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 二日目:夜 霊界


 『小間使い:ナナ』は『衛士:リザード』を護衛しました。

 『音楽家:セリーヌ』は『小間使い:ナナ』を襲撃しました。


 『霊界』と銘打たれたその部屋で、一人きりモニターを眺めていた俺の前に、もう一人死者が現れた。『小間使い:ナナ』。夜時間に襲撃にあった『狩人』だ。

 「おつかれさまー」

 間延びした声でそういうナナに、俺は精一杯強がって「ああ。おつかれ」といってみせる。ナナは表情を変えずに俺のところに近づいてきて、力の入ったでこピンを俺に食らわせた。

 「ぐあっ」

 つい痛がってしまう。ナナは少しだけすねたような表情をみせて、俺に詰め寄った。

 「どうして『トロイ』に票を入れてくれなかったの?」

 ……どうやらそれがご不満だったらしい。

 「あなたが『トロイ』にいれてさえくれれば……。同数票で引き分け、『村人』のあなたが処刑されずに済んだのに」

 「……どうして俺が『村人』だと思ったんだ?」

 尋ねる俺に、ナナは「うーん」とうなり

 「勘、かな? だけど、あたりでしょ」

 「ああ。大当たりだよ」

 この子はどうも人よりものをフィーリングで考えるところがあるようだ。昨日トロイに突っかかっていたのも、そういう理由だろう。

 「リザードに入れたのは……あいつの態度がどうもおとなしかったからだ。奴は自分にとってグレーな三人の中から投票することを主張してはいたが、三人の中の誰が怪しいかまでは言ってこなかった。『人狼』を探す気配がないってのは、間違いなく人狼陣営らしい要素だと俺は思う。それに、あいつが本物の『占い師』なら、もっと声高に自分の考えを披露しただろうしな」

 「……じゃあ。あなたも『リザード』くんを最後には偽で見たってこと?」

 「そういうことだ」

 そして、それはどうやら正当だったらしい。

 俺とナナはモニターに表示された役職内訳を見詰める。

 『ジョン:占い師』『マコト:村人』『ナナ:狩人』『トロイ:村人』『リザード:狂人』そして……『セリーヌ:人狼』

 霊界にだけ表示される役職の真相……。すべての結果がここに表示されている。現在の生き残りは、『村人』のトロイと『狂人』リザード、そして『人狼』のセリーヌ。

 「……絶望的だね」

 ナナは言った。

 「ああ……」

 『人狼陣営』が二人残っている。当然、投票を『トロイ』にあわせれば人狼陣営の勝利は確定。村は絶望的な状況だと言える。

 「もう……勝ち筋はない。いったいどうなるんだろうな……俺達」

 この部屋に来てから、ずっと一人で悩んでいたことだ。このゲームに負けたら、命は保障されない。それを考えると、俺は恐怖で身のすくむ思いがした。

 「……諦めちゃダメ」

 ナナが言った。

 「ナナ……?」

 「信じるんだよ……。自分が生きることを……諦めちゃダメだ」

 「……信じるって……トロイをか? 奴がどう振る舞えば村が勝てるっていうんだよ? 人狼陣営が二人生き残ってしまってるんだぜ……?」

 「それは分からない……。トロイくんでも、この状況を覆すことは難しいと思う。……だから、信じるのは、自分自身」

 ナナはそう言って胸に手を当てる。

 「誘拐犯なんかに負けちゃダメだ。もしもこれでわたし達が負けたとしても、それで全部が終わるわけじゃない。戦って、諦めずに戦って、生きて帰ろう?」

 そう言った彼女の姿に……確かにかつて出会ったあの少女がシンクロする。

 「……なぁ。ナナ」

 「何?」

 「本当に……俺のこと……」

 俺がそう言った、そのときだった。

 「三日日目の朝時間になりました。『小間使い:ナナ』は無残な姿で発見されました」

 無機質なアナウンスが流れる。モニターの中で、トロイたち三人が部屋に入ってくるのが見えた。

 「始まるね……」

 ナナは神妙な顔で言った。

 「今は、トロイくんを信じよう」

 「だけど……」

 勝てるのか? 否、そんなはずがない。人狼ゲームにおける『処刑』は投票、多数決によって決められる。味方を失ったあいつに勝ち目があるはずが……。

 そう思ったときだった。

 俺は愕然とする。監視カメラに写ったあいつの表情。それは相変わらずの微笑み面で……決して、勝負を投げた人間のものではなかった。


 三日目:昼


×旅人:マコト

 小間使い:ナナ

 衛士:リザード

 音楽家:セリーヌ

 物乞い:トロイ

×楽天家:ジョン


 人狼1狂人1占い師1狩人1村人2


 『小間使い:ナナ』は無残な姿で発見された。


 「最初に宣言させてもらっておくよ。僕が『人狼』だ」

 トロイがそう言った時、目をむいたのがセリーヌだった。面食らったような表情でトロイの方を見詰め、意味が分からないというように愕然とする。

 「ちょっと……どういうことよ? あなた何を言ってるの?」

 「……そこか」

 喚くように言ったセリーヌの隣で、リザードは口元に笑みを浮かべてトロイの方を見る。トロイは肩をすくめながらたたえるような口調で言った。

 「いきなり僕に『人間』判定を出すなんてね? もちろんすぐに分かったよ。君の正体がなんなのか……。さあ、宣言してよ」

 「ああ。そうだな」

 リザードは愉快さが抑えられぬ表情で言った。

 「『衛士:リザード』が『狂人』を宣言する。『占い師』は偽だ。残念だったな、セリーヌ。おれ達二人であんたに票を合わせて終わりだ」

 そう言ったリザードに対し、セリーヌは「まってっ!」とすがるような視線を向ける。何が起きているのか把握できていない様子で言った。

 「対抗しますっ! 『音楽家:セリーヌ』が『人狼』を宣言するわっ! 今日ナナを襲撃したのは私なのよ? トロイはただの村人! 何を言っているの?」

 「何を言っているのはこっちの台詞だよ。君こそただの『村人』じゃないか。あ、ひょっとしてそれで悪あがきのつもりかな?」

 トロイは首を振りながらそう言った。

 「ねぇリザードくん。彼女は君の『狂人』宣言を聞いて、それで初めて自分が『人狼』だと言い出した。例え自分が『村人』でも、『人狼』と言い張れば処刑されずにすむと思ったんだろうね……。そんな後出しじゃんけん、通じると思う?」

 リザードは吟味するような様子でセリーヌを見る。セリーヌはすがるような目つきでリザードを見詰めていた。

 「君は随分ときょろきょろと、落ち着かない様子で部屋に入ってきたね? そして、リザードくんにすがるような目を向けてきた。もしもリザードくんが『狂人』なら君の敗北で決まってしまうからね。だから君は、リザードが本物かどうか、彼自身の宣告を聞かなくてはならなかったんだ。

 けれど、僕にはリザードくんから、彼の持つ本当の役職について聞きだす必要はなかった。何故ならぼく自身が『人狼』だからだ。僕に『人間』判定を出した人が本物なはずがない。だから僕は先に自分が『人狼』であることを伝えられたって訳だ。最初にね」

 違う……モニターを眺めながら、俺は思った。『トロイ』は村人だ。『村人』が『人狼』を騙っている……なんだこの状況は? 

 「そ……そんな」

 「それから。僕が『人狼』であることのアピールはもう一つある。それは、昨日『ナナ』さんに『狩人』の宣言をさせたことだ。

 そうした方が有利なのは明らかだよね? 『ナナ』さんにもし僕の襲撃先を読みきられて、そこを『護衛』されてしまった場合、今日この日を迎えた段階で四人残っていることになる。四人残りなら、当然『リザード』くんと僕の票を合わせても誰かを処刑することはできない。他の二人が僕に票を合わせてくるから、引き分けになってしまう。故に僕は確実に襲撃を成功させる必要があった。だから、『狩人』の位置を特定して、そこを確実に襲えるようにしておいたんだ。『狩人』は自分のことは守れないからね」

 「なるほどな。聞いてみると、何からなにまで、『トロイ』が人狼だって思えてくる」

 リザードは言った。

 「思えば。昨日トロイが『占われていないグレーの三人の中から投票先を選ぼう』と強く推していたのは、おれやトロイ自身に投票されることを防ぐ為だったのか。結果的にセリーヌの票はマコトに流れ、哀れなあいつは処刑されていった。今頃どこかでおれたちの今の様子を見ながら、びくついてるだろうな?」

 「……違う。『人狼』は私なのよ……。信じて……『村人』なのは『トロイ』で、そこを処刑しないとあなたも負けるのよ……?」

 「……その可能性もあるんだろうが。セリーヌ。どう見ても『トロイ』が『人狼』にしか思えないんだ。俺が『占い師』ならそれがきちんと分かったんだろうけどな」

 そう言って下卑た笑いを浮かべるリザード。セリーヌは、もうほとんど青くなっていた。

 「いや。しかし必死だねぇ。まさか『村人』の君が自分のこと『人狼』って言い張ってくるなんてね。悪あがきもいいところだけれどね。それで億が一、『狂人』が騙されて『人狼』に投票してしまうこともあるんだろうけど、あいにくとリザードくんは誰が自分の味方なのか読み違えるほど、バカじゃあない」

 「『村人』が『人狼』の振り……そんなのは今あなたがしていることじゃない」

 「いいや。君のしていることさ。まあ、敢闘賞は与えて良いんじゃないかな? まさかそんなことされるとは思いつかなかったからね。

 まあ、僕は昨日の段階から『人狼』有利に振る舞ってきたし、このとおり君よりも随分と早く『人狼』であることをアピールしている。誰の目にも、どっちが本物の『人狼』かは明らかさ」

 「もういいだろう。『初日』とやら。……気分が悪い」

 リザードは言った。

 「これからそいつに投票することを思うと……見てられない。早く投票時間にさせてくれ」

 「ちょっと待って。ねぇ、私が『人狼』なのよっ! 信じて?」

 セリーヌがヒステリックに叫ぶ。リザードが苦しげな声で

 「もういい。喋るな。おまえの声は聞きたくない」

 「……あなたが負けてしまうから言っているのよ? どうして分からないの? ねぇっ?」

 「黙れよ」

 そう言って……突き放すような……何の価値もない路傍の石ころでも眺めるような酷薄な表情を浮かべ、トロイは視線すらろくにセリーヌに向けずに言い放った。

 「君は負けるんだ。いい加減に諦めたらどう? 君の……君たちの陣営の実力が足らなかった、だから負ける。そんなことも認められないのかな?」

 それは、勝ち誇った姿でもない。敗者を嘲る姿でもない。ただ、遥かに力で上回る者が、当たり前に退けられる相手を当たり前に退けた、そんなけだるさすら漂う態度だった。

 「トロイ……? どうしたんだ」

 リザードが いぶかしむような視線を向ける。

 「うん? いや、なんでもないよ。さっさと投票を始めようか。リザードくんには感謝してるよ、これで僕たちの勝利だ」

 「ああ。……そうだな」

 リザードは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 「これで……生き残るのはおれだ。はははは……」


 三日目昼:投票結果


 0『衛士:リザード』→『音楽家:セリーヌ』

 2『音楽家:セリーヌ』→『物乞い:トロイ』

 1『物乞い:トロイ』→『音楽家:セリーヌ』


 ○


 「人狼の血を根絶することに成功しました。『村人』の勝利ですっ!」

 ファンファーレが静かな教室に鳴りひびいた瞬間、怪訝な表情を浮かべたのはリザードだった。それから何かに気づいたような表情を浮かべると、トロイの方へにじり寄って彼の胸倉を掴んだ。

 「てめぇ……よくも騙しやがったな……」

 「へ? 騙されるほうが悪いんでしょ? これはゲームだよ? 何いってるの」

 リザードの怒りが心底疑問に思えて仕方がないという表情で、トロイは首をかしげた。こぶしを振り上げるリザードに、トロイは「うわわわわっ」と『降参』のポーズで両手を振り上げる。

 「よして……よしてってばっ! わわ、暴力反対っ! 暴力反対だよっ! やめてっててばっ! ひぃいっ!」

 女みたいな「ひぃいっ!」だった。そのあまりの情けなさは本来なら笑ってやるべき純朴さなのだが……リザードの心境を考えればそうもいかない。今のこの図だけを見れば、トロイは頼りなく暴力に晒される線の細い男でしかないが、こいつは確かに巧みなやり方でリザードを騙したのだ。

 トロイを殴りつけようとするリザードを、制したのは『初日』の面をかぶったスタッフ達だった。二人係で大柄なリザードを押さえつけ、捕縛する。リザードはほとんどパニックで「やめろっ! 何をするつもりだっ!」と叫んでいる。 

 「だ。だから言ったじゃない……」

 セリーヌが恨めしげにリザードを見詰める。

 「なんで私を信頼してくれないのよ……お陰でこの有様だわ」

 そういうセリーヌは、周囲を二人の『初日』に押さえつけられていた。「連れて行け」『初日』のリーダー格らしい男が命令すると、『初日』達は手際よく彼らを拘束し、教室の外に連れ出していった。

 「ふぅ……び、びっくりしたよ。酷いことするね、本当にもう」

 その場で腰を抜かしていたトロイが立ち上がり、にこやかに俺とナナのほうに向き直った。

 「やあ。お疲れ様、『狩人』さんに『村人』さん。いやぁ、ちょっと苦しかったけどなんとか勝てたよ。それもこれも、君たちのお陰だね」

 「バカ言ってるなよ」

 俺は押し殺した声で言った。

 「全部……おまえの実力じゃないか。二日目に『人狼』のセリーヌに票を入れられたのもおまえだし、三日目なんておまえじゃなきゃひっくり返せなかった。……おまえのお陰だよ、勝てたのは」

 「あはは。ありがとう。僕はこれだけが取り柄なんだ」

 照れたように、しかし確かに誇らしげに振る舞うトロイに、ナナがいぶかしんだように尋ねた。

 「取り柄……って?」

 「ううん。あんまり人にこういうこと言うと、『おまえは何を言っているんだ』みたいにいわれちゃうんだけど。喧嘩も弱くて友達も少ない僕だけど、唯一これだけは自信がもてるんだ」

 「なんだ、それは?」

 俺が尋ねると、トロイは恐縮したような顔で、しかし少しだけ照れたように

 「あのね。たいしたことじゃないんだけど、僕は、人より少しだけ頭が良いんだ」

 などと、たまわった。

 「はぁ?」

 「あはは。やっぱりそういう反応かな? でも人に伝えられるような長所が他にないんだから許してよ」

 「頭が良いって……相当根本的な自己肯定だと思うぞ? それに自信がもてるって……なんというか。すごいことじゃないか?」

 「ありがとう。そう言ってもらえるとうれしいよ。でも、僕は本当にたいしたことだとは思えないだ。他でもない頭の良い僕がいうんだから、間違いないよ。それに僕には忌々しい嘔吐癖もあるしね」

 と、そういうトロイの表情は……確かにしぼんだものに見えた。自分で口にしながら、ちょっとずつ自分に自信がもてなくなっていく、とでも言うような。

 ……頭が良い。どうも、こいつは相当にナチュラルにそう自覚しているらしい。それでいて、自分にたいした自信を持ってはいない。

 「変わった奴だな。おまえ」

 俺は素直な感想を口にした。トロイは苦笑して

 「よく言われる」

 そう返事をした。

 第一ゲーム終了。

 章分けしないのはもちろんメタ推理防止。

 人狼知らない方に説明する努力はしたつもりですが、如何せん拙いですので、ふんいきだけでも楽しんでいただければ幸いです。『人狼』はなんとなく眺めてるだけでおもしろいゲームだと思うので。自分も取材がてら何戦かしたくらいで、基本はリプレイでも眺めてるのが好きな性質です。

 玄人の方は突っ込んだ話をしてくださるとうれしいです。

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