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蒸甲機〈春時雨〉  作者: 押本詩
第一章
1/6

 慶長二十年、夏。奮戦むなしく、豊臣方は大阪城にて追い詰められた。冬の陣の和議によって二の丸と三の丸を破壊され、堀も埋められたこの城は丸裸も同然であり、かつて難攻不落の誉れを欲しいままにした威容など見る影もない。もはや豊臣家は風前の灯火であった。

 だがその時、突如としていくつかの影が戦場に躍り出た。激戦が繰り広げられた、西の天王寺口である。その数は三つであったとか、十はあったとか、いやもっとあったとか諸説あるが、みな似たり寄ったりの姿であったことは確かなようだ。鋼鉄の体を持ち、背中の筒から煤まじりの白煙を噴き上げる、それは巨大な人形ひとがたであった。

 正体不明のそれらによって、徳川方が圧倒的に優勢であった戦場はひっくり返った。巨体に似合わぬ俊敏さを以て駆け、人の身では持ち運ぶこと叶わぬ大砲を軽々と扱う非常識な敵を前に、機動性を欠いた徳川方の大砲は無力であった。小さな刀や鉄砲しか持たない者などは、もはや言うまでもない。その様に、かの家康さえあんぐりと口を開けていたという。

 徳川方はなす術もなく、散り散りとなって敗走。天下人として最後の地固めを目指した家康は、自らの思惑を打ち砕いた存在の正体を知ることなく、追撃を振り切れず討ち死にした。

 そして矛先は、岡山口を指揮する秀忠にも向けられた。破竹の勢いで進撃する追手を、やはり秀忠は阻めない。

 二代将軍までもが失われる……それも時間の問題であったが、ここで事態はさらに混迷を極める。

 徳川方に味方する、別の鋼鉄人形たちが現れたのだ。

 どこからともなく現れたその一団は、退却する徳川方の殿として、豊臣方についた鋼鉄人形と熾烈な戦いを開始した。濛々たる煙を噴き上げながら、巨大な機械仕掛けたちが互いに大砲を撃ち合うその戦場は、いよいよ制御不能の混沌と化したのだ。これには豊臣方も徳川方も、敵味方の区別なく唖然とするしかなかったであろう。

 最終的に、徳川方は秀忠を欠くことなく彦根城への撤退に成功している。


 秀吉が没した後の、そして大阪の陣を経て終わると思われた混乱は、かくして今しばらく続くことになった。

 蒸気の力で稼働する鋼鉄の機械――後に蒸甲機じょうこうきと呼ばれる兵器が使用された、これが現在確認できる最初の記録である。


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