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否定されし男、生存戦略を教える

「被害が酷いって、それだけで中立で敵対視されないことに繋がるんですか」


 俺の言葉の意味があまり分かってないのか、彼女の言葉に苦笑しつつ返す。


「そうだな、例えばAとBという国がある。Aの国は大国で1万の歩兵戦力を有しているが、Bの国ははAの国の1割の1千人程度の歩兵戦力を用意できない」

「それだとAの国はBの国を簡単に倒せちゃいますよね」

「数だけ見ればな。ところがBの国は実は全員が騎兵として戦えるうえに、技術発展でAの国の弓より速く、射程が長く、さらには精度の高い弓を全員扱える。こう考えるとどうなる?」

「えっと、簡単には倒せなくなる?」


 その通りだと答える。


「Aの国はBの国に勝てるかもしれないが、Bの国との戦いで下手すると半数以上が負傷ないし死傷するかもしれない。そうなるとAの国の戦力が普段の半分以下になってしまう、そうなると第3のCの国にAの国が攻められれば簡単に倒されてしまうかもしれない」

「そっか、国がその2つだけとは限らないから、勝ったあとのことも考えなきゃいけないんだ」

「その通り。だからもし完全中立を唄うのなら、人間からも魔族からも戦いたくないと思われるような戦力が必要になるわけだが、そうなると別の問題も出てくる」


 別の問題、その言葉に少女はさらに首を傾げる。


「例えば人間と魔族のちょうど中間に国があったとする。そこは中立を掲げていて、魔族と人間の両方の国と貿易していたとする」

「両方と貿易してるんですね」

「あぁ、そのため国内は魔族と人間の両方が共存してるため、軍事力もかなり高くなるんだが、今回のように魔族と人間の戦争が起こった場合どうなると思う?」

「えっと、さっきの商人の例と同じで、商人を敵に回すからなにもしない?」

「確かにその可能性もある。が、実際には逆……両陣営から攻め滅ぼされる可能性がかなり高くなる」

「え!?両方からですか!?」


 まさかの答えに驚いているが、少し発送を変えれば簡単に導ける答えだ。


「戦争をする上で重要視されるのは、『戦力』、『情報』、『手段』の大きく分けて3つだ。戦力はさっきも話に出た武器や兵士の人数なんかなのは分かるな」

「そ、それは勿論ですけど、『情報』と『手段』ってどういうことですか」

「情報は文字通り敵の情報、相手方にどんな将軍がいるのか、どんな戦術ができるのか、相手の戦力の数、自分達の保有戦力、自分達がどれぐらいの期間戦えるのか、どれぐらいで補給が間に合うのか、そういった全ての情報を利用し、考えて、勝てる策を立てる。いわゆる参謀や軍師と呼ばれる存在が必要不可欠だ」


 極々偶にそんなものを使わず、ことをなにも考えずにひたすら突撃して勝つような例外も存在したりするが、そういう例外も自分の部下の能力や相手の陣形といった細々とした情報を直感という形で知覚してたりする。良い将や騎士というのはそういった直感で自然と情報を得られるものが大概なのだ。


「そして『手段』。これは言ってしまえばどうやって戦争を起こすのかということでもある」

「どうやってって、普通に街を襲うだけじゃダメなんですか」

「まぁ強ち間違ってないんだが、戦争を起こすには基本的に『大義名分』ってやつが必要なんだ。例えば魔族の侵略や暴動によって人間が襲われて被害が出たので、それを起こした魔族を倒します、みたいな感じのな」


 勿論そんなことが簡単に起こるわけがない。いや盗賊が村を襲ったりはするだろうが、それはあくまでも盗賊であり、基本的に人間にしろ魔族にしろ、盗賊は殺して当然、生かす必要は皆無なのがこの世界の知識だ。


「だから内部工作して、わざと相手側から自分達を攻撃させ、それを名分として戦争を起こす必要があるんだ」

「けど、それと襲われる可能性があるってのはどう繋がるんですか?」

「ダーナ、こういった大義名分を作る場合、しかも相手の行動から作るんではなく自分達が大義名分を作るとき、今回の魔族と人間の戦争のようなとき場合、一番邪魔になるのはその両方が共存共栄してる都市であり、同時にそういった大義名分を作るのにうってつけの場所でもあるんだ」

「あ、そっか。態々自分達側の村を偽装して襲うより、そういった特殊な場所で事を起こしたほうが自然なんですね」

「ついでに、大義の邪魔になる場所が()()()消されてしまうことが引き金になるんだから、結果として武力がありすぎても、完全中立を掲げるのは難しいってことだ」


 戦争における大義名分とは自作自演の道化であるとは、大学に通っていたころの数少ない友人の言葉だったが、今思えば確かに納得しかない言葉だと思える。


「でも、私は誰も差別されることのない場所が、一つくらいあっても良いとは思うんです」

「差別されない場所、か。理想で言えば好ましいが、人間にしろ魔族にしろ、差別することを好まない種族は知的生命体には存在しないってのが当たり前だ。それを部分的にも塗り替えるのなら、かなりの努力が必要になる」


 その努力する気概はあるのか、そう問いかければ彼女は満面の笑みを浮かべていた。


「私、魔法も武器も才能なかったので、努力は常日頃からしてきたので大丈夫です!!」

「はっきり言うが、これからやることは茨の道だ。困っても誰かに逃げることもできないし、最悪発狂して自殺したくなるかもしれない。それでもやるか?」

「やります!!私にできることは全部やりたいです」

「……わかった」


 決意の固さに呆れれば良いのか、それとも元からこういう性格なのかは分からない。が、少なくともこの場で即断できるのはある意味最高の才能だと素直に思った。


「ならまず、ダーナにはこの村の村長をやってもらう」

「はい!!……はい?」


 まさかの言葉に思わず聞き返してくる彼女に笑みを浮かべながら続ける。


「そういう理想を掲げるのなら、村長は純粋な人間の俺より、半魔のダーナがトップに立つのが最低条件だ」

「わ、私がトップって!?な、ならレイスさんはどうなるんですか!?」

「現状はダーナにトップとしての最低限の教育と、オークや山菜等の収穫の実働だな。勿論交渉ごとに関しては当面は俺が矢面には立つが、最終判断をするのはダーナの仕事だ」


 言ってしまえば俺は実働を、そしてダーナが政治などの支援を担当するという塩梅だ。


「勿論最初から全てが上手くいくなんて思ってないし、俺もそういった交渉事はあまり経験がないから成功するとも言い難い。そこを否定するつもりはないし、むしろ否定できる材料もない」

「そこは無理矢理にでも否定してくださいよ」

「事実をねじ曲げるわけにはいかないからな。けど、やりたいんだろ?」

「それは、まぁ、そうですけど」

「なら目標のために目指すしかないな。いまはまだ空想だらけだが、真に『自由』を抑えられない理想の場所をな」


 若干表情は笑いながらだが、言葉は全て真剣だった。


「本当に困ったら助けてくれますか?」

「助言ぐらいはするが、政治には基本的に口出しはしないぞ」

「それでも良いです。わかりました、こうなればこの村の村長として、これから頑張って活動していきますよ」


 その意気だと頷き、血抜きと冷やしを終えた肉をしまってその日はフルーツで夕飯とした。

 ……正直、思ったより甘くないどころか、むしろ不味い部類だったことに驚くことになるのは、それから時間を置かなかったのは、また別の話だ。

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