澪の日記
3月12日
今日は教室の光がとてもまぶしかった。
みんな笑っているように見えて、私は薄い壁の向こうからそれを眺めているみたいだった。
「入っておいでよ」と言われた気がしたけど、やっぱり足が竦んでしまう。
私はここにいてもいいんだろうか。
4月3日
最近、夜になると誰かが話しかけてくる。
鏡に映る自分が、私じゃない気がすることも多くなった。
「また失敗したね」と小さな声が言う。
べつの誰かが「わたしは自由になりたい」と叫ぶ。
私はただ静かに泣くだけ。
5月10日
授業中、気付いたら立ち上がっていた。
先生が私を驚いた顔で見ていた。
覚えていない。周りの視線だけが痛い。
「来てあげたの、あなたのためだよ」と誰かがささやいた気がした
5月17日
今日も“わたし”ではない“だれか”が教室に行った。
みんなと話をした。まこととも目が合った。
でも、それはわたしかどうかわからない。
ノートの字がバラバラになっている。どれがわたしの字か、もう思い出せない。
6月2日
「友達がほしいよ」と泣き続けている子がいる。
「やさしくなりたい」と祈っている子もいる。
「愛されたい」とささやく声が胸の奥で響いている。
私はその子たちの思いを背負いきれない。
重たくて、つぶれそうになる。
6月8日
真琴が話しかけてくれた。
うれしかった。でも、“わたし”が答えたのか自信がない。
声が途切れ途切れになる。
どこからどこまでが“わたし”なのかわからない。
「わたしはここにいるよ」と言いたいのに、どうしても言葉が出ない。
6月15日
もう、どこにも行きたくない。
消えてしまいたい。
それでも、どこかで「生きて」と声がした気がした。
でも、だれの声だったんだろう。
私の中の“私”たち、わたし自身、真琴……
みんな、わたしの記憶のなかでだけ、生きているのかな?
6月20日
もし明日、目が覚めて私がいなかったら。
だれか、私のことを見つけて、気づいてほしい。
私がここにいたこと、ぜんぶが夢じゃなかったって、だれかに伝えてほしい。
ひとことでも本当は、伝えたかった。