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第6話 これは恋ね?

「まるで僕とあなたのお話のようでしたね?フラン?」


赤毛の男が私の肩に腕を回して、耳元で囁く。指は私のおくれ毛を先ほどから弄んでいる。

…まだ、慣れない。


ここしばらく、教授のところにお邪魔する暇もないほどこの男から誘われ、出かけていた。断ろうにも、商社の玄関先で花束を持って待ち構えていらっしゃるし…。

それに…この方とコンサートに行っても、オペラを見にいっても、演者のほんの少しの失敗、を探すのがお上手で…「これはだめですね」「こんな演奏聞いていられませんね」「僕ならこう弾きますけどねぇ」…

…少し気持ちがささくれそうになる。


教授はそんなことなかったな。いつも、演奏者のいいところを探すのが得意だった。こうすればもっといいかな、あの子なら、こういう曲調より、もっと速い曲の方がいいところが目立つのにね、とか…。


慣れない…そう思いながらも…。あの演奏に…この赤毛…。


「まあ…アランさん、やはりあなたでしたのね?」



今しがた初上演された新作のオペラは【探していた青い鳥はあなたの胸に】というタイトル。タイトルからは思いもしなかったが…意外なことに悲恋ものだった。客席からすすり泣きが聞こえる。


「どこにいても、あなたを見つけるからね?」

そう約束した、幼少期に出会った二人が離れ離れになって、ようやく出逢えたなのだが…。立派な騎士になっていつかお前を迎えに来る、と言った男は実家が傾いて、荒んで、酒や女に溺れて…今は雇われ用心棒。出会ってすぐにわかってはいたが幼馴染の女に、俺があの時の少年だ、と言えない。

育ちのいいその女は騎士になったであろう男を探しているので、目の前の男がその人だと気が付かない。

女に雇われて用心棒になったその男と一緒に、二人は旅をする。

山賊に狙われたり、男が魔女にそそのかされたり、壊れかけた教会を直したり、困っている人を助けたり…野を超え山越え、二人の旅は続く。このまま続くかと思った旅がいきなり終わる。少年の面影によく似た騎士と、女は出逢ってしまう。


「あなたを探していたの。これは恋ね?」


(違う!そいつじゃない!)


出逢った騎士と手に手を取って去っていく女…。負い目があって、引き留めることも本当のことを言うこともできない男。


見送る男が泣きながら歌うアリア。


「どこにいてもあなたを見つけるからね。そう言ったあなたは去って行ってしまった。わたしはどこにいてもあなたの幸せを祈ろう。」



最後のアリアの旋律にはなつかしさがある。



あの時、8歳だった。母が亡くなって泣き暮らしていた私は、気分転換に、とおばさまの別荘に呼ばれていた。垣根を超えたところから聞こえるヴァイオリンの音に惹かれて、垣根をくぐっていくと…一人の赤毛の少年がいた。優しい音色だった。

滞在中、音が聞こえてくるたびに私は垣根をくぐった。


「どこにいてもあなたを見つけるからね」

そう言って笑った母は逝ってしまった。


「でも、きっとあなたの幸せを祈っているよ?」

少年はそう言って…私のために、と、この曲を作ってくれた。


「僕、もうすぐフールに行くんだ。」

「まあ。でもきっとまた会えるわ!私、あなたのヴァイオリンの音を目印に探しに行くから!待ってて!」



あの曲をヴァイオリンで弾いてくれたのは…やはり、アランさんでしたのね?


「運命、だね、フラン。これは恋だよ。」

「まあ、アランさん?」


やはり?そうなんでしょうか?私には今一つ分かりかねます。


「違うから!何でこれ見ても分かんねえんだ!!!フランチェスカ!!!」


ボックス席の後ろのドアがバーンと開いて、廊下の明かりが入ってきます。

息を切らせてそこに立っていたのは…教授?


ベンチシートでいつの間にか私にぴっちりくっついていたアランさんを、教授が引きはがしている。

「まあ!教授!指は気を付けてあげて!」


アランさんが赤毛を振り乱して怒っている。

「なんだ!君は!失礼じゃないか!」







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