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否定されし男、頭を悩ませる

 翌日、俺はあることについて悩んでいた。


「……なんとかして、塩を手に入れないとだよな」


 どうでも良いことと思っただろうが、これが案外馬鹿にできないレベルでかなり重要なことだった。

 勿論調味料や干し肉などの保存用という目的もあるが、人間の体は案外塩分がかなり重要な役割を担っている。

 全く塩を取らないと、立ちくらみや脱水症状、痙攣などのショック症状を引き起こすことになり、体が資本となるここでの生活では健康は何よりも優先すべき事柄のため、なんとしても塩を手に入れる必要があった。


「少なくとも二人で一月に500g前後の塩は健康のために必要なんだよな。けど、ここら辺で塩を手に入れる方法が何にもないのが大問題なんだよな」


 塩は大まかに二種類の入手方がある。一つは日本人なら馴染み深い『海の水を蒸発させて塩を取り出す』、いわゆる『海塩』と呼ばれる方法だ。これは天日や炎の熱などで水分を蒸発させ、さらに海水を足して濃度を上げてさらに煮詰めることを繰り返すことで塩を作る方法で、類似のものとして温泉から取る『温泉塩』や地球の中東アジアに存在する死海と呼ばれる湖などの塩分濃度の高い湖から、自然で天然に水分が蒸発することで採取される『湖塩』などが存在する。

 この方法は『湖塩』の場合を除き、基本的にかなりの重労働ではあるがほぼ無限に塩を取り続けられるのが利点なのだが、生憎とここは山の中であり、さらにこの村の村長だった人間の日記にはこの周辺には海辺は無いと書かれていたから、この方法は使えない。


 次に『鉱石として掘り出す』、いわゆる『岩塩』と呼ばれる方法だが、残念ながら鉱山には塩の鉱脈は無かったらしく、新しく探して掘るのも時間がかかるうえに、あるかどうかも分からないので簡単ではないため、これも現実的に使えない。


「あぁ、手に入れなきゃならんものが多すぎるんだよな、ホント」


 塩もそうだが、小麦や芋のような炭水化物に、味はともかく果物で取れるとはいえ、片寄らないビタミン類のための常食できる野菜は必須であり、どうにかしてでも手に入れなければならないものだった。


「なぁ、ダーナは小麦か芋の類いとか、もしくは野菜の種なんか持ってたりしないか?」

「えっと、大豆でよければ巾着一つ分はありますけど」

「大豆……大豆か!!」

改めて

 まさかの答えに少しだけ驚く。大豆は『畑の肉』とも呼ばれるほどたんぱく質を含んだ食材であり、しっかりと実を成せば一粒の種から大量の種を産み出す事もできる。栄養素もかなり豊富で、鉄分も取れるのでかなり嬉しい食材だ。


「けど、なんで大豆を?」

「村から追い出されるときに、せめてもの慈悲として馬のエサを渡されたんです。大半は食べてしまいましたけど、それでも30粒ぐらいはのこってます」

「馬のエサって、まぁ30粒ならギリギリなんとかなるか?」


 正直言えば50粒ぐらいは欲しかったが、それだけあっても農業素人の俺がちゃんと育て上げられる自信はないし、何より取らぬなんとかというやつになるのだけは避けたい。


「とりあえず、ダーナはオークの解体を頼む。俺はもう少し村のなかを確認して色々と考えてみるから」

「色々って、例えば?」

「廃村とはいえ、どっかしらに畑の類いの痕跡はあるだろうからな、それの位置を確認したり色々だ」


 そう言うと俺は魔法でしまっておいたオークを、外に出しておいた廃屋の一つにあった比較的マトモなテーブルに乗せてその場から離れると、改めて村の地形を確認する。


「しかし、こうしてみるとこの村、結構防御に最適な場所だな」


 居住地の広さで言えばそこまでではないが、村を囲むようにある壊れた木壁の感じからして、豊富な針葉樹の丸太壁で村全体を囲えていたのだから、森林資源に関しては潤沢であり、尚且つ地形からして鉱山の入り口のある山はここから見てもかなり険しくトンネルなどが無ければ越えられないうえに、村そのものも山から下るような形になってるから、攻めるのもかなり難しい。


「けどなんでこんな場所が廃村になるんだ」


 だからこそ不自然というか、ここまで天然の防御が固い場所なのに、なぜこの村が放棄されたのか。

 建物の感じからして限界集落になって離れたという感じではない。少なくとも半年は誰も住んでないのは、ダーナから聞いた今のおおよその日付と、置きっぱなしになっていた元村長の日誌から分かっているが、同時にダーナから聞いた話では、人間と魔族の戦争は既に十数年ほど経過してる段階だ。放棄するならもっと早くしていても不思議じゃないというのに。


「ん?」


 と、上から何か変な音が聞こえたと思い空を見上げると、


「あれ、こんなところに人間が居るなんて久しぶりっすね」


 何やら大きなバックパックを背負った翼を持つ少女が浮かんでいた。

 魔族、一目でそれに気づいた俺はすぐさま武器の鉄棒を取り出した瞬間、少女が慌てるように降りてきた。


「す、ストップストップっす!!ウチは敵じゃないっす!!ただの商人っす!!」

「商人?」


 思いっきり頭を振る少女は背負っていたバックパックを翼から抜いて目の前に置くと、その中から袋を幾つか出してきた。


「これは?」

「右からラテールの製塩所から仕入れた塩、カンザリヤのダークエルフから仕入れた小麦粉、アモックスのドワーフから仕入れた鉄ヤスリっす!!どれもその土地では訳あって売れなかったり余ってたりしたものを、ウチが安く買い取って別の街で売ってるんす!!」

「あー、なるほど」


 いわゆる訳あり品専門の商人というやつだ。日本でも似たような訳あり商品を仕入れて格安で売る商売があるとは聞いたことはあったが、まさか異世界でそういう商人が居るとは思ってもみなかった。


「けど、ここって一応人間の領地だよな?商人とはいえ魔族が勝手に彷徨いたら問題なんじゃ」

「そりゃ陸から入ったら簡単にバレるっす。けどウチはハーピィ族だから空を飛べるっす。荷物があるんで速度は出せないっすけどかなり高く飛べるんで、人間の魔法や大砲の射程の外を移動してるっす」


 そもそも魔族とはいえ民間人なので、攻撃したら商人協会から睨まれると話す少女に納得すると、俺は改めて彼女に向き直る。


「すまない、あまり他人と関わってないせいか誤解していたようだ。謝罪させてくれ」

「いやいや、大丈夫っす。むしろ話の分かる人間が相手で良かったと思ってるっす」

「そうか。俺はレイス、つい最近この村に住み着いた人間でな、奥にもう一人居るんだが、代わりに挨拶させてもらう」

「ウチはミラッコっていうっす。親しい連中はミラって呼ぶっす、ご贔屓にしてくれると嬉しいっす」


 彼女はそう言うとファンタジーのハーピィよろしく腕と翼が一体となって翼の先に掌が存在するその右手を差し出してきて、俺はゆっくりと握り返した。


「けどもう一人って、もしかしてお肉を解体してた半魔の子っすか?」

「あー、やっぱり気づいてたのか」

「勿論っす。あぁ、ウチは半魔のことを差別するつもりはないっすよ。こういう商売してますから、時々半魔の隠里みたいな場所でも取引したりしてるっすから」


 なにより、と彼女は自嘲するように告げる。


「ウチも他のハーピィ族からしたら忌み嫌われとるっす。ハーピィの癖に銭商売の真似事して恥ずかしいって」

「そう、なのか?」


 別に恥ずかしいとは思わないが、どうやらハーピィ族としての決まりみたいなものがあるのだろう。


「そうっす。まぁそんなことはどうでもいいんす、で、お兄さん、ウチの商品を幾つか買わないっすか、現金じゃなくても物々交換でも対応するっすよ。例えば――――オークの肉とか」

「っ、当然見てたか」

「勿論っす、あの半魔の子の解体は解体仕事の素人なウチでも立派なものだと分かるレベルっす。なにより、オークの睾丸は強壮剤の材料としても使われるっすから、それだけでかなりの金額で取引させてもらうっすよ」


 どこに隠していたのか、算盤を取り出して突き出す姿に苦笑するが、同時に俺は真剣にミラへ視線をぶつけた。


「商談ぐらいはさせてもらえるんだろうな?」

「勿論、しっかりお勉強させてあげますよ?」

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