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 Q今一番の悩みは?

 Aナイヤいうキャラの処理。

 三日目:昼パート


 旅人:マコト

 小間使い:ナナ

 青年:ハンニバル

 ならず者:メアリー

 老婆:コーデリア

 盗賊:マスケラ

 芸人:エイプリル

 羊飼い:ドナ

 掃除婦:エリザベス

×シスター:アイリーン

 学生:チサト

 技術者:アンナ

 殺人鬼:ナイヤ

×楽天家:ジョン


 盗賊:マスケラが無残な姿で発見された。 残り十一人


 「『小間使い:ナナ』が『霊能者』を宣言するよ。『シスター:アイリーン』は『人狼』だった」

 「『学生:チサト』が占い結果を宣言するよお。『老婆:コーデリア』は『シロ』、人間だね」

 そこが霊能者か……。俺はナナの方を見る。ナナはちょんとうなずいて

 「チサトさんとラインが繋がったよ。他に『霊能者』で出る人はいないみたい。これでチサトさんは本物の『占い師』か、たまたま『人狼』に『クロ』を当てた『狂人』『妖狐』『背徳者』ということになるね」

 「はん……まあ、そこは判定どおり『クロ』で納得だろうよ」

 ナイヤがけだるげに言った。

 「んでもってナナはおそらく九分九厘『霊能者』だ。今朝襲撃されたマスケラが『霊能者』ってのは多分ねーからな。アイツには『狩人』を臭わせる発言をして、自身を『人狼』の襲撃先にしようという動きがあった。奴は役職者を護るために動いた『村人』か、ワンチャンス襲われに来た『猫又』あたりだろうと踏んでたさ。少なくとも死ににいってたあいつが『霊能者』や『占い師』ってことはない」

 『狩人』を臭わせる発言というのは、俺に対して『狩人は宣言するべきか』と尋ねたことを刺しているのだろう。確かにブラフといえばあからさまなブラフだ。しかし……

 「どーかな? あいつの場合マジに『狩人』ってのもあるんじゃないの? あの天然ボケならやりかねいないよー」

 エイプリルが言った。

 「あの。いいですか?」

 と、そこでおずおずと手が挙がる。ドナだ。

 「昨日は伏せていましたが、あたしも『占い師』を宣言しますね。結果を言います、初日の夜の占い先は『殺人鬼:ナイヤ』さん、結果は『シロ』。二日目の夜は……『技術者:アンナ』さん。結果は『シロ』です」

 「あらん対抗が二人もいるのねぇ。逆風だわ逆風だけどきっと役に立ってみせるの。だってワタシはハンニバルちゃんのワイフだからねぇうふふふふふ。『掃除婦:エリザベス』が『占い師』を宣言しちゃうわぁん」

 エリザベスが泡を吹きそうに言った。

 「結果を伝えるわぁ。初日の占い先は『旅人:マコト』結果は『シロ』。二日目夜は『小間使い:ナナ』さんねぇ。結果は『シロ』よ。よろしくねぇ」

 三人が『占い師』宣言……一気にややこしくなった。

 「ここまでで『占い師』と『霊能者』の宣言は締め切るぞ。『占い師』はそれぞれ占い理由を述べてくれ」

 俺が言うと、最初に前に出たのはエリザベスだった。

 「初日の占い理由は別にいいわねぇ。ハンニバルちゃんはワタシのダーリンだから、占っても占わなくてもワタシの味方だって分かってたわぁん。だから占わなかった。当然よね。だからマコトちゃんを占い先に選んで『シロ』だったわ。『共有者』だったみたいねぇ残念だわぁ。

 二日目夜。ナナちゃんを占ったわぁ。二日目の議論の中であまり活発に意見している様子がなかったことが、占い理由よぉ。

 把握は早かったと思うわぁ。『アイリーン』さんを処刑する流れにも早い段階で賛成していた。でもなんだかそれだけって感じねぇ。グレー同士の探りあいにも参加していなかった気がしたし、目立たないようにしている印象があったのお。敵陣営を探す感じもしなかったしねぇ。だから占ったわぁ結果は『シロ』、『霊能者』ねぇ。二回連続で無駄なところに占いをつかっちゃって……へこむわぁ」

 次に遠慮がちな二人に発言を促すと、おずおずと前に出てきたのはドナだった。

 「え、えっと。初日にナイヤさんを占ったのは、その。この中で誰が一番怖いかって言ったら、ハンニバルさんとちょっと悩むんですけど……。この人かなぁって。それが理由です。『シロ』でした。

 二日目夜。占ったのは『アンナ』さん。ここを占ったのは、その、発言を抑えたり、途中から逆に多くしたりしてるのが気になったかなぁって。

 対抗のチサトさんと同じ意見で恐縮なんですけど、その、ここは前半あまり内容のある発言をしていないように見えたんです。なのに、チサトさんに『アンナさんは隠れようとしている』って指摘されてから、すぐに多弁になりました。

 『そこや。あんたはチサトちゃんの味方しすぎや。クレバーっぽいあんたなら、占い師候補なんてまずは疑ってかかって揺さぶりを入れそうなもんやけど。意図的にチサトちゃんを真に持っていこうとうようにも見えるで』

 こことか……すごく回りのことを良く見ていますよね? 論調もすごく上手で、納得ができて……。こんなによく見えて、喋れるのに、なんで途中まで隠れていたのかなって。そう思ったから占いました。結果『シロ』……役立たずですいません」

 最後に。チサトに視線を向ける。チサトは「うん」とうなずいてから

 「私が占ったのは『コーデリア』さんだよお。目立ちすぎないけど、すごく上手な人だよね。特におかしな発言もなかったけれど、ここが敵だったらいやだなって思ったから、占ったんだ。

 『本当にかまわないだぁか? 今回の配役だと処刑につかえるのは十三人から十一人から九人から七人から五人から三人から一人で、六回。そして敵陣営の数が、「人狼」三人「狂人」一人「妖狐」一人「背徳者」一人で六人。あんたを吊ったら、もう「妖狐」の占いによる殺害や「背徳者」の後追い、「猫又」襲撃などがない限り処刑回数が足りなくなるじゃないのかい。あんたが村なら、この窮地に落ち着きすぎている感があるぞよ』

 こことかすごいよね。二日目からもう終盤までのことを見据えてる。把握が早くて指摘も正確。揺さぶりも上手で的確だよね。だけど、全体の動きとして、多弁になりすぎず過剰には目立ちすぎない。どの陣営にいるとしても、初日の立ち回りとしてはすごく無難で上手な場所だ。変に強弁なだけの人よりも、敵だった時よっぽど危険な位置だと思う。早めに中身をはっきりさせておきたかったから占ったんだけど……『シロ』だった。頼りになる人みたい」

 ……臭う奴よりも、敵だった時に危険そうな奴を習った、ということか。チサトの占い理由には酷く納得できる。こういう方針の者が『占い師』であれば、先ほどの試合で村がトロイに大敗を喫することもなかっただろうに。

 「ふむふむ……あたしに『シロ』だぁか。ここは本物としたらなかなかできるだぁね」

 そう言ってコーデリアは諮るようにチサトの方を見る。チサトはどこか、嬉しそうな表情でにこりとコーデリアに微笑み返す。コーデリアは関心したような様子でうなずいた。

 ……なんだろう。今、この二人の間で意思疎通のようなものがあった。それも確実に。特に臭うという訳ではないが……。

 「おいマコト。提案があるんだが」

 と、そこでハンニバルが俺の方を向いて鋭い声で言った。

 「なんだ? 言ってみろ」

 「今日はエリザベスを切ろう。理由は気持ち悪いからだ」

 俺はその場でずっこけそうになる。

 「そういう訳にはいかないだろうっ! なに考えてるんだよ?」

 「……別に奴のことがうっとうしいというだけの理由ではない。昨日コーデリアも言っていたが、この配役は処刑回数六回の敵陣営六人で、猫又襲撃や占いによる妖狐の殺害、背徳者の後追いなどが起こらない限り処刑余裕が初めからゼロの村だ。早めに『占い師』を決め打つことに越したことはないだろう。決して奴がうっとうしいというだけの理由ではない」

 「二回言ったっ! 胡散くさいーい。絶対私情だー、私情入ってるよこの人―っ!」

 エイプリルがおもしろがるように言った。

 「あらあらあらハンニバルちゃん酷いわねぇワタシを処刑しようなんて酷いわねぇ。仮に処刑されたとしてもワタシは地獄の釜の底であなたのことを待ってるわぁはぁはぁはぁはぁ。絶対に逃がさないんだからぁ覚悟しなさよよぉおおお」

 「おぞましいことこの上ない……。内訳の条件が村陣営に不利である以上、序盤から大胆に攻める手もある。悪戯にグレーを処刑するよりも、三分の二の確率に賭けて『占い師』から一人切り捨てる決断もあるだろう。よってエリザベスを俺様は切りたい」

 ハンニバルは流暢にそう吐き出す。……こいつにしては主張に無理があるとは思うけどなぁ。

 「私情優先はよくねーぜ。まあ、とりあえず『霊能者』は本物だろう。だとすれば『人狼』は一人処刑できているんだ。今後処刑余裕が増えることを願って今日のところは『占い師』決め打ちは先送りでいーんじゃねぇの?」

 ナイヤが言う。エイプリルがいちゃもんをつけるように

 「えー。悠長すぎないかなー? 正直チサトあたりから『占い師』を切り始めても遅くないと思うよー? エリザベスでもいーけどさー」

 「なんでチサトさんなのかな? 信頼の高さで言うなら、わたしとラインが繋がってる分、そこが一番だと思うんだけど」

 ナナはぼんやりとして言った。エイプリルは「はわわーん」と肩をすくめてみせて

 「多分あんたは本物の『霊能者』なんだろうけどさー。でもラインが繋がったからって妄信はできっこないよ。だってさ、ここ敵陣営を探している感ゼロじゃん? コーデリア占ってるけどさ、占い理由が『上手だったから』『気になったから』それだけなのは臭いよ。『人狼』や『妖狐』に占いを当てようって意思のない奴なんて偽者に決まってるよー?」

 「早計やないの、それは」

 アンナが言った。

 「むしろ本物の『占い師』だからこそ、そういう独自な理由で占えるっちゅうもんやないの? 『誰にでも納得のいく占い理由』なんてのは、偽者だからこそ用意するもんなんとちゃう? 本物やからこそ、無難なところを占い先にして違和感を消す必要がなく、チサトちゃんなりの考えで占い先を選べたんとちゃうんかな? この子は昨日から『無理に敵を狙うよりは気になったところを潰す』いうとったしな」

 「その占い方針がそもそも理解できないんだよねー? 敵をあぶりだしてこその占い師じゃんさー? 敵陣営を探す気のない占いなんて切られても仕方がないんじゃないのー?」

 「究極、グレーの中からすべての『シロ』を占えば、残るすべての箇所を『クロ』にすることができる。きちんと信頼を取って『狩人』はんから護衛をもらい、長生きできる自信があるなら、『クロ』を急ぐ必要はなんもないんや。むしろ『人狼』や『妖狐』を占おうと急ぎすぎる『占い師』のほうが臭いとうちは思うけどな」

 アンナ……ここは相当にしゃべれるな。それだけ『チサト』の信用が高いというのもあるが。

 「……あのぉ」

 ドナがおずおずと手を上げた。

 「アンナさんは。その、『チサト』さんを本物『占い師』で見るんですか?」

 「……んー。分からん。あんたのことも信じてみたい気はしてるんよ。うちに『シロ』くれたしな」

 アンナは唇をゆがめながら言う。

 「三人宣言なら、内訳に『人狼』は一人騙りに出ているはずで……ほんで初日共有やから『本物』も混じってる。やから三人は『本物』『人狼』『何か』いうところやな。『占い師』三人のスケールは、本物っぽい順から『チサト』>『エリザベス』>『ドナ』で見てるで」

 そういうアンナに、ナイヤがどうでもよさそうに言及する。

 「へえ。ぼくは『チサト』>『ドナ』>『エリザベス』くらいで見てっけどな。エリザベスは占い場所が怪しいぜ。昨日の振る舞いだけを見るなら、『ナナ』なんてな占わずに吊る位置だ。できそうな感じのするコーデリアの色を確かめたチサトや、目に見えてくっせぇおめーを占ったドナと比べりゃ偽に見える」

 「そうかいな? なんとなくやけど、ナナちゃんからは役職持ってますオーラがすごい出てたと思うけどな。占い場所としては納得や。それに偽者の『占い師』が、わざわざ宣言済みの『霊能者』と『共有者』に『シロ』を出しながらカミングアウトするやろか? 二連続無駄占いでわざわざ信用を下げて出るなんて、偽者ならあえてやることやないで。

 それにな。ドナちゃんの発言で気になっとうのは、『あたし「も」占い師を宣言します』ちゅうて出てきたところや。ちょっと言い方が控えめすぎひん? 占い師は絶対唯一無二、たった一人だけの存在や。それを『あたしも』いうんは偽者にしかいえへん感じがしたなぁ」

 「ちょっと待つぞよ。二人とも盛り上がってるけど、『占い師』二番手候補の話をしているだけで、一番手候補はチサトで見てるってことだぁねか?」

 コーデリアが言う。アンナとナイヤはお互いにぼんやりとうなずく。

 「ここは『霊能者』とライン繋がってんだ。とりあえず今日は吊れない位置だよ」

 「せや。なんと言ってもその一点だけは目に見えた情報やしな」

 二人が続けて言うと、チサトは安心したように息を吐いた。

 「良かったぁ。二人とも私を本物で見てくれてるんだね。初日に『クロ』をひけてラッキーだったよお」

 そう言って照れ笑いを浮かべる。「うーん」と首を振ったのはコーデリアだ。

 「確かにチサトが本物の『占い師』に見える要素はいくつかあるだぁが、もっとも重要なのはなんと言っても『霊能者』とラインが繋がっていることぞよ。チサトが『クロ』を出したアイリーンを処刑し、『霊能者』が色を見た結果も『クロ』。なんと言ってもこれに尽きる。

 ……ただ。これって別に本物『占い師』じゃなくてもできること……じゃないのかい?」

 「え……?」

 チサトは面食らったように、不安げな表情でコーデリアを見た。

 「コーデリアさんは、私を本物で見ていないのかな?」

 「そういう訳じゃないだぁね。一番本物に見えるからこそ、疑っているぞよ」

 コーデリアは考え込むようにして言った。

 「まーおめーの言いたいことも分かるぜ。ここはなんというか『本物』っぽすぎる。見てくれがガキだから嘘吐けそうにないってのもある。疑心暗鬼したくなる気持ちも分かるぜ。盲信ほど危険なことはねぇしな」

 ナイヤはそう言って首を振った。

 「……チサトを本物で決め付けずに、二番手、三番手まで考えているアンナやナイヤは、推理する姿勢高めで見れるか?」

 俺はナナに向かってそうもちかける。ナナは悩ましげに「うーん」と首をひねって

 「この二人は、初日から生存意欲があるように見える。寡黙を理由に処刑されないように喋っているような……。ただいずれにしても、二人は『ドナ』さんの『シロ』だから、彼女の真を切るのでなければ処刑できないね」

 それから考え込むように目を伏せて

 「……ただ、この二人が両方『村人』っていうのは、ちょっと考えられないかな?」

 「その理由は?」

 俺が尋ねると、ナナは困った風に

 「上手に説明は、できないの。勘のようなものかもしれないね。これだけ状況が見えていて議論をリードする二人が、二人ともただの『村人』っていうのは……。もちろんもしそうだとすれば、それに越したことはないんだけどね」

 その悩ましさはよく理解できる。そう簡単には人を信用できないのが、このゲームだ。

 「今日『占い師』を決め打つのは難しいかもしれない。グレーは特に考察があるならどんどん出してくれ」

 俺はそう発言を促す。

 「ううーん。私視点だともちろん、早めに対抗『占い師』を切ってもらいたいところなんだけど。……そうもいかないのかな」

 チサトは少し残念そうに言った。

 「このゲームは処刑回数六の敵が六人。必ずしも余裕がある訳じゃないから、できることなら今日。私が『妖狐』を占える前提だとしても、明日あたりには決め打ってね」

 懇願するようにそう言った。

 「決め打つ前におめーが襲撃されちまうってこともあるんじゃねーのかな? 『チサト』―『ナナ』のラインは対抗にとっちゃ相当厄介なはずだ。信用勝負を諦めて襲撃が来ることもありうるっつーか、ふつうはまずそれを危惧しねーのか?」

 探るような目で、ナイヤはチサトを見詰める。チサトはおずおずと

 「確かに襲撃は怖い。でもきっとね。『狩人』の護衛は獲得できてるんじゃないかなぁって、思うの。人狼はチーム戦だし、疑うゲームじゃなくて信じるゲームだからね。だから、私は『狩人』さんを信用するよ」

 堂々と口にするその姿は……一見すると本物占い師のそれだ。しかしなんだろう、この子の信頼は……どこか恣意的な。作られたもののような……。

 うがちすぎか?

 「チサトが本物にせよ偽者にせよ、『狩人』の護衛はそこにいっていると考えるのはまあ妥当だろう。

 『占い師』の真贋がついていない『狩人』にしても、他二人の占い師はあまり護衛したくない位置だ。本物だとしても『チサト』と比べれば信用で劣る以上は、襲撃させることで『本物』と確定させるのも戦略の内。『占い師』の誰かが死亡すれば、当然残り二人を偽者として処刑できるからな」

 ハンニバルが言った。ナイヤが表情を変えずに

 「おいおいハンニバル。それは露骨に護衛先誘導って奴じゃねぇのかい? ただのグレーでしかないおめーがそんなことをするのは、いささか印象がよくねーぜ。チサトが偽だと知っていて、本物から護衛をぶらそうとしてるんじゃねーの?」

 「俺様はチサトを本物で見るのが今のところ妥当だと考えている。それがもしも外れていて、別の本物が処刑されてもまあかまわんと思える程度にはな。別に本物がいるなら、そこを襲撃させることでチサトを偽で見れるようになる。逆にそんなことが起こりでもしなければ、チサトの信用は揺るがないだろうとな」

 「そっかそっかなるほどわかったぜー。それじゃぼくは、チサト以外の『占い師』が襲撃されたらハンニバルを敵陣営で見ることにしておくよ」

 淡々と吐き出される言葉には、この中にいる誰のものとも違った妙な力がある。無気力そうでいて、妙に良く通るのだ。

 「ハンニバルの態度は確かにちょっと気になるところだぁね。チサトを本物で見すぎてるというか……あんたにしちゃちょっと視野が狭いんじゃないのかい? 正直あたしはあんたのことを、今まで一緒に戦ったメンバーの中で一番の論客としてみてたんだぁが」

 コーデリアがいぶかしむように言う。ハンニバルは「ふん」と息を吐いて

 「今ある状況の中からもっとも考えられる可能性を主張しているだけだ。

 当然ながら、チサトが偽というのも可能性としてはあるだろう。チサトが『狂人』や『背徳者』や『妖狐』で、『人狼』にたまたま『クロ』を当ててしまったパターン。或いは、『人狼』が仲間の『人狼』を切り捨ててまで信用を取りに来たパターンなどという可能性も、まあゼロパーセントではないはずだ。

 だが前者は単純に確率的に小さい。そして何より、チサトは昨日の時点で『霊能者』とラインが繋がることを、あらかじめ知っていたような発言がいくつかあった。これは彼女が『人狼』以外の騙りなら言いえないことだ。

 そして後者、『人狼』が仲間の『人狼』に『クロ』を出したパターン。まあこれが否定される根拠は単純に、単純に初手身内切りなどという乱暴かつハイリスクな戦略をとる『人狼』に、チサトが見えない。命のかかったこのゲームで初手身内切りなど提案できるものが人狼陣営にいるのなら、そいつはとんでもない蛮勇か、愚者だ」

 ……なるほど。酷く納得ができる。ハンニバルとて、ただの視野狭窄でチサトばかりの本物を追っていたのではないということか。こいつはやはり切れる。切れるし、その論調には強い説得力がある。

 「ふうむ。確かにハンニバル、あんたがちゃんと考えて発言してるってことはわかっただぁね。……その上で、あたしはあんたの視野狭窄を指摘するぞよ」

 コーデリアが言った。ハンニバルは「ほう?」と鋭い視線を向ける。

 「今の話。確かに説得力があるだぁが、チサトが初手で仲間に『クロ』を出した『人狼』であることを否定する根拠。これはあんたの意見にしては随分と脆弱だぁね。

 結局。あんたの勝手な印象で、『チサトは偽でも初手身内切りという戦法は取らない』と言っているように見えるだぁね。今回は『人狼』の数が三人もいる、一人くらいは身内切りに使ったとしても奇策の内に入るぞよ? ようは、『占い師』で出た一人を信用勝負に勝たせて、生き残らせればいいんだから。戦法としてまったく『ない』とは言い切れないじゃないのかい」

 「まったくないとは言い切れない。だがそれだけだ。現時点でチサトがもっとも本物として見やすいということに違いはない」

 「……ま。その一点についちゃ。ぼくも賛成だな」

 そう言ったのはナイヤだった。

 「ま、今んとこグレーから指定ってのが一番安定しそうではあると思うぜ。誰が本物の可能性もきれねぇよ、今のところな」

 「……ナイヤ。おまえも人狼ゲームにはまともに取り組むんだな」

 俺は言った。ナイヤは目を閉じて

 「気まぐれだ。で? どうするんだよ『共有』、早くきめねぇと爆破すんぞ?」

 爆破……随分とおだやかではないな。俺は苦笑した。

 「今日は……そうだな。占いを切るか、グレーから指定するか……」

 正直チサトが一番本物に見えるが、それでも、決め打ちは一日でも引き伸ばしたい。猫又襲撃や背徳者の後追いで処刑回数が増えるという可能性も、十分にありうるからだ。

 「……ナナ。どう思う?」

 つい、隣に立っていたナナを頼ってしまう。ここはほぼ本物で確定した『霊能者』、俺と同じ確定村陣営の立場。

 「うーん。そうだね」

 ナナは気楽そうな表情でとりあう。こいつには最初のゲームから助けられてばかりいる。

 「今日、無理に『占い師』を決め打つ必要は、ないと思うよ? まだ情報が少なすぎるもん。誤って本物の『占い師』を処刑しちゃったら、その時点で勝ち目は相当薄くなるからね」

 「……そうだな。よし、じゃあグレーから一人、処刑先を指定する。誰からも占われていない完全グレーなのは……」

 俺が指を折って数えていると、それよりも先にナナが手を突き出して言った。

 「ハンニバルくん、エイプリルさん、メアリーさんの三人だねっ!」

 それからナナは誇らしげな、手柄を示そうとする子供のような表情で

 「わたしのほうが早かったね」

 そう言った。

 俺は苦笑する。こいつといると、気分を楽にしてくれる。

 「よし。その三人からなら……まあ指定先は決まったようなものだな。『メアリー』」

 俺が呼び止めると、この日一言も発言していなかったアルビノの少女は、目をぱちくりさせながらこちらをむいた。

 「はあ。何か御用でしょうか?」

 十三階段に腰掛けて、こちらに興味なさそうな様子で髪の毛をいじっているメアリー。神経の太さで言えばこいつに勝るものはそういないだろう。こいつが一番考えていることが読めなくもあるし……指定先としてはここ以外にない。

 「『ならず者:メアリー』に宣言する役職はあるか?」

 「ありません。ただの『村人』ですわ。ふぁああ」

 そう言って欠伸をし、伸びをする。

 「正直『占い師』が三人も出てきたあたりで、考えるのが面倒になりましたの。さっさと処刑してくださいな」

 「うわーっ! なにこのシラガやる気なさすぎるよーっ!」

 エイプリルはそう言って頭を抱える仕草をする。俺はあきれて苦笑するしかなかった。

 「……おまえは本当にフリーダムだな。なら、今日の投票先は『メアリー』とする」

 俺が言うと、ナナはちょんとうなずいて

 「そうだね。敵陣営を狙うなら『エイプリル』さんかなって思うけど、議論に参加して来ない位置があるなら、そっちを優先したほうがいいと思う」

 そう言ってもらえると安心できる。俺は続けて

 「占い先は、予告したいものがいれば投票で予告してもかまわない。もちろん、噛み合わされるリスクも考えた上で行ってくれ」

 「……そうですね。今のところ、チサトさんに信頼が集まってるみたいですし。信頼を回復する為に、予告投票も考慮に入れてみます」

 そうおずおずと言ったのはドナだった。

 「今なら、『背徳者』も生きていると思いますので……。仮に噛み合わされても、後追いがあればあたしの占いによるものとわかるはずです。……『妖狐』を狙うときは予告しますね」

 「そうねぇワタシも参考にしようかしらぁ。でもねぇ誰がキツネちゃんかしらねぇ迷うわぁわからないわぁ。ねぇどう思うハンニバルちゃんねぇねぇ」

 エリザベスがそう言ってハンニバルに言い寄る。ハンニバルは「知らん」と首を振り

 「……君がどこを占おうが、俺様の知ったことではない。だがこれだけは言っておく。君が仮に本物なのだとすれば、自分の考えで占い先を選ぶことだ。俺様の言うとおりにしたからといって、俺様は君を信頼するわけではないからな」

 ハンニバルは吐き捨てるようにそう言った。エリザベスは「しびれるわぁ」と頬に手を当てる。

 「今日はメアリーさんだねえ。あまり敵陣営だとは思わないけど、わかったよ」

 チサトはちょんとうなずいた。

 「チサトは、『妖狐』は狙わないのか?」

 俺が尋ねると、チサトは「うん」といって

 「まだグレーを狭めていく段階だと思うし……。それに私には他に当てがあるんだ」

 「当て……? なんだ、それは?」

 俺が尋ねると、チサトは無邪気に微笑んで言った

 「それは秘密。えへへ」

 その微笑みにいぶかしいものを感じながらも……それ以上追求することを俺はしなかった。特に邪気は感じなかったし、それができる程の時間も残されていなかった。

 さまざまな情報が飛び交った三日目も、もう終わる。タイムリミットと共に、俺達は疑惑を胸に抱きながら投票室へとつれられていった。


 三日目:投票パート


 0『旅人:マコト』→『ならず者:メアリー』

 0『小間使い:ナナ』→『ならず者:メアリー』

 0『青年:ハンニバル』→『ならず者:メアリー』

 10『ならず者:メアリー』→『技術者:アンナ』

 0『老婆:コーデリア』→『ならず者:メアリー』

 0『芸人:エイプリル』→『ならず者:メアリー』

 0『羊飼い:ドナ』→『ならず者:メアリー』

 0『掃除婦:エリザベス』→『ならず者:メアリー』

 0『学生:チサト』→『ならず者:メアリー』

 1『技術者:アンナ』→『ならず者:メアリー』

 0『殺人鬼:ナイヤ』→『ならず者:メアリー』


 ならず者:メアリーさんは村民会議の結果処刑されました。

 今回は主人公が判定役で情報がぐっと少ないし、結構複雑で推理が難しくできていると思う。

 ある人が言うには『人狼リプレイは読み手の3~4割が核心に至るくらいがちょうどいい。わかりすぎてもわからなくてもつまらない』のだそう。

 これからどんどん情報が増えますが、誰が敵陣営かとか、誰が真占いかとか、予想できた人はどうぞ感想欄へ書いてみてください。確定した情報はないですが、発言を見れば何人かは当ててくれるようにはしているつもりです。

 

 ちなみに現在の状況


 人狼3狂人1妖狐1背徳者1占い師1霊能者1狩人1猫又1共有者2村人2


 占い師

 チサト:アイリーン●―コーデリア○

 ドナ:ナイヤ○―アンナ○

 エリザベス:マコト○―ナナ○

 霊能者

 ナナ:アイリーン●

 共有者

 マコト+初日犠牲者

 襲撃:ジョン(初日)-マスケラ

 処刑:アイリーン―メアリー

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