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09 クリスマス休暇:後(懲罰は反省文と呼称する報告書作成による軟禁でした)

 結局、本人も言っていた通り、ハリエットは能力の使い過ぎでチェッキーの治癒ができなかった。

 瀕死の重傷で、疲労状態にあったハリエットには止血が精々だったみたい。

 カトリーヌが、それならアタシが! と嬉々として治癒にあたり、完璧に癒して見せた、ようだ。

 待合室にも聞こえる歓声に、昨夜からの騒動を知らない兵士たちには、ハリエットの能力よりも上に見えたと思う。

 事情を知る看護師がハリエットに休憩をすすめたが、自信がない、失敗したら、と、すがる様にハリエットを足止めしていた。

 その声はまだ待合室にいた私にもよく聞こえ、私にはカトリーヌが、ハリエットの休憩を許さなかった様にしか感じなかった。

 それから警備兵と護衛兵の軽いケガは二人で治癒にあたったみたい。復調した兵士が待合室の子供を連れて児童養護施設に帰っていく。

 襲撃はあったけれど、第三王子が警備体制を整えたので、仮拠点の扱いかな。

 事情聴取とか、まだ追いかけている襲撃犯もいるしね。

 子供たちには襲撃現場が精神的負荷になるだろうけれど、最終的には帰るしかない。

 病院だと守ってくれる予定の方々がケガして現れるし、マシだと思おう。

 近くにいた子供たちには、偉かったね、とか、頑張ったね、とか、一声かけて抱きしめた。

 抱きしめ返されての笑顔に、何もしてあげられない罪悪感は募るけれどね。

 途中、警備兵の中にアデライードの顔見知りもいた。耳を掴んで何か怒っている。いいぞもっとやれ、と、心の中で応援したのは言うまでもない。

 そんな状況でも情報収集を欠かさない。反省の色なしだ。


「お迎えの馬車と、着替えも届きました。一度病室に戻りましょう」


 アデライードが着替えを取りに行き、その後病室で合流。

 二人とも子供たちの血や涙なんかでひどい有様だ。

 着替えながら収集した情報を聞く。


「誘拐された子供は行方不明だった六名で間違いないそうです。分散して連れ去ったようで、チェッキー様はその内二名を連れていた犯人と交戦したようですね」


「第一王子の護衛なんだし、一般的に強い部類だよね?」


「勿論です。逃亡中の荷馬車を馬で追い、チェッキー様だけ先に荷馬車に飛びこまれたそうですよ。中に三人の犯人と、麻袋に詰めた子供が二人。犯人の一人を切り殺したところで、子供を盾に使われ、そのタイミングで荷馬車が急停止。なんと盾にしていた子供を力いっぱい放り投げたそうで」


「うわぁ。……でもまぁ護衛の人なんだし、孤児の命より事件の詳細優先でしょう? どうして見捨てなかったんだろう?」


 頭に、王子の、とつく護衛は、護衛兵ではなく護衛騎士である。

 そういう倫理観の人がほとんどだろう。


「単純に驚いて目で追ってしまったのではないでしょうか? その時にもう一人の犯人に背中を一突き」


「ああ、そうか、もう一人いたのか」


 そこからしばらくニ対一か。

 五人で追っていたなら、御者に一人、投げた子供に一人、残り二人が狭い馬車内に入り込むのは難しい。御者台側から入り込んで子供を確保で一人動けたとして、もう一名は後方待機が精々か。チェッキーが馬車から降りてたらもう少し配置は変わりそう。


「御者に護衛兵、他三名は警備兵でしたので」


 アデライードが言葉を濁す。

 警備兵なら盾にされた子供は切れない、か。

 嫌な話ではあるけれど、やはり身分の差はある。

 優先順位も置かれた状況によって変わるのだ。

 警備隊の優先順位は女、子供、老人とかが先に来るけど、護衛部隊は護衛対象が最優先。


「あ、それなら子供は助かったの?」


「放り投げた方は無事だったそうです」


「そう」


 もう一人はダメだったのだろう。

 盾にされて死んだのか、死亡理由は分からない。

 そもそも連れ去ったのは犯人なのだから、犯人のせいと思おう。

 怒り、には少々曖昧な、ざわざわと胸が落ち着かない気分。

 あまり考え込むのはよろしくない、かな。

 ふと思い出して聞いてみる。


「ラスロって子と、ラシェルって子は? 待合室にいた子供が呼んで泣いていたでしょう?」


「ああ、目撃した子供たちですものね。行方不明者です」


 アデライードは行方不明者の名前を把握していて即座に回答。

 それから、


「……サファイアとパライバトルマリン」


とつぶやく。

 サファイヤは夜空色、パライバトルマリンは海色の宝石だ。

 瞳の色?

 先日、私の目をアイオライトとたとえた時、あれはカトリーヌの真似をしていたはず。


「他は?」


「エメラルド、翡翠ジェード、ルビー、ガーネット」 


 行方不明の子供の瞳の色だと、漠然と理解する。


「……アメジストとトパーズは施設内で死亡と聞いています」


 付け足された情報にごくりと喉が鳴った。

 ここから先はバカな子供の妄想であってほしい。願いながら言葉にする。


「眼球は、三歳までにおおよその大きさになって、以降は十四歳位まで緩やかに育って止まる。盾にしても問題ないなら生死問わずかな。目的は……」


「どこぞのバカ貴族が眼球コレクションでもしているのかもしれませんね。案外騒がなければ片方の目だけくり抜かれて終わりだったのかも。犯人からしたら第三王子が近場にいたのは誤算でしたね」


 私が慎重に発言したのに、アデライードはあっさりと口にする。

 ギリっと奥歯を鳴らして、


「だとしたら、ですよ? どうしてあの女が宝石で形容した瞳の子供ばかりが狙われたのかは解せませんけれどね」


と付け加えた時には、ねっとりとした口調になっていた。

 あの女ってカトリーヌの事だよね? 心の底からバカな子供の妄想であってほしい。本当に。

 その笑顔はちょっと怖すぎますよ、アデライードさん。

 着替え終えた私たちは、退院手続きを終え、休憩しているハリエットとカトリーヌを訪ね、


「アタシも診てあげたかったんだけど一足遅かったのね! アデライードさんと比べて小さ……え? 十三歳なの? あったまいーのね!! 今度はあなたに勉強を教わろうかしら? あら! 綺麗なアメジストみたいな目をしてるのね! 羨ましいわぁ!!!」


カトリーヌに詰め寄られ、一方的に話しかけられ、背筋が凍る思いをした。

 馬車に乗ってからアデライードが顔を歪めて、


「お預けした鉄扇はそのまま差し上げますので携帯してください」


なんて言う。アデライードとしても計算外だったのかな。珍しい。


「ああ、そうでした。メリークリスマス」


 家の前で別れ際、もう昼になるが相変わらずの曇天を見上げながらアデライードが言った。

 すっかり忘れていたし、今のところ人生で一番最悪なクリスマスの思い出だよ?

 肩をすくめて苦笑いで返す。


「メリークリスマス。よい一日を」


 ポンと小さな木箱を投げて寄こし、アデライードは帰って行った。

 木箱の中身はアデライードの瞳の色をした緑の石。

 エカナイト辺りかな。

 それにしても、原石って。

 思わず笑いながら帰宅して、渡しそびれたプレゼントを思い出したのだけれど、それから三日程アデライードには会えなかった。

 物凄く怒られたそうだ。

 さもありなん。




***


 


 翌日からカトリーヌの立場は一変。

 ハリエットよりも強力な癒しのギフトを、しかも後天的に手に入れた本物の聖女、そんな触れ込みだ。

 再鑑定を待たず、年明けから正式に聖女として国のために働くのだとか。

 そういう話が炊き出し場や病院から広まって、二日と立たないうちにもう聖女様だ。

 四日後に家に来たアデライードはとても不機嫌だった。


「ずいぶん叱責された?」


 仕方ないと思うけどね。

 人に毒を盛った上に、割と大ごとに巻き込まれた訳だし。


「それは仕方がありません。ただ、昨日まで自宅に引き込まざるを得ずで。一番美味しい部分を見過ごしたかと思うと……」


 どうやら私と会わなかった三日間はカトリーヌをつけまわせなかった三日間でもあるらしい。

 ふるふると拳を震わせて呻く様に語る。


「病院や炊き出しを行う場所は下層地区なので、学校関係者は少ないでしょう? まだ諦めがついたのですが、昨日は登城したと聞きました」


 ああ、親から子へ、仲良くしておけとか、そういう話は下りるかもね。

 それなら盛り上がるのは新学期で、まだ時間はあると思うんだけれど?


「その後ハリエット様とお茶をしている所に同級生が通りかかって、今度は私がお誘いしても宜しいかしら? とお聞きになったそうなのです」


 あ。平民とハリエットがお茶をしてたから、ハリエットに声をかけたのかな? 嫌な予感。


「それなら今から一緒にどぉ? アタシ、しばらく聖女教育とかいうの受けなくちゃならなくて! あんまり時間がとれないの!」


 で、カトリーヌが答えた、と。


「……似合わないから、真似ない方がいいと思うよ」


「結構似ていると思うのですけれど。似合わないなら止めます。まぁ、そういう、アタシ聖女なんですアピールが全開だったそうです」


「それを知っているんだからもういいでしょう?」


 なんで知ってるのかも気になるけど。


「直接見聞きがしたかったのです……!」


 血涙でも流しそうな勢いである。

 話を変えよう。


「児童養護施設の方は?」


 むっとしてアデライードは私を睨む。


「その件でもお叱りを受けましたのよ? 事情聴取の時に全てアタクシに押し付けましたでしょう?」


「それはそうだよ。私は巻き込まれただけだし。見聞きした内容は話したけれど、詳しくはアデライードにって言うのは当たり前でしょう?」


 怒られろ怒られろ、と思っていたせいもあるけど。

 わざとらしくため息をつきつつ、アデライードが仕入れた児童養護施設のその後を話す。


 当日は第三王子の指揮で事情聴取。

 扉が壊されて侵入されていたし、物音ですぐに動いた責任者のシモンは気絶してしまったのだからおとがめはなし。

 子供たちの事情聴取に付き添いながら、せっせと血の付いた服を新品みたいに綺麗にしていたそうな。あまりの汚れの落ちぶりに思わず護衛隊も頼んだとか頼まないとか。どうでもいい。

 結局行方不明のままだった四人は今日まで見つかっていない。

 後を追った警備兵も護衛隊もケガを負いはしたけれど、深追いはしなかったみたい。

 孤児の生死よりも誘拐した理由や犯人の組織解明を優先した結果だそうだ。

 実際に何人かの犯人は捕らえた。でも聴取前に死なれたらしい。

 自害か、捉えた時の状態の悪さか、本当は死んでいないか、の三択かな。

 内部犯がいるならそういう事にしておいた方が得策。

 そう考えるとチェッキーって体を張ってるな。


「チェッキーの件で助かった子ってそのまま施設?」


「いいえ。第三王子の采配で事件に関わった子供は全員、別の施設に移動したそうです。ここでは眠れないだろうと。しばらく各養護施設付近の警備も強化してくださるそうです。こちらは第一王子の采配です。お父様から伺いました」


「それは良かった。移動した子供って、別の施設の子供と交換?」


「いいえ。残ったのは十八名で、平常時は二十名までの施設ですから。そのままです」


 そっちは貧民街の一時預かりが落ち着いてから考えるのかな。

 一般の子供が標的になっていればこれで終わりにはならないが。

 今回はこれで終了の流れ。今後は普段の警備のついでに気にかける程度だろう。


「宝石形容した話は?」


 なんとなく飾っておいたクリスマスに貰った原石に目が行った。

 アデライードが視線を追ってにんまりと笑ってから答える。


「正式に趣味が実益になりました」


 うわぁ。


「今後ともご協力くださいませ」


 ご協力はしたくないので返事はしない。

 どこから実益が出るのかは知らないが、カトリーヌの監視が仕事として依頼された様だ。

 実父辺りに、怪しいと思うなら同級生なんだし監視しとけ、とかだったらいいな。

 多分違うんだろうけど。


「ハリエットは大丈夫そう?」


「ええ。お立場的には変わりませんので」


 立場がそのままだったのは幸い。

 ただ、カトリーヌに振り回されて従者の様な状況に陥りそうだなぁ。目に浮かぶ。

 アデライードもちょっと遠い目。


「一学期にうわさになってしまった、サブリナ様、タチアナ様、ナタリー様、マデリーン様は旗色が悪くなりそうですね」


 冷酷なサブリナ、権力を振るうタチアナ、強欲のナタリー、嫉妬に狂うマデリーン、だったか。

 簡単にまとめるとそんなうわさ。

 確かにカトリーヌと言えば、で名前が上がりそうな四人。


「任務的に肩入れはできないんじゃないの?」


 心配してもなにもできないならあまり気にしない方がいいと思う。

 気持ちは伝わったようで、アデライードは小さく首を振った。


「そこは上手くやりますよ」

 

 私にはできないし、どうやるかも分からないけれど、素晴らしい能力だと思う。

 感心ついでにぽいっと先日のお返しに木箱を投げる。

 アデライードは受け取って首を傾げた。


「なんです?」


 タイミング的になんだか分からないよね。ちょっと苦笑い。


「貰ったから慌てて用意した訳ではなくて、渡しそびれてただけ」


 それでなんだか分かったみたいだ。


「ありがとうございます」

 

 箱の中身は赤と青のバイカラーサファイヤを飾りにしたバングル。

 アデライードは早速腕につけて笑った。


「この厚みなら刀を受け流すのに良さそうですね」


 護身用ではない。


----

次回 お茶会

01/05 23時更新予定です。


クリスマスに更新したくて長引かせたらこの有様です。

Merry Christmas and Happy New Year.


書ければ年内に閑話を更新するかもしれません。

続きの更新は年明けになりますが、見捨てずお待ちいただけましたら幸いです。

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