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SAS  作者: 洗濯バサミ
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第二十八話

「秋奈、悪いけど出番だ」



【秋奈】



「わかりましたわ」


 ゆっくりと立ち上がり手鏡で化粧や髪を確認すると、スカートの埃を軽くはたきながら班長の所へ足を向ける。


「・・・気をつけてね~」


 にやりと笑いながら言うが、その目は心配そうだ。


「いってきますわ」


 にこりと微笑みながら颯爽と歩く秋奈は、紛れもなく美しかった。





 俺は、政府の警備班の班長を勤めている。今も仕事の真っ最中だ。話は変わるが、先程とても美しい少女に出会った。控えめな態度と最後に見せた笑顔が忘れられない・・・。む、話が逸れたな。

その少女を見送った後、俺は最初と同じように見張りを続けていた。調査に行かせた部下が遅い気がしたため連絡しようかと思いはじめた頃、俺の耳にどこかで聞いたようなヒールの音が聞こえた。コツコツと鳴るその音がいささか不規則であることに疑問を抱きながら、注意深く耳を傾ける。


「あっ!」


 俺が目を向ける前に相手が声をあげた。思わずそちらを向くと


「先程はお世話になりました」


 控えめに微笑んでいる少女が目にはいった。


「いえ、気にしないでください。それで・・・どうしてまたここに?」


 どくんと跳ねた心臓を悟られないよう何でもないような顔をして尋ねた。その質問に少女は少し気まずそうな顔をする。


「あの・・・実は、その・・・迷ってしまいまして・・・」


 不安げにも見えるその表情に、心が揺さぶられる。ああ、俺はどうしてしまったのだろうか。今まで

女性に対してこんな気持ちになったことなどなかった。付き合ってきた彼女にだってなかったというのに、何故、出会ったばかりの少女をこうも強く想っているのか。分からない。何故だ。ああ、自分が自分ではないようだ。


 少女の、やさしい中に芯を持っているようなまっすぐな瞳に、こんなみっともない思考を見透かされそうで、思わず目を逸らした。そして、さっきから気になっていることを尋ねる。


「あの、もしかして足を挫いていらっしゃるのでは?」

「えっ・・・あ、いえ・・・はい、少し」


 少し焦ったような態度。最初に転びそうになったとき、俺が支えきれていなかったのだろう。かなり痛んでいるはずだ。


 不安そうに視線を彷徨わせる彼女に提案する。


「もしよろしければ、お送りいたしましょうか?」


 ぱっと嬉しそうな顔をする少女。しかしすぐにその眉を下げてしまう。


「でも、お仕事中ですよね・・・?」

「そうですが、優秀な部下がおりますので、一時的に離れるくらい可能です」


 そう返事をしてすぐにトランシーバーを取り出し、部下に連絡を入れる。


「班長の黒部だ。今どこにいる」


 しばらくして部下の木下の声が聞こえてくる。


『はい、こちら木下です。ただ今爆発のあった家屋を調べております』


「そうか。俺は事情があってここを離れなければならなくなった。今からこちらに向かってくれるか」


『はい。分かりました。俺だけ向かえばいいですか?』


「ああ、橋川には調査を続けさせてくれ」


『了解しました』


 トランシーバーを切って少女を見ると申し訳なさそうな顔をしている。


「気にしないでください。俺が勝手にやったことです」

「でも・・・」

「いいですから、本当に」


「・・・ありがとうございます」


 ふわりと微笑んだ少女に、また見惚れる。そんな自分を心の中で叱責しながら、ひざをついて彼女に背を向ける。


「乗ってください」


 背中を向けていても少女が戸惑っているのが分かる。だがこれは譲れない。怪我をした少女を歩かせるのはあまりに忍びない。それに、俺だって伊達に警備員をやっているわけではない。人ひとり背負えなくては仕事にならないのだ。


「乗ってください」


 もう一度、有無を言わせない声色で告げると、彼女はまた小さく「ありがとうございます」と言って、おずおずと俺の背に乗った。そして「ここまでお願いします」と紙を差し出す。


「分かりました。・・・しっかり掴まっていてください」


 そう告げると少しだけ強くなる腕の力に喜びを感じながら、俺は紙に書かれた住所へと足を進めた。





【才花・冬弥】


「何か、意外と積極的なんだけど『黒部』さん」


 顔を覗いていた画面から離し、冬弥の方を向く。


「そうだね。でも、結果オーライじゃない?」

「まあね」


 無事に陽牙の声真似に騙されてくれたようで、話した相手が部下の木下であることを疑いもしていない。一応説明しておくと、秋奈が摩り替えたトランシーバーはどこに連絡を入れても陽牙に繋がるようになっているのである。陽牙はわたしが送った音声を聞いて声真似を行っていたのだ。トランシーバーを通すからこそ通じる荒技ではあるが、今回の計画にはなくてはならない。

 

 さて、と。準備はできた。あとは・・・


「才花、革獅子かわじしが来たよ」

「いいタイミングね」


 役者が揃うのを待つだけだ。


 突然、わたしの首筋に冷たいものが当たる。


「あら本当。いいタイミングね」


 ああ、知ってる。この感触は・・・





 ナイフだ。


はい、何故か長くなりました、今回。


そして班長さんの名前が黒部くろべだと分かりました(笑

ちなみに木下きのした橋川はしかわは蘭を追ってるふたり組です。

木下が体育会系の人で、橋川がちょっと軟弱っぽい方です。


黒部さんと秋奈のシーンを書くのが楽しすぎて長くなりすぎました;

でも満足です(笑


読んでくださった方、いつもありがとうございます。

精一杯がんばりますので、よろしければ見てやってください!

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