1 繰り返し見る悪夢
「これより、二人の悪女、ベアトリス・アディンセルとオフィーリア・エヴァレットの処刑を決行する!」
ニヤリと不敵に笑ったクリスティアン殿下が高らかに宣言すると、広場に集まった観衆から「ウオオォォォォ!」と、歓声とも怒声ともつかない響めきが沸き上がる。
あまりの声量に、地面が大きく揺れている様な錯覚に陥った。
そして、広場の中央で十字架に磔にされた私と、その友人のベアトリスに向かい、次々と石が投げ付けられる。
ゴッ! と、鈍い音がして頭部に強い衝撃を受けた。
眉の辺りに出来た傷からタラリと垂れた血が目に入って、私の視界を赤く染め上げる。
不思議と痛みは感じない。既に感覚が麻痺しているのだろうか?
「聖女様を苦しめた悪女達に制裁を!!」
「魔女どもに死を!!」
人々の口から放たれる悪意に満ちた言葉に、今更ながら背筋が凍る。
こんなにも多くの人から憎悪を向けられるのは、二度の人生を通しても初めての経験だから。
松明を掲げた屈強な騎士達が、私達の元に歩み寄る。
彼等は先ず、ベアトリスが磔にされている十字架の根元に積み上げられた薪に火を付けた。
可燃性の薬品でも染み込ませてあったのだろうか?
瞬く間に赤い大きな炎が勢い良く上がり、真っ黒な煙が晴れた空へとモクモクと昇っていく。
「あ゛あ゛あぁぁぁっっ!!!」
「……ベアトリス」
綺麗な顔を物凄い形相に歪め、耳をつん裂く様な断末魔を上げるベアトリスを涙目で見詰めながら、震える声で彼女の名を呼んだ。
人体が焦げる独特な臭いが立ち込める中で、観衆はそんな事などお構い無しに、拍手をして口笛を吹き大いに盛り上がっている。
(人の死が……、私と私の友人の死が、そんなにも嬉しいの?)
悲しみ、怒り、憎しみ、絶望、恐怖。様々な負の感情が、胸の中に次々と湧き上がって来る。
「次は貴様だ」
凍てつく様な冷たい声色でそう言った騎士は、私の足元にも火を付けた。
あっという間に眼前まで炎が迫る。
───熱い。熱い。息が苦しい。
必死で空気を吸い込もうとするが酸素は全く取り込めず、代わりに熱と煙が大量に侵入して来て、体の内側からも焼かれる様な感覚に陥った。
何故こんな事になってしまったの?
私達は何も、悪い事などしていないのに……。
どうして…………?
「─────うえ……。
──姉上、起きてください!!」
ハッと目を覚ますと、弟のジョエルが泣きそうな顔で私の肩を揺さぶっていた。
「…ジョエル……。今のは……、夢?」
まだボンヤリとした頭で必死に言葉を紡ぐ。
その声は情けないくらいに震えている。
ジョエルがブンブンと首を縦に振ると、その勢いで彼の瞳に滲んでいた涙がポタリと一雫、私の手の甲に落ちた。
「全部夢ですよ。だから、大丈夫」
そう言いながら彼は安心させる様に微笑み、脂汗で頬に張り付いた私の髪を指先で丁寧に掬い取って耳に掛けた。
「私の声が、部屋の外まで聞こえていたの?」
そう聞いてみると、ジョエルはコクリと頷く。
どうやら酷い悪夢に魘されていた私は、いつの間にやら大きな叫び声を上げていたらしい。
きっと隣の部屋のジョエルがそれに気付いて、慌てて駆け付けてくれたのだろう。
「久し振りですね、姉上がこんなに魘されるなんて」
「そうね……。夜中にうるさくしてごめんなさい」
「そんな事、気にしないで下さい。
そうだ! ついでと言っては何ですが、久し振りにここで寝ても良いですか?」
無邪気な笑みを浮かべながら、私の隣に横たわる大きなウサギのぬいぐるみをヒョイと退かしたジョエルは、その空いたスペースにいそいそと潜り込んで来た。
まだ一緒に寝る許可はしていないのだが。
(……まあ良いか)
さっきの夢の余韻が残っていて心細いし、一人では眠れないかもしれない。
「お休み、ジョエル」
「お休みなさい、姉上」
もっと小さい時は一緒のベッドで眠る事もあったけど、早いもので五歳年下の弟も、今年で十歳になる。
姉と寝たがるような年齢では無いが、きっと悪夢を見た私を心配して、側についていたいと思ってくれているのだろう。
この悪夢と同じ物を、前世を思い出した頃には、毎晩の様に見続けていた。
最近は殆ど見なくなっていたのだが、学園の入学が近付いて来た事で、ナーバスになっているのかもしれない。
この国の貴族子女は、十六歳から三年間、王都にある学園に通う事が義務付けられている。
私は今年で十五歳。
後一年足らずで、乙女ゲームが幕を開けるのだ。
寒くも無いのに、思わずブルッと肩が震えた。
私は火あぶりエンドを回避出来るのだろうか?




