偏食ハスキーは馬のように歩く。〜こだわり強めな四つ足の「弟」
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
「……これ、少し後味が粉っぽいな」
「そう? こっちは煮干しの香りが強いわよ。ダイスケ、これならいけるんじゃない?」
茶の間のテーブルを囲み、僕ら家族は真剣な顔で小皿を覗き込んでいた。
皿の上にあるのは、茶色くて丸かったり平べったいモノや、成分によって色分けのあるモノなど、味にも見た目にも多彩なドッグフード。
それを父も母も、妹までもが、まるで利き酒でもするかのように一粒口に運んでいる。
当の本人――いや、本犬のダイスケは、一歩引いたところで「勝手にやってれば?」と言いたげな顔で伏せていた。
シベリアンハスキー、五歳。
茶色の毛並みに、珍しい赤鼻。そして左右の瞳の色が違うオッドアイ。
その神秘的な見た目に反して、中身は驚くほど頑固で、食にうるさかった。
この「利きドッグフード」は、彼が五歳になるまで続く。成長するたびに好みが変わり、その都度、家族が先に試食しないと食べようとしない。
更に味や食感が気に入らないと食べない。
それはオヤツのジャーキーやクッキー(犬用)も同じで、「ダイスケの納得する味」を探す旅はなかなか大変だった。
近所の人からも「あら、今日もダメだったの?」と余ったフードを引き取ってもらったり、「これは試した?」と分けてもらうのが、この町内の恒例行事になっていた。
ダイスケは、家族一人ひとりと絶妙な距離感を保っていた。
お父さんは、彼にとって絶対的なリーダーだ。
あんなに嫌いなシャンプーも、お父さんが洗う時だけは別人のように大人しく、修行僧のように耐える。僕や母さんが洗おうとすると「ヒャンヒャン」と全力で拒絶するくせに……。
おばあちゃんに対しては、騎士を気取っていた。
玄関で来客対応をするおばあちゃんの後ろに、必ずどっしりと控え、横になりながらも鋭い眼光で相手を観察する。
クリーニング屋のおじさんに「賢いですね、守られてますよ」と言われるほど……。
ダイスケは少しだけ胸を張りドヤ顔をする。
夕方、河川沿いの土手を歩くダイスケは、この界隈の「顔」だった。
小型犬たちがキャンキャンと吠えかかってきても、彼は完璧な「知らんぷり」を貫く。
あまりにしつこいポメラニアンに、一瞬だけ「……うん?」と顔を向けると、相手は慌てて飼い主の足元に隠れる。
それを見てダイスケは、満足げに鼻を鳴らすのだ。
一方で、ボクサーやピレネーといった大型犬に出会うと、彼は紳士に変身する。
互いに鼻先を寄せ、フンフンと匂いを嗅ぎ合う静かな挨拶。ゆったりと振られる大きな尻尾。
そんな散歩の道中、最高に気分が乗ってくると、ダイスケは独特のステップを踏み始める。
前足を高く上げ、パカパカとリズムを刻む「馬のような歩き方」だ。
「ボク、今最高に幸せですよ」
その弾む背中が、そう語っていた。
お正月……、父が「お年玉だ」と言って、ローストビーフとササミ、さらにチーズが乗った豪華なドッグフードを運んできた時のことだ。
ダイスケは尻尾をブンブンに振って、「うわーー、美味しそう!」と、舌を出し目をキラキラにして、行儀よく待ちのポーズで待っていた。
だけど……、父の足がコタツの紐に引っかかった瞬間、世界は一変した。
スローモーションのように宙を舞うササミ。
ヒラヒラと、蝶のように舞うローストビーフ。
タタミの上にぶち撒けられ、ぐちゃぐちゃの塊になった。
ダイスケの尻尾は止まった。
そのままその場でフリーズしていた。
口をポカーンと半開きにし、目を開いたまま固まって……。
絶望という表情で惨状を見つめている。
尻尾もシオシオと垂れていった。
かつて掃除のためにトイレシートを外した時、二階のベランダからおしっこをするハメになった、あの「この世の終わり」のような顔だった。
父が慌ててかき集め「すまん」て言って、渡されたボウルを前に、ダイスケはしばらくジーと眺めていた。
母さんがキレイに盛り付けた豪華絢爛なドッグフードとは違い、ぐちゃぐちゃになり、なんとなくいつものご飯に近い。
ローストビーフやササミは、ドッグフードで埋もれチラチラ見え程度……、何より見た目が違い過ぎた。
疑いの眼差しを僕たちに向けるけど、さすがにそれを食べる気は起きなかった。
最後には渋々と、父の顔を立てるようにして完食したけれど、あの日の出来事は忘れない。
賑やかな一日が終わり夜が更けると、ダイスケは彼は必ず二階へと上がり、妹の部屋のドアをくぐる。
そして、彼女が眠る布団の上へと、どっしりとその身を預けるのだ。
一歩引いて見守る昼間の態度とは違い、彼なりの甘え方なのだろう。
妹の体温と寝息を感じながら、彼はのんびりと伏せ主人の眠りの番犬になる。
夜中……ふと覚ますと、チャッカチャッカとダイスケの廊下を歩く音がする。
夜中の見回り……、みんなが寝静まってから、ダイスケはお仕事をしているのだ。
翌朝……、母はゴミ出しのついでに、近所の奥さんたちにその話を披露していた。
「あの子、中身は人間(弟)よね」と笑い合う結末を話す。
散歩から戻ってきたダイスケが角を曲がってくると、近所の人に「災難だったわね」と声をかけられる。
ダイスケは一瞬だけ「すまし顔」を見せ、それからまた、あの軽快な「馬のようなステップ」で玄関へと消えていった。
偏食で、頑固で、お調子者で……、けれど誰よりも家族を愛し、愛された僕らの自慢の弟ダイスケ。
ダイスケが残した足音のリズムは、今も僕らの胸の中に、温かく響き続けている。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




