表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

青とピンクの間で息をしていた。

ランドセル売り場には、色が溢れていた。


青。


私は店に入った時から決めていた色を選ぶ。

深い海みたいな色だった。

手に取ると遠くから見ていたよりずっと綺麗な色。


「お母さん!私この色がいい!」


そう言ってお母さんに見せた瞬間、


「その色?」


母の声が重く響く。


「女の子なんだから赤がいいんじゃない?」


母は優しい顔で微笑む。

だから余計に「嫌だ」と言えなかった。


「ほら見て、このピンク。凄く可愛いじゃない。」


目の前にピンク色のランドセルが差し出される。春みたいな色のピンク。


店員さんも頷く。

「最近はこういう色が人気なんですよ」


私は黙っていた。


青いランドセルが遠くの棚で静かに並んでいる。

手を伸ばせば届く距離にあるのに、何故か遠く見えた。


「ピンクにするのよね?」

「.....うん。」


それから私は自分の「好き」が分からなくなった。


髪を切る時も、服を選ぶ時も。


”女の子らしく”

何かを選ぶ前に必ず頭の中で声がする。


ピンク。


赤。


白。


気づけば私は”女の子らしい色”ばかり選ぶようになっていた。


***


中学2年生の春。

友達と教室で話をしていた時のこと。


「あ、そういえばさ。」


友達の一人が突然思い出したかのように言う。


「三組に女装してる男子、いるらしいよ。」


一瞬で周りがしんとした。


少しした後、

「えーー、きも。」


一人の子が言い、周りの子が笑う。


「スカート履いてるらしいよ。」


クスクスと笑い声が響く。


私は笑えなかった。


(女の子らしく)

心の中で声が響く。


私は無理に笑顔を作り、

「男の癖にスカート?まじきも。」


周りが笑い、私は安心する。

(良かった、私は女の子だ)


***


その日の放課後。

日直で遅くなり、一人で帰ろうとしていた時のこと。


”女装してる男子いる”


ふと、昼休みのことを思い出した。


(三組だっけ。)


気づけば三組の方向に足を進めていた。

窓の外を見ると桜が静かに散っていた。


私はそっと教室を覗き込んだ。

一人だけ、まだ誰かが残っている。


長い髪。

セーラー服にスカート。

頬杖をつきながら本を読んでいた。


一瞬女の子かと思った。


でも、


少し広めな肩幅に猫背気味な姿勢。

それで分かってしまった。


心臓が跳ねる。


ふと顔を上げた彼と目が合う。

全てを諦めた空っぽな目をしていた。


「.....何?」


思ったより低い声。

私は何も答えられなかった。


彼は数秒だけ私を見た後、興味が無さそうに視線を本に戻す。


「用がないなら早く帰って。」


窓から風が吹く。

窓の外では、夕焼けが少しずつ紫に変わっていく。


青とピンクが、

境界を失い始める色だった。


私はなぜか、その場から動けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ