間に知ることができるというものだな」

 「処刑されて死んでいった村人の霊の声を聞いて、その正体を見極めるってイメージだね」

 気がつけば、ナナが隣に立っていた。それで人差し指を立てて得意げに解説を行う。

 「これが登場するルールだと、常に『人狼』は二人以上存在しているよ。『人狼』が一人だと、それを処刑したところでゲームが終わっちゃうから、『霊能者』も不要だからね。当然、『人狼』はすべて処刑しきらないと、村の勝ちにはならない。それから『人狼』同士は夜時間に相談ができるはずだよ」

 「なるほどな……」

 俺はそう言ってうなずく。

 「では今回の役職内訳を発表する。『人狼』二人、『狂人』一人、『占い師』一人、『霊能者』一人、『狩人』一人、『村人』五人という配役となるっ! 各自奮闘するように」

 奮闘しろ、などといわれても。……また殺しあう羽目になるのか。あのリザードやセリーヌのように、自分の手で人を蹴落とさなければならない……。何の見返りもなく……。

 「ふむ。君たちのモチベーションにも、いよいよ限界が生じたようであるな。この飽きっぽいゆとり世代めっ!」

 『初日』がそう身を乗り出して叫ぶ。

 「いいだろうっ! あまりこういう下種な方法でやる気を出させるより、純粋にゲームを楽しんで欲しかったが……やむをえまいっ! あれを用意してくるのだ、スタッフーっ!」

 紙袋の『初日』がそう命令すると、下っ端の仮面の『初日』たちが示し合わせたように、なにやら布で隠された大きなブロックを部屋の中央に運んでくる。台車に乗せられたそれの布を剥がすと、そこには息を呑むような光景が広がっていた。

 「……ひゃっはー。大金じゃねぇかっ!」

 叫んだのはサイモンだった。彼はほとんどパニックでも起こしたようにその場で地団太を踏んでいる。「うおーっ!」顔色を変え、興奮冷めやらぬ様子ではしゃいでいる。

 「…………」

 隣では、ナナがなにやら考え込む様子で札束に目をやっている。無理もない……いきなりあんなものを出されても、面食らってしまうのが本当のところだ。

 ……勝てば。あれが手に入るって訳か。

 こんな命の危機にさらされた状況でなければ、確かに飛びつきたくなる大金だろう。ただ金を目の前にしただけであんなふうにはしゃげる無邪気さを俺は持ち合わせていなかったし、何より不穏な感じがした。

 「口止め料……」

 ナナが言った。俺は息を飲んだ。これでは……何が起こっても事実はすべて隠蔽される……。

 「ゲームの最終的な勝者には、これが送られるのだっ! それが一人か、はたまた四人か、或いは十一人か……それは分からないが、とにかく勝ちさえすれば勝利チームでこれを山分けできるのであるっ! さあ。いくらだと思う?」

 「ううーん。一度にこれだけの紙幣を見るのは流石に初めてですが、ま、この高さで、きりの良いところだとすると十億円ですかねぇ?」

 けだるげな様子で、そう口にする奴がいた。張りのない声で、俺は最初それを老人のものかとさえ思った。振り向くと、黒帽子をかぶった年齢不詳の男がその金に視線をやり、諮るような表情を浮かべていた。

 「こんな施設を用意してくれるような人たちですから、気前よくそれくらいは出せるのでしょうねぇ。……すごいですねぇ」

 「うむ。たいした洞察なのであるっ! そのとおり、この金はしめて十億円……といいたいところだが、正解は十一億だ」

 「中途半端だね」

 ナナが素直な感想を口にした。

 「何か理由のある額なのかな?」

 「勝ち進めば、分かるはずだ。この金額の意味が……。一人あたりの取り分は最低でも一億円、運がよければその二倍、三倍、十一倍もありうるのであるっ! 皆、奮闘してくれたまえっ! では説明は終わりとするっ! 良いゲームをっ!」

 そう言って……『初日』は画面からフェードアウトして言った。

 「これから一日目の夜が始まります」

 仮面をかぶった量産型の『初日』の一人が、俺達の方を向いて言った。

 「これから一人ずつ個室に案内いたします。ご自身の役職と、ルールの細かな変更点をご確認ください。どなたからいかれますか?」

 「オレだ。オレ」

 言ったのは……やはりというかサイモンだった。

 「ではご案内いたします」

 『初日』に連れられていくサイモン。彼は、俺の傍を通り過ぎる時、耳元で俺にしか聞こえないくらいの声でそう言った。

 「間抜け。もしオレが『人狼』になったら、おまえを真っ先に襲撃してやる」

 俺は振り向いてサイモンを見送った。何事もなかったかのように立ち去っていくそいつを見て、俺はトロイがするように肩をすくめてみせる。

 「どうしたの?」

 ナナが尋ねた。俺は「なんでもない」と言って微笑んだ。


 一日目:夜


 あなたは『占い師』です。村人を一人選んで占って、それが『人狼』かどうかを見極める力があり、村にとってとても重要な役割を持ちます。

 今回の役職内訳は、『人狼』二人『狂人』一人『占い師』一人『霊能者』一人『狩人』一人『村人』五人の、合計十一人です。

 この内『人狼』『狂人』が人狼陣営。『人狼』の人数がそれ以外と同じ数以下になれば勝利となります。

 『占い師』『霊能者』『狩人』『村人』は村人陣営です。『人狼』をすべて投票で処刑すれば勝利です。『狂人』の処刑は条件に含まれません。

 『人狼』は夜時間に村人を一人選んで襲撃します。襲撃された村人はゲームから退場します。

 『狂人』は人狼陣営に所属しますが、『村人』としてカウントします。

 『占い師』は夜時間に村人を一人選んで占い、『人狼』かどうかを知ることができます。

 『霊能者』は夜時間に、処刑した村人が『人狼』であったかを知ることができます。

 『狩人』は夜時間に自分以外の村人を一人護衛します。護衛された村人は襲撃から免れます。

 夜時間は十分間、昼時間は二十五分間、投票は五分間です。


 今回案内された個室はただの薄暗い部屋なっていて、一台のデスクと紙とペンがあった。

 薄暗いというのは照明が小さく机の上に一つしかないこと、壁が黒いことなどから受ける印象だろう。実際、書き物をするには問題ない程度には明るい。そして何より特徴的なのが、壁の一つがまるごとガラスになっていて、その向こうには水族館の水槽がこの目に見えるということだ。

 「……無駄に凝ってるな」

 机の正面には電話機が設置されている。『占い師』としての行動はこれでするようだ。俺が電話機を手に取ると『誰を占いますか?』と、明らかな機械音に端的に質問される。おれは短く『サイモン』とだけ伝える。

 「『酒浸り:サイモン』でよろしいですね?」

 「ああ」

 一秒とて、間があったとは思いがたい。

 「『酒浸り:サイモン』は『人狼』でした」

 返事は驚く程早く帰ってきた。「『酒浸り:サイモン』さんは『人狼』でした」返事がくりかえされる。「占い結果をご確認される場合も、こちらの電話にお申し付けください」そこで電話が切れる。俺は満足して電話を切った。

 「『サイモン』が『人狼』……」

 少しはやりやすいかもしれない。あいつは欲の皮を突っ張った傲慢ちきだ。たとえばナナを敵に回すのよりはよほどやりやすい。

 思いながら、俺は覚悟を決めて……夜が明けるまでの時間をじっと待ち続けた。

 初日投稿分は以上となります。以降は二日おき十八時の投稿とさせていただきます。

 感想、質問、推理等ございましたら是非お寄せくださいませ。泣いて喜びます。

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