第四話
次の日、私たちはまた、昨日集まった食堂のテーブルに来ていた。あるトラブルが発生したのだ。
「もうすぐしたら「AS」も来ると思うから」
紅茶を飲みながらみんなに声をかける。どうでもいいが、わたしの好みの紅茶は「ダージリン」である。ストレートティー向きのダージリンは、透明度の高い琥珀色をいており、世界最高と称される独特の香りや好ましい刺激的な渋みが癖になる・・・らしい。これは友人からの受け売りなため、実際よく分からない。細かいことは抜きにして、ただ単に味が好きなだけだ。
「それはいいけど~、俺トラブルのこと詳しく聞いてないんだけど?」
「あ、あたしも」
「・・・・・・・」
陽牙はカフェオレ、蘭はオレンジジュースを、殺翁はコーヒーをブラックで飲みながらそれぞれ反応を見せる。
「ああ、それは「AS」が来てから説明を・・・ん、ちょうど来たわね」
食堂の入り口に目をやる蘭と陽牙。殺翁は分かっていたのだろう、振り向きもせず静かにコーヒーを飲んでいる。
颯爽と歩いてくる「AS」の面々。混んでいて進みにくいはずの食堂を楽々と進んでいる。別にすごい力を使ったとかではなく、周りの生徒が遠巻きにして道をあけているからである。ちなみにこの現象はわたしたち「天使」でも起こる。目立つのはあまり好きではないが、便利なことは確かだし言っても逆効果な気がするので何も言わない。
「やっほ~、「天使」ご一行」
黒髪なのにも関わらず、陽牙に負けず劣らずチャラく見える。
彼の名前は桜野 春貴。瞳は薄めの茶色で、陽牙と同じくらいの長さの髪から時折見える、羽根を模した銀色のピアスが特徴的である。軽薄そうな表情を浮かべたその顔は、日本人にしては彫りが深くはっきりとした顔立ちで、陽牙とはタイプの違うイケメンだ。「AS」の暗殺を担当している。暗殺の腕は殺翁とほぼ互角だが感情面で多少左右されてしまうのがたまにキズ。
そして何故かやたらとわたしに絡んでくるのよね・・・・。
「才花ちゃん、今日も可愛いね」
へらへらと笑いながら話しかけてくる春貴。
「はいはい、どうもありがとう」
「うわ、てきとー。絶対本気にしてないでしょ」
適当に流されたことをたいして気にした様子もなく、またへらへらと笑う。いつものことながら意味が分からない。
「いちいち春貴の冗談になんて付き合ってらんないわよ」
「だから冗談じゃないって。本気だっていつもいってんじゃん」
「はいはい。いいかげんそのアホ面引っ込めて」
「ひどいなー、アホ面なんて。これでもかっこいいって人気なのに」
「わたしにはその魅力が全くもってわからないわ」
「そんな冷たい才花ちゃんも好きだよ」
いつものようなやりとりだが、相変わらずへらへら笑って楽しそうな春貴。心底意味が分からない。はっ、もしかして・・・
「春貴って・・・Mなの・・?」
「いや、違うよ?なにその本気の目。失礼だなー、なんてこと言うんだ才花ちゃん」
「本当に・・・?」
「うわーやめて、その疑惑の目」
両目を手で覆い隠して嫌がる春貴。絶対演技だろうけど。
黙りこんだわたしに春貴がまた何か言おうとしたとき、さえぎるように、落ち着いた声がわたしたちをたしなめた。