第三十二話
みんなで痕跡を消して、大体終わったところで蘭が言った。
「なあ、冴苗って裏切られたんじゃなかったのか?なんで手繋いで落ちてったんだ?」
ああ、やっぱり分かってなかったのね。
「秋奈がいたら喜んで解説するんだろうけど・・・・・・そういえば秋奈大丈夫なの?」
「うん、秋奈なら病院着いたって連絡来てたよ。骨にひび入ってたけどすぐ治るって。学校にも伝えといたから大丈夫」
さすが冬弥。ぬかりないわね。
「そう、良かったわ」
「おっまじか!良かったー・・・・・・ってそうじゃなくて!質問の答えは?」
ちっ、忘れたと思ったのに。
「説明してあげなよ才花~」
「陽牙がしなさよ」
「俺もわかんないから無理~」
ひらひらと手を振ってどこかに行ってしまった。
絶対全部わかってるくせに・・・・・・。
「はぁ・・・・・・いちいち解説するような野暮な真似したくなかったんだけど。しょうがないわね、しっかり聞きなさいよ」
おう!と元気よく返事をする蘭の隣で夏美も静かに頷いている。三人で輪になって腰を下ろす。
「私も最後まで気づけなかっだけどね。そもそも革獅子は、冴苗を裏切ってなかったのよ」
首を傾げるふたり。うーん・・・・・・動きぴったりなのってなんか可愛いわね。
「だって革獅子は政府につく気はなかったんだろ?」
「ええ、政府につくつもりはなかったわ」
「じゃあやっぱり・・・・・・!」
軽く前のめりになる夏美を制して首を振る。
「確かに政府は裏切ったわ。でもそれは冴苗を裏切ったことにはならないのよ」
「・・・・・・」
さっぱりわからないという顔をしている。
「・・・・・・私が革獅子の気持ちに気づいたきっかけはこの映像よ」
言いながらパソコンを開いて場面をふたりに向ける。
「あれ、これ革獅子に殺された政府関係者じゃん」
「このふたりがどうかしたんですか?」
「この男、よく見てみて。何か気づかない?」
“にげろ”という血文字が近くにある男を指差す。
しばらくじっと眺めていたふたりだったが、ふいに蘭が口を開いた。
「・・・・・・なぁ、もしかしてこの男、左利きか?」
「ピンポーン。それが分かれば、もう全部分かったでしょう?」
全部じゃないけどな!と得意気に笑う蘭とは対照的に画面を見つめたまま動かない夏美。少しの間そうしていたが、やがて諦めたようにため息をついた。
「全く分かりません。そもそもなぜ左利きだとわかるんです?」
「この男の腕時計よ」
「腕時計、ですか?」
もう一度画面を見るように促す。
「ええ、この男は時計を右腕に着けているわ。普通腕時計は利き腕とは逆につけるもの。つまりこの男の利き腕は右じゃないのよ」
こくこくと頷く夏美。
「でもよく見て。この“にげろ”という文字・・・・・・」
「あぁ!右手で書かれてる!ということはつまり、この文字を書いたのは本人ではない・・・・・・!」
「そう、この文字を書いたのは、革獅子よ」
「やっぱりそうか!当たったぞ!」
嬉しそうな蘭に良かったわね、と返すと、さすがです蘭ねえさん!と、きらきら目を輝かせている夏美とえっへんとばかりに胸を張っている蘭が視界に入ったので
見なかったことにした。見つけたの私なんだけど。
「・・・・・・で、ここで問題なのがこの“にげろ”が誰に向けられたものなのか。ここからは私の憶測も混ざってくるからそのつもりでね」
話は一応聞いていたらしい。ふたりとも力強く頷いてくれた。
「相手はまあわかってると思うけど、もちろん冴苗よ。冴苗はこれを見た瞬間すべてわかったのね。革獅子が何をするつもりなのか。・・・・・・革獅子はね、最初から冴苗を自由にするためにこの取引に応じたのよ」
いつの間にか殺翁もとなりに来ていて、すっかり話を聞く体制だ。
こういう話に興味あるとか意外なんだけど。
「考えてもみて。冴苗は政府という後ろ盾があったから、政府につくという暗殺者として許されないことをしたにも関わらず殺されないで居られたの。その後ろ盾がなくなったらすぐに消されてしまうのは目に見えていたわ。ただ冴苗を政府から助けるだけでは、政府と暗殺者のどちらにも追われることになる。だから革獅子はこんな面倒な方法を選んだのよ」
「面倒な方法……?もしかして私たちは利用されたんですか?」
眉を寄せながら考える夏美に小さく頷く。
「そう、この暗殺はもともと革獅子から依頼されたものだったんじゃないかしら。そうじゃなかったらいくら学校で上位だからって私たちがプロの暗殺者に勝てるなんておかしな話よ。革獅子の真意に気づくまでは、お互いに相手が心配だから大人しく捕まっているのかと思っていたけど、そうじゃないわ。全部革獅子の計画どおりだったのよ。革獅子自ら理事長に依頼に来たんじゃないかしら」
「自分を殺せって?」
信じられないという顔で蘭が言った。私も共感はできない。
「ええ、新しいタイプの自殺よね……」
「……え、あ、そう、だな」
「そういえば倉庫の隅に、顔の潰された女性の遺体が置いてあったわ。冴苗にそっくりの背格好のね。……革獅子は政府の人間を殺し、自分も私たちによって殺させて、すべてを終わらせる気だったのよ。冴苗を逃がすために」
「なんて……なんって情熱的なんでしょう!!」
あー面倒なのが食いついたわ。
「自分をどんなに犠牲にしても相手を守りたいという深い愛……!でも冴苗はそんなことは望んではいなかった……あなたが死ぬなら共に死にたい……!そんな思いが革獅子に伝わって、ふたりは崖から身を投げたのですわね……!」
「と、まあ大体はそんな感じね」
「秋奈ぁ!!いつの間に戻って来てたんだよ!」
「良かった……無事だったんですね」
声に振り向くと、春貴に支えられた秋奈が立っていた。
「もちろんですわ。わたくしを誰だとお思いですの?」
「はいはい、分かったから。でも早かったわね。足は大丈夫なの?」
「心配されるような怪我じゃありませんわ」
ドヤ顔してるけど、春貴の肩借りてるから。
「ほんとはさ、全然大丈夫じゃないんだよ」
夏美が支えながら秋奈を座らせていると、春貴がそっと耳打ちしてきた。
「骨、ひび入ってたらしいよ」
「……無理させちゃったわね」
覚えているだろうか、ここの警備を仕切っていた『黒部さん』。彼に一度目に接触したとき、秋奈は本当に足を挫いていた。その後蘭のフォローの為に無理をしたせいで悪化してしまったらしい。
「秋奈、まじでごめん!!」
秋奈から症状を聞き出したのだろう。土下座しそうな勢いで頭を下げる蘭に、秋奈はやめてくださる?と笑った。
「ミスなんて誰にでもあるものですわ」
「でも……」
「じゃあ、今度わたくしがピンチになったら絶対に助けていただきます。それでいいでしょう?」
「秋奈……」
秋奈が優しく微笑むと、蘭はぽかんと口をあけてみとれ
「悪いもんでも食ったのか?優しすぎてこわ……」
……てはいなかった。
「………………」
秋奈の笑顔がピシリと固まった。
「あ、秋奈……?わりぃ、つい本音が……」
いや、それフォローになってないから。
「っ何なんですのあなた!?あなたが落ち込んでるだろうと思ってせっかく……人がせっかく優しくしてあげましたのに!お礼もないなんて!!”つい本音が”?わざとなんですの!?実は無自覚を装った性悪?いえ、あなたはそんなに計算高い人間ではありませんわね!分かっていますの!悪気がないって分かってるからこそ腹が立つんですわ!!」
なんという早口だろう。
「秋奈ごめんー!!ありがとー!!!!」
はいそこ抱き合わなーい。なに友情深めちゃってんのー。夏美がちょっと切ない顔してるじゃない。混ぜなさいよ。
「さーいかっ、片付け終わったよ〜」
「いやぁ、なかなか広いねここ」
最後の片付けを担当していた陽牙と冬弥が戻ってきた。
「ん、おつかれ。じゃあみんな揃ったことだし、最後の勝負始めるわね」
「秋奈はノーカウントでいいんだろう?」
「もちろんよ」
テスト自体はターゲットを倒した時点で終了だが、それではふたつのチームの勝敗が決まらないので特別ルールが加わったのだ。内容は全員が先に学校の敷地内に入ったチームが勝者という単純なものだ。
「学校に着くまでがテストだよ〜。みんな忘れないでね〜」
「遠足かよー」
陽牙の言葉にかはっと笑う春樹。なんかこのふたりゆっるいなぁ。
「じゃあわたくしの合図でスタートですわ」
「3…2…1…スタート!」
半年以上更新してないなんて……;w;
全然気づいてなかったです……
前から遅かった更新がもう遅すぎて更新してないレベルですね
あ、ちなみに秋奈ちゃんは学校の先生によってきちんと送り届けられます。
読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
さすがに半年更新しないという状況はもうないとおもいますので、お暇がありましたらまた読んでやってくださいm(_ _)m
感想やご指摘ありましたらぜひお願いします!
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