03 入学式総代といえばメイン攻略対象のはず、ですよね?
魔法学院らしく、カラフルな祝砲と派手な破裂音で入学式が始まったが、日本の学校でもおなじみである例のアレ「新入生代表挨拶」があるようだった。
もちろんこのような場で目立つのは、間違いなく主役級である。ただし私は特待生とは名ばかりの補欠合格のようなものなので、そんな大役は任せてもらえるはずもなく――。
ちら、と私を含む青色のネクタイたちの隣にいる臙脂のネクタイの一団を見つめた。最前列に、探していた人物を見つけ野次馬根性が刺激された。
「あ、あれだ……あの子が天才と呼ばれた魔法使いの血筋、エリート中のエリートっ!」
その名も、エリアス・オーキッド。
所属寮は臙脂のネクタイを締めているグラッツ寮。生真面目な性格で他人に興味がないクールなようすからミスター・コールドと呼ばれることになる。成績は常に学院トップから落ちることはないため、教師陣からも評価が高い。
やはり二次元カラーの青髪だが、濃い色合いのせいかそこまで目立つことはなかった。
「実物を見るとなんか感動しちゃうな……息子みたいなものだもん」
しんみりハンカチで涙を拭っているといよいよ司会役の教師が「新入生挨拶」と声を張り上げた。
来た来た来た、エリアス、私は此処で見ているからね……!ぐっと拳を握って愛息子の雄姿を見守る感情を高める。どうせ夢だとしても可愛い我が子の授業参観ぐらい楽しませてもらおう。
そう思っていたのに、期待は大きく裏切られたのだった。
「総代、ルイーザ・プリムローズ!」
前へ来て登壇してください、と続いた声に私は茫然としていた。
「……え、誰?」
わりと大きな声で言ったせいで隣にいた女の子が「どうしたの」と気を遣って声をかけてくれた。
「えっ……いや、その総代って確か、試験で一番優秀だったひと、なんだよね?」
それってやっぱりエリアスのはずじゃ――青髪の少年を食い入るように見たが、予想外にも悔しがっている様子もなく恍惚とした表情で壇上の少女を見つめていた。
「ルイーザ様だ……」
「相変わらずだな……予備試験で、天才すぎると言われていたエリアス・オーキッドを抜いてぶっちぎりの主席合格だったらしいよ」
ざわめく生徒たちの声は、総代に選ばれた少女が壇上に立つと嘘のようにぴたりと収まった。
豊かな金色の髪は腰のあたりまで優雅に波打ち、眸の色は鮮やかなスカイブルー。絵に描いたような美少女が立っていた。
「皆さま、こんにちは。ルイーザ・プリムローズです。新入生を代表しての挨拶という光栄な機会を与えてくださった、学院の先生方に感謝いたしますわ」
にっこりと笑顔を向けられ、教師陣たちも思わずといったようすで笑みを浮かべてしまっている。おいおいおい、でれでれじゃないかよ。何者だこの女。どうしてディレクターである私が知らない謎の女が、メイン攻略対象が目立つ初登場イベントを奪っていやがるのだろうか。
私の内心の苛立ちと焦りに気付くわけもないのに、壇上の彼女と目が合ったような気がした。いや、まさかそんな有り得ない。よくあるあれだ、ライブ会場でアイドルと目が合って直接自分目掛けてファンサもらったような気がするやつ。
いやあの子は別にアイドルでもなんでもないのだけれど――この講堂内の空気がまさにそれに変質していることに私は気づいた。
「……どういうことなの?」
得体の知れない寒気を感じて、私は両腕をさすった。