第三十話
申し訳ない位間があいたので、前の話から読んでいただけるといいかとおもわれます;
突き立てた。
はずだったのだ。しかしナイフの切先が才花の背に届くことはなかった。
「‥‥‥なんで?」
寸前のところで止められた自分の腕を呆然と見ながら、理事長もとい冴苗真鹿は信じられないと呟いた。
「‥‥‥『私の変装は完璧だったはずなのに』?」
振り向きざまにそう言ってやると、私は相当意地の悪い顔をしていたのだろう、軽く舌打ちされた。
「確かに変装は完璧だったわ。でも理事長の性格に関しては、詰めが甘かったわね」
「どういうこと?‥‥‥っていうかいい加減離してよ!」
掴まれたままだった腕を乱暴に振りほどく。一方振りほどかれた殺翁は特に気にした様子もなく、そっと冴苗の横に立った。
「さっき私がパンプスのことを聞いたでしょ?理事長は仕事の内容で自分の服装を決めるような人じゃないわ」
こだわりが尋常じゃないからと笑うと、冴苗は呆れたように首を振った。
「じゃあ、本物だったらなんて答えたの?」
「そうね‥‥‥『今日はどうしても気分が乗らなかったのよ』とか?」
「‥‥‥あっそ、相変わらず舐め腐ってるのね」
忌々しげに言うところをみると理事長のことが嫌いらしい。
「あとさっきから気になってたんだけど、なんでタメ口なわけ?敬語使いなさよ」
「え、知らないの?敬語って尊敬する相手に使うものよ?」
「‥‥‥あぁもう!口の減らないガキね」
頭を少し乱暴にかき回す仕草が妙に似合う。こっちが彼女の素なのだろうか。
「そのガキに出し抜かれたくせに」
「うるさい!‥‥‥で?麻洋は無事なの?」
すっと、表情が真剣なものに変わる。
「ええ、無事よ。よかったら声を聞く?」
冴苗は少し間を置いて
「‥‥‥聞くわ」
陽牙に簡単に現状を伝えて革獅子に代わってもらう。
『・・・・・真鹿か?』
「ええ。麻洋大丈夫?怪我は?」
『ないよ。ムカつくぐらい丁寧な扱いを受けてね』
ワントーン高くなった冴苗の声と、皮肉げに発せられる革獅子の言葉につい笑うと冴苗に睨まれた。
【陽牙・革獅子】
『分かった?無茶はいけないからね。・・・・・・ああ、うん、こっちは自分で何とかするから』
そう言って通信を切った革獅子の目の前に手が差し出された。その手にトランシーバーを渡すと、陽牙はまたどこかにつなげ始めた。
革獅子は何か情報が得られないかと聞き耳をたててみたが、子供といえども人質に情報を与えるようなヘマはしないらしい。相手が女だということしかわからなかった。
それにしても・・・・・・と、革獅子は自分の腕を拘束する、きつくないのに全く解けない縄との格闘を諦め、陽牙の観察を始めた。
ただの業務連絡とはどこか雰囲気が違うようだ。それにあの笑顔だ。あれには覚えがある・・・・・・そうだ、あれは。
愛する人に対する表情だ。その人のためならなんでもできるというような、そんな愛情に満ちた笑顔。殺伐としたこの空間に似合わないそれ。
「・・・・・・ふはっ」
あまりの違和感に思わず笑ってしまった革獅子が、さすがにまずかったかと陽牙の方を見ると何故か真っ赤な顔で固まっている。
革獅子には知る由もないが、陽牙が蘭にお礼を言われたのが今である。
「おーい少年。顔真っ赤だぞー」
からかってやるとハッとしてこっちを見た。焦ったようなその表情はすぐにへらりとした笑顔に変わってしまったが、それは革獅子に、彼が少年だったことを思い出させた。
いや子供であることはわかっていたのだが、本来なら可愛い彼女と過ごしていたはずの放課後を、自分を、自分と冴苗を殺すために使うこの状況の異常さに改めて気づかされたのである。
そんな事で陽牙に対して同情するほど革獅子は甘くなかったが、それでも思わずにはいられなかった。
「・・・・・・嫌な世の中だね、まったく・・・・・・」
半ば独り言のように呟いたその言葉に陽牙は、何を今更と、またへらりと笑った。
おひさしぶりです
またも話が全く進みませんでした・・・・・・orz
なぜでしょうか・・・・・・どなたか教えてください、切実に
読んでくださったかた、ありがとうございました。
何か意見などありましたらぜひお願いします!
めちゃくちゃ喜ぶので(笑
では、またお暇なときに読んでやってください