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否定されし男、指標を考える

「しかし、居場所を作るとは言ったものの、これからどうするべきかな~」


 村の近くにある小川でオークの肉体を冷やしながら、俺はダーナと共にそんなことを考えていた。


「そもそもダーナ、半魔ってのはどれぐらいの割合で産まれるんだ?」

「えっと、私が居た村の神父さんが聞いた話だと、魔族が人間を孕ませると100人に2、3人ぐらいで産まれるそうです」

「100の2~3か……わりと多いな」


 俺の予想だと1000に1~2人位だと思っていたのだが、それよりかなり多い割合だった。


「あ、でも魔族の種類によって変わるらしいです。私みたいなゴブリンとの半魔がそれぐらいで、ヴァンパイアみたいな魔力の多い種族ほど割合が上がるらしいです」

「魔力が多いほど割合が増えるのか?減るんじゃなくて?」

「らしいです。どうしてかは私には解らなかったですけど、特に魔族の中でも竜族と人間の子供は、必ず竜人族っていう、半魔のなかで唯一認められてる魔族になるらしいです」


 曰く、竜人族は人の肉体に竜の鱗や翼を持つ半魔らしいが、そもそも竜族そのものが人化の魔法を使って生活し、なおかつその姿が竜人族とほぼ変わらないため、過去には竜人族と間違って竜族を怒らせた結果国一つ滅んだなんて話があるらしい。

 加えて竜人族は竜族に比べたら魔力量は遥かに少ないらしいが、それでも内包する魔力は最低でも魔族軍の将軍にも引けを取らない程らしく、下手に馬鹿にすればどんな痛い目にあうか考えたくもないという。

 故に人間魔族問わず、竜にまつわる存在は基本的に不干渉のアンタッチャブルであり、今回の戦争でも互いが竜族及び竜人族関係の土地には踏み込まないようにという暗黙の了解があるそうだ。


「というか、竜族って魔族なのか?」

「一応教会の教義だと、人族には存在しないものがあるものは全て、広義の意味では魔族とされるみたいです」

「じゃあオークは?あれも一応は人の形はしてたが」

「オークは知性がないので魔獣という扱いだそうです。逆に拙くても知性がある存在は魔族になります」


 ゴブリン族も片言ではあるがある程度の会話はできるらしく、普通の人間にはない角がある事から魔族に分類されているらしい。


「ならエルフ族やドワーフ族、獣人族なんかはどうなるんだ?」


 転生の際に貰った簡単な情報によれば、この世界にも異世界の定番のエルフ、ドワーフ、獣人もいるようだが、そこのところは詳しく知らなかった。


「その三種族は、教会に伝わる聖典のなかで、人間と共に神様が最初に産み出した人の祖先と伝わってるので、人の分類になるそうです」

「なるほど、そう言う区分か」

「はい。ただ教会の中には獣人は魔族の祖となったのではないのか、っていう人もいるらしいですけど、獣人と人間の子供は普通の人間だったり獣人だったりバラバラで不規則なのでなんともいえないそうです」


 ダーナは苦笑してるが、確かに地球でも漫画やゲームでは外見は魔族と獣人は似てるというか、魔族にカテゴライズされてることも多々あったし、言いたいことは分かる。


「話は戻すが、大目標としてどんな風な場所にするか、だな」

「どんな風にですか?」

「そ、例えば人間と魔族と半魔が共存して暮らせる場所……みたいな、大前提でこの廃村からどう開拓していくのかっていうふうな目標を決める必要があると思うんだよ」


 現状動かせる手は俺とダーナの二人だけだ。狩猟や山菜、果物の採取は俺が担当し、肉の解体や料理に掃除、そして居住の為の家の修理はダーナが担当することに決めたのだが、


「ダーナも一人で家を持っても良いんだぞ。廃屋ばかりとはいえ、家は修理すれば使えないこともないレベルのものばかりだろうし」

「い、いえ。ただでさえ薪になる枝が殆どないですし、布団や毛布の類いも見当たらない現状、凍死がいつ起こっても不思議じゃないので、できるだけ一緒に生活するべきです」

「薪なんて木を切れば使えるだろ」

「レイスさん、生木はすぐに薪にはできませんからね。冬に切ってそこから最低でも半年、ものによっては2年近く乾燥させないと使えないんですよ」

「そうなのか!?」


 キャンプの類いをしたことのなかった俺としては、薪なんて木を切って適当に細かくすれば簡単に使えると思っていたのだが、どうやらそう簡単な話ではないようだ。


「さらにいうと、木の種類によっては燃やすと毒になるものもありますから、それを確かめないで使うのもダメですよ」

「毒って、例えばどんな木が毒になるんだ」

「えっと、私が知ってるのだとウルシですね。枝でも燃やしたら大変なことになりますよ」

「ウルシ……あぁ、漆ね」


 たしか日本でも漆は樹液が大工仕事での接着剤や工芸品などの塗料の原料として使われる木ではあるが、『漆かぶれ』というように肌荒れや酷いときには肌が膨れ上がって指を曲げられなくなったりと、酷い症状を引き起こす、生活の中での身近な危険物の一つであり、現代日本でも漆に効くという薬品の類いはまだ存在しないという。

 乾燥して器や木材などに乾燥して定着すればさほど問題は起きないが、そんなものを燃やせば煙で全身が漆かぶれになる危険性があるのは当たり前、最悪煙で肺などの呼吸器系まで被れる危険まである


「コホン、また話が脱線したな。で、ダーナはどんな場所にしたいとか、そういう希望はあるのか」

「希望ですか、そうですね……周りの国々から干渉されず、かつ穏やかな生活ができれば文句はないですね」

「干渉されず穏やかに、か」


 中々に難しいことを言ってくれる少女に少しだけ苦しい笑みを浮かべると、彼女もそれが分かってるような表情をしていた。


「さすがにそれは高望みですけど、けど人間側にも魔族の側にも戦争に手を貸さないというようなものはどうでしょうか?手を貸さないし、手を出させない、完全中立な村とか」

「そっちのほうがさらに難易度が相当高いんだよな」

「そうなんですか?完全中立なら、誰からも不興を買うことはないような」

「逆だよ。むしろ完全中立だからこそ周りからは敵対視されるぞ」


 戦時下において、完全中立というのはもちろん存在するが、それは特定の条件に当てはまる国や地域に限定される。


「まず完全中立となって敵対視されない条件だが、自論ではあるが大きく分けて3つある」

「3つですか?」

「あぁ、まず1つは『その場所が戦略的に旨味がない』ことだ」


 この場合の旨味というのは食料、採鉱等の生産的な意味だ。簡単に調べた限りだが、どうやらこの廃村は山の中程にあるらしく、近くには渓流レベルの河川と、自生していた果実、さらに食肉になるオークが群生している。

 しかも残されていた書物によれば、この廃村の近くには少量だが鉄鉱石の採掘ができる坑道も存在しており、この村は鉄鉱石で小麦や塩等を交易していたようだ。

 ここで問題になるのはずばり『鉄鉱石の坑道』と『オークの群生』だ。鉄は戦争において無くてはならない重要物資であり、少なくてもそれが取れる場所というのは、人間魔族問わず何よりも抑えておきたい場所になる。オークもその馬鹿げた腕力や膂力は危険そのものではあるが、知能が低く比較的簡単に狩れるうえに、繁殖力と成長速度も高く、何より1体狩るだけでもかなりの量の食料になると考えれば、食料物資という面からも貴重な場所といえなくもない。

 つまるところ、知られれば両陣営から狙われることは必然的だということだ。


「2つ目に、『その場所が交通並びに商業的に栄えてること』だ。もっとも魔族と人間の戦争の場合はおおよそ、これに当てはまらないんだが」


 何せ人間側には人間側の、魔族側には魔族側でそれぞれそういった都市はあるだろうし、兵站的な意味でそういった場所を破壊するのは戦略的にも利にかなっているわけだし。


「えっと、栄えてると敵対視されないんですか?」


 が、その前の段階で疑問視してるダーナに、俺は簡単に答える。


「ダーナ、戦争するためには何が必要になる?」

「えっと、武器や防具、食料に、人員ですね」

「それに馬やそのための食料も必要になる。さて、これを用意するにはどうする?」

「……あ、商人を利用するんですね!!」


 その通りだと頷く。商人は基本的に利益を優先する。というより、優れた商人ほど利益が出る場所を好むものだ。何故なら商人というのはお金を稼ぐことを快楽としているものが多いからだ。

 自分が買い付けた商品が売れるということは、それを選んだ自分の目が確かであると目に見えて判断できる。そして何度も何度も、その判断をしたいという欲望に駆られ、結果、商人はそれに快楽を見出だす。

 そして同時に商人にとって国からの発注とはつまり、自分の手腕が国にも認められたという証であり、自分は国から任せられる程の商人だという、誰からも認められるステータスを手に入れたことになる。


「逆にいえば、商人を敵に回すような行為は国は極力しない。商人を敵に回せば物は回らなくなって、早晩、国の機能が大打撃を被る事になるからだ」

「そうなんですね」

「さらに言うと商人社会は基本的に横の繋がりが普通のそれに比べても圧倒的に広い。たった一人の商人を馬鹿にしたせいで、あちらこちらから商品がストップしたら堪らないから、そういった商人が活発に栄えてるところを態々攻撃するのは、後の事を考えてもリスクしかない」

「けど、私達のこの場所はそういう交通や商業的に発展してないから、完全中立は不可能なんですね」

「それもあるが、種族間戦争の場合、人間なら魔族の、魔族なら人間の都市を破壊することは当たり前だから、これはあんまり考えなくてもいい。勿論、将来的に魔族と人間のどちらも一緒に商売をするのなら考える必要はあるがな」


 まぁ先の事を考えてもどうしようもないところなので、これについては保留としよう。


「そして3つ目、ある意味でこれがある意味一番重要なことだ」

「一番重要なことですか?」

「あぁ、俺が考えてる中での最も解決することが難しい条件、それは『攻めた場合の被害が洒落にならないレベルで酷い』ってことだ」

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