第二十九話
【蘭】
はぁ、はぁ、と荒い息をしながらどこかの塀にもたれる。
「なんとか逃げ切った、か・・・」
周囲を確認しながら大きく息をつくと、その場にずるずると座り込んだ。追っ手を撒いたことによる安心感と共に、一気に押し寄せる自己嫌悪。計画を狂わせたこと、チームみんなに迷惑をかけたこと。陽牙と秋奈に無理をさせたこと。そして何より。
チーム全体を危険に晒したこと。
そんなようなことがぐるぐると頭の中を駆け巡る。分かっている。後悔したって何の解決にもならないことは分かっているのだ、頭では。でもどうしても思ってしまう。考えてしまう。
自分が失敗しなければ。自分が‥‥‥いなければ。
一回の失敗でこんなに落ち込む必要がないことも理解している。“いなければ”という発想自体が、自分を信じて任せてくれたみんなに失礼だということも。
でも、この世界ではその“一回のミス”が命取りになるというのも本当で・・・。
そんな鬱々とした思考を、鈍く震えるトランシーバーが中断させた。
誰だろうか?才花という線はないだろうけど、今はみんな忙しいはずだし、そもそも連絡をとる予定もなかったはずだ。迷っていると、待つことに焦れたのか向こうから話しだした。
『やっほ~蘭、元気~?』
陽牙!?なんでお前なんだよ!今結構忙しいだろ!?
『お~い、返事くらいして~』
「・・・何?」
溢れ出た声は思ったよりも掠れて、みっともない。馬鹿だ、こんな声してたらバレる。さっきまで何を考えていたのか。ただでさえ陽牙は鋭いというのに。
『ん~?特に用はないんだけどね。暇つぶし?』
「暇じゃないだろお前は!さっさと戻れ!」
『あはっ、バレた~?』
忙しいのにわざわざ声をかけてくれたことくらいわかる。それなのに憎まれ口しか叩けない素直じゃない自分に腹が立つ。
『んじゃ、そろそろ戻るね~』
本当に短い会話の中、心配したなんて一言も言わないこの男の優しさにも。
そしていくら腹が立っても、陽牙に助けられたのは事実で。だから、少しは素直になろうと思ったのかもしれない。
「‥‥‥陽牙、」
『ん~?何‥』
しっかり聞けよ、一回しか言ってやんないから。
「ありがとな」
その後すぐに通信を切った蘭には知る由もなかったが、陽牙はしばらくの間赤い顔をして固まっていた。
一部始終を見聞きしていた才花は思った。
お前らマジで仕事しろ。と。
【才花・冬弥】
時間は、才花が陽牙と蘭の会話を聞く前に遡る。才花の首にナイフが当てられた、その時である。
「‥‥‥何やってるんですか」
ナイフの存在に臨戦態勢に入りかけていた才花は、声を聞いてそれを解き、そのあとまた少しだけ身を固くした。
そしてゆっくりと首元のナイフを遠ざけながら振り返る。
「理事長」
「はあ~い、暗殺頑張ってる?」
ナイフを指で弄びながらイタズラが成功した子供のように笑う理事長に、一瞬だけ本気の殺意が湧いたのは仕方がないことだと思う。
「悪ふざけが過ぎますよ、本当に」
呆れ顔の冬弥が、ため息をつきながら薬指でメガネを押し上げる。
「あら、悪気はないのよ?」
そういう問題ではないだろう。額をとんとん、と叩いてため息をつくと、声を上げて笑う理事長。
「たまたま近くを通ったから寄ったのよ」
そう言ってナイフを仕舞う理事長を改めて見ると、黒い細身のドレスに身を包んでいる。足元を見れば、趣味はいいがヒールのないパンプスを履いている。
「今日はいつものハイヒールじゃないんですね」
ただでさえ長い足をさらに長く見せる、やたらと高くて細いヒール。それは確か理事長の最近のお気に入りだったはずだ。なんで知ってるかって?全校集会で理事長自身が言ってたからよ。
「ええ、今日の仕事には向かなかったの」
悠然と微笑む姿は神秘的な美しさを醸し出す。そうですか、と才花が頷いたところで陽牙から通信が入った。
『才花~、とりあえず第一段階完了したよ~』
「そう、革獅子を捕まえられたのね。お疲れ様」
そう言いながら理事長に背を向ける。冬弥はなにやらパソコンを弄っているようで、こちらも理事長に背を向けている。
「そう、麻洋が捕まったの‥‥‥」
言いながら、さっき仕舞ったナイフをまた取り出す理事長。その美しい顔には先ほどのまでの笑みは浮かんでいない。
そしてそのナイフを才花の背中に、
突き立てた。
ひさびさの更新です。
本当に申し訳ないです、本当に。
ひとつ言い訳をしますと‥‥‥テストが度重なっておりまして(汗
赤点を取らないためにずーっと勉強していたのです←嘘
これからはもっと更新できるようになるかなと‥‥‥(あれ?前にもこんなこと言ってできなかったような)
はい、すみませんm(__)m反省しております
もし、待っていてくださった方がいらっしゃったなら、どうか、見捨てないでやってください
読んでくださっている方、いつもありがとうございます!!
これからもゆっくりとですが、頑張っていきます!