13 演習戦、決勝戦の前に。
グリーヴの予想どおり、ものすごいスピードで対人演習は進んでいった。
新入生たちには避ける技術がほとんどないので大技を先に出した方が勝ち、みたいな雰囲気が出来上がりつつある。
尋常じゃないほどに場慣れしている私たちのペアが初心者ひよこちゃんたち相手にものすごい無双をしてしまって、あっさり勝ち進んでいっていた。
支援魔法を主に扱うのは私だが、ソウビもローゼルも適正平均値のネーベル寮生だ。自力でバフかけられるし対戦相手にデバフもかけられる。
私も私で、向かって来た敵を力業でねじ伏せる火力ぐらいは初期値+獲得経験値で十分に足りるので隙がないのだった。こういうの、主人公って感じでいいな。
「ねーねー、ソウビ。ところで私たちが完全に悪役ポジションなの解せないんだけども……」
「仕方ないでしょ。あんたが無茶苦茶するのが悪い」
ソウビにだけは言われたくない。
私達と対戦した同級生たちは急きょ設置された白いテントの下で治癒術の担当教師からケアを受けていた。死屍累々、といったようすだが結界があったので、もちろん命に別状はないし怪我もしていない。ただ、多くのK.Oチームが「もう二度とベネット、ラスターシャ組とは戦りたくない」と譫言のように語っているという。
失礼だな、ちゃんと加減しているのに。
「ウケる。うちらめっちゃ怖がられてるし命乞いされるし、ヘイト集めてるじゃんっ! 私のキラキラ主人公計画が台無しなんですけど……っ⁉」
「ローゼルにはその方向性、向いてないから諦めな――そんなことより、みんなどうして俺たちじゃなくてあのドブス応援してるのぉ? もっと俺を! 見ろっ! 俺の方が百億倍輝いてるのにぃっ!」
注目されるのは私達ではなく、まあ予想どおりではあったけどルイーザ、エリアス組だった。人気の差だよ、しかたがないよね。
にこやかに微笑むルイーザの周りには、敗北した生徒たちが集まって「さすがです」、「知らなかった」、「すごいです」、「センスいい!」、「そうなんだ」のさしすせそ構文を浴びせていた。社会の縮図かな?
隣を陣取って彼氏面で頷いているエリアスのドヤ顔が、相変わらず鬱陶しい。
キーッとハンカチを噛んで発狂する勢いだったソウビの肩を叩いて宥めた。
「よしよし、ソウビのいいとこ私はちゃんと見てるからね。次の決勝であいつらコテンパンにぶちのめして目に物見せてくれようぞ……?」
「あんたが逆立ちしてもヒロインになれないのはそういうとこだよ……」
何を言うか、私は正真正銘この乙女ゲームの主人公なんだからねっ。
ヒロインを謳歌しているルイーザには申し訳ないが、いずれその座は明け渡していただく――そんなことを考えているから悪役ムーブとか思われるのか、いけないいけない。
「それより……俺はカデンツァ先輩が言ってたあの話が気になってる」
「ああ――魔力増幅薬のことね」
ソウビがひそひそと話しかけてきたので小声で応じる。
以前、談話室で聞いた話によると、魔薬の申し子パイセンことカデンツァは、ルイーザから学院内で採取できる魔法植物について質問されたのだという。材料から推測するに「魔力増幅薬」を精製するためのものだろう、と。
「魔力増幅薬」とは合法ではあるが学院からは取り扱い厳重注意の認定を受けている強化魔法薬だ。身体能力及び、魔法攻撃力を劇的に高めることが出来るが魔力の消耗が激しい。
一秒ごとに寿命を縮めるような痛みを、使用者の魔力が尽きるまで与え続けるというヤバい薬だった。当然のように学院の全授業において「魔力増幅薬」の使用は禁止されている。
「そんなの使ってまであいつら勝つ気でいるってこと? むしろもう使用済なのかも……」
思案するようにふたりを見遣ったソウビにいやいや、と私は手を振った。
「ただの演習授業だよ? 大会でもあるまいし……あの子たちはうちらと違ってそこまで勝ちにこだわる必要ないって。飲んだとして、限界まで魔力使ったら丸一日は保健室に強制入院だもん」
「――他に目的があるんだとしたら?」
口にはしたものの、ソウビも考えがまとまらないらしくぶつぶつと何やら唱えていた。