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SAS  作者: 洗濯バサミ
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番外編 『本宮伸子が秋刀魚の目玉を好きになった理由』

本編には全く関係ないうえにできとしてもかなり微妙なので、読み飛ばしていただいても支障はありません。

 あれはわたくしがまだ幼かった頃のこと。

 その頃はまだ、わたくしは秋刀魚の目玉が好きではありませんでした。



『伸子、魚の目玉は体にいいんだよ。一度でいいから食べてみなさい』

 父が笑いながら差し出す魚の目玉を見て、嫌そうな顔をしながら首を振る伸子。

『・・・いやだよ。目玉を食べるなんて・・・気持ち悪い』



 わたくしの家は、わたくしが赤ん坊だった頃に両親が離婚し、父が男手ひとつでわたくしを育ててくれていました。所謂、父子家庭でございます。


 わたくしは食べ物の好き嫌いはありませんでしたし、父に迷惑や心配を掛けたくなかったので、父の言うことは素直にきいていました。ですが魚の目玉を食べることだけは、何度言われてもきくことができませんでした。食べるときに目を抉り出すという行為が嫌でしたし、父に差し出される目玉と目が合ったような気がしてしまい、どうしてもできなかったのです。


 そんなある日の晩、食卓にはおいしそうな秋刀魚の塩焼きが置かれていました。父が、知り合いの漁師さんに分けてもらったと言っていたのを覚えています。


「ほら伸子、食べてみなさい。おいしいから」


 父がいつものように目玉を箸に乗せてわたくしに勧めてきます。


「・・・いやだ」


 わたくしはいつものように断りました。すると父は少し考えるような仕草をした後、乗せていた秋刀魚の目玉を皿の隅に置き、身を食べ始めました。


「やっぱり秋の秋刀魚はうまいな」


 そう言って笑う父に、わたくしも笑顔で答えました。


「うん、すっごくおいしい。明日漁師のおじさんにお礼言ってくる」


 わたくしの言葉を聞いて、父は笑みを深めながら頭を優しく撫でてくれました。


「えらいぞ、伸子。・・・うっ」


「っ!?お父さん!?どうしたの?」


 突然父がお腹を押さえてうずくまりました。


「腹が・・・」


「お父さん、大丈夫?大丈夫?」


 心配するわたくしの頭を撫でながら、苦しそうに父が言います。


「し、伸子。すまないが、秋刀魚の目玉を食べさせてくれないか」



「えっ!?なんでそこで秋刀魚の目玉が出てくるんだ?」

 さっきまでおとなしく聞いていた蘭が声をあげた。

「ええ、わたくしも驚きました」



 驚き、戸惑いましたが、大好きな父の頼みです。自分の秋刀魚の目玉を抉り出し、父の口に運びました。目玉を口にした途端、父は笑顔になり不安げなわたくしに言いました。


「ありがとう、伸子。おかげでもうすっかり良くなったよ」


「ほんとに?ほんとに?お父さん」


「ああ、本当だ。秋刀魚の目玉を食べたおかげだ」


 父はそう言ってわたくしの頭を撫でました。

 後から考えれば完全に父の演技だったのですが、幼かったわたくしはまんまと騙されてしまいました。


「・・・秋刀魚の目玉、すごいね」


 目を輝かせていたでしょうね。


「すごいだろう?伸子も一度食べてみなさい」


「あ・・・でも、僕のやつはお父さんに・・・」


 自分の秋刀魚を見て微妙な顔をするわたくしに、父は自分の皿の隅に置いておいた目玉を差し出しました。


「ほら、父さんのがある」


 わたくしは勇気を振り絞り秋刀魚の目玉を口に入れました。



「・・・初めて口に入れたあの瞬間は今でも忘れられません」


 そう言って微笑む伸子は、整った顔立ちのせいか俳優のようにも見える。

 伸子が昔の話をすることになったのは、ゲーム友達である蘭が思い出したように聞いてきたからである。


「そんなことがあったんだなー、知らなかった」


 何故か納得したように、うんうんと頷いている蘭。


「ええ、あれ以来秋刀魚の目玉は食べられるようになりましたし、父とのいい思い出でもあるので一番好きな食べ物になったのですが・・・」


「ん?何か問題でもあるのか?」


「それが・・・他の魚の目玉は未だに食べられないのですよ」


 ため息を吐きながら首を振る。


「うーん、まぁ、別にいいんじゃないのか?魚の目玉がなくても生きていけるし、な!」


 ぽんぽんと肩を叩かれる。その屈託のない笑顔に何故か父を思い出す。


「不思議な方ですね・・・」


「ん?あたし何か変なこと言ったか?」


「いえ、別に。それではゲームでもやりましょうか」


 廊下から聞こえる騒がしい足音に頬を緩めながら蘭にコントローラーを差し出す。


「おう!」


 蘭が元気よく返事をしたそのとき、部屋の扉が乱暴に開かれた。


「・・・俺も混ぜてくれないかな~?」


 そこには笑顔なのに目がまったく笑っていない陽牙が立っていた。予想していた来訪者に、もうひとつのコントローラーを差し出す。


「喜んで」



 あぁ、あなた方は暗殺者という立場に居ながら、何故こんなにも温かいのでしょうか。口に出したことはありませんが、利害など関係なく、駆け引きなど全くなく、わたくしに接してくださることに、何度救われたことでしょう。


 永遠など信じていない私ですが、今だけは願いましょう。あなた方のその純粋さが、穢されることがないように。





 秋刀魚の目玉を口に入れたまま固まる伸子の顔を覗き込む。伸子はゆっくりと顔を上げながら、大好きなあの輝くような笑顔を浮かべた。


『・・・おいしい!』


頑張って苦手な短編(長編もぐだぐだだけど;)を書いてみましたw



読んでくださった方ありがとうございます

これからもぼちぼちいきたいと思いますゞ

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