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SAS  作者: 洗濯バサミ
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第三十一話


「ところで冴苗さん」


 と、才花たちが話している間一度も振り向かなかった冬弥が口を開いた。


「あなたに少し、お聞きしたいことがあるのですが」

「あら、礼儀正しいのね」


 冬弥が敬語で話すことに気をよくしたのか、ふふんと満足げに笑う冴苗。


「尊敬してなくても敬語は使えるけどね」

「黙れ小娘」


 真顔で言い合うふたりに、仲いいねと言いたくなった冬弥だった。


「・・・・・・それで?何が聞きたいの?」

「確か今日は、政府の人間が来て革獅子が政府につくという契約を取り交わす予定だったんですよね?」

「ええ、そうよ。どうせそのふたりもあんた達が捕まえちゃったんでしょ?」


 そう言って冬弥が見ているパソコンを覗き込む。

 そこには手錠をかけられた男がふたり、離れて倒れている様子が映っている。


「ほら、やっぱりそうじゃない」

「いいえ、これは僕らがやったことではありません。先ほど陽牙が発見しました」


 そこで、映像をぐっと男たちに近づける。


「すでに、死んでいたそうです」


 遠くからではわからなかったが、近づけばすぐにわかる。男たちの首には太い針が2本ずつ刺さっており、呼吸と共に動くはずの胸はピクリとも動かない。そして、ひとりの男のそばには血で“にげろ”と書かれていた。


 どこからどう見ても死んでいる。


「あなたならこれが誰の仕業か、すぐにわかるかと思いまして」


 画面を凝視していた冴苗は、はっとしたように冬弥の方を向いた。


「・・・・・・これをやったのは麻洋、そうでしょ?」


 そう言った冴苗の声は少し震えていた。


「・・・・・・はい、僕もそう思います」

「つまり革獅子は、最初から政府につくつもりはなかったのね。逃げるつもりでこのふたりを殺した後、春貴と陽牙に捕まえられた、と」


 才花の言葉に、冬弥は静かに頷いた。


「あなたは裏切られたのよ、冴苗」


 その瞬間、駆け出した冴苗を殺翁が取り押さえた。


「離してっ!・・・・・・嘘よ嘘、麻洋が私を裏切るはずない!ありえないわ、ありえない。そうよありえない!そんなこと、ありえるはずないのよ!!」


 泣き叫ぶ冴苗に、冷めた声で才花が告げる。


「革獅子のところに、行きましょう」













 冴苗を連れ革獅子のいる廃工場についた頃には、呼んでおいた蘭と夏美、隠れていた春貴も姿を見せていた。その真ん中に、後ろ手に縛られた革獅子が膝をついて座っている。


 彼は冴苗を見ると、少し目を見開いた後にっこりと微笑んだ。


「ひさしぶりだね、真鹿」

「ひさしぶりね、麻洋」


 泣きはらした目で虚勢を張る冴苗は見てて痛々しい。


「ねえ麻洋、ひとつだけ答えて」

「何かな?」


 細くかすれた声が、廃工場に静かに響く。



「私のこと、愛してる?」



 革獅子は答えず、静かに微笑んだ。







 才花たちがいた廃工場は海を臨んだ崖の上に立っている。死体の処理が楽だというのも、ここを選んだ理由のひとつだ。


 その崖に、今立っている。


 殺すのは工場内でも良かったのだが、革獅子がここがいいと言ったのだ。


「ん~いい眺めだね、真鹿」

「夜よ、今」

「・・・・・・・・・・・・」


 革獅子は少し黙ったあと、風情がないなぁと笑った。


「さて、もうすぐ俺は死ぬわけだけど。ちょっと相談があるんだ」

「なにかしら?」


 縛られた腕を動かしながら言う。


「これ、解いてくれないかな。真鹿のも」

「そんな簡単に逃すと思ってるの?」


 私の言葉に、また笑う。


「心配しなくても逃げないって。信用できないならすぐそばについててくれていいからさ」

「言われなくてもそうするよ」


 春貴が殺翁の腕を掴んで革獅子たちに近づいていく。


 あ、そういえばいたわね、春貴。

 とか失礼なこと考えてたら、振り向いた春貴に“才花ちゃ~ん、それはないでしょ”と苦笑された。


 なんでバレたんだろう。また顔に出てたのかしら。


「すごいでしょ、惚れ直した?」

「殺翁、手は傷つけちゃだめよ。女性なんだから」

「・・・・・・」


 こくりと頷く殺翁。


「話聞いてる!?」

「あ、ごめん。なんだっけ」

「ひでーよ才花ちゃん」


 嘆きながらもしっかりと拘束を解く春貴の器用さは素直にすごい。


「ふたりとも、ここシリアスに行くところだから」

 

 ため息混じりの冬弥のセリフに陽牙と革獅子が笑い出す。


「ふはっ・・・・・・面白いなぁ、君ら」


 やっと自由になった手首を動かしながら言ったその言葉は、どこか羨ましそうだった。

 同じく自由になった冴苗の方を向いて名前を呼ぶ。


「真鹿」


 さっきからずっと無表情だった冴苗が初めて微笑む。


「麻洋」


 それですべてが伝わるかのように、伝わったかのように。

 ふたりは見つめあったまま動かない。


「ぶち壊して悪いけどさ、そろそろ時間かなぁ」

「・・・・・・・・・・・・」


 申し訳なさそうにそう言って、春貴と殺翁が近づく。


「ああ、そうだね」


 革獅子はそう言ってまた、微笑んだ。


 そして、倒れていった。


 崖の下に広がる海に向かって。



 ふたりで、手を繋いで。


やっとひと段落つきました・・・・・・

うーんなんとなく盛り上がりにかけたなぁと反省しています

時期をあけすぎたんですよね、きっと←


読んでくださっている方、(もしいらしたら)ありがとうございます

頑張ってラストまで、書こうと思います!

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