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04 誰よあの女!

 ルイーザ・プリムローズは入学早々、学院のトップに上り詰めたと言っても過言ではなかった。


 成績優秀、眉目秀麗、人当たりも良くさらにいうとかなりの名家出身なのだという。魔法使いの家系というのは基本的に血筋第一主義だから、優秀な魔法使いの父母からは優秀な魔法使いが生まれると信じられている。


 本来のストーリーでは入学式総代を務めるはずだった青色髪の天才児、エリアスも熱烈な彼女の信奉者になり果てていた。

 休み時間のたびに彼女のもとに足しげく通っては実践魔法や薬学の小難しい話とか――とにかく高度な魔法談議に花を咲かせているという。


「ていうか、まだ入学してから一週間しか経ってないんですけど……?」


 ありえない。

 乙女ゲーム的に言えばもう、あの女は告白される寸前レベルの好感度をゲットしている。一方で主人公である私、ローゼルはといえばエリアスと知り合いにもなることなく普通に授業を受け、小テストで普通に補習になっていた。


「なんで……?」

「あんたがバカだからでしょ」


 ちなみに怒りんぼうモブくんは同じ寮でもあり授業が重なることも多かったのでそれなりに話す仲にはなっていた。

 一学年は共通科目が多く、エリアスとも授業が重なることは多々あるのだが、たいてい最前列に陣取っていて隣には必ずルイーザが座っていた。


 もちろん補習授業直前であるこの教室に、エリートである二人は座っていない。


 図書館にでも行って勉強しているのかもしれないし、デートでもしているのかもしれない。


「ちっがーう! 私が補習なのはしょうがないの! だって魔法史なんてうろ覚えなんだもん。設定資料集にも書いてないわよこんな詳細な年号っ。何なのこのアクアマリンの惨劇って……」

「呪いのアクアマリンを次々と贈りつけて死に至らしめた、とんでもない呪師まじないしがいたってやつ。まじであんた何にも知らないよね、ド田舎に住んでいたから? E-フォンでルルれば出てくるんじゃないの」


 知るかよそんな変態。


 あとルルれば、ってググればぐらいの軽さであんた言うけど「ルールーン」っていう禁じられた魔法情報ネットワークのことだからね。ばれたらE-フォン没収、反省文どころか退学も視野に入るほどの校則違反だ。

 でも、いちいち授業終わってからも私の補習のサポートをしてくれるので、やっぱり怒りんぼくんはいいやつだった。


「ソウビ、ついでに一緒に補習受けてこ?」

「やだよ。バカがうつるでしょ」


 べー、と舌を出して怒りんぼくん――ソウビ・ラスターシャ・有馬くんは教室を出て行ってしまった。異性ながら、唯一と言っていい私の友達である。

 ソウビは成績優秀で、件のルイーザ、エリアスに次いで入学試験は第三位だったらしい。どうやら次こそは勝つと一方的に意識しているのか、寮で夜遅くまで勉強している姿を何度も見かけていた。


 机に突っ伏して、深くため息を吐きだす。

 どうすれば私はこのゲーム世界から逃げ出すことが出来るのだろう。もしかして本当に現実世界では死んでいて、此処で死ぬまで生きていくしかないのだろうか。

 でも、誰かとベストエンドを迎えれば――一縷の望みに手を伸ばすのを私はあきらめきれない。結局「薔薇の誇り」は無事に発売できたのかな……みんな楽しんでくれてる? E-フォンでは当然ながらSNSをチェックできないし――私の生きがい、ユーザーの悲鳴が聞けないなんて……悲しすぎる。

 はーあ、ともういちど私は深くため息を吐いた。


「あいついいやつなんだけど、モブなんだよな……」

「モブ、って何ですの?」

「ああモブというのはですねー、キラキラ~ってした顔あり立ち絵ありボイスありのキャラとは一線を画した背景みたいな存在の、こと、で……ふぎゃあっ!」


 ひっと息を呑み込んだ。


「たちえ? とは……私に知らない単語があるなんて、今度図書館で文献をあたって見なくては」

「るっるるるるるっ、るっ!」

「あら、楽しそうですわね……鼻歌を口ずさんでいらっしゃって」


 違う。

 噛んだだけだった。ゲームの世界観にも慣れてきたはずだが、いきなり目の前に現れるとさすがに驚く。


「ルイーザ様! な、何の御用でしょうか?」

「ああ……わたくし、忘れ物をしてしまって。うっかりですわ、お恥ずかしい」


 頬を染めてそそくさと最前列の長机の下から一冊の本を抜き出した。教科書だろうか。なんとなく興味を惹かれてタイトルだけでも読めないかなと見ていると、慌ててルイーザはその本を背中に隠した。


 まさか官能小説でも持ち歩いていたのだろうか――思春期あるあるだが、見つかると気まずいもの第一位ではある。ごめんね。


「わたくし、失礼いたしますわね。ローゼルさん、補習頑張ってくださいませ」

「えっ……私めの名前をご存知なんですか?」


 なんか妙にへりくだるような言い方をした私を気にすることもなく、学年主席様は首を傾げた。


「ええ、もちろんですわ。同じ学年の仲間ですもの、当然でしょう?」


 ルイーザはジャンパースカートのすそをつまんで優雅に一礼すると、教室を出て行った。


「……どうしよう」


 なんとなく鼻持ちならない嫌な奴だろうと思ってたけど……めっちゃいい子じゃん。漂う甘い残り香にぼうっとしていた結果、補習後の再テストの結果もイマイチで、あとでソウビにはさんざん馬鹿にされたのだった。



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