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 チンパン作者の特効は14D程度で脳みそがパンクする。

 特に五日目とか書いてる方が破たん出さない為に苦労しまくった。村視点→占い視点→人狼視点と来て、共有視点でこの複雑な内訳は割と人狼知らない人にはつらかったんじゃなかろうか。

 最終章はもう少し丁寧な説明を心がけたい。


 それはともかく四章最後となる21話をお楽しみあれ。

 「動くなっ!」

 俺やハンニバルと共に、『霊界』と呼ばれる鉄格子の部屋に連れられたナイヤを迎えたのは、ハンドガンを構えた複数の『初日』だった。先頭に立った紙袋の『初日』は、牽制するようにナイヤに向かって恫喝する。

 「貴様はゲーム開始前から素行が最悪なのでな……。連行には少々手荒な手段をとらせていただく。今すぐ両手を挙げておとなしくするのだっ!」

 その台詞に、ナイヤはつまらなさそうに首を振るった。こいつが人前にさらす感情は概ね三通り。退屈か、呆れか、投げやり。

 初日たちの後ろでは、チサトとアイリーンが心配そうな表情でナイヤの方を覗いている。共に人狼として戦った二人だ。ナイヤは無表情のまま二人に向かって小さく手を振る。その動作に、『初日』は牽制するように

 「今すぐ手を挙げろといっているのが分からないのか?」

 「……呆れた。とんだ間抜けだよてめぇらは。何も言わずにただ連行したとしても、ぼくはおとなしく付いて行ってやったのによ……。これで全部露呈したようなもんだ。あー、つまらねーつまらねー」

 そう言って首を振るうナイヤ。

 「メスガキ共。いや、ここにいるすべてのプランクトン。このざまを見ろ。こいつらはぼくを警戒している。警戒してハンドガンを向けている。しかしこいつらはぼくを殺そうとはしない。つまりどういうことなんだろうな?」

 ナイヤはそう言って両手を晒し

 「手を挙げろ? それは気が進まないな。だってさ、挙手したら先生に指名されちまうじゃねーか。ぼくは昔からシャイだったんでな、答えが分かってても皆の前でそれを言うなんて大嫌いだった」

 「なにを言うか、貴様……」

 「つってもぼくはもう武装解除されちまってるんでね。どっちにしろおとなしく連行されるしかねーっつー話だがな。わーったよ、付いていってやる。ほら、このとおり手も上げるさ。現代文と公民以外の問題なら指名してもらってもかまわねーよ。だからそっちのメスガキには手を出すなよ」

 言って、ナイヤは一歩一歩初日たちの前に歩いていく。初日たちはあくまでも警戒を怠らず、ナイヤのほうに銃を向け続ける。

 初日たちに囲まれている敗北者達の列の、その最後尾に、ナイヤは並んだ。チサトが不安げな表情をナイヤに向ける。ナイヤはそこで、無表情のまま目を閉じて

 「間抜け共」

 ナイヤは言った。

 「さっきみたいに羽交い絞めにしてつれていけばよかったものを。武装解除したから安心だと思ったか? もうどこにも武器は隠してねぇと思ったか?」

 空間に電撃が走ったように、『初日』たちが警戒する。骨のある数名はナイヤのほうに飛び掛り、彼を捕らえようとする。

 しかし、そこでナイヤが行ったのは、誰にとっても予想外のことだった。

 ナイヤの長いコートがはだけたと思うと、そこから鋭い蹴りが繰り出される。しかしそれはどの『初日』達にも当たらない。その蹴りは、チサトの腰の辺り、スカートを翻すように放たれたからだ。

 「きゃっ!」

 チサトが驚いたように声を出す。とたん、チサトのスカートの中から何かが蹴り飛ばされるようにして宙を舞った。

 「とらせるなっ! 捕まえろっ!」

 紙袋の『初日』が指示を出す。しかしナイヤは既に両手を挙げたまま足だけを使って跳躍していた。足を捕まえようと手を伸ばす『初日』。しかしナイヤはその腕が届く前に、凄まじい勢いでその大柄な頭を蹴りつけた。

 『初日』を足場に、さらなる跳躍を果たしたナイヤは、見事に宙を舞う物体をキャッチする。「もういいっ! 撃ってしまえっ! 責任はワタクシが取るっ!」紙袋の『初日』が絶叫すると同時に、無数の弾丸がナイヤに向かっていく。

 「おっせーな。おっせーおっせー。でもぎりぎりだ」

 ナイヤは手に持った小さな機械を両手で弄りながら

 「空中じゃかわせない、ま、運試しといこうか」

 そうつぶやく。弾丸がナイヤに届くか否かというところで……。

 まばゆい光と、鼓膜を破壊するような凄まじい破裂音が、部屋中を覆い尽くした。 

 「な……」

 視界が真っ白に染まったかと思ったら、次の瞬間には真っ暗になった。確かに目は開いているのに、何も見えないのだ。そして音も聞こえない。ただ鈍い痛みだけが頭に深く響いてくるだけだ。

 音と光を失って、俺は宇宙にでも投げ出されたような気持ちになった。もはや自分が立っているのかも分からないほどの酩酊感。情けないほどに何もできずに、ただ光と音が戻るのを待つだけ……。

 それでも俺はまだがんばったほうらしい。かろうじて俺が視覚を取り戻した頃には、その場にいるほとんどが倒れるか膝を突いていた。

 「……ス、スタングレネードか……」

 紙袋の『初日』が忌々しくそう口にして、起き上がる。俺は傍で倒れていたナナを助け起こすと、苦しげに目を閉じて頭を抑える彼女に声を掛ける。

 「ナナ……大丈夫か? しっかり……」

 ナナは薄く目を開けて、焦点の定まらない目でこちらを覗き込む。それから片方しかない腕をこちらに伸ばして、がむしゃらに手を振るって俺の鼻先を幾度も叩いた。

 「マコトくん……なんだね。わかんないけど……」

 「ああ……大丈夫か? 立てるか? しっかり……」

 「無理をさせるな」

 そう言ったのは、こちらに向かってよろよろと歩いてきた紙袋の『初日』だった。

 「ただの閃光弾だ。害はない。休ませておくのが最善だ」

 「あ……ああ」

 そう言われ、俺はナナをその場で寝かせ、頭に腕を敷いてやる。ナナは「あぅう……」とうめくような声を出してこちらに手を伸ばしてくる。俺はそれをもう片方の手で掴んでやって。

 「……どうしておまえがナナの心配をするんだ?」

 ふと疑問に思って『初日』に言った。

 「…………おまえの気にすることじゃない」

 『初日』は吐き捨てるように言って

 「逃げられたな……。完全に武装解除したと思っていたら、チサトのスカートの中にあんなものを隠していたとは。それも、本人にも気付かれていないなどということが……」

 「……いつもの仰々しい喋り方がなくなっているぞ。それがおまえの素か?」

 俺が尋ねると、『初日』は忌々しそうに言った。

 「どうせおまえ以外寝転んでいるばかりだ。誰も聞いちゃいないだろう」

 「いいや。そうでもない」

 そう言ったのは、立ち上がってこちらに歩いてくるハンニバルだった。

 「……俺様の意識が戻ったところだ。ナイヤの奴は、当然いないな。あれだけ撃たれていたのだから、無傷とはいかないようだが」

 そう言って床に飛び散った血痕を指差す。結構な量だ。これだけの出血をしながらナイヤは、あの音と光の中を逃げ切ったことになる。

 「自分で使うたスタングレネードや。目ぇ閉じて耳栓するくらいのことは前もってしとったんやろ」

 アンナが言う。

 「よく見ればチサトちゃんとアイリーンちゃんもおらんで。ちっちゃい女の子だけ連れて行くなんて、ロリコンなんやろか」

 「エイプリルは置き去りみたいだが?」

 ハンニバルが露悪的に

 「あの子見た目がロリなだけで実はマコトくんと同じくらいみたいやで? 霊界で聞いたトコな。……ま、多分同じ『人狼』だった子を連れて行ったってことなんやろ? 自分一人で逃げないあたりの情が、あいつに備わっているってーのは意外やけど」

 そう言ってナイヤが首を振る。

 「……で。でも酷いですよぉ」

 そう言ったのは、ハンニバル、アンナに続いて意識を取り戻したドナだった。常に不安げで、意志薄弱そうに見えてこいつは案外と根性があるタイプだ。

 「あたしだって……うぅ。『狂人』で人狼陣営に参加してたのにぃ……。チサトさんの代わりにナイヤさんのことを囲いましたし、処刑回数だって稼いだのに……。そりゃ『妖狐』は囲っちゃったけど、それはアンナさんがきっと人外なんだろうなって思ってのことで……」

 「二日目でそこまで読めたんかいな。いやほんまたいしたもんやなぁ」

 アンナが少し怖気づいたようにそう言った。

 「ところでドナちゃん。胸元になんか紙みたいなんはいっとうで」

 指摘され、ドナは自分の服から飛び出ている紙切れの切っ先に築いた。

 「あ。あわわ……下着に挟んである……どういうこと……?」

 言いながら、ドナが紙切れを取り出す。それに目を通して、ドナは僅かに青ざめたような表情を浮かべた。

 「……どうやったん?」

 アンナが尋ねる。ドナは黙ってその紙切れを示してきた。

 『素敵な狂人のドナちゃんへ。

 同じ陣営だったよしみでおめーのことも助けてやりたいが、あいにくとぼくの腕は二本しかない。二人までしか小脇にゃ抱えられねーんだ。あいにくとぼくの守備範囲は十五歳までなもんで、チサトとアイリーンを優先させていただく。

 なに。おめーはなんだかんだたくましいから、ぼくが助けなくてもなんとかなるさ。気が向いたら後で助けに来てやるよ。じゃーな。

 ナイヤ』

 「これは……」

 俺はつい表情を引きつらせて

 「……元気だしぃやドナちゃん。あんなロリコンテロリストのことなんて忘れ。ほらうちかて敗北陣営や、境遇は同じやで。しっかりしぃや」

 呆然自失のドナに、アンナはそう言って慰める。ドナは「ぅう。もう三年遅く生まれていればぁ……」と泣きべそをかくばかりだった。

 そうしている内にスタンさせられていたメンバーたちが意識を取り戻していく。仮面の『初日』達も多くは意識を失っていたが、しかしその隙に逃げ出そうなどという剛のものはいなかった。

 「というかあの人。本当に逃げ出しちゃったね」

 ナナが息をのむように言った。

 「むちゃくちゃな人だけど……すごいことだ。この絶望的な場所から、自分の力で抜け出せるなんて。すごいことだよ」

 「……そうだな」

 アイツはふざけた奴だった。何の感情もあらわにせず、何の誠意も見せずただただけだるげに無神経にその場で枯れ木のように立っていて……。しかしここから逃げ出すという、誰もが望みつつ実行できなかったことを唯一成し遂げたのは、あの人間味のない男だった。その逃走がどこまでなしえるかは分からないが、しかしこの場からチサトとアイリーンを連れて逃げ出せた我力は、敬意に値するとそう思える。

 「……あの男にチサトを任せて大丈夫だろうか」

 ハンニバルは忌まわしげに言った。

 「いやここに残すよりよほどいい……。あの子供は既に敗北者になってしまった。となれば、癪ではあるがあの男に託すしかなさそうだ」

 「……優しいんだね。本気で心配してるだ、チサトさんのこと」

 ナナが言う。ハンニバルは首を振って

 「俺様の知りあいだ。俺様に被害がない範囲で気に掛けるさ」

 と不遜に答えた。

 「……ナイヤは、ゲーム開始前に奴が爆破させたところから再び逃走したようである」

 紙袋の『初日』が宣告した。

 「念のためにその穴の前で待機させていたスタッフが気絶させられていた。おそらく奴の仕業なのであるな。もっとも、敗北者の口は封じるのが我々の流儀だ。どんな手を使ってでも見つけ出し始末する。あいにくとここは隠れる場所など何もない平地なのでな、隠れようなどないのである。見つけ次第見せしめとして血祭りにあげるので、諸君らは反面教師にするがいい」

 完全に元の調子が戻っている……。こいつもたいがいが謎めいている。黒幕であるココへの忠誠具合から考えて、ただの進行役という訳ではないのだろうが……。

 「では残った敗北陣営の諸君ら。『妖狐』『背徳者』『狂人』の三名よ。君たちは本当にいい戦いをしたが、しかし残念だ。敗者復活戦に破れてはもうチャンスは与えられぬ。我々についていくがいい」

 「きゃ、きゃはは。ど、どうせ嘘だよねー、殺されるなんて……」

 そう言ったのは、もっとも遅く目を覚まして震えていたエイプリルだった。

 「きゃははーん。どうせ脅しで言ってるだけなんでしょー? 知ってるって、うん。安心安心。ねー、そうなんでしょー? そろそろ種明かしを……」

 「脅しのつもりはない。口封じは行う」

 「だ、だからさー……。なんで殺す必要まであるのってー……。ほ、ほら人狼で一番イヤなのって突然死(ゲームを放棄すること)するバカじゃーんさ? そういうのなくす為にさ、ほら……脅しをかけているだけで……」

 「そう思うなら、そう思っているがよい」 

 「な、何その言い方……。ちょっと本当に……。い、いや違うよね。うん、殺されるはずがないんだ。殺されるはずが……」

 エイプリルが震えた声で言う……その口を防いだのは銃声だった。

 それを発射したのは、他ならぬ紙袋の『初日』。無表情でエイプリルの膝を打ち抜いた彼に、手下である仮面の『初日』たちが騒然とする。

 「騒ぐな」

 紙袋は冷たい声で言った。

 「う……。うぁあ……。うう」

 その場で倒れ付し、ポンプのように血を吐き出すエイプリル。俺は呆然とする。何の躊躇もなかった。引き金を絞り、あんな小さな女の子を打ち抜くその動作に、何の躊躇も……。

 「……今ここでは殺さないだけだ。始末が面倒なのでな」

 言って、『初日』はエイプリルを荷物にように担いで

 「他の敗者もついてくるのだ。おとなしくな」

 そう鋭い声で言った。

 「ひどいことするなぁ」

 そう、僅かに愉快そうな声で言ったのは、アンナだった。

 「ほらきびきび歩くで。早くしないとエイプリルちゃんの血が出すぎて死んでしまう」

 「も……もうどっちにしろ死ぬじゃないですかぁ。……やだぁ」

 言いながら、ドナが泣きべそをかいてついていく。俺達は呆然としてそれを見守るだけだった。

 「……解せないな」

 そう言ったのはハンニバルだ。

 「アンナのあの態度……あの余裕はなんだ? 死ぬことをまるで怖がっていない……」

 怪訝そうにそう言って、意見を求めるように俺の方をみる。

 「どうせ殺されなどしないとタカをくくっている? だとすれば、同じようなことを主張して膝を撃たれたエイプリルを目の当たりにして、まったく動揺がないのは何故だ? 思えば奴は、『妖狐』であるにもかかわらず、処刑対象に指定されて落ち着いた態度でいた。あの時から違和感はあった。命がけのゲームであんなこと……」

 「……きっと空元気だよ」

 言ったのはナナだった。

 「でも……酷いよね。酷い、酷い……。人を何の躊躇もなく撃つなんて」

 「ああ。そのとおりだな」

 俺は同意を示す。

 「この場所は気が狂っている。こんなゲームをさせて、人を殺して……仕舞いには弾丸まで飛び交い始めた。いったいここはどこなんだ? どうして俺達はこんな理不尽な目にあう?」

 「……考えても、仕方がないと思うよ?」

 ナナは思いつめたように

 「誰もがナイヤくんみたいに、適切な抵抗を行えるわけじゃない。クーデターを起こそうたって、向こうのほうが人数も地の利も上。とてもじゃないけど……」

 「しかし希望の芽は出てきた。ナイヤが逃げ出したことでな」

 ハンニバルは腕を組んで言った。

 「あれだけすばしっこい男だ。そう簡単には捕まらないだろう。チサトとアイリーンをつれて逃げて……そこで助けを呼んできてくれれば、俺様たちは救出されるはずだ」

 「……そんなに上手くいくか? あいつはケガをしているはずだし、女の子を二人もつれている。おまけに……あの気まぐれな性格だ。俺達の助けを呼んでくれるなんて保障は……」

 俺は言う。ナナは首を振って

 「一つの希望だよ。希望は持たなくちゃダメ。すがりつく程度の価値しかなくっても、望みを捨てて這い蹲るよりはいいと思うから」

 言って、ナナは儚げな表情で、こう続けた。

 「もう全部終わりにして欲しい。誰でもいいから……どうか、わたしの代わりにやめさせて欲しい」


 「ちぃっすおつかれ様マコトくんっ! カメラ越しに見ていたわ」

 第四ゲームを終了させた俺達の前に現れたのは、このゲームの黒幕であるココだった。刑務所の食堂に集められた俺達に『良くぞ勝ち抜いた』とのありがたいお言葉を残すと、俺達と同じ食卓について同じ食事をし始めた。

 目を覚ました俺達に振る舞われたのは、少々ばかり粗野な印象のある食事だった。中学まで食べていた給食のような風味がある。

 「ごめんなさいね。メシの方も刑務所仕様なもんでこんなもんしか出せないの」

 なんの皮肉か、ココは俺の目の前に座っていた。俺のつぶされた片方の目を見て、ニタニタと笑っている。周囲を二人の屈強な『初日』に防衛され、俺達と同じ食事を片手でむさぼっている。

 「いい加減腹減ってる頃だろ? 昼三十五分夜十五分が六日だもんな、まあ飯くれぇ振る舞ってやるよ。客人にはそれなりのもてなしって訳だ」

 「おまえも食うんだな」

 俺は言った。

 「お嬢様とやらにしちゃ、随分と粗末な食事じゃねぇか」

 いやみのつもりで言うと、ココは「ぎゃはは」と下品に笑う。

 「マコトくん。今のわたしとあなたはイーブンな状態よ。先ほどの敗者復活戦に勝利したことで、あなたは次に行われる最終ゲーム……わたしの参加する本試合に参加する権利を得た。そこではわたしもあなたと同じように命を賭ける……既にわたしは選別するものではなく、一人のプレイヤーなのよ」

 「……本気で人狼で死ぬつもりなんだな、おまえは」

 俺は吐き捨てるように

 「俺が憎悪するのは、他人の命を粗末にする人間。俺が軽蔑するのは、自分の命を粗末にする人間だ」

 「ぎゃはははっ! カッコいーマコトくんっ! 惚れちゃいそうっ!」

 ココは腹を抱えて笑う。

 「でもさー、わたしは別に自分の命を粗末にしている訳じゃねーんだわ。むしろ最っ大限有効に活用することを考えてる。どーせ後一ヶ月もたねぇだろうって言われてるんだ。自分のやりたいようにするだけだよ」

 「命を捨ててることに違いはない。おまけに、他人まで巻き込んでいる」

 「説教してくれるの? やっさしー? 本気でわたしのこと軽蔑するなら、無視してくれちゃったらいいのにね」

 ココはそう皮肉がるように言った。それを聞いて、俺はカチンと来て沈黙する。

 「わたしは何もかも思うとおりにしてきた。自分の生き死にさえも。だから、今回もそのようにするだけ」

 「なんでもいい」

 忌々しそうに吐き出したのはハンニバルだ。

 「次に行う最終ゲームとやらに生き残れば、俺様たちは確かに解放されるんだろうな?」

 「保障するよ? 口止め料もしっかり払う」

 「……でもそれ。意味あるのかな?」

 そう疑問を呈したのはナナだった。

 「これはわたしの話じゃないよ。わたしの話じゃないし、マコトくんの話でもない。だから決してわたし達にそんな気持ちはないんだけれど、もしかしたらお金をもらっても、そんなの無関係にここで起きたこと人に話しちゃうことって、あるかもしれないよ?」

 「……ナナ。それは」

 もとより、俺に沈黙を守るつもりはない。金をいくら積まれたところで、こいつらの起こしたことを許すつもりはないのだ。

 だがしかし、それは向こうも承知のことではないか? 十一億……確かに大金ではあるが、しかし人の感情が単純な金銭だけで動かせるというのはあまりにも甘い。故に……あんなものはただの見せた金に過ぎないということも……。

 「あー確かにそのとおりなんだわ。でも正直、バラされたところでどうでもいいのよね。わたしとしては」

 ココはつまらなさそうに言った。

 「それはどういう……」

 「わたしの寿命の問題。バラされて弾劾されたって、どうせ死ぬんだから一緒のこと」

 そっけなくいうココ。

 「あなたたちが真実に憎むべきはわたし一人。他の皆はわたしに従っていただけ。それで、そのわたしはこのゲームが終わったらまもなく死ぬ。

 だから口止め料はわたしの部下の身の安全に大して支払われるものなの。まあ一応顔は隠させているし、告発されても大丈夫なようにはしているけどね」

 「……血も涙もないおまえが部下のことを思いやるなんてな」

 俺が言うと、ココはけらけら笑って

 「血も涙もねーとはなんだ。ま、どーしても告発がしてーならこっちにも考えがある。

 いったい何の為に敗北者をすぐには殺さずにいると思ってる? ありゃ人質に使うためだ。あいつらを監禁して盾に使ってやる。チクったら、殺すぞ?」

 「……外道が」

 俺は吐き捨てた。

 「……違和感は消せないな。そんな面倒なことをするなら、どちらにせよ俺様たちのことなど、勝負の後で消してしまえばいいはずだ。君はようするに、優秀な人間を集めて命がけの対面人狼をしたいというのが望みなんだろう? だったら、勝負の後プレイヤー達がどうなろうとどうでもいいはず。ならば殺してしまうのが無難な行動として落ち着くのでは?」

 ハンニバルが問いかける。ココは鼻を鳴らして

 「そんなに死にたいか?」

 そう返答するだけだった。

 「……やっぱり信用できたものじゃないな」

 俺は言う。しかしそれでも、こいつに逆らえないのも事実だった。一度逆らって、俺は片方の目をつぶされている。そのときの痛みに誓って、俺はこいつをつぶしてやると誓ってはいるが……しかし今のところ手立てがないのも事実だった。

 命掛けの最終ゲームとやらで、敵陣営となったこいつを処刑すれば溜飲は下がるのだろうか。まさか。俺は首を振る。他の奴を巻き添えにすることになるし、だいたい相手が誰であろうとも、ゲームの結果としてでも人を殺す行為に喜びなど覚えたくはない。だからこいつに対して溜飲を下げることがあるのであれば、それは社会的な裁きを与えてやるか、この場で一発殴るかのどちらかしかない。

 そして今この状況では、どちらもままならない。

 「うぁー。なんか眠い」

 そう言ったのはナナだった。

 「妙に眠いな……。……ちょっとふつうじゃない……。なにこれ」

 首を振り、今にも倒れ付しそうにふらふらとする。眠そうというよりは、倒れそうという表現が近い。俺は心配になって覗き込む。

 「おい、大丈夫か?」

 そのときだった。

 ナナのほうに向けた俺の首が、唐突に据わらなくなってかくんと下に向いた。はっとして無理矢理両手を机について体を起こすが、次の瞬間には凄まじい眠気が襲ってくる。

 「ようやく効いてきたか?」

 ココがそれを言い終わる前に、ナナの意識が切れた。がたんと音がすると同時に、頭をぶつけるようにして机に倒れ付す。

 みれば、他の参加者も同じように机に付していた。無事なのはココだけ。料理に薬を盛られていることは明白だった。

 「……何を……した?」

 「こっから次のゲーム会場までは遠いんでね。引率するのが面倒なんだ。だから荷物みたいに運ばさせてもらう」

 にやりとココは裂けるように笑んで

 「起きるのを楽しみに待ってなマコトくん。目を覚ましたら、命がけのゲームの開幕だ。勝てば生存が確定、負ければその場で首吊りか狼の餌……。素敵なゲームにしようぜ。ぎゃははははっ!」

 次回から最終章。

 ここまで読み進めてくれた人たちに感謝。


 本気で楽しんで同じくらい苦労して小説なんか書いてると、読者に対して願うことなんてのは一つだけなんですね。

 何のレスポンスもいらない。ただ最後まで読んで欲しい。

 見限られないように最大限の努力は作品で示します。どうか最後までおつきあいください。

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