第十五話
「では、最終ゲーム、始め!」
観客の興奮した声が聞こえ、春貴と蘭が同時に棒を登りだした。
「クイズの問題はペアのひとりが上まで登りきってから表示される。自分のモニターをよく見ておきなさい」
蘭と春貴の方を見ながら無言で頷くわたしと冬弥。
蘭は螺旋状になっているために生じた凹凸に手や足をかけするすると登っていく。・・・そういえば春貴はただの棒だったわね。どう登るのかしら。
少し興味が沸いてきて春貴の方を見る。
「!・・・春貴って意外と頭よかったのね」
「春貴はもともと馬鹿じゃないよ」
驚いて言うわたしに向かって、冬弥は楽しそうに笑った。
「分かってるわよ。ただ普段の態度があまりにも馬鹿っぽ」
「おいっ、春貴!」
わたしの言葉は、後ろにあるスクリーンから聞こえてきた蘭の怒鳴り声で切断された。
「びっくりした・・・」
「・・・そうだね」
冬弥も驚いたようで、いきなり叫ぶのやめて欲しいよ、と言ってため息をついている。
何が起こったのかとスクリーンの方を見ると、蘭が春貴に抗議しているようだった。
「何、蘭ちゃん、どうかした?」
「“蘭ちゃん”って呼ぶな気持ち悪い!」
「えーそう?じゃあ直すよ」
口喧嘩しながらも二人の登るスピードは変わらないことに、思わず感心した。
「おう・・・ってそうじゃなくて!あたしが言いたいのは・・・棒何本も使って登るのずるいだろ!」
そう、春貴はただの棒を複数使い、棒から棒へと飛び移りながら上へ登っていたのである。春貴がさっきゆっくり歩いていたのは棒の形などを選んでいたのではなく、周りの棒との距離が丁度いいものをさがしていたのだろう。
確かに抗議したくなる蘭の気持ちは分からないではないが・・・
「でも、ルール違反じゃないよ」
いつもどおりへらっと笑いながら答える春貴。
「ぐっ・・・まあ、確かにそうだけど・・・」
蘭が悔しそうにしているところを見ると、自分でも薄々分かっていたのだろう。その後は黙って登り続けている。
「うまいこと考えたわよね・・・確かに“棒を一本しか使ってはならない”っていうルールは無かったわけだし」
「さて、どっちが勝つかな?」
冬弥が少し挑戦的な雰囲気を匂わせながら言った。
今は蘭より春貴の方が上を登っているが、まだ分からない。
「・・・わたしは蘭を信じてるわ」
「僕も、春貴を信頼してるよ」
にっこりと笑いあう。絵面的には穏やかだが、あとで陽牙に聞いたところによると、“背後で悪魔が睨み合ってた”らしい。・・・失礼な奴だ。
「それにしても・・・二人とも妨害とか全然しないわね」
ふたりは黙々と
「蘭ちゃん遅いよー」
「うっせぇな!つか“ちゃん”付けすんなって言ってんだろ!!」
・・・ではないが、お互いの邪魔をすることもなく、又自分のペースを崩すこともなく登っていく。
「ふたりは、正々堂々と戦うのが好きだからね」
冬弥が言う。
“ふたりは”ってことは、冬弥は違うのね。まあわたしもだけど。
「それに、妨害なんかするより普通に登ったほうが速いだろうし。・・・ていうか、結構距離があるし妨害も何もないわよね」
理事長は妨害有りなんて言ってたけど。
「なんで理事長はあんなこと・・・ってまたか!」
不思議に思ったがすぐに気がつき、思わず声が大きくなった。
「またこのパターン・・・また騙されたし・・・」
悔しさから体の力が抜けていく。
妨害有りなどと言って、殺翁のときのようにどちらかが騙されて、登りやすさなどよりも相手への妨害のし易さに気をとられるのを期待していたのだろう。しかし蘭も春貴もそんな小細工などは好きではなかったため、理事長の思惑通りにはいかなかったようだ。
まったく・・・妨害してるのは理事長の方じゃない。
冬弥が楽しそうに笑っている。
「くくっ・・・才花って意外と騙されやすいんだね」
あれ、デジャヴ・・・?前にも似たようなこと言われたような・・・。今日は何故かよく馬鹿にされる日だ。
無言で睨むと、ごめんごめん、とまだ少し笑いながら謝られた。
冬弥がまだ笑みを零しながら言う。
「それはいいとして」
全然よくないけどね。
「もうすぐ登り終わりそうだよ、蘭と冬弥」
二人の方を見ると、蘭の方が少し高く登っている。一番上まではあと2,3mほどある。
観客から応援が聞こえてきた。わたしも心の中で応援する。
「蘭ねえさーん!頑張れー」
夏美が笑顔で声援を送っている。
・・・敵だけど応援してていいのだろうか。と思ったら秋奈に怒られている夏美。まあ普通に考えてそうなるよね。
そして一番上まであと1m程のところで、ついに蘭と春貴が並んだ。
久しぶりの更新でございます
そしてテスト週間に入いるのでまた書けなくなるという・・・
受験とかさっさと終われ!!