24 すべテ聞かせてモらったヨ
「いいねェ、麗しイ友情……いや恋情カな? とにかクあまりの甘酸っぱサに溶けてしまいそうだ。ボクのようなジメジメ属性の身ニハ眩シすぎルよ、キミたち。フフっ」
どこからともなく聞こえたその声の主は、明々白々だった。
だが姿は見えない。
身構えた私の姿を隠すようにソウビが立ち上がった。
やだ……好きぴ強すぎ、ソウビしか勝たん……。と私の心の中のギャルが叫んでいる。
きょろきょろと周囲を見回していた私の首に、ひやっとしたものが巻き付いてきた。
「誰だァ?」
「ひえっカデンツァ先輩⁉」
ねえそれ目隠ししてあげるやつ! 背後から首絞め待ったなしで掴みかかるやり方は違うからねっ。ずがんと上がった心拍数はなおも上がりっぱなしでずんどこずんどこ拍動を刻んでいる。
「正解。クククッ、ボクの部屋に来たとき、キミの首にネこっそりト、盗聴刻印《盗み聞きクン》を刻んデおいタんだァ。だからキミたちひよこチャンたちの選択はスベテ聞かせてもラっちャっタよ」
「うひぃ……?」
カデンツァの長い爪がカリカリと私の首を引っ掻いて、魔法式がずらりと並んだシールみたいなものを剥がした。うわっなにこれ全然気づかなかった。
「イイ音が録音れタ……♪ 貴重ナ実験材料とシテ使わせテもらうトしよウ」
「きっも……」
あ、思わず本音が出ちゃった。
ソウビもカデンツァのマッドサイエンティストぶりに恐れをなしたのか後退っている。待って、逃げるな、私達ズッ友だって言ってたじゃないッ!
そのあいだもカデンツァは私の首をなでなでしていた。うえ、鳥肌が立ってきた、カデンツァなんか指先冷たいし……末端冷え性?
「あのさあ、なんの用か説明してくれる? 盗聴してたんなら俺たちの方針も聞いてたってことでしょ」
「ンフフフフ、そんナ警戒シないデ。ボクはただキミたちを助けてあげようカと思っタだけサ」
胡散臭い――こんなギザ歯、長髪で緑髪かつ眼鏡白衣キャラの言うことが信じられるとでも思ってんのか! 裏切るに決まってるだろうが。
そういう場面もシナリオ上存在するし……カデンツァ専用のバッドエンドの名前はちなみに「被験体A~キミは可愛イボクの愛玩動物~」だ。
ご想像のとおりとは思うがいちおう解説すると、カデンツァに捕獲されていろんな魔法薬漬けにされて、飽きて捨てられるまで飼われるという……やっぱ無理だ、こいつには関わらんとこ。
イっちゃってるカデンツァに檻越しに見つめられるスチルは綺麗なんだけどね。めっちゃ力入れちゃいました、ってイラストレーターさん言ってたもんね。仕上げもかなり気合入ってたね、美術スタッフ。
なぁみんな、そんな好きか……監禁ヤンデレ。
ただイラストの問題じゃないんだよなぁ……いざ主人公になってみればそんなイカレたルートは御免なんだよなぁ。
「助ける、なんて言ってこっちが信用すると思ってんの? 盗聴してた人間を」
「そ、そうだーっ! そのとおりだ! プライバシーの侵害っ」
訴えてやる。
あと具体的に何を録音したのか知りたいような知りたくないような、あれとかあれとか、まさかあれも……? 変質者はこの世から消え去れ。
「――ソウビ・ラスターシャ・有馬クン」
背後から私の首に触れていたはずのカデンツァがソウビの眼前に立っていた。
思わず振り返ったが、後ろには誰もいない――まさか、一瞬で移動したってこと? 全然気づかなかったんだが。
「キミとボク、実力差は明らカだヨ? 自分でも理解っテルんだロ?」
「……んなの、戦闘ってみないとわかんないっての!」
「威勢ガイいねェ、ジャあ試してミヨうカ? フフ、ひよこチャンたちの選択はオオムネこちらの計算ドオリ。予定調和なのサ」
制服のポケットに入っていたE-フォンが振動した。
メールの着信である――差出人は、カデンツァ・ウィステリア。件名は「ご招待」だった。
「これかラ一時間後ニ、第二研究棟、一階ニある遊戯室に来るとイイ。ボクが成績優秀者ノご褒美トしテもらっタ、専用の魔法戦闘フィールドがアる」
――ソコで戦闘りあおウヨ。ボクと、キミたちトで。
そう言って、カデンツァはサーカスの支配人のように……たった二人の観客に向けてうやうやしくお辞儀をした。




