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SAS  作者: 洗濯バサミ
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第十三話


    陽牙の姿が、わたしたちの視界から消えた。




 いや、陽牙を捜したが見つからなかった、と言ったほうが正しいだろう。


――ビーッ!


 終了のブザーが鳴り、観客も一瞬にして静まりかえる。防御の体勢をとった夏美はそのまま固まっている。わたしも含め、この場にいる全員が夏美たちのいるフィールドを見つめ、突然消えた陽牙の姿を探す。

 そんな静寂をぶち壊すように、特有の間延びした声と共に陽牙が姿を現した。


「びっくりした~?」


 へへっ、と悪戯の成功した子どものように無邪気に笑う陽牙。楽しそうに首を傾げながら、さっきまで隠れていた柱のような障害物にもたれかかる。


「あ、え?な、なんで・・・」


 夏美はまだショックから立ち直れていないようで、かろうじて防御の体勢は解いていたが、陽牙を見て呆然と立ち尽くしている。


「実力の差だよ~」


 あっさりと言ってのける陽牙。そう言ってしまってはどうにもならないだろう。


「結果は見てのとおりだ。勝者、陽牙!」


 理事長の声に、また観客が歓声をあげる。陽牙のファンも混じっているのだろう。さっきよりも黄色い声が目立っている。


「ふい~、疲れた~」


 専用フィールドから戻ってきた陽牙は、全然疲れていないくせにそんなことを言った。


「どうだった?俺の勇姿~」


 陽牙はくるりと向きを変えて蘭の方を向き、冗談のように尋ねた。いや、どうせ褒めてはもらえないと思っているのだろう、完全に冗談で尋ねていた。


「おう、かっこよかったぞ!」


 そんな陽牙の予想を、蘭は爽やかな笑顔と共に見事に裏切った。陽牙は虚を突かれたように一瞬目を見開き、口を少し開いたかと思うと見る見る頬が赤く染まった。


「どうしたんだ?」


 それを見た蘭は、気遣わしげな声色で陽牙に声をかけた。


「っ・・・あーもう!」


 陽牙は乱暴に頭を掻き、少し怒ったように言った。そして、きょとんとしている蘭を抱きしめた。


「!!?」


 びっくりしている蘭に対し、観客からは複数の甲高い悲鳴が上がる。おそらく陽牙のファンだろうが・・・また蘭が恨まれることは間違いなさそうだ。


「な、なにしてんだよ」

「いや~、なんかもう耐えられなかったっていうかね~」


 蘭がジタバタともがく。すると陽牙は、意外にもあっさりと蘭を開放した。


「お?あ、あぁ」


 あれ?というように軽く首を傾げる蘭。そんな蘭を見て楽しそうに笑う陽牙。


「ん?不満だった~?」

「なっ!?んな訳あるか!」

「ははっ、冗談だってば~」


 陽牙は満足気に微笑むと、殺翁の方へ行き何か楽しそうに話始めた。一方蘭は、少し不満そうな顔をしていた。おそらく無意識なのだろう。じっ、と考え事をするように陽牙の方を見ていた蘭だが、しょんぼりとしながら近づいて来る夏美を見つけると、走り寄って慰めはじめた。

 そこでもうちょっと押せば進展するだろうに・・・もったいないなぁ。


「才花っ!何ぼーっとしてんの~?」


 いつの間に来たのか、陽牙にぽんと肩を叩かれる。


「ちょっとね・・・・」


 そのご機嫌な顔をみた瞬間思わずため息がこぼれる。

 わたしのところに来てる暇あったら蘭としゃべればいいのに・・・。


「えぇ~何?人の顔見てため息つかないでよ~」

「・・・なんでもないわ。それより、さっきは一体何が起こったのよ」

「さっきって~?」

「さっきの“鬼ごっこ”の最後よ。夏美に何かしたの?」


 わたしの言葉を聞いて、あぁ、あれね~、と頷く陽牙。


「たいしたことしてないよ。ただ逃げるのをやめただけ~」

「・・・どうゆうこと?」


 顎に手をあて考えるポーズをとる陽牙。・・・陽牙がやるとわざとらしく感じるのは何故だろう。普段の行いの悪さか。


「んん~そうだなぁ・・・例えばさ、才花が走ってるときにいきなり前に居た人が立ち止まったら、どうする?」

「どうするって・・止まるか避けるかするに決まって・・・あぁ!」


 さっきの夏美の行動を思い出す。


「かなりのスピードで走っていた夏美には、いきなり立ち止まった陽牙がこっちに向かってきたように見えたのね」


 夏美はいきなり向かってきた相手に対して反射的に防御してしまったのだろう。


「そうゆうこと~。普通のひとだったら勢いのまま俺にぶつかっちゃうだろうけど・・・」

「夏美は反射神経が良すぎた・・・」


 普通の人だったら反応できないような突然の衝撃にも反応できる鋭い反射神経が、逆に作用してしまったようだ。


「せいか~い。流石才花だね~」


 陽牙に褒められた。

 ・・・馬鹿にされてる気がしてあまり嬉しくない。


「・・・才花って意外と分かりやすいよね~」


 どうやら考えていることがばれたらしい。ため息を吐かれた。

 うるさいわね。


「・・・それにしても、仕組みが分かっちゃうと案外簡単だったわね」


 何か言うのも癪なので別の話を振る。


「手品なんてそんなもんだよ」


 陽牙は少し呆れ顔だったが、諦めたのか少し笑って答えた。

 ・・・陽牙ってなんだかんだで優しいし、やっぱりかっこいいわよね。

 惚れることはないけど。


陽牙はいい奴だけどいい奴どまりな子ですね

そして人の恋には敏感なくせに自分の恋愛となると鈍いですw

このふたりはくっつくことができるのか・・・


感想などいただけると嬉しいです!

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