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枷の鈴  作者: 紫空
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序 章

 広場を囲むように建ち並ぶ家々。赤レンガの屋根と屋根の間から湧き出した暗雲が上空を覆い、石畳は薄くかげる。

 空気に混ざり始めた湿り気に、居合わせた人々は固唾(かたず)を飲み、遠巻きに円を描いてなりゆきを見守っていた。

 

 かつて魔物の森を一薙(ひとなぎ)で切り裂き、人々を導き、街を建てたとされる女神。その女神が身を清めたとされ、街中をはしる無数の水路の中心となっている女神の洗い場。その上に造られた女神を讃える神殿は街の中心にして象徴的な存在だ。

 

 水路と赤レンガの屋根に囲まれ、白くそびえ建つ神殿前広場の中央には昨夜の内に即席の壇が作られており、その上に座す三人の人物。

 壇の影に控える仮面の男の手には抜き身の剣。

 街中の人々が集っているのではないかと思うような大観衆が注目する中。

 兵士に両脇を抱えられた少女が引き出され、壇下の灰色に沈む石畳に座らされると、見守る人々の間からは嫌悪や憐れみ入り混じるどよめきが生まれた。

 

 汚れた舞装束。薄手の衣装から覗く白い太もも。細い足首と手首は不釣り合いに重く鈍く光る足枷と鎖で繋がれている。

 白い布で目隠しされた状態では瞳の色はうかがえない。

 しかし後ろ姿に見る乱れた髪色だけでも十分過ぎるほど、その異質さは誰の目にも明らかであった。

 

 

 壇上にあるうちの一人が立ち上がり、高々と両手を挙げて周囲を見渡し、口を開く。

 

――皆に問いたい。この者、穢れの色をまとう。まがやみに相違なかろうか?

 

 静まり返った広場に良く通る男の声。

 やや間をおき、さきほどよりも高さを増したざわめきが灰色の空に、石畳に広がる。

 濃さを増す重苦しい雲は人々の上に、壇上の人物に、今まさに裁かれようとしている少女の上に更なる影をもたらす。


 うねるような悪意と言葉の渦中に、目隠しをされたまま静かに頭を垂れる少女。その髪はほこりあかにまみれてもなお妖しく艶めく緑をしていた。

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