60 このゲームに悪役令嬢はいない。
「……平和だなぁ」
「何、ババくさいこと言ってんの」
な、なんだって。ソウビ、あんたはいま言ってはならないことを言いおったな。中身アラサー社畜OLをババア呼ばわりした罪、償ってもらおうか……。なんてキレたりしません。何しろ私、平和を謳歌していますので。
「ふふふ」
「今度はいきなり笑い出したし……気が抜けすぎてるんじゃない? すぐに学期末試験もあるんだからね」
いきなり嫌なことを言うなよ。盛り下がるじゃないか。
「そ、そのあたりはカデンツァ先輩にばっちり対策してもらうから大丈夫だもんっ」
それを、ひとは他力本願という。そんなことぐらい知ってらぁ!今回もそこそこいい点取らないとカテキョが怖いんだよ……。またあいつかよ、とソウビがじろと私を睨んだ。なんだよ、ズルじゃないよ。カンニングもしてないし。
いつもの感じで私たちは駄弁っているわけだが、いつものお弁当持参の食堂や、フルーツ果汁入りの洒落たお冷が飲み放題のカフェテリアではない。
空中庭園に来ていた――しかも下層ではなく、一番高いところ。
エリュシオン魔法学院にある五層にわたって形成された庭園、その最上階にあるテラスで優雅にお茶などを飲んでいたわけであった。
これも優等生である【輝ける恒星】の特別待遇である。
最高の見晴らし(下層で戯れる学生ども)を前に3段のティースタンドに並べられたサンドイッチや、スコーンや、ケーキ、ちいさな焼き菓子などをいただく。なんて愉悦! わはははは。
前世でできなかったパフェ活の代わりにいつでも好きなときにヌン活ができるってわけ。愚民どもを見下ろしながらのアフタヌーンティーめっちゃ最高だよ。
もちろん纏っている流星のローブの着心地は抜群にいい。さらさらの生地は夏涼しく冬暖かな仕様らしいぞ。
それにしても向けられる憧憬の眼差しが気持ちいい。これでクレイジーな異名ともおさらば……と思っていたのだが。
『見て、【狂気の魔女】様よ! 見てあの妖しげな瞳の輝き……』
『さすがだな、魔薬の申し子カデンツァを手玉に取ったんだってよ。風格が只ものじゃないぜ……イカれてやがる』
え。何、この世界「狂った」とか「イカレてる」が誉め言葉だったりする? 知らんがな、そんな常識。むしろ最初から褒められてた……ってそんなわけねーだろ。
その証拠にルイーザは相変わらずモテてるし、崇拝されてるからね。あ、でも仲良くはなったよ。いまはもう立派な友人ポジです。
エリアスとは相変わらずいがみ合ってるけど。ルイーザに話しかけるたびに、きゃんきゃん仔犬のように吠えて邪魔をしてくるので正直鬱陶しい。
ちなみにソウビがエリアスを激闘の末にぶったおしてくれたおかげで、私は競技会の優勝ペアになれたので頭が上がらない。ほんとに少年漫画の主人公かな、君は。修行もしたもんな、一緒に。
決勝戦で目立った活躍をしなかった私とは対照的に、今回の優勝に伴い、ソウビたんの人気は急上昇した。もう男子生徒人気において堂々の一位じゃないか、というレベルまで来ている。
本日も、大教室のいつもソウビが座る定位置に大量のラブレターが仕込まれていて、座った途端雪崩のように零れ落ちてきた。それをドヤ顔で拾い上げ、私に見せつけるように鞄に仕舞っている。思い出しただけでくっそ腹立つ。
ちなみに私の席にそっと忍ばせてあったのはバナナだった。もしかしてカデンツァの使い魔くんからの差し入れかな? ありがとね!
「まあ、グリーヴせんせぇが学院と交渉してくれたおかげで『魔法戦闘』の単位はもらえそうだし、これにて一件落着って感じかなぁ。二つ名はもう定着しちゃったから諦めるしかないか……とほほ」
笑いながらソウビに言えば、優雅にスモーキーな風味の紅茶を堪能していたソウビがカップを置いて私をまっすぐに見つめてきた。なに、どしたん真顔じゃん。
「まだ終わってないけど」
「え、何が……?」
がた、と真っ白なクロスが布かれたテーブルが揺れた。ああ、ダメだってこの手のテーブルは意外とバランスが悪……い。
ふつ、とごちゃごちゃ混線していた頭の中が真っ白になった。
目の前には本人が何よりも愛してやまない美しいソウビの顔。気の強そうな眉と、高い鼻梁、そして……たったいま重ねられ、離れていった薄い唇。
「――勉強、もうカデンツァ頼んなくていいから。俺が教えるし」
「ひゃ、ひゃい……えっ」
何を言われたのかわからないまま頷いていたが、ようやく状況を飲み込んだときに「ええええええええ⁉」と大声を出していた。うるさ、と耳を押さえたけどいきなりなにしてくれてんだよソウビ・ラスターシャ・有馬。
おま、お前そんなキャラじゃないだろ、モブ……いや、もう私にとって彼はモブではない。
誰よりも信頼している。パートナー、なのだけれど。
「いちから説明しないとわかんないポンコツなの?」
「そ、そういうわけではないけど、えっ、あのいつから……」
腕を組みぱっと顔を背けたソウビの頬が赤くなっていることに私は気づいた。たぶん私のはそれ以上に大変なことになっている。頭の中は真っ白なのに、頬は燃えているように熱いのだ。
「どうでもいいでしょそんなの」
「よくないし! いや意識してたの? あのときも、あっもしかしてあのときも⁉」
「うるさいっ」
怒鳴られてしまった。そうだよね、ごめんね。照れ屋さん。いじめてるつもりじゃないのよ。動揺しているだけで。
「あは……夏休み、楽しみだねえ」
「まだ気が早い! さっさと勉強しろ、【輝ける恒星】が赤点は有り得ないッ。それに……遊べないでしょ、補習とかになったら」
ぼそっと付け加えた一言も、私は聞き逃さなかった。
もう、ソウビったらもう。可愛いんだから。
どうもみなさんこんにちは。
異世界に転生――乙女ゲーム主人公、ローゼルとして生きていくことにした私ですが、どうやら年下の……彼氏が出来たようです。
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「スカーレット・ブルーム」が送る最新作は魔法学院で繰り広げられるドタバタなラブストーリー! 選択する主人公によって、攻略可能なヒーローが異なります。
❖ヒロイン:ローゼル・ベネット、ルイーザ・プリムローズ(Voiceなし)
◇ソウビ・ラスターシャ・有馬……CV:■■■■■(ローゼルのみ攻略可能)
◇エリアス・オーキッド……CV:■■■■(ルイーザのみ攻略可能)
◇カデンツァ・ウィステリア……CV:■■■■
◇リューガ・ハイドランジア……CV:■■■
and more!! 続報をお楽しみに!
〖了〗




