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 日刊推理ジャンル一位をいただきました。俺のような底辺作者には一時の夢でも最高だぜ。

 みなさまありがとうございます。

 二日目:夜パート


 『初日』に連れられてナナとともに個室へ移動する。ナナは沈んだ様子で切り出してきた。

 「よくないスタートだね……。いきなり『狂人』を失っちゃうし。思わずわたしが『占い師』で出ちゃったけど……」

 「あれで正解だったと思うぞ? ナナは、『ハンニバル』が『共有者』だと見抜いたからこそ、出たんだろう? 単独『霊能者』に『クロ』出しの『ドナ』の信用が下がると見越して……」

 実際に、『ドナ』は偽者で確定されられたわけだから、『ナナ』が『占い師』で出なければ『メアリー』が本物で確定してしまっていた。当然そこは『狩人』に護衛されているだろうから、手を出すことすらままならない。

 「おまえのお陰で、『狂人』を失った上『占い師』が確定してしまう最悪の状況は回避できた。それに……。ドナはよくやってくれた。他の誰にあんな演技ができるんだ。今日ドナに投票できなかった数人は、確実にドナを『妖狐』で見ているはず。そいつらにはナナが本物に見えているはずだ」

 ドナが『妖狐』だと思われている以上は、『メアリー』が本物とは考えられないはずだ。そこはドナが醜態をさらしてまで獲得してくれた『ナナ』の信用と言える。あいつのがんばりに応えるためにも、俺はなんとしても『ナナ』を本物に持っていかなくてはならないだろう。

 「でもだとしたら……やっぱり『トロイ』くんが危険だね。どうする?」

 「襲撃するのかってことか? 確かにそうしたくてたまらない。だが、あれだけ雄弁に『ナナ』を偽で主張し、俺が人狼陣営であることまで見抜いた『トロイ』がいきなり襲撃されたら、流石に怪しまれるんじゃないか?」

 「……そうも言ってられない、と思うよ? あんな猛毒、いつかは噛まなくちゃダメだ。それなら早めにしたほうがいいよ」

 「噛まずに『クロ』を出して処刑させるのはどうだ?」

 「どうかな? トロイくんが、『クロ』を出してだまって処刑されてくれる人だと思えないし。それに一番怖いのは、『ハンニバル』くんが伏せているもう一人の『共有者』が、彼であった場合なんだよね。それだけで、わたしの偽が確定してしちゃう」

 「そうだな……。じゃあ、一日待ってみるのはどうだ? 明日トロイに『シロ』を出して、その夜にトロイを襲撃する。これなら、昼に『ナナ』が『シロ』を出したのを見て、夜に『人狼』が『トロイ』を噛んだことになる。別の人狼が、村人で確定したトロイを襲ったように見えて良い感じだろ?」

 「あ。すごくいいと思うよ、その案。ただやっぱり、一日とは言えトロイくんを放置するのは、ちょっと気がかりではあるよね」

 「一日くらいなら、俺がなんとか押さえ込んでみる」

 そういうと、ナナは目をぱちくりさせて

 「できるの? ……頼りにしていい?」

 正直そんなに自信はなかったが、そういわれてしまうと強くうなずくしかない。勝つ為にはやらなくてはならないことだったし、それに、ナナを不安にさせたくなかった。

 「ああ。俺は前のゲームで、あの手ごわいオーヴェンにだって言い合いで勝ったんだ。なんとかしてみるよ。……それで、トロイは明日に襲撃するとして、今夜の襲撃先はどうする?」

 なんと言ってもそこが肝心なところだ。確実にこちらにメリットのあるところを襲撃しなければならない。

 「大まかに、二つ戦略があると思う。それは今夜の襲撃先だけの話じゃなくて、このゲームを通してわたし達が取る戦略に繋がるんだけど……」

 「それっていうのは?」

 「九部九厘本物の『占い師』である『メアリー』さんをいきなり襲ってしまうか、それ以外を襲うかってことだね。

 『メアリー』さんを襲撃するのはいわゆる『占い即噛み』戦略。村にとって一番重要な戦力をいきなり削いでしまうことで、わたしたちが有利に立つことだ。

 反対に、それ以外を襲撃先に選ぶのは、『信用勝負』戦略。これは『占い師』を消してしまうんじゃなく、信用を落として乗っ取ってしまう戦略だよ。今回でいうと、『メアリー』さんよりわたしの信用が上回るように仕向けて、『占い師』の役割破壊を狙う戦略だね」

 「……それなら」

 と俺は少し間を置いて、しかしほとんど即答気味に答えた。

 「信用勝負を挑もう。『ナナ』を『本物』占い師に見せかけるんだ。だから当然『メアリー』は襲撃しない」

 ドナががんばってメアリーの信用を下げてくれたんだ。これを活かさない手はない。

 「うーん」

 俺の意見を聞いて、ナナはしばらく下を向いて沈黙した。思案気で、どこかしら暗い表情だ。しばらくそうしてから首を振り、ナナは「うん」と小さくうなずいて

 「そうしようか。じゃあ、わたしも本物に見られるよう、がんばってみるね……。それじゃあ、代わりにどこを襲撃するかというと……わたしは『ハンニバル』くんがいいと思う」

 「ハンニバルか……。『霊能者』のアイリーンよりもか?」

 「そこには『狩人』の護衛が入っている可能性もあるからね。『共有者』は二人いるから、片方を抜かれても、村に然程損失はないと考えるのがふつう。だから、わたしか『メアリー』さんでなければ、『狩人』は『霊能者』を護りに来るはず。『ハンニバル』くんを襲うのは、襲撃失敗が出にくいことと、あと、彼みたいな優秀な人を放っておくのは、危険だから」

 「……悪くないな。ただ、『狩人』がどこにいるのか分かれば、すぐにでもそこを襲いたいものなんだが」

 「『狩人』は……そうだね。いるとすれば『コーデリア』さんじゃないかなと、わたしは思ってる。そこは同じくらい『妖狐』もありうる気もするけどね」

 「コーデリアか。……どうして?」

 「えっとね。発言を見る限り、コーデリアさんは把握が早くて、人狼ゲームをよく理解している人に見える。その割には主張は全体的に中庸気味で、なんだか目立たないようにしている風に思うんだ。潜伏意思が高いっていうのかな。目立たないようにするのは、見つかったらまずい『狩人』や『妖狐』らしい動きだよね?」

 「俺はそこまで発言を追えていないが。確かにわかってそうな中でも『トロイ』や『エイプリル』と比べてちょっと後ろに引いてる印象はあったな。『マスケラ』や『エリザベス』はどう思う?」

 「エリザベスさんはゲームについての発言をまったくしていない位置。前回の『メアリー』さんみたいに、処刑対象に選ばれやすい位置だね。わざわざ襲いにいく必要はないよ。マスケラくんも似たり寄ったりって感じかな」

 「『狩人』目で噛みに行くなら『コーデリア』っていうのは分かった。だがコーデリアはあくまでグレーだし、もし『狩人』でなかった際には、何の見返りも得られない場所に貴重な襲撃チャンスを使ってしまったことになる」

 「うん。だから安全策は『共有者』のハンニバルくん襲撃だと思う。信用勝負に邪魔な『霊能者』のアイリーンさんを襲うのでももちろんいいけど、それだと護衛成功される危険もある。なによりも、ハンニバルくんの冷静な進行は厄介だから」

 「それでいいと思うぜ。あいつの有能さは良く知っている。戦力になる村役は早めに殺していこう」

 「よし。じゃあそうするね」

 そう言ってナナはこぶしを握る。俺は忘れないように電話機を手にとって、襲撃先に『ハンニバル』を指定した。これで明日の朝にはハンニバルはゲームに参加できなくなっているはずだ。

 ここでの話し合いには、俺達のとっていく戦略を決める以上に重要な意味がある。それは、意見を一致させることで俺とナナとの結束を高める効果だ。

 人狼ゲームにおいてお互いを完全に信じあえる役職は数少ない。村人である限りにおいて、誰が敵なのか分からない状態でゲームを進めることになるが、俺達『人狼』だけはそれが違う。この絆こそが、俺達の武器だ。

 「人狼ゲームはね。村人陣営だと自分達の中に紛れ込んだ魔物を打ちあぶって滅ぼすゲームだけれど。人狼陣営に立ってみると、自分達を殺そうとする多数派に、少数派が立ち向かうゲームになるんだ」

 ナナは言った。

 「わたし達はきっと勝つよ。これからどんな逆境に置かれても、諦めずに食い下がろう。もう周りは敵だらけだけれど、わたし達だけは味方同士だから」

 「ああ」

 俺はうなずいた。

 「勝って生き残るんだ」


 三日目:昼パート


 旅人:マコト

 小間使い:ナナ

 物乞い:トロイ

 青年:ハンニバル

 ならず者:メアリー

 老婆:コーデリア

 盗賊:マスケラ

 芸人:エイプリル

×羊飼い:ドナ

 掃除婦:エリザベス

 シスター:アイリーン

×楽天家:ジョン


 占い師 

 ドナ:アイリーン● (撤回:妖狐CO)

 ナナ:マコト○

 メアリー:ドナ○


 霊能者 

 アイリーン


 共有者

 ハンニバル+?


 処刑:ドナ

 襲撃:ジョン


 犠牲者はいませんでした。 残り十人


 ……なっ。

 俺は絶句した。『ハンニバル』が生きている。襲撃失敗……? 『狩人』に護衛されていたのか……。

 よく『ハンニバル』を護衛できたものだ。こんなことなら『アイリーン』を襲っておくべきだったといえるが、しかし言っても仕方がない。『アイリーン』は護衛されているだろうと読んでの『ハンニバル』襲撃、これが読まれていたと考えるのが妥当。俺達は『狩人』との心理戦に負けたということになる。

 「護衛成功だぁねか」

 コーデリアがにやにやしながら言った。

 「それとも『妖狐』が襲撃された可能性もあるだぁね。その場合、『人狼』はおおよそ『グレー』から『狩人』を探しに噛んできたってことになるぞよ。ま、とはいえ、あたしは今日の犠牲なしを素直に『狩人』の護衛成功で見ておくんだぁね」

 「はぁあーん? どーせ『妖狐』は『ドナ』だってば。考えるまでもなくこの平和は護衛成功の方だよ。『占い師』を護衛していた『狩人』は出てもいいんじゃない? 護られていた方は少なくとも『人狼』ではないでしょ?」

 エイプリルが言った。「いや」ハンニバルは首を振って

 「スタート時点での人数が偶数なら、一回の護衛成功で処刑回数は増えないからな。『狩人』は護衛先にかかわらず伏せておけ。それよりも、『霊能者』と『占い師』の結果を先に聞こうか」

 「……『シスター:アイリーン』が霊能結果を宣言するの」

 アイリーンが落ち着いた声で言った。

 「……『羊飼い:ドナ』は『シロ』なの。少なくとも『人狼』ではないの」

 「ふん。まあ『シロ』しか出ないだろうな。あれが『妖狐』にせよ『狂人』にせよ」

 ハンニバルが腕を組んで言った。

 「それじゃあ。『小間使い:ナナ』が占い結果を宣言するよ。『トロイ』くんは『人間』だった」

 ナナが先んじて占い結果を開示、続いてメアリーが

 「『ならず者:メアリー』が占い結果を宣言します。そちらの背の高い女性、エリ……なんとかベスさんでしたか? 結果は『人間』でしたわ」

 メアリーは笑みを浮かべながら言った。名前を忘れられていたエリザベスは不服そうに言う。

 「ワタワタワタシはエリザベスよぅ忘れないでねぇ。でもシロを出してもらえたのは嬉しいわ信用しちゃおうかしらぁうふふふふふ。ねぇええハンニバルちゃんどう思う?」

 「知らん。だが君に『シロ』だと聞いてがっかりだ。それはともかく占い理由を聞こうか」

 ハンニバルが冷静に話を前にすすめる。ナナはちょんとうなずいて

 「『トロイ』くんを占った理由だけれど、それはすごく多弁で誘導の多い位置だったからだよ。

 敵でも味方でも、色を確認しておかないと怖い人だよね。すごく喋れて頭の回る人なのは知っているけれど……わたしを強く『偽者』で押してくるのは、やっぱりどうしても気になったな。『本物』の『占い師』であるわたしの信頼を落とそうとする動きが敵陣営に見えての占い。結果は『シロ』。わたしを偽で推すのはただのミスリードだったみたいだね」

 「僕に『シロ』かぁ。ふぅん」

 トロイはなにやら合点したように言った。

 「ありがとう。とりあえずはお礼を言っておくよ」

 「どういたしまして」

 ナナはぼんやりした顔で返事をする。

 「まあ納得しておこう。では次、メアリー」

 ハンニバルに声をかけられ、メアリーはそのアルビノの白い髪を弄る手を止めた。

 「はあ。何か御用ですか?」

 「決まっている。君の占い理由を述べてくれ。『占い師』として信用を稼ぐ為には、必要な行為だ」

 「占い理由……ですか?」

 メアリーはうなるようにして

 「正直そんなの考えてきてないんですの。そうですね、いつもどおりこれで決めましたわ」

 言って、ポケットの中からあみだくじの描かれたを取り出す。

 ……おいおい。あっけにとられたような空気が全体に流れる。紙に書かれたあみだくじの糸は、『えりなんとかべす』と描かれたところに確かに落ちていた。

 「……ふざけているのか?」

 ハンニバルは引きつった表情で言った。

 「ふははははっ! 適当すぎるぞっ! 何も考えていないのであるっ!」

 マスケラが哄笑する。それはおまえも酷く変わらないよな、という突っ込みはこらえておいて。俺はここぞとばかりにメアリーの信用を下げる発言をする。

 「こんな奴が本物の『占い師』なのか? 敵陣営を探す気がなさ過ぎるだろう?」

 「敵陣営を探す意欲? あるに決まっているでしょう。わたくしは本物の『占い師』です。よって、村の皆さんに信頼していただく為に、『人狼』さんか『妖狐』さんに当たれと念を送りながらあみだくじをしましたわ。『えい』って」

 メアリーは悪びれた様子もなく、念を送るように手をあみだくじの紙に向ける。

 「ですがそうですわね。エリ、エリなんとかベスさんを占った理由ですか? それがあったほうが皆さんに信用していただけるというのなら、今からそれらしいものを考えて見ます。少々お待ちくださいませ」

 言って、メアリーはその場で額に手を当てて「うーん」とうなった後

 「ではこういうことにしましょう。わたくしが『エリザベス』さんを占ったのは、そこがゲームについての発言をまったくしない、目立たない位置だったからですわ。

 『占い師』になった以上は、『クロ』をひくなり『妖狐』を占いで死亡させるなりして、村に貢献し皆さんに信用していただきたいものです。そこからいうと、もっともわたくし達の仲間に見えなかったのがエリザベスさん。ここは昨日から発言が薄く村の皆さんにご自身の考えをまったく落としていません。人狼や妖狐を探そうとしないのは当然怪しいです。だから占いましたが結果『シロ』、生きているということは『妖狐』でもなかったということですわね」

 「ふーははははっ! まったく納得いかんなぁ。占い先がエリザベスだと? そのような役に立ちそうにない者は、占わずに処刑してしまうべきところだろうっ!」

 マスケラが哄笑交じりに言った。

 「いやおまえも似たり寄ったりだからな!」

 俺は思わず突っ込んだ。

 「ふうーん。シラガとカタワの占い理由比べてみたら、まあカタワの方がやる気ありますよー感じがするねー。そもそもボクはドナを『妖狐』で見てるから、そこ占ってたシラガは偽でしか見てないんだけどねー」

 エイプリルが言った。俺は目をむいて

 「おいっ! そのカタワってのはナナのことか?」

 「あれれー。ひょっとしてマコトくん、おこなの? やさしー。でもさーカタワはカタワじゃん、腕一本ないんだしさ?」

 「言って良いことと悪いことが……」

 「いいよマコトくん。議論に戻そう?」

 ナナは落ち着いた声で言った。

 「シラガとは失礼ですわね。侮辱きわまりますわ。ぷんぷんですわ」

 メアリーが憤慨を感じさせない口調で言った。申し訳程度に頬は膨れていたが。

 「……別に『メアリー』の占い先は悪くない気がするの。占い理由も、後付でさえなければ納得できるの」

 アイリーンが言う。「はぁあーん?」エイプリルが首をかしげて

 「なにいってんのかなーガキんちょ。マスケラと同じ意見言うのはイヤだけど、でも『エリザベス』とか占わずに吊る位置じゃーんさぁ」

 「……確かにあまり戦力になるようには思えないの。けれど、二日目の発言を見た限りだと、『マスケラ』にも同じことが言える気がする。つまり指定位置が二つあるの。今回のゲームは処刑回数が……十一人から九人から七人から五人から三人から一人で、五回。処刑しなくちゃいけない敵陣営が四人。余裕が一つしかない以上、どちらかを占って『シロ』を確定させることには意味があるの。もちろん、色が見えにくい『エリザベス』が、敵陣営である可能性も十分にあったの」

 アイリーンは淡々という。エイプリルは「ううーん」と首をかしげて

 「あんたガキんちょの癖に口が立つねー。でもさー、他に占い位置はいくらでもあったと思うけど? 喋れそうなのに潜伏臭がする『コーデリア』でもいいし、別にボクでもよかったよねー。そもそもそこのシラガをかばう理由ってあるのかな? あみだくじで占いとかやる気なさすぎるよねー?」

 ……どうもこの子はヘイトを稼ぎやすいタイプの子のようだ。だがメアリーの信頼を落としてくれるのは、ありがたい。

 「メアリーの態度はともかく……あたしは『ナナ』の占い先がちょっと気になってるだぁね。

 正直、トロイを占っても『シロ』しか出ないのは分かっていたんじゃないのかい? なんというか、ここは占われるのを微塵も嫌がっていない感じがするぞよ? あんな前衛に露出していくような『妖狐』はいそうもないだぁね。『人狼』だとしても、吊り余裕が一つあって霊能者がいる以上、真占いから『クロ』をもらうのは避ける為に目立たないようにするはず。それなのにあんなに雄弁に振る舞えるあたりは『村人』目。占い先としては、ちょっとナンセンスなんじゃないのかい?」

 コーデリアが指摘する。なかなか手ごわい指摘だ。俺は思わずナナの方を見る。ナナはしかし、頼もしい。落ち着いた表情でこう弁解した。

 「わたしはそうは思わなかったな。前に出て目立つことで『村人』に見せようとする敵陣営ということだってありえたよ? 確かに『妖狐』はなさそうだと踏んだけど、それ以外なら全然ありえると思った」

 「アグレッシブな人外だと疑ったってことだぁか? それも一理あるだぁが、それなら占い理由を宣言した時に主張すべきじゃないのかい? あんたの『トロイ』占い理由は『自分を疑っていたから』に集約される。あんたが本物なのだとしても、それを理由に『トロイ』を占うのは短慮ぞよ」

 「実際に『シロ』しか出なかった以上は、甘んじて受け入れるしかない指摘だね。けれど、わたしは本物だよ」

 ナナはぼんやりとそう言って、それ以上は食い下がらなかった。

 「俺は『トロイ』みたいに雄弁なやつは、シロだろうとクロだろうと、占って色を見ておきたい場所だと思うけどな。それもできるだけ早期に。シロなら頼もしいし敵なら怖い、そういう奴だ。別に占い先としては納得だと思うぜ」

 俺はそう言ってナナの信頼を回復させる。トロイはにやにやとしながら

 「随分とかばうねぇマコトくん。そんなに自分に『シロ』を出してくれた『ナナ』さんが、本物らしく見えるのかな?」

 ……随分と、とは。これまた大げさに言ってくれる。しかしここで下手に『かばったわけじゃない』などと弁解すると、後で厄介だ。俺はできるだけ動揺しないように

 「俺は『ドナ』を『妖狐』であったと思っているからな。態度からしても、『メアリー』が本物には思えない。自分に『シロ』を出してくれたからって訳じゃないが、本物『占い師』は『ナナ』だと踏んでいる」

 俺が言うと、アイリーンが淡々とした様子で

 「……『メアリー』のいい加減な態度は、本物であるからこその余裕だとも言えるかもしれないの。……本物だからこそ、信用を取りに来て欲しいところだけれど」

 ハンニバルはそれを受けて

 「占い真贋については、今のところ決め打つつもりはない。そもそも吊り余裕が一つ余っている以上、まだ決め打ちが必要な段階でもあるまい。今日はグレーから一人、投票先として指定させてもらう」

 「ふーはははっ! なるほど、怪しい奴を処刑するのだな? よかろう、我輩の眼力によって敵陣営をあぶりだしてくれようっ!」

 マスケラが張り切った様子で言った。ハンニバルはそれを気にした風もなく

 「それは頼もしいな。ところでマスケラ、君に宣言する役職はあるか?」

 「ふむ? 我輩はなんの能力も持たない村人だが? それがどうしたというのだっ!」

 「そうかよく分かった。では今日は全員が『マスケラ』に投票するのは決まりとして、各自別のことを話し合ってくれ」

 ハンニバルは冷静に言った。「は、ハンニバル?」マスケラはうろたえたように言った。エイプリルは愉快そうに

 「うわーい。すっごく納得な指定位置だーっ!」

 そういいながらニコニコ笑った。

 「あはは。よかったねマコトくん、シロをもらっておいて。とりあえず今日は僕たちは処刑されずに済むようだよ?」

 トロイがにやにやとしながらこちらを見る。俺は何も言わずに首を振った。

 「まあいいや。それじゃ残りの議論時間もそう多くある訳じゃない。僕から一つ、今夜の占い先について誘導しておくよ。

 『占い師』を宣言しているお二人……特に『メアリー』さんなんだけど。今夜は『エイプリル』さんあたりを占ってもらえないかな? 死体なしが出た以上、今十人残っているから、『妖狐』を占って殺してしまっても、処刑回数は減らない。明日の人数が八人だろうと七人だろうと、処刑に使える回数は三回で同じだからね。だから積極的に『妖狐』目を狙って占って欲しいんだ」

 「ちょっとー? 『妖狐』目でボク占いなんてありえないよ。どうしてボクを疑っちゃってるわけ?」

 エイプリルが不服そうに言った。トロイはとりなすように

 「いや君だけを疑っているわけじゃないよ。ちゃんとエイプリルさん『あたり』と言ったじゃない。

 まあ君のことも十分疑っているんだけど。あのね、『エイプリル』さんは今朝から一貫して『ドナ』さんを『妖狐』で見る発言をしている。それでその理由は何かって言えば、『ドナさんの昨日の様子が演技には見えない』という、あまり論理的ではないことが根拠なんだ。ちょっと無理矢理ドナさんを『妖狐』に持っていこうとしているように見えなくもないよね?

 じゃあ『ドナ』さんを『妖狐』に持って言って得をするのはどの役職か……? それは、『メアリー』さんの真が見えていて、信用を下げようとする『人狼』という線以外だと、エイプリルさん自身が『妖狐』っていうのが考えられるよね? 村に『妖狐』が死んだと思わせられれば、当然『妖狐』は潜伏がぐっと楽になる。だから、ドナさんを『妖狐』で主張するエイプリルさんが怪しく思えるのさ」

 「……占い先として納得の位置。ではあるけれど、それは占い先を自分から別の箇所に向けようとする人外の動きではないの?」

 アイリーンが指摘した。トロイは飄々と

 「そう思える『占い師』は僕を占えばいい。それだけの話さ。

 同じ理由で『マコト』くんが『妖狐』という線も考えているよ。そうだとすれば、『ナナ』さんを本物で推している彼の動きにも納得がいくしね。自分にシロを出す『占い師』を本物だと主張することは、遠まわしにだけど、自分自身が『妖狐』でないと主張することに繋がるからね」

 ……ここまで露骨に占い先を誘導してくるとは。こいつは自分が目立つことを一切恐れずに、確実に潜伏中の『妖狐』を殺しにかかってきている。こいつがいる限り、村陣営の攻撃力は相当高いだろう。

 「まだ対抗の『シロ』を占うような段階には思えないだぁが……。まあ『マコト』『エイプリル』のどちらかに『妖狐』というのは、十分に考えられるんじゃないのかい?」

 コーデリアが賛成の意を示す。

 「今夜は『妖狐』を占いで殺しにかかる日というのは納得だ。『占い師』はせいぜい努力するがいい。とは言え、『妖狐』を狙うにせよ、『占い師』はそれぞれ自分の考えで占い先を選ぶのが通常だ。今のトロイの誘導に従うかどうかは自分で良く考えることだな」

 ハンニバルがそういいまとめた。そこで、隣でまとわり付くようにエリザベスが寄ってくる。

 「相変わらずハンニバルちゃんは格好いいわぁ惚れちゃいそうだわ濡れちゃいそうだわ孕んじゃいそうだわはぁはぁはぁはぁ」

 「そうか。では死ね」

 「ところでねぇワタシ今ものすごくハンニバルちゃんの役に立ちたいのぉ。それですっごくいいことを思いついたのぉ聞いてくれるかしらぁ?」

 「村の役に立つことなら、俺様に許可を得るまでもなく話すことだな」

 「そぉうじゃあ言わせてもらうわぁあのねぇ。今夜の『占い師』の占い先なんだけどぉ、『占い師』さんに前もって宣言しておいてもらえないかしらぁと思ったのぉ」

 「占い先を……事前に宣言?」

 俺は首をかしげた。エリザベスはよどんだ視線をこちらに向けて「そうよぉ」と

 「もしもねぇ今夜『占い師』が『妖狐』を殺せたとしてもぉ、明日の朝はどっちの『占い師』も自分が『妖狐』を殺したんだって主張するわよねぇ。だけれど今のうちに別々の場所を占い先に宣言してもらえばぁ、『妖狐』が死んだとしてどちらの『占い師』が殺したのかすぐ分かるじゃなぁい。すごいでしょう?」

 「なるほどな。君の口から出たという一点が凄まじく惜しいが、しかし一理ある意見だ」

 ハンニバルは首を振りながら言った。

 「ではこうしよう。今日の投票の際、『占い師』を宣言している二人だけは、俺様が指定した『マスケラ』ではなく自分の今夜の占い先に投票しておけ。『マスケラ』には七票入るから他が処刑される心配もない。『占い師』には今から投票時間まで占い先について考える時間をやる。だからじっくりと考えることだな」

 堂々と指示を出すハンニバルに、トロイは関心したように言った。

 「そうだね。ここで口に出して宣言させるより、そっちの方が時間もかからなくていいかもね。もうそろそろタイムリミットも近いみたいだしさ」

 そこでエイプリルが面倒くさそうな様子で発言する。

 「占い先指定かー? まあ別にボクを占ってくれてもかまわないよ? どーせ『シロ』しかでないけど。まあボク的にはっていうか、『妖狐』は潜伏臭がすごい『コーデリア』あたりだと思ってるけどね」

  「そうですね。『妖狐』らしき人物ですか。悩みますわね……」

 いいながら、メアリーはポケットからメモ用紙を取り出してペンを手にする。それから直線をいくつも引くように、いそいそと指先を単純なリズムで動かし始めた。その行為はなんだか楽しそうで、あきれ返ったような静寂の中で、メアリーの鼻歌まで聞こえてくるほどだった。

 「……最初に言っておくが。もしも今度も占い理由があみだくじなどと言い出したら、君の真を切らざるをえなくなるからな」

 ハンニバルが忠告するように言った。メアリーはメモをたたんで

 「なんとっ! あみだくじのなにが悪いというのです? 横暴ですわ、まるで理解できません」

 「理解できないのは君の頭の中だ」

 そう言ってハンニバルは額に手を当てる。まとめ役というのもつらそうな役割だ。

 「な、なぁ。ほ、本当に我輩を処刑するのだろうか……? か、考え直しては……」

 マスケラがつぶやくように言っている。おまえがおおよそ村陣営なのは分かっているが……まあ処刑されてくれ。


 三日目:投票パート


 0『旅人:マコト』→『盗賊:マスケラ』

 0『小間使い:ナナ』→『芸人:エイプリル』

 0『物乞い:トロイ』→『盗賊:マスケラ』

 0『青年:ハンニバル』→『盗賊:マスケラ』

 0『ならず者:メアリー』→『老婆:コーデリア』

 1『老婆:コーデリア』→『盗賊:マスケラ』

 7『盗賊:マスケラ』→『掃除婦:エリザベス』

 1『芸人:エイプリル』→『盗賊:マスケラ』

 1『掃除婦:エリザベス』→『盗賊:マスケラ』

 0『シスター:アイリーン』→『盗賊:マスケラ』


 盗賊:マスケラは村民会議の結果、処刑されました。

 村民名鑑


 旅人:マコト

 得意役職は村人。モデルは積極的な初心者。

 大病を乗り越えた経験のある彼は、『死』に立ち向かう心を持っている。諦めずに戦い抜いてやるのだ、という気合こそが彼の武器。主人公としては、比較的素直なデザインにしました。

 人狼ゲームを始めたばかりの人の振る舞いは、大まかに二つに分かれると思う。一つは状況について来られなくてつい黙ってしまう人。もう一つは状況がわからないばかりに失言を繰り返すタイプ。マコトくんはこの後者のイメージだが、積極的なだけに呑み込みも早い。

 また経験が浅いということは時に有利にも働く。発言に気負いがなく心中を隠すことができない為、周囲から見て彼がどういう立場にいてどういう考えを持っているのかが、非常に分かりやすいのだ。これは彼が『村人』だった時にプラスに働くポイントであるが、しかし彼は今回人狼陣営に所属。はたしてどうなるのか。


 小間使い:ナナ

 得意役職は村人:狩人。モデルは基本より直観を信じるタイプの初級者。

 初心者ならぬ初級者くらいの経験は所持する彼女。基準的な考え方を知ったばかりのプレイヤーにありがちなアタマの硬さはなく、自分が信じたいと思った人を信じる勇気を持っている。

 あらゆる物事においても人狼においても、大切なのは『疑う心』よりも『信じる勇気』。基本的な理論に頼るよりも、自身の直観に寄り添うことを選ぶプレイヤーというイメージ。

 ただし、基本をかなぐり捨てて選んだ直観が、実はミスリードだったというのはこのゲーム、実にありがち。臆病者ほどセオリーに頼りがちとは言え、、セオリーとは本来勝率を高めること。逸脱した考えを用いて敗北した試合が、セオリーどおりに動けば勝てたということは、実にありがちなので注意されたし。

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