第九話
今日はついに勝負の日。といっても昨日の今日なのであまり緊迫感はないのだが。
今わたしたちがいるのは多目的ルームといわれる場所で、その名のとおりかなりたくさんのことができる。バスケやサッカーなどのスポーツをするスペースや、将棋やチェスなどのボードゲームをするスペース、挙句の果てには演奏用の機材が完備されたスタジオや個人練習用の防音室、プールまである。
陽牙が感心したように周りを見渡す。
「相変わらず驚くほど広いよな~」
「広すぎよ。絶対無駄なスペースがあると思うわ」
ため息をつくわたしにお構いなくうろうろとする陽牙。
「いい加減なれたら~?もう一年半くらい使ってるじゃんか~」
「そういう問題じゃないのよ。しかもここ滅多に使わないし」
陽牙はわたしの言葉に頷きながら、ガラス製のチェスの駒をひとつ持ち上げ興味深げに眺める。
「まあ、そうだけどね~」
蘭が陽牙の持っているチェスの駒を奪い、窓からさす陽の光に当てながら楽しそうに言った。
「それにしても勝負ってなんだろうな!」
無邪気に笑う蘭を、陽牙が静かに見つめている。その眼差しがとても暖かいことに気が付くと、途端にいたずら心が顔を出した。
そういうのはわたしのいないところでやって欲しいわね。からかいたくなる。
「さあ?理事長の考えることはよく分からないのよね・・・」
「・・・・・・・」
殺翁がこくりと頷く。そしてすっと入り口に視線を送る。と、その瞬間扉が少々乱暴に開け放たれた。
「おっはよー」
朝からハイテンションで現れたのは、見るまでもなく春貴率いる「AS」たちだ。
いや、来るのは分かってたし他に来る人もいないから驚くことじゃないんだけど・・・いつもどおり期待を裏切らないその登場はどうなんだと突っ込みたくなる。
特に示し合わせた訳ではないが、自然と両チームの足は入り口正面にある特設ステージに向かっていた。そしてある程度の距離を置いて立ち止まったところに、マイクで拡張され少しノイズの混じった理事長の声が聞こえた。
「ごきげんよう、諸君。早速で悪いが、時間が無いんだ。始めさしてもらうよ」
話しながら登場した理事長の声は、昨日理事長室で聞いた魅惑的で艶のあるいかにも女性的な声とは違い、耳障りがよく深い渋みのある男性的な声が才花達の鼓膜を振るわせた。どうやら昨日の宣言どおり、今日は男にしたようだ。
もちろん理事長が手でワイヤレスのマイクを持つなどという優雅でないことをするはずもなく、スーツの襟元に取り付けた小型マイクを使っている。ステージ上のやや客席寄りに立っている理事長の後方には、光沢のある赤い布が掛けられた何かがある。下のほうから机の脚のようなものが少し見える。勝負に使われるものだろうか・・・。
理事長はわたしたちの反応を待つわけでもなく、さっさと説明を始めた。
「今回の勝負では三つのゲームで戦ってもらい、先に二回勝ったほうが勝者となる。各ゲームのプレイヤーはすべてくじ引きで決めるが、くじを引くのは特定の一人のみとする。実に単純な勝負だろう?」
少し首を傾げて言ったあと、わたしたちに向かって“後ろを向け”というように手を動かした。わたしたちが後ろを向くと、“ウィーン”という独特の機械音を発しながらスクリーンが下りてきた。
「ちなみに今回の勝負はすべて生放送中だ。特別に全校生徒を体育館に集め勝負の行方を見守ってもらっている」
理事長が言葉を切ると、スクリーンに観客達の映像が映し出された。ざわめきが聞こえるところを見ると、あちら側の音声も送られているようだ。
「何か質問はあるかな?」
ないことくらい分かっているだろうに、形式的に聞いてくる理事長に向かって首を横に振りながらステージに向き直った。
そんなわたしたちを見て理事長は満足気に微笑み、執事が持ってきた黒いシルクハットを被った。そして大仰な仕草でお辞儀をした後、楽しそうに開始の合図を口にする。
「よろしい。では始めよう。ターゲットをかけた真剣勝負。・・・Let’s start!」
背後のスクリーンから盛大な拍手が上がる。
ああ・・・面倒なことになりそう。
少し話し合った結果、わたしたちのくじを引くのは殺翁になった。すると、何故か対抗心むき出しの春貴が、ものすごい勢いで志願したので、「AS」のくじは春貴が引くことになった。
暗殺つながりで対抗してんのかな・・・?まあ、わたしに害は無いからいいんだけど。
「諸君、くじを引く者は決まったようだな。早速最初のゲームを始めよう」
わたしたちの話し合いが終わったことを確認した理事長は、ゲームの説明に入り始めた。
「最初のゲームは・・・・・・」
いかにもといった風に間をあける理事長。
「・・・“ばばぬき”だ」
久々に(?)投稿です。
うーん、早く話を進めたいのになかなか進まない・・・。
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