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SAS  作者: 洗濯バサミ
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第二十三話

 秋奈の熱弁は数分後にやっと終わった。

 

 すっきりした顔の秋奈と、疲れの見える顔をしたわたしたち。・・・いや、蘭だけは興味深いな、みたいな顔をしている。


「・・・ちなみに、革獅子かわじし冴苗さえなわはふたりとも暗殺担当よ。じゃあ次に、何故今回のテストで服役中のはずの革獅子の暗殺を行うことになったのか、ね」


 パソコンを自分の方に向け、操作しながら説明をする。


「冴苗は政府の諜報員をしているって言ったわよね?冴苗は、諜報員の中でもかなり上の人間なの。その権力を使って、愛しい自分の恋人を刑務所から出すことにしたのよ」


 春貴が冬弥の髪の毛を弄りながら聞いてくる。


「でもさー刑務所ってそんな簡単に出られるもんじゃないよね?」

 

 冬弥が怒る気配はないが、その右手に持ってるリボンは使わない方が身のためだと思う。


「ええ、簡単じゃないわ。じゃあどうして出られることになったのか・・・」


 春貴はうんざりとした表情を浮かべたが、すぐいつものようにへらりと笑った。


「あぁ・・・、取引かー」


 ・・・昔のことを、思い出しているのか。

 何の根拠もないが、そう思った。


 この学園に入学している生徒は、それぞれ何かしらの過去を抱えている。そして、それは当然のことだと思う。幸せな人生を送ってきた人間は暗殺者になることなど望まない。そもそも存在自体知らないだろう。


 わたしは春貴の過去を知らないし、春貴もわたしの過去を知らない。だが、それは些細な問題だ。春貴がどんな過去を持っていたとしても、わたしが接しているのは、今の春貴なのだ。過去は、関係ない。・・・・・・・昔は、こんな風に考えることはできなかったけど。


「そういうこと。諜報員の中でも力を持っている冴苗は、諜報員になるという条件で革獅子を刑務所から出せることになったのよ」

「感動する話ですわね・・・」


 秋奈がまた話し出すと困るので、すかさず口を挟む。


「ここまでは、ね。・・・ちょっと確認だけど、革獅子の暗殺のやり方知ってる?」


 既に知っている冬弥と、暗殺担当である春貴以外は知らないようだ。まぁ、当たり前のことだけど。


「・・・詐欺による暗殺」


 殺翁がぼそりと呟いた。音量は小さいはずなのにしっかり耳に入ってくる不思議な声に、少し驚く。 ごめん、存在感が無さ過ぎて数に入れてなかった。


「・・・殺翁言うとおりよ。革獅子は言葉巧みにターゲットに近づき、相手が気を許したところで手を下すの」

「ふ~ん。・・・んで?それが何か関係あるの~?」


 陽牙がやっと復活したらしい。


「ええ、もちろん。今回の脱獄で、革獅子は冴苗を裏切る気なのよ」

「なんですって!?」


 驚愕する秋奈を夏美がたしなめる。


「まぁまぁ、とりあえず聞こう」


 渋々といった様子で口を閉じる秋奈を確認して話を再開する。


「・・・続けるわね。さっき、革獅子と冴苗は恋人だったと言ったでしょう?その恋人という関係が既に、詐欺なのよ」

「え~?でもさ、革獅子って冴苗を庇って捕まったんでしょ~?恋人でもない奴庇う理由ないじゃん」


 秋奈が陽牙の言葉に深く頷いている。


「じゃあ、ふたりが恋人同士になったのは革獅子が捕まる前か後か、分かる?」

「捕まる前ですわ」


 自信満々に笑っているのが良く似合う。いかにもお嬢様って感じで。


「残念、違うの。ふたりが付き合うことになったのは、革獅子が捕まった後よ」

「・・・あぁ、なるほどね~」


 さすが陽牙、察しがいいわね。


「革獅子が冴苗を庇ったのがきっかけで、ふたりは付き合うことになった。でも、革獅子が冴苗を庇ったのは、他に目的があったから・・・ってとこ~?」

「そういうこと。そしてその目的は、追っ手から手っ取り早く逃げること」


 明らかにテンションの下がった秋奈を夏美が慰めているのが目に入った。

 うーん、ちょっとかわいそうだったかも・・・今度甘ったるい恋愛小説でも貸してあげよう。


「何故革獅子が狙われていたのかと言うと、まあこれも自分がやった詐欺のせいなんだけど、革獅子はある女の暗殺者をたぶらかして、大金を手に入れようとしていたのよ。彼女の家系は、代々優秀な暗殺者が生まれることで有名だった。そこに目をつけた革獅子は、暗殺の腕に惚れこんだとうそぶき、彼女を落として結婚間際まで持ち込んだんだけど、何らかの理由で企みがばれ、彼女の家に追われることになったの」


 蘭が理解しているのか怪しい顔をしながら軽く手を挙げた。


「えーっとつまり、女を騙そうとしたけど失敗しちゃったから命を狙われている、ってことか?」

「まあ、そういうことよ」


 何か一気に軽い感じになっちゃってるけど。


「じゃあ革獅子は冴苗が政府の人間だってことも全部知ってて庇ったのか?」

「そう、全部計算づくだったってわけ」

「そうだったのか・・・」


 切ない表情を浮かべる蘭。秋奈も目を潤ませている。


「才花、そろそろ仕事の確認しようか」


 冬弥が困り顔で提案した。ふたりに共感することができないのだろう。

 わたしも特別悲しい話だとは思わないが。


「分かったわ。じゃあ最後に流れの確認するわよ。まずターゲットを捕まえて、始末して、最後に後始末をするって感じで」

「流れの説明荒っ!もうちょっと詳しく言ってくれるかな~」

「しょうがないわね・・・・、これを見ればすぐに分かるわ」


 そう言ってパソコンの画面をみんなに見せる。


「あるなら先に出してよ~」


 律儀につっこみをいれていた陽牙は脱力したようにうな垂れた。


 みんなが確認し終わるまで待つ。最後に殺翁が確認をし、パソコンを閉じる。


「はい、今日はこれで解散!ちゃんと準備しなさいよ」


 はーいと返事をして席をたつメンバーと共に食堂を後にした。


 明日のテストに、胸を躍らせながら。

前回に比べて少し短めでしょうか・・・。

そして!次回やっとテスト本番です!このお話ももう終盤に入ったということですかね(笑


全然関係のない話ですが、わたしは先日高校生になりました!

いやー、同じ中学の子がクラスに居ないんで友達も全然ですね・・・。

切実に社交性が欲しい今日この頃です。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!

もうすぐ完結できるかなーとか思いつつも、おそらくだらだらと延びてしまうでしょうが、頑張りたいと思います!

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