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35 さてここで5月末の試験結果を発表します!

「おい、嘘だろ……ありえねえんだけど」

「いや見間違いか? 俺の目がおかしくなったのか?」

「そんなはずないわ! ズルよ、きっと魔法を使って答案を書き直したに違いないわ!」


 そんな、ざわ……状態は翌日の授業前にも巻き起こっていた。


 エリュシオン魔法学院(アカデメイア)では生徒たちの能力を測定はかると共にやる気を出させるため、毎月テストを実施している。

 ただし筆記試験のみで「魔法戦闘」のような実技科目は対象外だ。

 第一学年の月例テストでは必須とされている五科目が対象となる。

 魔法歴史学、魔法薬学、魔法戦術、魔法治癒術、古代呪文解析――どれも基礎知識が問われ、今後魔法使いとして革新的かつ独創的な魔法呪文(コード)を編み出すために必要なものばかりだった。


 そんなペーパーテストの結果がちょうど本日、解禁となったのである。

 E-フォンに届いたテストの結果通知を見て呆然としていた生徒が、掲示板へと颯爽と歩いて行った長身緑髪かつ白衣の青年を振り返り、二度見した。青年が向かった先には黒山の人だかりが出来ている。


 学院では古式ゆかしい「貼り出し」方式でも氏名込みで順位を発表している。

 第一学年の多くの生徒がメールに届いた試験の結果を見て「何かの間違いであるはずだ」と考え、順位の紙が貼りつけてある掲示板に殺到していたのだが、何度確認しても結果は変わらない。


『第一位 ローゼル・ベネット 498点/500点』


「まあ、当然かナ? ボクが直々に指導しテあげてるンだ。一位ぐらイ取ってもらわなきャ困ル」


 針金のように細い体をしならせながら、腹からこみ上げてくる笑みを堪えている男――私の専属家庭教師であるカデンツァが、茫然と成績発表の紙を見上げる私の両肩をがしっと掴んだ。痛い、それに期待も重い。


「あは……私が一番、びっくりしてますけど、も」


 集まっていた同級生たちの視線がこちらに突き刺さる。【魔薬の申し子マッド・サイエンティスト】、カデンツァ・ウィステリアから謎の寵愛を受けている【狂気の魔女(クレイジー・ウィッチ)】。噂にならないわけがない。

 べたべたしないでいただけますか? 

 なんて言えるはずもなく、カデンツァの長い腕がひゅるりと木の枝のように撓って私の腹回りまで伸びてきた。や、やめろ……腹を触るなっ、いくら健康的な十代女子とはいえ肉がついてるんだから。


 そして抵抗も出来ずに、現在私、バックハグ、されています。


 カデンツァルートが捗っている……! これスチルあるな、間違いないな。耳元にあの、やらしさ成分ときめき成分をうまい具合に配合した素敵なCVが「おめデとウ」なんて囁くものだから、あの――私はもう、ダメです。


 眩暈をこらえていたとき「あんたら何やってんの」と皆と同じく結果発表を見に来た相棒が冷ややかに言い放った。


「おヤ、ソウビくん。ボクはひよこチャンの一位獲得のゴ褒美としテ、身体接触スキンシップを愉しマせてもらっテいただケだよ。もしかしテ嫉妬ジェラッちゃっタかナ?」

「……嫉妬? 俺がこいつに? はッ」


 ありえないと言いたげな「はッ(嘲笑)」だった。わかってるよぉ、私は。ソウビのそれが愛情の裏返しだってこと……ツンデレテンプレート、おつです。


「ローゼル。あんた失礼な勘違いしてるでしょ」

「し、してませんけど⁉ それより、ソウビも二位おめでとう!」

「一位に言われると嫌味でしかないけどね。一応、御礼は言っとく」


 ふん、と顔を背けてからのデレ……ポイントが高い……もしやわざとやっているのだろうか。渦中の人物が掲示板前でぎゃあぎゃあ騒いでいるのを見て、生徒たちは茫然としていた。


「なあ、あいつらと一緒にいるのってカデンツァ・ウィステリアだろ?」

「え……もしかして、あの変人だけど学院一の頭脳を持つって言う……筆記試験、実技試験もオールS+なんだって」


 そうなのだよ諸君。

 こちらで私にべたべた触っているのがその奇人変人カデンツァでございます。そして私ローゼルの専属家庭教師であり、カデンツァにとって私は……教え子もとい実験動物なのであった。

 

 たぶん、詳細は知らない方が幸せだと思うのだけれど。

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