22 答えが出ない問い
「ちょっと」
頭が重い。
いまにも雨が降りそうな曇天で、気圧の変化にめっぽう弱い私の頭は早くもずきずき警鐘を鳴らし始めていた。すぐにでも頭痛が本格的に始まりそうだ。こういうの、異世界だろうが夢だろうがおなじなのが嫌だな。治癒呪文を覚えればそんな痛みともサヨナラできるんだろうか。
最悪なことに、一時間目から魔法史学だった。めっちゃ眠いじゃん。教科書めくってるあいだに机に顔ぶつけちゃうよ。授業始まる前の間だけでも仮眠取っておこうかな。結局、よく眠れなかったし、なあ。
「ローゼル!」
ぐい、と髪の毛を引っ張られてはっと目が醒めた。小学生の悪戯みたいな起こし方はやめてほしい。どうせならもっと優しく、紳士的に起こして。
「……むにゃ、ソウビたん、どしたんそんな怖い顔して」
「カデンツァ先輩に何言われたの」
朝から辛辣だった。あのお方の気味悪さはサイコと言いたくなる気持ちはわからないでもないけれど。
「うんにゃ、何も……」
カデンツァに【戦闘魔法競技会】のパートナーにならないか、と誘われた。
そのことをソウビに伝えるのはまだ早い気がする。自分の中でもどうしたらいいのかわからなくて混乱しているのだ。
「――あっそ」
ふい、とソウビは私の髪から手を離して、教科書を読み始めてしまった。ずっと見ていても一度も顔を上げてくれない。いつも私の視線に気づいて鬱陶しそうな顔で「何」って言ってくれるのに。
授業中も隣の席のソウビが気になって、居眠りどころじゃなかった。
一日中、ソウビとの間にまともな会話はなかった。いつものように行動を共にしてはいるのだけれど、何か話しかけても会話が続かない。
放課後――空中庭園の隅っこで、風に揺れる花を眺めながらぼんやりしていた。私がひとりになると、嫌がらせを受けるのを見越してソウビは可能な限りそばについていてくれるのだ。いまも特にすることがないだろうに、わたしと一緒にのんびりしてくれている。
「あは、でも雨降らなくて良かったねえ。瀬戸際でなんとか保ってくれたみたいで有難いのなんのって。でも頭は気圧のせいでやべーくらい痛い……ソウビたんの精製した痛み止めめっちゃ効いたよ!」
「……」
ただし、無言なのだった。
私がすこしでもふざければ冷ややかなツッコミを入れてくれるのに……ひとりでボケ倒すことほどさみしいものはない。どうしちゃったの、ソウビ。反抗期かな?
「……はーあ、ねえねえ、E-レクト。ソウビくんがなんだか私にとってもつれないんだけど、どうしてだと思います?」
『ハイ、マスター。貴方を強く問い質したい気持ちと、どうしてそんなことを俺が気にしないといけないんだという気持ちのせめぎ合いで、終始無言になっていると考えられマス』
「そっかあ……」
「あのさあ頼むから声無しモードでE-レクトと会話してっ! なにもかもが丸聞こえなんだよっ」
ようやくこっちを見てくれた。
肩で息をしているソウビを見ながら安堵の息を吐いた。
「よかったぁ。ソウビにも嫌われちゃったらどうしようかと思った……」
「あんたのことなんかべつに嫌いじゃないってだけだから。そこんとこ勘違いしないで。思い上がるな」
つん。出ました、ドライともいえない、これぞ様式美といった格調高いツンデレ。基礎点も芸術点も非常に高いですね。脳内実況が入り、審査員がそろって十点の札を上げた。
「ソウビ、あんた世界狙えるよ……」
「……ちょっとE-レクト。一日放置したのにローゼルの頭が沸いてる場合の対応方法」
『申し訳ありまセン、お答えできまセン』
最高峰の電子魔導端子、E-フォンにも私の狂人っぷりは解決できないようだった。




