28 タイムリミットまでの有意義な過ごし方
『ピンぽンぱんポーン、45分経過ァ……おヤおヤァ……為す術ナシと言ったところカナ? がっかリだなァ、キミたちならモウ少シ愉しませテくれルと思ッていたンだガ』
カデンツァの声が密林に降り注ぐ。
煽りまくられてソウビはかなり苛々しているし、使い魔のマイケルはバナナを食べているだけ……時間ばかりが過ぎていく。
E-フォンを覗き込んで、私はため息を吐いていた。このままでいいのだろうか、本当に。歩いても歩いても元の位置に戻ってしまうし、景色も似たようなテクスチャの貼り付けのようだから迷わないでいることの方が難しい。
もちろんペットボトルの水は買えていないので喉がからっからだった。体力温存は確かに大事だけれど、実際何もしていないような状態だから落ち着かない。
「あっづぅい……」
「暑いって言うな暑苦しい」
「暑い暑い暑い暑い暑い暑い」
「子供か!」
ソウビに叱られるのってちょっとくせになってしまう。
ボケに対して愛があるツッコミ、異世界(自分の作ったゲームだけどね)で、まさに理想の相方に出会えたような気がします。あ、マイケル、喉乾くしもうバナナは大丈夫かな。
形勢は圧倒的に不利。ゲームマスターであるカデンツァの姿はこのフィールドのどこにも見えない。
そのくせ、私たちの様子はばっちり監視されているらしい。時々、短気なソウビをからかうような軽口が向けられて、都度キレ散らかしているのだった。煽り耐性ゼロ。まあわたしもそういうとこあるし似た者同士だよね。
「残り時間は10分か……いい加減、我慢の限界だしそろそろ行くよ」
「ほいほーい」
いままでの休憩時間をかけてじっくり編んでいた呪文を発動する。ふっふっふ、駄弁っていただけじゃなかったんだな、これが。
「魔法式展開。身体強化、魔力増幅、魔法障壁貫通付与、対象:ソウビ・ラスターシャ・有馬」
魔法とは本来自由なものなのだ、と入学式で学院長は宣った。
我々「魔法使い」が有する魔力を最大限に引き出すための論理を魔法式で示し、呪文に変換して出力する。だからひとの考えや感覚が千差万別なのと同じく、魔法使いの数だけ魔法はあるのだという。
基本形としての型や素材はあったとしても、組み合わせ方――魔法式の編み込み次第で威力や効果はまったく異なるものと成る。
私がふだん行使するのは基礎魔法をちょっと変えただけの強化魔法が主だ。効果もひとつぐらいしかない。魔法戦闘における実戦魔法というのは一瞬でかけることができてすぐ効果があるものが適当とされている――だって、勝負がつくまで時間の余裕なんてないからね。
ただ今回はおよそ一時間という猶予時間があった。
たっぷり時間をかけて論理を組み立て魔法式を編み、発動まで時間をかけたことによって、ストーリー序盤主人公であるローゼルでも強度もかなり向上させることができた。
効果盛り盛りの呪文を発動することがかなったのだ。
「ソウちゃん、ここからやっちゃってぇ!」
「薄気味悪い呼び方はやめろ」
ソウビは自らの魔力を具現化した弓を構えていた。魔法弾を矢の形状にして装填。この動作も通常なら隙がありすぎて採用されないだろう。
今回だけのイレギュラー、いまの未熟な私達でも出来る方法で問題を解決してみせるしかないのだ。
「集中集中……」
「いっけー! ソウビたん、めっちゃかっこいいよ!」
「だからうるさいってば!」
私に構いながらもソウビはつがえていた矢を放った。紅い閃光が密林の樹上をぶち抜いて空へと上がっていく。
うわ、バフかけすぎたかな、というぐらいの威力で震源地であるソウビのすぐそばにいた私とマイケルを除き、周辺の草木や地面が抉れて壊滅状態だった。
お、恐ろしい。
バフ盛の魔法弾はそのまま頭上に打ち上げられ――ばりん、と硝子が砕けるような音が響いた。
ひびが入った天井が崩落し、地面に墜落する前に金色の砂粒に変わる。それと同時に密林のテクスチャが視界からぼろぼろと剥がれ、落ちていく最中で金砂となって空気中に溶けて消えた。
「ンフフ、お見事だヨ、ひよこチャンたチ」
密林の残像の中、ぱちぱちと拍手をするカデンツァがにんまりと私達を見ていた。




