サイクル
「輪廻っていう言葉あるでしょ。死んだらまた生まれ変わってその繰り返しみたいな」
「ああ、生死のしくみのような…めぐりめぐって生まれ変わった者同士が来世でまた出会うみたいな」
「それね。でも私は思うんだけどそういうこと以外に何か約束事というかシステムのようなものが生きていく中であるような気がするのよね。例えば…智くんはこういうこと起こらないかしら、新しいアルバイトを始めたら前のバイトにもいたような同じ性質の人間に出くわして前とほとんど同じ展開になるみたいな…」
「ああ~、けっこうあるよ、そういうの。俺、けっこういろんなバイトやってきたけどさ、初出勤1日目から妙に馴れ馴れしく近づいてくる奴がいてさ、2日目にして口論になって3日目で口喧嘩になって相手を怒らせてしまうってやつ。別に怒らせる気はないんだけどさ、なんか相手が勝手に俺に愛想が尽きて去っていくんだよな」
「なるほど、そういうときって相手はともかく智くんのほうにそういう相手を呼び寄せてしまう何かがあると思う」
「それでさ、バイト変われどずっとそういうことが起こるのさ。何かサイクルのようなものを感じてな」
「いつもどんなときにそういう相手が出没するの?」
「そうだな、大抵はどこかに座っている時かな。座ってぼんやりしているとフラ~ッと現れて向こうから話し掛けてくる。問題なのはソイツは絶対にウマが合わないということ。何度も何度も同じような現象が起こるからさ。そのあとの展開が見えてくるわけさ」
「気を付けたほうがいいわよ。慣れ慣れしく接してくる人ほど人にたいして思い通りに動いてくれないと攻撃してくるから。理想を押し付けてくるから」
「今度、そういう奴に出会ったらはじき返してやろうと思うんだ。いっそのこと状況を変えるために殴ってやろうかなとも思いたくなるときもあるよ」
「それはいけない。そのあなたのいうサイクルの中に殴るという動作が新たに付け加えられるだけ」
「舞はアレだな。ときどき話し方が哲学的になるな」
図書館の中で智と舞はとりとめのない会話をしていた。舞はフロイトの本を読んでいる。智は新鋭作家の小説を開いている。2人は大学のサークルで出会い、たまにここに来て顔を合わせる。
「舞はさっき、輪廻の話をしていただろ?それからそれ以外にも約束事があるとか…実を言うと俺はけっこう気になるんだよな。人間って日々、生きていく中で同じことをずっと繰り返しているんじゃないかって…俺もそう思うときがある。こんな話を聞いたことがある。毎日のようにパチンコに金を使っていた人がある日を境に止めようと思いパチンコ店に行かなくなった。そうしたら出会う人間のタイプも変わっていったと。そのときにその人は後悔したらしい。もっとこのことに気付いていればと」
「それは自分の生活を変えると環境も変化するってことなのよね。で、智くんはいまやってるバイトで変えてやろうとか思ってるわけ?」
「ああ、思ってるさ、とくに人と人の出会いは環境にもっとも添っていることだと思うし、どのような人と出会うかによって自分のステータスが今、どんな具合なのかが分かると思うから」
「人間って地球の一部でしょ?だから一人の人間であっても動きに変化があれば地球の動きにもなんらかの影響を与えるってことだもんね」
「人生にまとわり付いて繰り返し起こる嫌なことも…そういったものも変えられるんだ。自分次第だよね」
2人はお互い顔を向かい合わせて微笑んだ。




