第二十二話
あっという間に、と言ってしまえるほど忙しい二日間が過ぎ、試験当日になった。
まあ、実際に働いてたのはわたしじゃないから疲れてはないけどね。
食堂でひとり紅茶を飲みながら、みんなを待つ。少しすると、入り口から陽牙が歩いてくるのが見えた。
「はぁ~、やっと終わった~」
崩れるように椅子に座りながら、恨みがましくわたしを見ている。
「ふはっ、お疲れ様」
そんな陽牙を笑って・・・もとい、微笑みかけても眉間に寄った皺は深まるばかりだ。
「そんな安っぽい労いで納得できないからね~。明らかに俺だけ仕事量多いじゃん」
「・・・そんなことないわよ?」
笑顔のまま首を傾げると、頬を掴まれる。
「なぁに~?その怪しい間は。俺、みんなの倍以上の仕事したんだけど~?」
そう言って両頬を軽く横に引っ張られた。
「いたい、いたいわよ」
そんなに強く引っ張られているわけではないので普通に話せるが、痛い。地味に痛い。
「自分が動かないからって想像くらいつくよね~?か・な・り、大変だったんだからね」
「・・・・・・」
無言で睨むと頬を引っ張る手に力がこもる。
「い、いだっ、いたい。やめてよ」
「ん?」
「・・・ごめんなさい」
「次は許さないからね~」
陽牙は満足気に微笑むとやっと手を離してくれた。頬を擦るわたしを見て楽しそうに笑う。
「あははっ、そんなに痛かった~?」
「痛いわよ!もう・・・ちょっとは手加減してよ」
陽牙の手が伸びてきて、労わる様にそっと頬を撫でた。
「十分してたよ~。てか自業自得」
かと思うと、指で額を弾かれる。
「・・・分かったわよ、これからは仕事減らすわ。みんなの1分の2くらいに」
「そう、よかった~・・・・・・ってならないよ?それ普通に倍だよね?俺が気付かないとでも?」
「ちっ・・・」
舌打ちするとまた頬を掴まれる。
「全然反省してないね~」
陽牙さん、笑顔が怖いです。
「・・・・・何をしている」
呆れ気味の声が聞こえ、陽牙の隣に殺翁が現れた。陽牙は手を離すと、殺翁に訴える。
「才花が悪いんだよ~。俺の仕事ばっか増やすからさ~」
殺翁は少し黙ったあと
「・・・・・・それは才花が悪い」
真顔で賛同した。そして陽牙の右隣に座り、いつの間に持ってきたのかコーヒーを飲んでいる。
「・・・あーもう、悪かったわよ。もうしない」
「才花は殺翁に弱いね~」
にやにやと笑う陽牙に蘭の話でも持ち出してやろうかと思ったが、じっとこちらを見ている殺翁がいるため、何も言えない。黙っていると、すごい足音と共に蘭が食堂に入ってきた。
「悪い!何か呼び出されちゃって・・・」
陽牙の左隣に座りながら話す蘭。思わずため息を吐いてしまう。
「はぁ・・・また何か壊したのね」
「・・・。ま、まぁその話はいいじゃん。今日は作戦の確認だろ?」
「そうよ、もうASも来てるし」
後ろのテーブルを指すと陽牙が珍しく驚いている。
「えっ、いつから居たの~?」
「陽牙が来たときにはもう居たよ」
にっこりと微笑む冬弥に対して、春貴はどこか不機嫌だ。
「よく春貴がおとなしくしてたね~」
陽牙の言葉に、さらに不機嫌になったようだ。
「・・・俺だって好きでおとなしくしてたわけじゃないしー。・・・冬弥が、ね」
あぁ・・・、と納得したように頷く陽牙。周りを見ると他のメンバーは理解しているようで、分かっ
ていないのはわたしだけだ。
「この前から何なのよ。何かあるの?」
自分だけ分からないことに苛つき、この状況を一番把握しているらしい冬弥に尋ねる。
「いや、最初はすぐに声を掛けようと思ってたんだけどね。意外にもふたりがいい雰囲気だったから、つい見守っちゃたんだよ」
「・・・・・いい雰囲気?」
何故か殺翁までもが不機嫌なオーラを醸し出している。
「ちょっと冬弥、誤解を生むようなこと言わないでよね~。さすがに暗殺担当のふたりを敵に回したくないよ~」
焦る陽牙を楽しそうに眺める冬弥。間違いなく遊んでいる顔だ。
パンッと音を鳴らすように手を叩き、場を静める。
「それじゃあ、作戦の確認始めるわよ」
「俺の訴え無視!?」
「しっかり聞いてないと当日見捨てるわよ」
主張を諦めた陽牙は、不満そうに口を尖らせながら椅子の上で体操座りをしている。その子どもっぽい仕草に食堂に居る女子生徒から声にならない叫びが聞こえたが、陽牙がそれに気付いた様子はない。
うん、わたしには関係ない。それを見た蘭が若干不機嫌になっているけど関係ない。
「まずターゲットふたりの関係ね。わたしたち「天使」のターゲットは革獅子 麻洋という現在服役中の男。「AS」のターゲットは冴苗 真鹿という政府の諜報員をしている女よ。このふたりに共通するのはもともと腕のいい暗殺者だったという事。それと、ふたりが恋人関係だったことが分かっているわ」
パソコンに映し出された顔写真を見せながら、その下に書かれている情報の一部を読み上げる。一息ついたところで蘭が軽く手を挙げた。
「その麻洋とか言う暗殺者、腕が悪かった訳でもないのに何で捕まったんだ?」
「その質問にはわたくしがお答えしますわ!」
蘭の言葉に目を輝かせながら秋奈がすっと立ち上がった。
「これは単なる憶測ですけれど、革獅子麻洋が捕まってしまったのは、冴苗真鹿を守るために何かをしたせいなのでは?」
「・・・そうよ。革獅子は怪我をした冴苗を守るために自ら囮になり、結局捕まってしまったの」
「やっぱり!わたくしの読みは当たっていましたわね」
ふふん、と得意げに微笑む秋奈。確かにすごいと思う。
「おー!秋奈すげー。なんで分かったんだ?」
「うわ~・・・安っぽい恋愛ドラマ~」
素直に感心する蘭の横で陽牙がつまらなそうに呟いている。正直陽牙と同意見だ。
「捕まりそうにない恋人同士で片方が捕まったとなれば、相手を庇っているに決まっていますわ!庇いあうふたり・・・あぁ、なんて素晴らしいのでしょう!これこそが、愛!ですわ。愛の前にはどんな障害も無に等しい・・・それが真実の愛なら!」
力説する秋奈の横に座っている冬弥が、秋奈には聞こえないくらいの音量で話す。
「・・・少し前にね、秋奈が恋愛について学びたいから何かいい本はないかって聞いてきたんだよ。だから冗談のつもりで、絶対在り得ないような話を薦めたら・・・それ以来そういう話が大好きになっちゃったみたいなんだよね・・・」
ばつの悪そうな顔をしているところを見ると、一応責任は感じているらしい。
「勘弁してよ・・・これじゃあ話が進まないわ」
まだ何か話している秋奈とそれを熱心に聴いている蘭を見ながら言った。
蘭が変に影響されなきゃいいけど・・・。
とりあえずごめんなさい・・・。テストの話に入ったと言えば入ったのですが・・・微妙ですね。
何か才花と陽牙の仲のいい感じとかいろいろ入れたい話があったので入れていたら長くなってしまったので、一度切ることにしました・・・;;
次こそは!次こそは作戦の確認をしっかりやれると思います!
そしてぎりぎり三月中に更新できたのかな?これは。
読んでくださった方ありがとうございます。
ぐだぐだになってきましたが、これからも頑張っていきますので、どうか暇なときにでも読んでいただけると嬉しいです!