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否定されし男、取り調べをする

「はじめまして、私はナーガ族の長の一人の一の娘、ミミュレット・グレーデンバルトと申します」


 騎士に連れてこられたナーガの少女……綺麗な藍色が揺れる長い髪に、白蛇を思わせる綺麗な蛇の尾の下半身を持つ少女は、背中にリュックのようなものを背負いながら美しい所作で挨拶した。


「ミラ、グレーデンバルトっていうのは……」

「山向こうの街の族長の一族っすね。あそこはナーガ族の他にもラミア、リザードマンの一族のそれぞれの長が政治をしてるんすけど、そのなかでもナーガ族はこの前も言った通り、街が出きる前……里だったころから治めてるため、代々街のトップをやっていたはずっす」


 ミラの知識を聞いた俺やクラウヴィアが視線を彼女に向ければ、ミミュレットと名乗った少女はコクりと頷いた。


「その通りです。私の母はグレーデンバルト家の第7代目の長にして、山向こうにある魔族の街ハッシュバルトの長をしていました」

「いましたってことは、過去形だが……」

「……クーデターです。それもラミアとリザードンそれぞれが同時に武装蜂起しました」


 その一言に全員が凍りついた。いや、族長の長女がここに逃げてる時点でヤバイとは薄々感じてはいたが、まさかそんなことが起きていようとは夢にも思わないだろう。


「本気なのか?」

「私も最初は目と耳を疑いましたが、目の前で槍や剣を振り回す彼らを直接見ております。私は母がなんとか気を引いてるうちに脱出することができたのですが、脱出した街は火の手が上がっているのを見たのでおそらく……」

「まぁ、実行占拠されたとみて間違いないだろうな」


 リザードマンは言うまでもなく、ラミア族はナーガ族と同じく下半身が蛇なのだが、上半身もナーガ族に比べて鱗が目立つ姿をしており、魔法よりも武器を使った体術を得意とするというミラの説明を聞けば納得するしかない。


「ちなみに聞くが、それはいつの出来事なんだ?」

「おおよそですが3ヶ月前です」

「3ヶ月だと?マナスポット並みに魔力が濃い場所を、慣らしをせずに突破したのか?」


 クラウヴィアの問いにミミュレット嬢はコクりと頷く。


「普通なら無理ですけど、今回に限っては裏技のようなものがありまして」

「裏技?」

「これです」


 そういって背負っていた鞄から取り出したのは、ダチョウの卵よりさらに一回りほど大きく、さらに宝玉と間違いかねないほど赤い結晶のようなものだった。


「まさかそれは……」

「ご想像の通り、グレーデンバルト家が保護してきた紅卵玉……先代の炎竜王様の妃様がお産みになった卵です。グレーデンバルト家は炎竜王様のお子を育てる、人間でいうところの乳母のような役割をする家なのです」


 その説明にこの世界の知識が基礎程度しかない俺でも震えた。まさか正統な理由があるとはいえ、転生してきてからそんな時間を経たずにドラゴンの卵なんていう激レアな存在を拝めるとは思ってもいなかったからだ。


「竜の卵には特殊な性質がありまして、持ち歩いてる際にいわゆる魔力スポットのような魔力密度が濃いところを通るとき、持ち歩いてる主に掛かる高濃度の魔力を変わりに受け止めてくれるというものがあるんです。正確には魔力そのものを成長のために吸収するからと言われていますが」

「確かに、以前に竜族の里に立ち寄ることがあったが、その際魔力避けのアミュレットの素材に竜の卵の殻の欠片が使われていると聞いたな」

「生まれる前の卵なら魔力を吸収し、生まれたあとの殻には魔力を弾く性質がありますから、それを利用したものだと思いますよ」


 そんなものがあるのかと、流石異世界と感心していたが俺はすぐに話を戻す。


「なら三ヶ月ほど前から魔物の姿が確認されていたというのは、アンタで間違いないか?」

「はい、私のようなナーガ族は基本的に長距離の移動を苦にしませんので、クーデターから約1週間ほどでこの地に来ました」

「簡単に言うが、具体的にどうやって移動したか聞いてもいいか?」


 その問いにミミュレット嬢は少し考える素振りをするが、すぐに頷く。


「具体的にと言われると難しいんですが……この村の近くに廃坑があるのはご存じですよね?」

「あぁ、そんなのがあるとは聞いてはいるが、まさかマナスポットの付近に穴が通じていたとか言わないよな?」

「そのまさかでして、人一人がギリギリ通れるか否かの洞窟に身を休めていたとき、その入り口が崩れてしまいまして……仕方なく奥に進んだところ舗装とまではいかないですが整備されていた螺旋階段のようなものを見つけまして、降りた先が廃坑だったんです」

「そんなデタラメな偶然があってたまるものか!!」


 クラウヴィアは嘘だと思ったのか声を荒らげるが、逆に俺は納得した。


「いや、多分偶然じゃないだろ」

「なんだと?」

「クラウヴィア、俺がこの前言ったことを覚えてるか?木の実が乱雑に自生していて、防備のための手入れが全くされていなかったことを」


 それは俺がクラウヴィアと戦っていたときに言った言葉であり、クラウヴィアも印象深かったのかあぁ、と答える。


「国が戦闘地域になるから、我々を避難させたことに別の意味があるという話だったということだが……いや、まさか……」

「あぁ、おそらく国は廃坑から直通のマナスポット鉱石を掘ろうとしてたんだろ。いや、正確にはマナスポット並みの魔力地帯に繋がる坑道を新しく増設したってところなんだろうけど」


 マナスポットで採れた採取物から作った金属は、普通に採掘した同じ金属と比べると非常に優秀だ。それはミラが教えてくれたことだが、同時にマナスポットは簡単に出入りできるような場所ではない、それがこの世界の常識だ。

 だが、この村が属してる国はある意味では頭がよかった。この村の山の魔力スポットが、一定の高度以上の場所に限られるということが示す抜け道に気づいてしまったのだ。


「本来坑道ってのは上から下へ掘っていく。普通に考えれば上に掘るより下に掘るほうが採掘できる量は違うし、何より山肌を貫通して穴を空けてしまう危険性があるからだ。特に今は人類と魔族が戦争してる最中だ」

「万が一にでも知られればそこから攻め込まれる危険もあるし、何より一歩間違えば落下して死ぬ危険もあるからな」


 そう、だから基本的に上に掘るのは、空気を循環させる為のもの以外はあり得ないのだが、今回は少し例外だったのだ。


「俺にはマナスポットの仕組みは分からないが、おそらくマナスポットってのは空気と同じようなもので、かつ布が水を吸収するように、その空気のある山の土や、魔力を含んだ水……つまり雨が地中を伝うことで染み込んでマナスポットさんの鉱石や結晶ができると推察するんだが、合ってるか?」

「おそらくですが、あなたの言う通りです。マナスポットの物質は大気や水も普通のものに比べてかなり変質していますので」


 ナーガの少女の言葉にクラウヴィアの表情は少しピリついていた。


「つまり私たちこの廃村の元々の出身だった我々は、マナスポット鉱石を掘り出すために、嘘で離村させられたと言うわけか?」

「確定ではないが、状況証拠だけ切り取って見るのならそれだろうな。もっとも、だからといって成果があまり芳しくなかったから、採算が合わないって切り捨てたから戻れるようになったのかもしれないが」

「そうか……そう、なのか……」


 とんでもなく葛藤に満ち溢れた表情をしていたが、とりあえずその事は今は関係ないので放置するとしよう。


「それで、クーデターを起こした連中が、山を越えてこっちに来る可能性はどれぐらいある」

「どれぐらいと申しますと?」

「アンタの言葉の通りなら、クーデターの理由は分からないが既にそれから3ヶ月経ってる。山越えしてこっちに来るのなら、そろそろ何時来ても不自然じゃない」


 マナスポットを出入りするのにそれぞれ一月掛かるとしても、山越えをするだけならおそらく一週間もあれば可能だろう。オークのような魔獣との戦闘が起これば2~3週間ほどで掛かるが、それでも山越えだけで一月以上かかるとは思えない。


「……おそらく7割ほどでしょう。ですが戦争中とはいえ大規模な軍勢を投入してくることはほとんど無いかと」

「えっと、それは人間の国の兵隊が来ないようにするためですか?」


 ダーナのまさかの問いにほぼ全員が驚いたが、ミミュレット嬢はすぐにコクりと頷いた。


「えぇ、追手の目的はあくまでも私の身柄と紅卵玉でしょうから、表だって人間の軍とやりあいたくはない筈です。ですから投入してくる数は……多くても30人ぐらいでしょう。それも外見は盗賊のような国のほうへ迷惑をかけないような外見で来るはずです」

「30人の魔族か……どう思うクラウヴィア?」

「……籠城戦をするのなら対処は可能だろう。こちらは非戦闘員のダーナ殿を含めて16人居る。護衛対象のミミュレット嬢と竜の卵を含めれば17+1だ、籠城戦では攻める側が3倍の兵力がいるとあるから、そこはなんとかなるだろう。」


 冷静に答えるクラウヴィアに、俺はチラリと周りを見る。ここにいる全員、クラウヴィアは若干不満そうだがそれでも守ることに否定するような言葉を放つ者は誰一人いなかった。


「ならやるしかない、か」


 面倒そうに答える俺も、内心まったく不満は無かったのは言うまでもないだろう。

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