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一話 始まりの始まり

若気の至りというやつです。

少しずつひっそりと書こうかなと思います。

初めて書くので読みにくいかと思いますがよろしくお願いします。



 目の前で鮮血が散る。

 首が飛び、腕が舞い、命が消える。

 月明かりだけが頼りの薄暗い森の中だというのに、的確に敵を屠っていく。

 初めてみる光景に思わず口元を押さえた。

 日常ではない非日常。

 脳が現実と理解していないのか頭の中が真っ白になる。

 手の中で抜いたこともない剣がカタカタと音を立てて揺れる。じっとりと滲んだ汗のせいで剣を落としそうになるのを、抱えるように持ち直した。他人が使っていても、自分が胸の中で抱えているものが人の命を奪っているとその存在感と重さに押しつぶされそうになる。

 それでも目を逸らすことができない。いきなり現れた彼女がなんで私を助けるのかわからない。もしかすると、次は私なのかもしれない。その考えがふと脳裏に浮かんだ時に途方もない恐怖に襲われた。

 無意識に一歩後ろに下がる。

 足が何かに引っかかり尻もちをついた。手にぬるりとした感覚が伝わる。

 悲鳴が出そうになるのを必死に噛み殺して、ゆっくりと振り返る。

 鎧を纏った女性だった。一見傷もないように見えるが鎧の隙間を縫うように貫通した穴からは、生命の証が地面を濡らしている。

 いつも一緒に居てくれた人だった。郷愁の思いに駆られ涙した時は傍にいてくれた。悩んでいる時は話を聞いてくれた。

 一番親しい人だったと思う。私と同じくらいの歳になる妹がいると言っていた。

 無意識に涙が溢れた。彼女はもう動かないんだと直感で感じた。もう優しくしてもらえないと思うと悲しくなった。

 彼女が死んだのは確実に私のせいだった。

 剣もまともに使えない私はお荷物以外の何物でもなかった。

 彼女達はなにも言わなかったけど、心の中まではわからない。私の立場も影響しただろう。

 私は甘えていた。優しさが偽物でも良かった。それしか支えてくれる物のがなったから。言い訳みたいに聞こえるかもしれない。でも現実は私に厳しすぎた。

 思考が負に落ちていく。なにもわからなくなる。

 頬に当たる地面が冷たくて、自分が倒れていることを悟った。

 敵の中で一騎当千を誇っていた彼女が無数の骸を踏みしめて私の方へと戻ってくる。

 水晶ように透明だった彼女の不思議な剣は血を吸いその面影もない。

 彼女が剣を振り上げる。たらりと垂れた血が私の額に落ちる。まだ温かかった。

 意識が暗くなる。瞼に浮かぶのはもう会えない人の姿だった。

 ----暗転。


◇◆◇◆◇◆◇


 パチパチと木々が弾ける音で目が覚めた。

 「あら、お目覚め?」

 鈴のような声のした方へ目を向けると、助けてくれた女性が焚火の横で小さな鍋をかき回していた。

 年齢は十代の半ばといったところ。薄紫色の髪を邪魔にならないように後ろに束ねた美しい娘だった。特に感情のない赤い瞳がじっとこちらを見つめている。

 すっと差し出されるのは何かのミルクだろうか。とてもいい匂いがした。

 一口、口を付ける。やさしい味に酔い知れながら、自分の中に浸透していくのを感じる。

 やっと気分が落ち着いてきた。

 改めて周囲を見渡すと、血の跡はあるが遺体の方は見当たらなかった。そして自分の身体に毛布が掛けられているのに気づく。

 「死体なら片づけておいたわ」

 物のように扱う言葉に気分が悪くなる。だが、ありがたい気持ちもあった。でも彼女の細い腕では相当の労力が必要だったはずだ。

 「あの…」

 「ん?」

 「ありがとうございます」

 あっけに取られた表情を見せたがすぐに目線をじっと合わせてくる。

 「話には聞いていたのだけれど思った以上に甘いのね」

 くすくすと噛み殺すように笑う彼女の様子に首を小首を傾げた。

 「毒でも入っていたらどうするの?」

 毒と聞いて自分が何を飲んだか思い出す、ぎょっと手元のコップに目を落とす。思わず投げ捨てそうになって、

 「嘘ですから安心してください」

 彼女はからかうようにそう言ってミルクを一口飲んだ。うっすらと浮かんだ笑顔がとても憎い。

 「シャルロッテと申します」

 「シャルロッテさんはーーー」

 「シャルルでいいですよ。あなたは?」

 「わたしはーーー」

 「ミサキ様。プルガトリアに召喚された哀れな勇者様。剣術も魔術も使えない上に唯一の武器である聖剣さえも抜けない」

 自分で聞いておきながら回答を聞くまでもないと話を進める。

 「勇者とはめんどうなことですね」

 シャルルはつまらなそうに呟いて華麗に手の中で聖剣弄んで見せる。

 はっとして美咲は周りに手を這わせるが自分の存在理由でもある聖剣の姿はない。

 聖剣<神をも殺す聖なる魔剣>

 その名の通り神をも殺すことが出来ると言われているほど強力な魔剣。歴史にも幾度となく登場しており、中には一振りで軍隊をも吹き飛ばしたとも言われている。

 しかし最強の名を欲しいままにしている聖剣も万能とは言えない。

 聖剣は勇者にしか持つことが出来ず、抜くこともできない。

 資格のないものが持つと聖剣自体が持てないほどに熱く発熱し物理的に持つことが出来ない。

 そのことを思い出してシャルルの様子を見る。

 金と蒼を基調とした装飾を繊細に施された聖剣は全く発熱しているように見えない。

 「あなたも勇者なの?」

 「いえ、違います」

 「でもーーー」

 答える気はないとシャルルは美咲に聖剣を投げて寄越してから、

 「そんなことはどうでもいいじゃないですか。大事なのは勇者様が今生きていること」

 そうでしょう? と言って同姓でも見惚れるような笑む。

 親しくしてくれた人たちが死んだという現実でその言葉には素直に頷けなかった。

 シャルルは呆れたと首を左右に振る。

 「甘い甘いです。アカメの果実水より甘いです」

 美咲もそう言われるのはわかっていた。でもここで肯定してしまうと自分を否定してしまう気がした。

 シャルルも美咲の内を悟ったのか、はぁと溜息を吐く。

 「まぁ、いいです。勇者様がそれでいいなら」

 一呼吸空いてから。

 「それよりもなんで勇者様がここにいるかが重要ですから」


 



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