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神に告ぐ、幕は下りた  作者: 岸上ゲソ
14/19

戦神

『打てェ―――ッ!!』

 闇夜の中青い外套を羽織った魔導兵が、王の声で横一列に並び攻撃を開始した。

 吐き出された光の弾が、前方を横断しようとした歩兵部隊を横から貫き、真っ白な雪上に血と悲鳴とを噴出させる。

『我が君!通信部より伝令!騎兵部隊は未だ山反対側の麓に待機されているとの事!』

『開戦したと知らせろォ!左翼の魔導兵連中に出られたら敵わん!照明弾打てェ!』

 人の悲鳴と逃げ惑う足音、漆黒の闇の中おぞましい音楽を奏で始める。

 破壊音は低く地鳴りのように連鎖し、悪夢に呻く獣の唸り声のように大気に響いていく。降り積もる雪は赤と黒、そして人の肉片でぐちゃぐちゃに入り乱れ始めていた。


『――進撃が早すぎる!通信員!騎兵隊の連絡はまだか!』

『まだです、通信はまだ―――我が君ッ!!前方に敵兵!』

『なッあ、―――』

 ―――解らない。

 至宝とまで呼ばれる美貌の王は、薄汚れた顔で全ての動きを止めた。聖女をよこせと押し寄せた隣国の軍隊、それに齎されたのは悲鳴、怒号、絶叫。一体何の為に人殺しをしているのか解らなくなる。何故殺さなければならないのか、何故殺されなければならないのか。そして何故大量殺戮を成功した者に英雄の名を与えるのか。かの少年王は英雄となるためにどれだけの殺戮を行ったのか。――解らない。全ては理不尽の一言に尽きる。

 亡羊と見開いた王の目には、突っ込んでくる敵兵の刃が見えていた。

『我が君!我が君――アンディエール様ァァアア――――ッ!!』

 絶叫が響いた時、その目の前を駆け抜ける一筋の白い光があった。舞い上がる粉塵、そして降り積もっていた雪が舞い上がる。

 辺り一帯を支配していた敵軍が動きを止め、代わりにその顔に浮かぶのは驚愕と恐怖。

 絶叫した兵士が見たものは、魔導兵の撃った照明弾の光を纏い白く輝く細身の刀身と、それを持つ小柄な人間の後姿。

『騎兵隊は麓で雪に足止めされていますよ。間に合いません』

 舞い上がって輝く雪と塵の霧中、そう言った横顔は能面のように色が無かった。機動性に特化した黒い上下、防寒のために巻いただろう襟巻きは、異様に血なまぐさい。腰を落とし、闇に身を潜める敵兵を見つめる瞳は暗かった。

『お前――守り人!』

 兵が口を開くより早く、間一髪死を免れた王が叫んだ。守り人と呼ばれた人物は振り向かず、ただ短い黒髪を風に遊ばせて佇む。

『お前――妃はどうした!何故聖女の側から離れた!』

聖女(ナターシャ)は【去り】ました。私への最後の命令は王を助ける事。ここが片付けば私も【消え】ます』

『な―――』

『早く行きなさい。彼女の情を無駄にするな、アンディエール』

 [ナターシャ]の死の報に顔を強張らせ、けれど一度目を閉じると王は迅速に退却の指示を飛ばした。守り人――律は前方へ視線を戻し、刀を構えて目を閉じる。握り締めた柄から腕に暖かな刺激が走り、まぶた裏に鮮明な戦いのイメージが映った。律の体にこの場での戦い方が、刀から「組み込まれ」た。

 イメージが踊る。律の体が舞う。イメージが囁く。律の刀が閃く。

 律の手が顔が体が、心が血で染まる。

 刀と繋がる律の体。衝動のまま律は動く。頭の中に聖女の最後が再生される。


 ―――りつ。りつ、りつ。



『りつ。りつ。りつりつ、り、つ』

『はい』

『私、いくわ。もう終わりらしいわ』

『はい』

『りつ。りつ』

『はい』

『いいことを、おしえてあげる。それ、あんたのその、かたな』

『はい』

『それ、かみが、やったもの、じゃ、ないのよ。それが、かってにかみのとこ、から、あんたのところ、に、いったのよ』

『―――』

『うふ、ふ。ふしぎそうね。アレが、ひどくくやしがってたの。盗み、聞いちゃった。ふふ。それが、じぶんで、なくて、りつを、えらん、で』

『―――』

『かみは、いくさがみ、に、なりたかったの、よ。なのに、それは、あんたをえらん、で、くやしがって――ふふふふふ、ふ』

『―――』

『り、つ。ねぇ、りつ』

『はい』

『わたし、あんたが、すきよ。大好き、よ』

『……、』

『り、つ』

『……』

『あれ、は。かみ、じゃ、ない。だから、ここ ろ、までも、とらわれ、は、し、な 』

『……』

『り つ、』

『…はい』

『さい、ご。あんでぃ、えーる  たす け ・・・』


『―――はい。必ず』



 踊る白刃、舞う律。奏でられる音は命が終わる音と絶叫、闇雲に撃たれた魔導が律の体をあちこちと焼き、それでも律の舞は止まらない。守り人たる律がこの世界を去る条件、それは【去る】聖女の願いを叶える事。少しずつ少しずつ、律の傷が増えるほど人の数は減っていく。白拍子、よくも。誰かが言って、そして消える。律の体がぶれ始める。人の数が消え、律の体はぶれていく。最後の一人、律が綺麗に両断した。終わった。律の体が律と解らぬほどにぶれ、律は静かに目を閉じる。終わった。けれど終わっても、解放は無いと知っている。

 絶望を抱えたまま世界から消える瞬間、律のまぶたに何かとても強い、鮮烈なイメージが一瞬だけ紛れ込んだ。


 蔦に覆われた神殿廃墟。



 強烈なその光景が、律の二度目の終わり。




 * * *




 半ば突き飛ばされるように入った礼拝の場を見て、全身に魔石をつけられた律は己の顔に苦笑が浮かぶのが解った。

 見渡す限りの目映い大理石の床に、神秘的アトモスフィアを放つ広さ約200平方メートルの室内。古典主義様式に沿って造りこまれた室内装飾は芸術性に富み、柱や飾り枠に施された彫刻にその粋が煌いていた。天井には巨大な楕円形に印象派の絵が描かれ、白いドレスを纏った黒髪の美女が朝日を見つめ微笑んでいる。

 荘厳。

 その様は、あまりに見事であった。もはやどの称賛の言葉さえも語るだけ無駄と成り果てるであろう、えもいわれぬ気配が奏でるのは瀟洒華麗で気品に満ちた、美の塊だ。美しき世界は美しき色素に囲まれ、その美を競って咲き誇っている。

 ――――悪趣味な。

 けれど律は、その一言で終わらせる。贅の限りを尽くしたそこは、全ては民衆の為にという大聖堂の教えとあまりに対立している。神の指示か大神官の指示か、まぁどちらにしろろくでもないなと律は哂った。民衆から得た布施でこんなものを建造しているあたり、彼らが信者をどう思っているのか理解できようというものだ。

「何をしているのです、さっさと中央へ行きなさい」

「はいはい」

 室内を見回す律に苛立ったように言うのは、律をご丁寧にお迎えに参られ、結果律に散々脅しつけられ蒼白になっていた姫君だ。その横に大神官と思しき初老の男も立っているが、その顔も神経質そうに顰められている。この二人がどうやら一緒に神と話すことになったらしい。彼らが若干遠巻きに、それでも強気で律に命令しているのは多分、戒められた両手があるからだろう。

 律は小さく笑い、耳や首、手足の魔石をじゃらりと鳴らせて促されるまま足を進めた。手の戒めなど解こうと思えば簡単だったが、当初律を拘束した際、彼らが腰の刀も奪おうとして誰一人持つことができず諦めていたので敢えて解かなかった。律の刀は特殊だ。律以外の人間に扱われる事を良しとしない。そんな武器を持つ上、手まで自由だったら無駄に恐怖するのは目に見えている。律は律の大切なものに危害が及ばないのなら、基本的に彼らを害そうなどと思っていない。

「そこの陣の中へ入っていただこう」

 神官の声に下を見れば、巨大な仰々しい陣が広がっていた。召喚のものとは違うが、今まで見たことが無いものだ。律が疑問を口にするより早く、大神官と姫君がさっさと陣に入った。

「この陣は、神が我々との対話を実現するため授けて下さった陣です。早くあなたもお入りなさい」

 ―――対話を実現とするため。

 じっと陣を見つめて外側から動かない律に、姫君が苛立ちも露わに中から言った。律は黙って、ふとこの姫君が言っていた事を思い出す。

 確か、この姫君は神が夢に現れたと言っていた。

「…この陣は、あなたが書いたものですか?」

「え?」

「夢に現れたんでしょう、アレが」

 律の言葉に片眉を上げ、姫君が不愉快そうに目を細める。

「あなた、わたくしの言葉を聴いていなかったの?これは神が授けて下さったの。この礼拝の場に、神自らが書き記してくださったのよ。わたくしではないわ」

 その返答に、律の顔が強張った。陣を神が書いた。つまり、それはこの世界に直接干渉できなかったはずの神が、直接干渉した事を意味する。

 ―――在り方が変わってきている。

 神と呼ばれるあれが、益々化け物じみてきている事に律は薄ら寒い思いを抱く。その化け物と、これから話さねばならない。

「リツ・ムラカミ。早く入りなさい!」

 姫君の怒りが混じった声に、律は低く呻くような笑みを零す。二度と話したくなどないと思っていた。でも、教えてやらねばならない。聖女の変わりに律を使おうと考えている「神」に、それが不可能である事を教えてやらねばならないのだ。

 律は背中を汗が流れるのを感じながら、陣の中へ片足を乗せた。痺れる様な感覚と若干の浮遊感が襲い、あまりにも唐突に始まったそれに律は一瞬歯を食いしばる。全身につけられていた魔石がその色を消した。ふと顔を上げて見れば、大神官と姫君が若干顔色を悪くして膝をついていた。足りない分を彼らからも抜いたのだろう。

「これは…!」

「あぁ!とうとう神に…!」

 それでも感極まる声を上げる二人に笑い、律は振動と発光を始めた陣の上空を見やった。ゆらゆらと揺れる光の渦が上から降り注ぎだし、その中央に色のない立方体が形を作り始める。正直なところ、それは神聖さとは程遠いまるきり魔術の様相だったが、そんなことにも二人は気付かないらしい。

 律はそれを見据え、陣の外側、豪華絢爛な部屋が暗闇に支配されだした事に気付き陣の中が世界から切り取られようとしている事を知った。律は目を細め、静かに手元の戒めを解く。始まった。

 ――――迫るのは、胃袋がわしづかみされるようなぞっとした気配。

「きゃあああ!」

 唐突に真っ暗になった視界に、姫君の悲鳴が響く。大神官も慌てているが、どうにか叫ぶ事は堪えたようだ。

「な、何…何なの!何がおきているの!」

 甲高いおびえた声に答えるものは居ない。

 ゆらぁ、と律の周囲に色を識別できない帯状の何かがまとわりついてきた。粘着質なそれが暫くたゆたい、律の体を彷徨う。何か探すように熱心に、異様な懸命さでそれは動いた。けれどそれがいくら探しても、目的のものは見つからない。見つからぬ事を知っている。

 律は口の端を上げると、その帯をひょいと手で払った。

 それこそ、ハエでも追い払うように簡単に。


 ―――お ま え 。


 響いたのは、とんでもなく嫌悪感を覚える声だった。今度は大神官も姫君と一緒に悲鳴を上げた。

 ごう、と叩きつけるような突風が襲う。


 ―――な ぜ ・・・何故!


 やはり。

 怒りを含んだその声に、律の口が笑みの形に歪む。


 ―――何故 印 が ない !


 空間全体を揺らがすような怒声に、律は大笑いした。本当に、本当に可笑しくてならない。ぶつけられる怒りに律の冷や汗は止まらないが、それ以上にこの反応が律には小気味良かった。

 じりじりと神経を焼くような気配に、律はどうにか笑いを収めるとにまりとした笑みを向ける。

「あー、おかしい。やはり気付いてなかったか。印などなくて当たり前だ、私はとうに村上律じゃなくなっている」

「か、み?あれが、あれが―――神ですって?」

 律のその言葉に、姫君の愕然とした声が落ちる。あれ呼ばわりされた「神」は怒りに混じった疑問の感情を渦巻かせ、律に説明を求める。律は汗に濡れた体が震えそうになるのを根性でねじ伏せ、その顔に凶悪な笑みを乗せた。

「解らんか。前回の帰り際、こいつに教えられたのさ。これを正式に継ぐ場所をね」

 律は両手を刀の柄にかけ、するりと身を抜き足元へ突き刺した。

 視界の隅では大神官と姫君が腰を抜かして上空を凝視していた。その顔が蒼白に染まっているのも無理はない、浮かんでいた立方体は、げっそりと痩せた不気味としか称しようがない人の顔にその形を変えている。性別は判別がつかない。けれど律は、それを女だと思った。それはそう、嫉妬に狂う、悪鬼と化した女の顔と同じだった。

 その顔が、ぐにゃりと醜悪に歪む。


 ―――お まえ 。 おまえ。 おま え !


 「神」が言う印。それは律がこの「神」につけられた、どこにも運命が属さないという印だ。「神」が律を使うため、この世界の者ではない、界を持たない者だという証。

 それが消えたという事は、つまり律がこの世界の住人として完全に根を下ろしているという事実に他ならない。律の運命はもう、「神」の手中にも故郷にも無い。ここメイヴィフォールにしか無い。

 律は刀の柄に乗せた両手がじわりと熱を帯びてきたのを知り、本能的な恐怖で微かに笑う膝を無視して目を閉じた。途端、柄にある両手から全身に何かがぶわりと這い上がり、肌を覆っていく感覚が律を襲う。姫君の絶叫が耳に聞こえた。


 ――― おま え ! 名 を ! グ レル ロワ ナを 継いだ な !


「―――ご名答」

 律の口が弧を描く。

「今の私の名は律・グレルロワナ。ほんの十日ほど前、刀の教えてくれた継承の地、神殿廃墟で正式に『戦神』の名を継いだ。この世界の理の一部となった私は[異]ではなくなった。よってお前と繋がる事は不可能だ」

 残念だったな、と激怒する「神」に律は笑った。そう、律がその存在を変えたのはまだ十日ほど前の事でしかない。刀が教えた継承地で、エヴァンジェリスタ率いる第三中隊が高位魔族に追い詰められていたのは単なる偶然だったが、名を継ぎ存在を変えた律にとって複数の高位魔族を斬る事は難しい事ではなかった。そしてエヴァンジェリスタの祝福の発動を戻す事も、その祝福の源である古の神、『戦神』となった律には可能なことだった。

 戦神としての今の律の肌は、いつもの肌ではなく、びっしりと鈍色の蔦模様が全身隈なく覆っている。そしてその両目にも、濃い緑を放つ蔦模様が揺らめいていた。

「…いに、しえの、…」

 大神官の掠れる様な呟きに、律は蔦に染まった目を向けた。ひっと小さな悲鳴が上がる。

「―――へえ、ご存知でしたか大神官殿。なるほど、やはり大聖堂の長は建国以前の歴史に強い」

 律の感心したような物言いに、大神官の顔が恐怖に歪む。律は「神」の怒りで荒れ狂う空間に僅かでも気を抜けば心が折れそうだったが、根性で眉を顰めつつも毅然と立ち続ける。

「ば…かな!あれは、ただの…ただの伝説だ!お前は、一体…!」

「あんたが今言っただろ。建国以前の古に『戦神』と渾名されたグレルロワナ。刀と名の両方に許可されて初めて継げる、生き神だ」

 律の言葉に、大神官の顔から色という色が消えた。引きつり、泡でも吹きそうな程口は戦慄いている。

 『戦神』はあらゆる生き物が継承しながら在ったこの世界の生きた神だ。時代や環境によってその継承先は木であったり昆虫であったりしたが、人が増えるにつれ人間である事が多くなった。その戦神の刀を、刀に選ばれては無かったらしい「神」が何故、どうやって持っていたのかは知らない。だが、二千年前から継承されなかった戦神、その生き神の象徴ともいえる刀が律を選び、自らの意思でこの手に来たらしいという事を律は[ナターシャ]から百年前教えられた。そして二百年前看取った芽吹きの長が『戦神』の名の管理者であった事、刀に選ばれた者にグレルロワナの名を名乗る許可を与えるか否かを決める者であった事を十日前、名を継いだ時に漸く刀の記憶で知った。

 そう、律は己が、二百年前既に継承の条件を全て満たしていた事を知らなかった。名の継承を一度拒んでいるため、許可はあっても情報を得るまではいかなかった。だから催促するように刀が見せた強烈な光景、継承の地である神殿廃墟へ律が行こうという気にならなければ、今もまだ存在は変わらぬままで、「神」の下僕としていいように使われる未来の可能性は当然のことあった。つまるところ、律が『戦神』となったのは必然のようでいて、結構な偶然の結果だった。

「―――神よ!」

 色を失った顔を上げ、大神官が神と仰ぐソレに叫ぶ。

「一体!これは一体どういうことなのです!神よ!」


 ―――黙 れ エェェ エ エ エエ !


 どう、と凄まじい衝撃が渦巻き、大神官がぐしゃりと食われた。「神」の怒りをただ人である大神官が受け止められるはずも無いとは思っていたが、律はそれに舌打ち、頬や腕、露出していた肌のあちこちが裂けた痛みに顔を顰める。そしてふいに全身を虚脱感が襲い、がくりと膝をついた。利用できぬと知った今、「神」にとって律は大神官同様の食い物でしかない。

「ど、どういう事なの!!」

 叫んだのは、死にそうな顔色の姫君だった。律は視線をやり、皮肉っぽく笑う。

「言ったでしょう、化け物だと。姿すら知らぬ相手を信じるからこんな事になる」

「な、何―――」

 がくがくと震える姫君に、律は全身びっしょりと汗をかきながら呻くように言った。

「死にたいか」

 一瞬ぼんやりとした少女がゆるゆる首を振ると、律は畳み掛けるように言った。

「死にたくなければ去れと言え。あれを拒絶しろ。今のあれにとって、あんたがこの世界とあれとの道だ」

 律が何故大人しくこうして神に会う事を了承したのか。友を守るためだけではない、逃げる算段があったからだ。

 ぶつり、と首の皮膚が深めに切れる。戦神の形態をとっていてもこの有り様だ。貴様のどこか神だ、どれだけ化け物なのだと心底に叫びたくなる。

「か、かみ―――だって、神―――」

 うつろな目で呟く少女。

「か、か、み」

「あれが?」

 醜悪に過ぎる歪んだものを指す。

「あれが神か?」

「か・・・」

 ぼたぼたと血が落ちていく。律の目が霞みだした。首が深く切れすぎてしまったのかもしれない。

 律は刺していた刀を抜き、ふらつく足でそれを「神」に向けた。

「死にたく無いなら拒絶しろ。生きていたくばあれを拒め。あんたの意思で要らんと言え!」


「――――もういやあああああああああああ!!」


 そうして律が「神」に刃を振り下ろすのと、少女が叫び陣がその効力を失ったのは、ほぼ同時の事だった。

 悔しげに叫ぶ「神」の声を遠くに聞きながら、意識とともに消えていく蔦模様を見つめ律は笑った。

 今回はどうにか逃げ切った。自分の現状を教えるという目的は果たしたし、若干の復讐も果たした。これだけ力をふるえば暫く手出しできぬだろうが、初めて見た「神」の姿は粘着質の極みだった。そう簡単に律を許しはしないだろうし、様子からしてどうやら二千年前の戦神と何かしらあったのかもしれない。

 だけど、と思う。


 どいつもこいつも、神なんてろくなもんじゃない。


 律は目を閉じ、そう吐き棄てた。


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