第十話
「・・・“ばばぬき”だ」
場に沈黙が流れた。執事を見ると、顔を背けており、心なしか肩が震えている。
「・・・・・・・・・は?」
いやに緊迫感のない沈黙を破ったのは、春貴の、珍しく本気で驚いた声だった。春貴意外は声を発していなかったが、同じことを思っているのは明らかだ。
「“ばばぬき”だ」
わたしたちの反応から聞こえなかったと思ったのか、理事長はもう一度言い直した。
ていうか、なんでそんなに得意気な顔してるのか謎だ。どこに得意気要素があったんだろうか・・・・。
ここにいる誰もが聞きたかったことを、春貴が口に出した。
「あの・・・なんで“ばばぬき”なんですか・・・?」
初めて春貴を尊敬した気がするわ・・・。
春貴の質問に、そんなことも分からないのかい?とでも言いたげな顔をする理事長。
「仕方が無い、教えてあげよう。この“ばばぬき”のすばらしさを」
いやいやいや、“ばばぬき”のすばらしさって・・・・なんの話ですか。そんなのきいたこともないんですけど。しかも「仕方ない」とか言いながら、嬉しくて堪らない、って顔してるんですけど。
そして理事長がもったいぶって話し出した。まるですばらしい秘密を話そうとしてるかのように。
「“ばばぬき”がその単純な仕組みから、子供から大人まで遊べる簡単なゲームとして慣れ親しまれているのは知っているだろう。だがしかし、真の“ばばぬき”とはそんなに簡単なものではない。相手がどのカードを欲し、それがどこにあるのかを考え、そろうのを阻止するためには鋭い観察力や推理力が必要とされる。そして最後一対一になったときの緊張感。そこから究極の心理戦がはじまるのだ。相手の顔をじっくりと観察し推理しカードを選ぶ。単純な仕組みだからこそ生まれる奥深さ、ああ!なんとすばらしいゲームだろう」
なんかそれっぽいこと言い出した・・・・。
説明はそこで終わったかと思ったら、理事長がまた口を開こうとしている。それを、さっきからステージの隅で肩を震わせていた執事が、やんわりとたしなめた。自分が笑っていたことなどおくびにもださない。
プロだね・・・執事さん。
しかし正直言って助かったことは事実である。まさか大真面目にしゃべっている理事長を前にして笑うわけにはいかないのだが、さっきから隣で口を押さえている蘭と陽牙がそろそろ限界だ。殺翁はいつもどおりの無表情。ちらっと「AS」の方を見ると、冬弥以外の全員が口に手を当て必死に笑いを堪えていた。スクリーンの向こうにいる観客達も十中八九笑いを堪えているだろう。
執事に止められて少し不満げな表情を浮かべていた理事長だが、渋々といった風にゲームの進行を再開する。
「では、最初のくじを引いてもらおう。殺翁、春貴、ステージにあがりたまえ」
理事長のセリフとともに、ステージに箱がふたつ置かれた。それぞれ「天使」・「AS」と書かれている。
「はーい」
「・・・・」
ふたりは、理事長の言葉に頷いた次の瞬間ステージの上に立っていた。
そんなふたりを見ても全く驚いた様子などなく、むしろ当たり前のように話を進める理事長。
・・・・・・そういえばわたし、理事長が本気で驚いたところって見たこと無いわね。
「不正を防ぐため、殺翁に「All Season」のくじを、春貴に「天からの使者」のくじを引いてもらう」
理事長の言葉に従い、それぞれの箱の前に立ち中に手を突っ込むふたり。そしてすぐに
抜き出したその手には、名前の書かれているだろうボールが握られている。
そのボールを理事長が受け取り、読み上げた。
「始めのゲームのプレイヤーは、殺翁と秋奈だ。ふたりともステージに」
なんとも言えない組み合わせだ。どっちが勝つとも言い切れない。殺翁は無表情で感情が読み取りにくいが、秋奈は演技がうまい。わざと表情を変えて裏をかかれる可能性もある。少し、秋奈の方が優勢かもしれない。
殺翁は駆け引きとか苦手だしね・・・。どうなるのかしら。
春貴だけステージからおり、殺翁と秋奈は用意されていた机に向かいあわせに座る。そこに理事長が自らカードを配り、ふたりが余分なカードを削っていく。じゃんけんで順番を決め、すべて準備が整ったところで、理事長が静かに言う。
「一本勝負で勝敗を決する。では・・・はじめ!」
うーん、難しい・・・。
どうでもいい話パート2
「姉の名言」
姉「今日の帰りさー、”ねこふんじゃった”しそうになっちゃった」
くだらなくてすみません・・・。




