128 緊急会合
プリシラかクリスティアンが転生者……な訳ないわよね?
だとしたら、二人のどちらかに助言している者が転生者?
以前から変わらずにプリシラの側に居続けている女子生徒が怪しい気がするけど、前世と同じ性別に生まれるとは限らないのであれば、クリスティアンの側近候補の中にいるのかも。
或いは、第二王子宮や中央教会の中にいるのか……。
だけど、急に文化祭を開くなんて、どんな目的なんだろう?
『庶民の苦労を知る必要がある』とか言ってるみたいだけど、プリシラお得意の庶民の味方アピールなのかしら。
「───リア。
……オフィーリアってば!」
転生者の存在に動揺し、グルグルと考え込んでいた私は、ベアトリスの呼び掛けで現実世界に引き戻された。
「あ、済みません。ちょっとぼんやりしてました」
「もうっ!
考え込んでいる時に周囲の声が聞こえなくなるの、貴女の悪い癖よ?」
「気を付けます」
(同じ事、前にも誰かに注意されたわね)
そんな事を思い出しながら、私はベアトリスに謝った。
「なんか少し顔色が悪くないか?
体調が優れないなら、救護室……は、リンメル先生がいるかもしれないから、今日は帰った方が良いな」
心配そうに私の顔を覗き込むアイザックに「いえ、大丈夫です」と笑顔で答える。
彼は納得行かなそうな顔をしていたけど、始業のチャイムが鳴ったので、渋々といった感じで何度もこちらを振り返りながら、自分の席に着いた。
(相変わらず過保護ね)
そう苦笑しつつも、ゲーム内とは全く違うアイザックの態度に、少なからず安堵している自分がいた。
翌日のお昼休み。
アイザックは私達と別行動を取った。
生徒会役員と教職員、一部の保護者が集まって、急遽開催が決まった文化祭についての話し合いが行われたのだ。
生徒会役員であるクリスティアンは勿論、発案者の一人であるプリシラも出席しているらしい。
午後の授業が始まるギリギリに教室へ戻って来たアイザックは、強い疲労を滲ませながら溜息をついた。
「お疲れ様です」
「ああ、もう本当に疲れた。
マジで勘弁して欲しい。
これ以上、余計な仕事増やされたら死ぬ。
……いや、自分が死ぬくらいなら、その前にアイツ等を殺しておくべきか」
闇落ち寸前の顔でブツブツ呟くアイザック。
そんな『殺るか殺られるか』みたいな状況なの?
「落ち着いて下さい。
一応、王子と聖女候補ですよ。殺しちゃマズいです」
ベアトリスが頷いて「そうよ」と言ったので、一緒にアイザックを宥めてくれるのだと思ったのだが……。
「殺人は計画的にね。
バレない様にしなきゃ!」
『ご利用は計画的にね』みたいな事言い出した。
消費者金融かよ。
胡乱な眼差しをベアトリスに向けると、彼女は「やーね、冗談よ」と肩を竦めた。
冗談に見えない所が怖いのよ。
帰りの馬車の中で、アイザックに膝枕を提供しながら昼の会合の詳細を聞いた。
アイザックの話によれば、例の企画書は評価出来る部分もあるが、問題もかなり多かったらしい。
学園長はおそらく、企画が素晴らしかったから開催を決めたのではなく、クリスティアン達のゴリ押しに負けたのだろうと思われる。
生徒達自ら調理をした物を売るという、前世の文化祭スタイルが貴族が通う学園で受け入れられるはずもない。
当然ながら保護者から反対意見が出たという。
「救護室にウェブスター嬢が控えているから、調理で怪我をしても大丈夫だって言うんだけど……。
その肝心な治癒魔法で、一日にどのくらいの人数を治癒出来るのかって質問には、曖昧な答えしか返ってこなかったんだよ」
疲れているだろうに眠る様子もなく、ツラツラと話し続けるアイザック。
「それじゃあ、保護者の皆さんも納得しないでしょうね」
「でもね、生徒や保護者に発表されたのは昨日だったけど、実は少し前から水面下で話が進んでいたらしくて、いくつかの業者へは根回しが済んでしまっているから、今更無かった事にするのも難しいんだ。
結局、規模をかなり縮小して三ヶ月後に開催する事になった」
「三ヶ月後……?
それはまた、随分と準備期間が短いですね」
「親教会派の貴族の中には大きな商会を営んでいる新興貴族もいて、協力を申し出たらしいよ。
それに反対派としても、『準備期間を充分に取ったから大規模な開催が可能だ』とか言われるよりはマシだって思ったんじゃないかな?」
「互いの妥協点がそこだったのですね」
「クリスティアン達は納得行かなそうだったけどね。
今後も色んなトラブルに対応しなきゃいけないかと思うと、頭が痛いよ」
そう言ったアイザックは、溜息を零しながら目を閉じた。
文化祭はバザーに近い店舗をメインとする方向で、話が進んでいるらしい。
バザーならば、孤児院の慰問などで手伝いを経験した事がある生徒もいるだろう。
各クラスが一つずつ出し物をするが、飲食系の店を出す場合は、生徒の家の使用人に焼き菓子やパンなどを作らせて持ち寄る。
生徒がやって良いのはパンにハムやチーズを挟んだり、ジャムを塗ったり、ケーキを盛り付けたりする程度。
お茶に関しては自分で淹れられる生徒が意外と多いらしく、慣れた者が担当するならば提供しても良いとされた。
お茶汲みを担当出来る者がクラスにいなければ、持ち帰り用の菓子などを売るだけ。
飲食以外の場合は刺繍を施した小物を売ったり、生徒の家で支援をしている画家の作品を展示してミニ画廊にしたり、研究発表の展示をしたりする。
調理はしないが、原価や売り上げの計算等の経理業務、材料の仕入れ交渉、警備の人員配置など、最初にクリスティアン達が言っていた『仕事の難しさ』をある程度は学べる。
警備などについては、最終確認はちゃんと専門家にお願いするらしい。
この計画なら、怪我をしたりお腹を壊す生徒は少なくて済みそうだ。
もしかしたら、軽傷の患者を多く出して、救護室のプリシラに治療させる事で、聖女としてのアピールをさせたかったとか?
自分達で生徒が怪我をする様な企画を立案しておいて、それを治療したから功績を認めろって言われてもって感じだけど……。
お花畑達ならやりかねないからなぁ。
企画書もイマイチだったみたいだし、あちら側に付いている転生者も、あんまり頭が良くは無さそうよね。
まあ、他の企みがあるのかもしれないから、まだ気は抜けないけど。




