第六話
「ごめん、遅れた」
くだらないことを考えているうちに夏美ご到着。さすがに疲れたのか、少し息が切れている。
彼女の名前は桐崎 夏美。背中の中ほどまである濃いブラウンの髪をヘアゴムで高めにくくり、前髪を黒いヘアピンで留めている。可愛い顔をしているが、さばさばした性格で自分の容姿には興味がないらしく地味な髪型をしている。しかし何故か、瞳に青いカラーコンタクトをつけており、本当は何色なのか知る者はいない。爆撃担当の夏美はいつもゆったりとしたパーカー着ており、驚くほど多くの爆弾を隠し持っている。
「何やってたんだ?」
何気なしに声をかけた蘭。その声を聞いた瞬間夏美のテンションが明らかにあがった。
「蘭ねえさん!!遅れてごめんなさい。校内でナンパしてる不埒な輩がいたんで、ちょっと成敗してたんです!」
夏美は昔、男に襲われかけたことがある。そのときに夏美を助けたのが、ちょうど通りかかった蘭だった。それ以来ずっと蘭のことを姉のように慕っており、同い年なのにも関わらず「蘭ねえさん」と呼んでいる。
別にそのことに関して何か言うつもりは無いが、そのなんともいえず某アニメを彷彿とさせる呼び名は・・・いいのかな・・・?
「相変わらず血の気が多いね~、夏美は」
そこに陽牙が余計なちゃちゃを入れてきた。夏美は陽牙の姿を見た瞬間すごい形相で睨み付けた。
「あぁ!?黙れこの俗物。気安く話しかけてくんな」
男に襲われかけて以来極度の男嫌いになってしまった夏美は、男である上に蘭に馴れ馴れしくする陽牙のことを毛嫌いしている。
会うたびにこんな態度をとられている陽牙は、夏美のそんな態度にはもう馴れっこだ。平気な顔で切り返そうとしたところで、邪魔が入った。
「・・・いいかげんしてくれるかな?」
邪魔をしたのは満面の笑みを浮かべた冬弥だ。顔は笑顔なのに目が全然笑ってない。そろそろかなとは思ったけど・・・相変わらず怒った冬弥は恐ろしい。
その迫力にすでに気おされてしまい、黙り込んだ陽牙と夏美と蘭の三人。そんな三人に容赦なく説教を続ける冬弥。
「さっきから話全然進んでないの分かってるよね?なんのためにテスト前の貴重な時間割いて集まったと思ってんの?君らさあ、これ以上やったら・・・・」
にっこりとさわやかに笑う冬弥。沈黙と笑顔が逆に怖い。
三人がこくりと頷いたのを確認して、なんとなく見入ってしまっていたわたしに声をかける。
「じゃあ才花、説明を始めてくれるかな」
「え、ええ・・・」
笑顔で話す冬弥に、わたしも慌てて笑みを浮かべる。敵には回したくないな、絶対。
こほん、と少々わざとらしく咳払いをする。
「今回のテスト内容がターゲットの暗殺だったことは覚えてるわよね」
みんなが頷く中、陽牙授業中のように手を上げた。
「は~い、さっそくだけど質問。俺たち、まだターゲットの情報全く与えられてないんですけど~」
「・・・そのターゲットが問題なんだ」
冬弥がため息を吐いて呟いた。わけが分からないという顔をする陽牙。
「そう、今回のテストのターゲットなんだけどね・・・わたしたち「天使」のターゲットと「AS」のターゲット・・・同じなのよ」
わたしの放った言葉に呆然とするみんな。みんなの心を代弁するかのように、陽牙の口から気の抜けた声が零れ落ちた。
「・・・は?」