偽りの光、真実の聖女 ― ヒカリが紡ぐ赦しの光
こちらは「婚約破棄されたけど、偽聖女じゃ世界は救えないと判明したので私が浄化します」のヒカリ視点となりますので前作を読んでから見ていただけると楽しめますのでどうかよろしくお願いします!URLはこちら
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その日、ヒカリは“光”に包まれて目を覚ました。
見知らぬ天井。豪奢な装飾。金と白を基調とした神殿のような空間。
戸惑う彼女に、周囲の者たちはこう告げた。
「あなたこそが、“異世界から召喚された聖女”なのです」
その瞬間、ヒカリの心は恐怖で満たされた。
(聖女……? わたしが……?)
けれど、彼女は否定できなかった。
その瞳に浮かぶ不安を「謙虚さ」だと勘違いした周囲は、熱狂の声で彼女を讃えた。
それから、すべてが加速度的に進んだ。
誰もが彼女を愛した。
侍女たちは競うように世話を焼き、貴族たちは彼女に贈り物を捧げた。
そして――王子クロードが、彼女に恋をした。
(……なぜ、皆こんなに優しくしてくれるの? どうして、怖くないの?)
ヒカリは思い出せなかった。
いつからか、自分の周りの人々が――勝手に惹かれていくようになったことを。
彼女は“聖女”ではなかった。
本当はただの、平凡な女子高生だった。
家でも学校でも、目立たず、誰にも深入りしないように生きてきた。
――だから願ってしまったのだ。
(愛されたい。必要とされたい。特別になりたい)
その「想い」に取り憑いたのが【チャーム】だった。
人の心を無条件に惹きつけ、操る呪いのような力。
気づいたときにはもう、戻れなかった。
“聖女”としての立場も、“クロードの婚約者”という役目も。
偽りの力が作り出した幻想にすがるしか、ヒカリには生きる道がなかった。
彼女が“本物”を見たのは、祝賀の夜だった。
ティーナという女性――静かで、強くて、美しい人。
(私が奪った人。私が嘘で貶めた、本当の婚約者)
それでもヒカリは、自分を守ってくれるクロードにすがった。
(一人は怖い……いやだ……)
偽物であると気づかれたら、また孤独に戻ってしまう気がして。
だが、すべては崩壊した。
王都を襲う魔獣。
「聖女なのだから倒せ」と叫ぶ声。
(できない……わたしには、なにもできない……)
震えるヒカリの前に、眩い光が降りた。
それはティーナだった。本物の“聖女”だった。
魔獣は塵と化し、人々は歓喜の声を上げた。
誰もが、ようやく気づいた。
――聖女は、最初から彼女だったのだと。
「……ごめんなさい」
ヒカリは泣きながら、ティーナに懺悔した。
「私、嘘をついた。あなたの大切なものを奪った」
だがティーナは、憎しみを浮かべなかった。
静かに手を差し伸べ、ヒカリを包み込むように言った。
「……もう大丈夫。あなたの罪は私が背負うわ」
温かい光がヒカリを包んだ。
呪いは浄化され、心にまとわりついていた恐怖や欲望も、音もなく消えていった。
(あぁ……これが、本物の“光” あたたかい……)
その瞬間、ヒカリはようやく“偽り”から解き放たれた。
その後、ヒカリは聖女ではなくなった。
王都を去り、遠く静かな村で一から生き直すことを選んだ。
ただの人間として。
ただの少女として。
けれど、彼女の心には、確かな“光”が宿っていた。
――今度こそ、自分の力で誰かを笑顔にできるように。
それが、偽りの聖女が掴んだ“本物の光”だった。